第204話 肖像画っ!!
「うまくいかなかったな」
「これぞ最善の結果かと思われますがのぉ」
シャルルは不機嫌そうにレージリア宰相に吐き捨てたが、レージリア宰相的にこの結果は満足なのだろう嬉しそうにしている。
「排除できなかったのにか?」
「……これも政治ですじゃ。慣れなされ」
少し達観した目でシャルルを見るレージリア宰相。
私としてはちゃんと爵位も手に入ったし、腐敗貴族に打ち勝つことが出来たのだが釈然としない。……シャルルと画策したように、腐りきった汚職貴族たちを一掃することは出来なかった。
恐ろしいことに、貴族院の貴族たちの基本姿勢がゴミであった。私のストレス元であった手紙の犯人は多くいたが……全員を牢屋にいれることはできなかった。
あまりにも人数が多かったのである。もしも彼ら全員を国政から切り離せば国が回らなくなる。証拠が出たものは全員役職を取り上げて降格、罰金として相当な金額を国庫に支払わねばならなくなった。その上爵位まで取り上げられたくなかったら働けと締め付けられた。
本来シャルルが捕らえたかったのはもっと大物の貴族と……大臣だ。
明らかに汚職をしている大物貴族たちが誰も取り締まれていない。いや、欲にまみれた税に関する貴族がたった一人取り締まられただけだ。代々恐ろしいほどの賄賂を受け取っていたようで国庫が潤ったとレージリア宰相は喜んでいたが私とシャルルは気が重い。
今回の一件で証拠を提出した私は確実に恨みを買っただろうし、それら貴族の役職は取り上げられたと言っても国で働くことにはかわりない。後の嫌がらせや報復も考えられる。
シャルルはレージリア宰相の「一度締め付けておけば真面目に働くし、そうするしか手立てがないのだから仕方がない」という清濁併せ持ったおおらかさを嘆いているのか、それともまともな貴族がほとんどいないことに嘆いているのか……打ちのめされたボクサーのようだ。水飲みます?
「大物の貴族で誰に注意するべきですか?」
「そうだな……何人かいるがどれも手強い。一度見せておこうか。爺が思い出した部屋があってな」
できればこんな多数の貴族ではなく、大元となる大臣クラス数人をどうにかしたかったというシャルルはげっそりと魂が抜けそうな顔で虚空を見つめている。
シャルルは若いし、王位についてから配下はまともな貴族が少ない。経験不足の若者なのに年上の部下、しかも不正しまくる駄目貴族ばかり。……そんな貴族でも魔法が使えるし、教育を受けている。さらにライアームに対抗するためには必要な人員だ。確実にストレスだらけだろう。
「この先は侯爵以上じゃないと入れない特別な部屋だ。待っていてくれるか?」
「「フレーミス様」」
アモスとジュリオンの声が重なった。
危険と思われているのだろうか?でもエール先生が前に出てこない辺り安全なのだろう。
「ドゥッガ、エール先生、ジュリオン、アモス……そうですね。ジュリオンとエール先生はこの扉の前で待機で、ドゥッガとアモスは配下の統率をお願いします」
「わかりました。配下の統率に取り掛かりに行ってまいります」
ドゥッガが前に出ていつもよりも丁寧そうに言ってくる。
流石に公式の場だし、王様の目の前だ。少し緊張しているようだがシャルルは優しいよ?
