第205話 学園っ!!
久々に新生ルカリム家に帰るとパーティムードで出迎えられた。
「おかえりなさいませ!このキエット!リヴァイアス侯爵就任に感無量で、胸が高鳴ってしまって仕方ありませぬ」
「ありがとうございます。でも倒れる前にキエットに誰か椅子を……おっと、ジュリオン、支えてあげて下さい」
「はいっ!」
きっとキエットは行軍前に連絡は入れておいたし凄まじく働いていたのだろう。
杖がプルプルしているのが目で見えるし休ませる必要がある。私がさっと支えて、ジュリオンにも手伝ってもらった。心臓発作怖いしすぐに座らせた。
―――しかし、祝いをするよりもやらないといけないことがある。
「キエット、並びに皆さん。私の不在中、新生ルカリム家をよくぞ守ってくれましたね。ありがとうございます!」
何か言おうとしたキエットだが手で制した。まだ続きがある。
「色々と話したいこともありますが、配下が別の領地で待機していますし連れてきた軍勢が寝られる場所を確保しないといけません!祝いたい気持ちは嬉しいですが刺客が紛れ込んでくる危険性もありますからまずは顔合わせです!!」
「おぉ、立派になられましたな……」
「兵も行軍で疲れています!まずは皆この水を飲んで顔合わせをして下さい!<水よ!>」
「皆、当主様に杯を掲げよ!」
リヴァイアスの正規軍を連れてきたことによって倉庫もルカリム家も賭場も人で溢れている。何なら道路や街中の宿屋を使っている。それに途中に残してきた軍も心配だ。
人の多い今この現状、刺客が紛れて来る可能性もある。超魔力水を頭上に作って皆が掲げているコップに伸ばして注いでいく、少し回復してもらおう。
「何だこの水!?光って……??!」
「精霊の加護を受けた水だ!我らの主に乾杯!!」
「より一層の忠義を!!」
「お、俺の杯に竜が?!なんだこいつっ??!」
「美味いぞこの水!!?凄まじく美味いっ!!!」
「おぉ!水の精霊も来たぞ!!」
「静かに飲みなさい。あとリューちゃんは帰ってきなさい」
小さな翼でだがふわりふわりと飛ぶことができるようになったリューちゃん。ワーに任せていたし超魔力水からこんなに離れていたのは初めてかも知れない。喉が渇いていたのかな?オルカスは頭上に出した超魔力水本体の方に飛び込んでいった。
庭や門の外にもズラリと並ぶ兵たち。縁のある味方の貴族に頼んで寝泊まりできる場所を手配しないといけない。
そう言えばリヴァイアスの屋敷も使えるかな?結構大きな屋敷だしね。
すぐ近くだし行ってみて……少し緊張する。地下の水路で手に入れたこのリヴァイアスの杖、杖に認められてもオルカスの突進で顎を打ち抜かれてまともに屋敷に入れなかったのは苦い思い出だ。
「リヴァイアス、オルカス。入ってもいいですか?」
杖の先には丸く青い球がある。そこに魔力を込めてから聞いてみた。
以前、オルカスは喜びの感情でゴスゴスボフボフしてきたが結構あれは痛い。当時は見えなかったし、全方向から来る中型犬の突進のような衝撃は幼女の体にはきつい。
「<キュアっ>」
「<クァァァン>」
杖の先の球から出てきたリヴァイアスに超魔力水で遊んでいたオルカス。
今ならこの屋敷に入ってもオルカスからボスボスゴフゴフもされないだろうけど確認しないと……朝起きれば配下が皆死んでいたでは洒落にならない。
「リヴァイアスの兵を泊めてあげたいのですがいいですか?というかこのお屋敷使ってもいいですか?」
オルカスがリヴァイアスの方をちらっと見た。杖から出てきた小さなリヴァイアスは私の顔に近づいてきて――――頬を擦り合わせてきた。
「<キュアっ!>」
くるりと一周りして一鳴きしたリヴァイアス。
多分了承だと思う。オルカスはリヴァイアスを親のように思っているのか?それとも配下のような上下関係があるのだろうか?
