第207話 繁栄の水瓶っ!!


待つのはとても暇だった。


聞こえる陰口に腹が立ったりもしたが動こうとしたジュリオンに対して、エール先生が「後ほど困るのは侯爵に向かって暴言を吐いた生徒たちの親でしょう。こういう場合は手を出さずに顔を覚えておくものですよジュリオン」なんて相手にも聞こえるように諭し……ジュリオンが動いた。


ジュリオンは暴言を吐いていた生徒の前まで行った。



「な、なんだよ!侍従風情が」


「…………」



文句を言った生徒だがジュリオンは帯剣していて、身長はおおよそ3メートルもある。ジュリオンが怖いのか生徒はうつむいてしまった。ジュリオンは無言だが文句を言いにいったのだろうか?


ジュリオンは腰を不自然なまでに折って……うつむく生徒の顔を下から覗き込んた。


既にエール先生の言葉で縮こまった生徒が可哀想だが、顔を覚えるというのはそういうことじゃないのだが。



「お前だな?よく覚えておこう。我らがリヴァイアスの愛し子に暴言を吐いたのは」


「………!?」


「覚えた……覚えたぞ。お前とお前とお前。貴様らの面は正しく覚えた。戦場であったら真っ先に殺してやろう。いや、殺すには勿体ないか。四肢を刻んで腹に穴を開けたまま生かしてやろう。……なぁに私も似たような経験がある。きっ―――「ジュリオン、やめて差し上げて」


「はい、フレーミス様」



巨体を曲げて下から覗き込んだジュリオンは彼らを脅していた。


よほど恐ろしかったのか、真っ青になってプルプルしている生徒たち、漏らして無いといいけど。


しかし、静かになったのは良かった。


報告書に目を通し、仕事をする。時間も経ってお腹が空いていたので軽食も食べた。


陰口がなくなり、生徒たちの中でアンタッチャブルな存在となった私。しかし順番に行われる魔法は途切れることもなく、時間が経つにつれて私のことを忘れるように水の量を測って野次を飛ばすようになった。うむ、フリムちゃんは猛獣じゃないから恐れなくても良いのだよ。



ナーシュは4つ色を変えられた。ご褒美にお金を渡しておいた。



「次はフリム、貴女で最後です」


「――――……はい」



何時間経っただろうか?エール先生の膝に頭を載せて眠くなってきて……やっと出番となった。



「<水よ。出ろ>」



無詠唱でやったほうが力を見せつけられるかもしれない。だけど、他の人に怒られそうだし、唱えてもどうせ一言。何も唱えないのと比べれば効率も良い。


大量の水を出し使い続けるが…………一分もすれば暇になった。


報告書を読みながらずっと魔法を使う。



「な、何だそのやり方は!真面目にしろ!!?」


「いや、そう言われても水瓶の口いっぱいに入れ続けてるじゃないですか」



水を容器の限界まで注ぎ込み続けているが、これ以上は水瓶の口のサイズを超えてしまう。


勢いを足してみるか………。



「おい!?冷たいじゃないか!」


「こうでもしないと一日かかりますよ?」



報告書をエール先生に渡して杖を両手で持って高圧洗浄のように圧をかけてみた。結構な音がするし飛沫は上がるが……入る入る。



「馬鹿げてる。何だ……この量は」

「巨大な水人形を城壁よりも大きく出したというのは本当だったのか?」

「……ありえない」



真上から圧をかけて出し続けてるが容器から水が溢れることはまったくない。いくらでも入っていく。


生徒たちがなにか言っているが「ジャー」と轟音が鳴り響いていてあまり聞こえない。


さっさと終わらせよう。そう思って少し魔法に集中したがよく考えるとわからない部分が出てきた。


エルストラさんはこの水瓶の容器の口に合うように結構な時間流し込み続けた。


ならその時間以上に注げば勝てるはず。だけど私は圧を加えている。前世の高圧洗浄機も実は水の使用量は大したことがないと聞いて驚いたが。これってもしかして普通に注ぎ込んだほうが良い?見え方は結構な量が入ってるように思う。しかし、飛沫が上がってる分マイナス?魔力の消費量と水を出している感覚としては明らかにこちらの方が使ってるはずだが、うーむ。多いのか少ないのか?試してみよう。普通に口の大きさの限界に合わせて注ぐやり方に切り替えて上で大きな水の球を作って流す。水は常に注がないと途切れて「そこまで」とか言われるのが怖いから途切れさせることなく続ける。


