第208話 お風呂っ!!


とりあえず勝利は出来た。質と量と精霊の3つの部門の1つ「量」で勝利した。


今日はこれで終わりのようだし先輩方には濡らしてしまった謝罪として「風呂無料です!よかったらどうぞ!!」と言って私もお風呂に向かう。


全員ビショビショだ。男湯、女湯、プライベート湯にささっとお湯を注いで――――水属性の先輩たちからはもう文句も来なかった。



「久しぶりですマーキアー、オルミュロイ、タラリネ」


「お嬢!会いたかったです!本当にご立派になられまして、こちらにも噂は――――」


「「…………」」


「なんです?」



この建物にはマーキアーとタラリネとオルミュロイがいる。


三人は仕事もあってお屋敷に来れなかったし久しぶりに会う。お風呂と洗濯する場所を併設した建物だけあって従業員は多いし、責任者に任命しているのだから屋敷にまで挨拶に来れないのは当然だ。


鼻の良いマーキアーが気付いて集まってくれたのだろう。


オルミュロイは騒動の際にレルケフに使われて結構な怪我をしたらしいが普通に働いているようだ。


三人はジュリオンを見て固まっている。



「あ、こちらはジュリオン。ジュリオン・ヤム・ナ・ハー。リヴァイアスの将軍アモスの姉で、近衛に任命しました。仲良くして下さい」


「威圧して悪かった。ジュリオンだ。よろし……く、おねがいします」



ジュリオンは私といるときと違って少し高圧的に話そうとした。軍隊式で行こうとしたようだが私の視線に気付いてか少し柔らかく挨拶した。


オベイロスでは私のことを侮るような人は他所から来た人ぐらいしかいなかったが、ここでは他の生徒達にも聞こえる陰口を言われている。だからちょっと気を張っているのだと思う。


お針子のタラリネはともかく、オルミュロイもマーキアーも戦闘に長けているからより警戒したのかも知れない。



オルミュロイは以前にはなかった傷痕が首筋にくっきりとあって――――手足の指も数本無くなっていた。



「オルミュロイ、リヴァイアスで傷を治す魔法を覚えたのでついてきて下さい」


「!な、なら俺よりもタラリネにお願いしたい!!」


「兄さん!私のは大した事ないので!フリム様!兄に!兄にその魔法をお願いしたいのですが!?」


「俺の体なんぞよりもお前の方が大切だろうが!!」


「でもっ!」


「じゃあ二人共に使うのでついてきて下さい」



プライベート用のお風呂場はいくつかあるし、一室にオルミュロイのために超魔力水を入れて漬けた。溺れないために孤児院から働きに来た子を監視につけておく。


タラリネとマーキアーも大怪我をしていたそうで傷痕が残っていた……どうせなので別の個室、いくつか浴槽がある部屋で浴槽を分けてお風呂に入った。



「な、なんですかい?この眩しいのは」


「水の回復魔法を編み出したので。さぁ二人共入って下さい。始めは痛いですがじきにくすぐったく感じます!治ってる証拠なので我慢です!」


「あ、あの!」


「なんです?」


「ありがとうございますっ!!兄や、その、わたしたちにまで!」


「どういたしまして」



エール先生もジュリオンも濡れていたし一緒にお風呂だ。


生傷ではないし古傷だからタラリネとマーキアーは一緒に浸かっても大丈夫だ。リヴァイアスで実験したから多分大丈夫。


何室かあるプライベート用の個室。大浴場と違って空気が温まってないが水魔法の先輩方と一緒にお風呂なんて怖くて入れない。


いつも無表情なエルストラさんもほんの少しだが怖い顔をしていた。私の水圧は水瓶を破損させていたかもしれないし、司会進行をしていたエルストラさんからすればメチャクチャなやり方をしていた私を怒っても仕方ないのかもしれない。


いつの間にかフィレー学園長が入ってきたがまぁ許そう。光るお湯に興味を持っていたがそれより私と話したいようである。彼女は施設内で入浴後にリラックスしていたようだが私が施設に入ってくるのを見てかやってきたそうだ。私もリヴァイアスに残した卒業生やアーダルム……ラディアーノとギレーネのことも話したいし。