「ありがとうございます。皆疲れているので手配しますね!オルカス、入ってくる人を殺しちゃ駄目ですよ」
「<クァーン!>」
「ありがごふぉっ!?」
正面のオルカスに礼を言っていると……横から脇腹によく覚えのある衝撃がきた。
あまりの衝撃で立っていられず膝をついた。
肋骨を斜め下から突き上げるようなこのゴスボフ――――久々に効いた。いや、このオルカス、分身していた!!?半透明のオルカスだが、いつの間にか増えていた。
杖の中にいたオルカスと屋敷にいたオルカス。姿は完璧に一緒に見えるがシャチの見分けってわからない。別個体か?白と黒の模様を観察してみるが……分からない。
しかし、私の心配を他所に、顔を合わせたオルカスたちはぶつかって溶けるように合体した。
膝をついてプルプルと脇腹の痛みに耐えていたのだが甘えるようにオルカスが近づいてきたのでおでこにぴしっとしておいた。痛かった。
戦争中にも分身していたが……。なんだろう、精霊って何でもありだな。リヴァイアスも体育館サイズだったり、手のひらサイズだったり。インフー先生の黒獅子も子猫になってたり。水飲もう。
……しかし、これでかなりの人員をこの屋敷に泊めることができる。
政争から人がいなくなった屋敷は手入れされていない。窓が開きっぱなしだったり、厨房の食材や飲みかけの飲み物から蔦が張っていたりと一部よろしく無いままだがそこは良いだろう。元々名家のリヴァイアスのお屋敷はかなり大きい。結構な人数が入れる。廊下でも外よりマシなはずだ。……一応危ない何かが出る可能性もあるし最低限は警戒してもらおう。罠とかあるかも知れないし。
軽くお祝いムードではあるが作業優先で夜を過ごした。顔合わせする兵たちは和やかに、あるいはお互いを探るように交流していた。
城壁の倍は大きく作った巨大フリムちゃん魔法についてやクーリディアス戦について酒を飲み交わして話している。顔合わせもあるし、親交を深めるのもいいだろう。ただ静かにしないとご近所迷惑だ。
いや、爵位が上がればそれぐらいは許されるらしく、お祝いに参上した貴族たちの挨拶を受けつつお酒を振る舞って……どんどんカオスになってきた。
「リヴァイアス侯爵!良くぞ王都に戻ってきましたな!!」
「ありがとうございます」
「我が息子と婚姻していただけませんか?」
「その気はありません」
「そうですか!しっかしめでたいですなぁ!!」
結局深夜まで祝いに近隣の貴族は来てくれた。これだけの軍勢の中来てくれるのだから彼らなりの祝福かも知れない。
普通だったら事前に手紙で伺いますって言わないと訪れるのは失礼だが今回は急に来たからなぁ……しかし、元々侯爵であるとは認められていたし、改めて王城でもお披露目しただけのような形となった。だからきっと、お祝いは予め用意されていたし、祝いは早いほうが私の味方という表明にもなるのだから気をつかわせてしまったかも知れない。
王都中からガンガンお祝いの品が届き、お祝いが伝えられ……夜がしらけるまで挨拶に対応して……やっと寝ることが出来た。
だが起きればすぐに挨拶祝い挨拶祝い挨拶祝いと凄いものだった。侯爵位だけではなく他国から国を守った点とクーリディアスを完全に掌握している部分で友好的になろうという人が多い。
「娘を臣下にいかがですか?」
「ありがとうございます。厳正な審査をし、その中で頭角を現すようなら役職付きです。がんばってください」
「そのドラゴンが討伐したドラゴンですかな?」
「違います。守護竜王と呼ばれるクーリディアスのドラゴンを倒したら体に卵があって生まれたばかりです」
「ぜひ我が嫁に―――」
「帰れ爺!それより我が子が美男で―――」
「お前のとこのろくでなしなどリヴァイアス侯爵に婿入りするには早いわ!!」
「杖を抜け!誰が爺だ!!?」
「その出っ張った腹を引っ込めてから出直してこい!爺!!」
酒に酔った大人たちは酷い。たまに起こる爆発音をどうにかするようにいって私は離れる。たまに「王の嫁に推薦してくれませんか?」と私と同世代の子を連れてこられる。シャルルがどう見られているか微妙にわかるが……違うよね?