「勢いがなくなったか?」

「そう続けられるものではなかろう」

「これだけ飛沫が舞っているなど操作が甘い証拠だな」


しばらくそのまま注ぎ込み、先程と同じぐらいの水の球を数珠つなぎに作って今度は圧をかけて消費をみる。普通に重力に従って注ぐよりもやはり水の消費は早い。ダラダラ続けるのは退屈だがこうやって実験するのは楽しいな。水飛沫が上がるということは私が水の玉から「発射」しているからだ。発射することによって球から先のコントロールをやめていることとなる。空気の存在によってある程度表面が弾けるように飛散してしまう。ならそもそも水の球から水瓶の間を水のチューブのようなものをつくれば飛散もしないのではないか?やってみる。成功。容器に入った液体も回転させながら注げば早く容器から抜けるように、頭上の水も渦をつくればさらに早く出せるか?成功……更にここに圧をかけて発射すれば?


――ボゴッボゴッ!


「うわっ!?」

「や……」

「……」


失敗、水のチューブ内で渦を作った上での高圧発射は空気が混じって自分で作った水のチューブを割ってしまった。反省反省。しかし、面白くなってきた。大量の水をどんどん作って注いでいく。もはや滝のようだ。中央に穴を開けた渦潮なんかも試して思いつく限りの量を注ぎ込む方法を試した。リヴァイアス領よりはやはり消費が激しい気もするが、この程度ならずっと続けられる。リヴァイアス領で働きながらも様々な魔法を使ってきた私からすれば……眠気にさえ勝てればいくらだってできる。しかしこのやり方は飽きた。そういえば注射器や水鉄砲のように圧力で水の飛ばす方法があったな。消費量としては筒状に水を作り、そこに操作をやめた水を落とすのが楽。逆に消費は激しいが筒の水も少し操作で固めて水に圧をかけたほうが水瓶に入る量は増える。空気がある場合とはまた別の結果となるかも知れない。頭上に作った水全部を使って注射器のように注入をする。時間も量も確実にエルストラさんを超えていると思う。没頭して遊んでしまったし、時間は分からないが。



――――水を注ぐドゴゴゴという音に混じってなにか異音が混じて聞こえる気がした。水の音って結構大きいし、一気に水を注ぐ。まぁ頭上にはまだまだ残ってるし、常にわっせわっせと増やしているが……。



「……ん?えぁっ!?」



驚いて思わず魔法を止めてしまった。水圧をかけすぎたせいか水瓶の足が水瓶をおいている台にめり込んで――――少し傾いた。



「ひ、非常識な!?」

「壊す気か?!」

「もう全部ビチョビチョだぞ?!」



まだまだ頭上には水が残っているがどうしようか?容器が倒れないように素手で支える。じゃないと水上が転けてしまいそうだ。お、重い。



「えっと続けて構いませんか?」


「フリム、注ぐのを止めたのならそこで終わりです。魔石を数えましょう」


「――――はい」



私の水の量を測るのはこれで終わった。頭上の水は……特設会場の外に撒いておいた。


結果、数は34個だった。ぶっちぎりの一位。透明度の高い魔石はもらったがそもそも高価なものでもない。水瓶の魔導具は水の魔法使いが使う水を注ぐことで魔石に魔力をチャージできる。しかし、作るための人件費を考えれば費用対効果はよろしくない。変換効率はとても悪いようだ。


この水瓶の魔導具自体は「枯渇」とも称されるそうだ。しかし、これを使って数を測り、水属性の魔法使いの鍛錬となるため「繁栄」ともつく。うん、壊れたのは土台だけだったらしい。焦った。



「こんな、こんなの……なにかの間違いだ!?」

「さすが水のリヴァイアス!大家も近いのではないか!」

「……」

「寒い、風邪ひきそう」

「水の精霊そのものではないのか?」

「何たる非常識」



文句を言おうとした生徒もいたのはわかったが何やら私の後ろから圧を感じる。また前に出ようとするジュリオンだが……ハウス!ジュリオン!止めなさい!

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