「そう言えば魔石って何に使うんですか?」


「あまりこの国では使われるものではありません。主な用途として魔導具に魔力を伝わせるのに使うことも出来ますし、同じ属性の魔石であれば少しだけ魔力の回復もできます」



電池みたいだ。だが「この国では」というのがつくのが気になる。



「この国の魔獣の魔石は質が悪い。それに簡単に一言唱えるだけで使える魔法がある。だからかドワーフの国みたいに効率的な魔導具の発達もしていない。やれやれだよ全く」


「質が悪いのですか?」


「そうだ。他国の魔獣の魔石はもっと魔力を蓄えられるし価値が高い。その分強い個体も多いが……これは精霊の地で育った作物を食べた魔獣の魔石と相性が悪いという説や迷宮が多いからそちらの魔獣に吸われているという説もある。魔石が他国ほど強い力を持ってないし、人が使う魔法が強力だから発展もしない。研究費用も少ない。はぁ……」



よくわからないがオベイロスで取れる魔石は質が悪いそうだ。フィレーはこれらの研究に詳しいのか色々教えてくれた。魔石の質は悪いが代わりに精霊がいた土地などで見つかる精霊石、精石などは破格の力を持つ。


モーモスの従者が持っていたのは水属性の魔導具だった。ドワーフ製の「杖に見える水が出る魔導具」ほんの少し水が出る程度の代物。しかしインフー先生はあの爆弾を作るのに確か火精石を練り込んだと言っていた。爆発したときは空の雲が大きく晴れたのだから凄まじい破壊力だった。


それとオベイロスには迷宮が各地にあってその中の魔石は外の魔物の魔石に比べるとまだ品質は良いらしい。


魔石はチャージしても数回使えば朽ちるし、魔導具ではなく体に使えば魔力も一時的にほんの少し回復する。が、微々たるものだし、後に体調も悪くなる。……私には使い道がないかな。



「君の杖も水精石か、きっとそれに近いものだよ」



そうなのだろうか?リヴァイアスのお屋敷で手に入れたこの浮く杖の先には青い球がついている。


オルカスが杖から出てマーキアーの首筋の匂いを嗅いでいる。マーキアーには見えてないのだろうけどなにか感じるのか不思議そうにしている。



「それよりだ!良い酒を作ったそうじゃないか!少し味が見たくてな!!持ってきてるんだろう!?」


「持ってきてないです。私の年齢を考えてください」


「なにィー!!?」



フィレーとも少し手紙でやり取りはいていたしお酒のことも書いた。リヴァイアスの酒がほしいというので新しいお酒を作ったけどまだ飲めないからいつか味見してほしいと……。


きっと「酒ができた」というのは「完成」のことだとフィレーは捉えたのだろう。肩を掴まれてガックンガックンされた。この幼女おばちゃん、相変わらずお酒好きだなぁ。


ジュリオンは私と年齢がそう変わらないフィレーについては何もしないようだ。



「まぁ待って下さいフィレー。新しく作った蒸留酒は試作品ですが数年熟成させる必要のあるお酒なんですよ」


「蒸留する、酒?」


「あ、待った。多分作り方も思いついたかも知れませんがまだ実験段階ですし、危険性もあるのでやめて下さい」


「し、しかし!新たな酒だぞ!?私が飲まなくて誰が飲むというのだ!!」



貴女以外の誰かでしょう。もしくは精霊。


それにお風呂で飲むのが楽しいようで……報告によるとこの銭湯の学園長用のプライベートルームには酒瓶がずらりと並んでいるようだ。注意してもやめてくれず、あろうことか土の魔導具で壁に張り付かせて動かせられないのだとか。後で撤去できるのか見に行こう。



リヴァイアスはリヴァイアスで忙しかったが、学園は学園で悩みが尽きないようだ。



一応、私もうっかり「蒸留酒」と言ってしまったがちゃんと「リヴァイアス酒」と言わねばならないな。


フィレーには侯爵家の権益に関わることだから内緒と言い含めておく。真似したら戦争になると念を推して代わりに出来の良いものを贈ると約束した。ラディアーノとギレーネの近況や学園から送られてきた人の役職や成果を話した。


超魔力水については少し話したら飲もうとしたので止めた。流石に人が入ってるのにそれを飲むのは……私のアホ毛の変化を羨ましがられたりして…………何故か、帰ってきたんだなと実感する。



リーズやテルギシアにも会いたい。パーティで見かけたクライグくんにも話しかけられなかったし、ユース老先生にも忘れずにお土産を渡さないとな。



風呂上がりに隣の部屋からオルミュロイの聞いたことのない「ヒヒヒヒヒヒ」という爆笑が聞こえてきてちょっと興味が出たが触れないでおこう。無表情で、口数の少ないオルミュロイの爆笑、めちゃくちゃ気になる。どんな顔で笑っているのかものすごく気になる。やっぱり超魔力水を継ぎ足しに行こうかと思ったが……やはりあまりにもはしたないしやめておこう。

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