3日挨拶と祝いに翻弄され……ドゥッガとアモスには兵を連れて早急にリヴァイアスに帰ってもらわないといけない。代わりにジュリオンとワー………………それにトルニーがこちらに残った。トルニーは問題を起こさないか心配である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「リヴァイアス侯爵家筆頭家臣ドゥッガ、並びに将軍アモス」
「はい」
「はい」
「リヴァイアスとクーリディアスを任せます。共に助け合い、領都の安寧と維持に努めてください」
「はっ!さらなる発展を目指し!精進させていただきます!!」
「精兵を鍛え、お役に立てるように常に準備します。いつでもお呼び下さい」
ドゥッガにはいてもらいたかったが、こちらにいてもらうとリヴァイアスとクーリディアスを任せる人材がいなくなる。
ちゃんと二人に任せると家臣の前で言う必要があった。
どうせなのでリヴァイアス領で見つけた魔導具を渡す。
「ドゥッガ、皆をまとめる大親分のように人々を守って下さい。皆が正しくあれるよう、強く正しく、賄賂を取らず、仲間を見捨てず、その背中を見て誰もが誇れる父親のようにいて下さい」
「……はい、心に留め、精進します!」
ドゥッガには大きな杖のような形状の魔導具をジュリオンから渡してもらった。親分さんは基本素手で戦うそうだし、こんな武器を使うことがないのだが、何かを褒美にするのに皆に相談するとこれになった。
クーリディアスの王を倒したときに両手持ちの大木槌を使って壊していたので、これを渡すのが必要だと説得された。ケディンの大木槌なんだけど……まぁ知らない人からすれば敵を倒すのに大事な武器を折ったと見られたのだろう。
金属製で魔法の力のある魔導具。総金属の杖といったほうが近いのかも知れない。いや先端に重みもありそうだし大金槌か戦鎚と言ったほうが正しいだろうか?武器に詳しくないのがリヴァイアス由来の杖で見栄えもするし良いとおもったのだが。
「アモス、軍はただ強くするのではなく、一人一人が正しい心を持てるように導いて下さい」
「はい。この槍にかけて!」
アモスにも豪華そうな槍を渡してもらった。
ドゥッガの金属製の杖も、アモスの槍も超重量武器だ。私には持ち上げることも出来ないしジュリオンに渡してもらった。
この槍にかけてとアモスが言った瞬間、ピクリとドゥッガが動いたのはそのフレーズがいいと思ったのかもしれない。
形式でもこういうことをするのも大事である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しかし、ようやく学園に行くことが出来た。
「久しぶり!フリム!……さま?」
「久しぶりですミリー!あいたかったですよ!!」
「あたしも!」
金の髪を靡かせて走ってきたミリアに抱きしめられた。
彼女を筆頭に数人が学園の門の前で待っていてくれた。先にモーモスを学園に戻していたから伝わったのだろう……ミキキシカやダーマ。リコライにノータまでいる。
モーモスは私の送迎のために私の後ろにいるが……ん?平民の商家出身の女性ノータさん、私よりもモーモスを見ていないか?……おやおやおやぁ?
ほんの一瞬だが建物の影にオレンジ色の髪の子供がいた気もするがきっと気の所為ではないだろう。
「フリムさま!速くいかないと間に合わなくなるから抱いていくね!!」
「ありがとうございます」
ミリーに抱き上げられて学園の中に入る。
学校での行事、ただ私にとってはとても大切な行事がある。
エントリーが今日までなのでそれにだけは絶対行かないといけなかった。急ぐものではないとは知っているが好意だし任せよう。ミリーは力強く、私を抱いて急ぎ足で歩いてくれた。
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