「はい、リヴァイアスの反オベイロス感情は拭いきれていません。他の貴族と喧嘩にならないようにして下さい」
「「はっ!」」
「フレーミス様、男と二人になるなど危険です!私もついてはいけませんか?」
ジュリオンが何を言ってるのか良く分からなかった。
男性とってシャルルのことか?首を傾げてシャルルをちらりと見る。シャルルも一瞬何を言われているのかわかっていなさそうだった。うん、シャルルは保護者なんだ。
「大丈夫です。ジュリオンはエール先生と待っていて下さい」
「……わかりました。しかし、何かあればすぐに大声を上げて下さい。すぐに駆けつけます」
「はい!」
「……信用されてないな、俺。まぁ良いが」
扉を開けて入ってみると異質な部屋だった。
四角い柱が等間隔に並んでいてそれぞれの方向に肖像画が飾られている。……柱と柱の先、奥まで見えるはずなのに先にあるはずの壁が見えない。どこまでも柱が続くように見える。
「この部屋は特別でな、決して安易に入ってはならぬ……よっと」
また抱き上げられて開けた扉から壁伝いに移動する。重いだろうに。
ライアームを筆頭に注意しなければならない大貴族たちの肖像画を見せてもらった。
シャルルによるとこの部屋は侯爵以上でないと入れない特別な部屋だ。そしてオベイロスで今までにいた貴族の全ての肖像画が飾られていて……あまり長い時間いる事はできないそうだ。
「長くいるとどうなるんですか?」
「帰れなくなる」
「は?」
「ルーラによると帰れなくなるそうだ。まぁ俺といれば大丈夫だろう」
大丈夫ってなんだろうか?絵が並べられているだけの部屋のはずなのに、急にオカルトチックに見えてきた……。私達しかいないはずなのに誰かいる気がしてしまう。
上位爵位を持つ貴族や大臣の顔を確認していって……私の絵もあることに気がついた。しかも今着ている服である。
「これ、誰が書いてるんですか?」
「……知らんな。絵の精霊だと言われているが詳しくはわからん」
こんなにも早く、こんなに大きな絵をかけるなんてありえない。……幽霊じゃないよね?
名前も経歴も書かれていないこの部屋の絵だが、シャルルの説明を聞くと規則性が見れた。このあたりの柱には侯爵以上の当主ばかりが飾られている。それとカラーとモノクロの絵がある。カラーの人物は生きている人で、完全に白黒の人はもう亡くなっていて……色の少し抜けた絵の人物は亡くなってからそう日が経っていないそうだ。
奥の壁は見えないが、扉から続く壁にライアームは飾られている。壁には王族だけが飾られているのだろうか?
レージリア宰相が若返って思い出されたこの部屋。いつから使われていなかったのか、入るには王の許可がないと入れない。王宮にはこういった不思議ななにかや危険な魔導具は数多くあるそうだ。
以前私が掃除したドゥラッゲン邸の石像の方がかなり安心できる。この部屋は振り返ったら駄目な怪談とか……こう、妖怪のような怖さがある。気になって周り見ちゃうけど。
描かれている肖像画はどこまでが対象で、どこまでの縁の人間がいるのだろう?ボルッソファミリーのように多くの子供がいればその子供全員が描かれているのだろうか?
壁沿いの絵は王族で見ていくと目に止まる五人がいた。奥の壁は見えないがこの壁は特別なのだろうか?
あまりにも美男美女、この世の人間とは思えないほどの人。絵なのに、独特な雰囲気というか……迫力がある。
「この人たちは?」
「フリムよ……もう少し勉学に励むといい。いや、そうか、その歳なら知らないほうが普通か」
呆れたようなシャルルだったが、一瞬、少し悲しげに目を伏せてから教えてくれた。
「…………これらは俺の兄や姉である。皆美しい顔立ちだろう?」
「はい」
あまりにも美人、シャルルもイケメンだが……これらは桁違いだ。赤い髪、青い髪、緑の髪、茶色い髪、そして金の髪、皆特徴的で神秘的とまで思える。隣にはシャルルの絵も飾ってある。
政争でシャルルの兄や姉は全員亡くなったと聞くが……。
「彼らは色付きなんですね」
「そうだな、普通、死ねば色が失われていくそうだが……あまりにも美しいから精霊も当時のままにしたのではないかと言われている。もしかしたら兄様達の力が強かったから、色が失われるのが遅いのかもしれんな……」
「なるほど」
たしかに、シャルルも優しげなイケメンだが、彼らはイケメンとかではなく派手な芸術品のレベルに該当すると思う。
見ていくと私の絵の近くに青い髪の恰幅の良い人がいた。前髪が角刈りのように短髪、もみあげから顎髭に繋がり、鼻の下にはヒゲがない。後ろ髪はロングで立派な体格をしている。絶対に見たことはない……気がするがどこがで見た気がする。ローガ将軍を見たときにも思ったが、勘違いかな?
「それはルカリム侯爵だな、以前フリムが言っていた顔の四角いおじさんだ」
「あっ……」
カチンと頭の中で嵌った気がする。
この人、私を育てていた四角いおじさんだ!?ヒゲの具合でたしかに四角く見えるな。
なにか、思い出しそうだ。薄っすらと靄のかかったような記憶、特にレルケフにボコボコにされる前のものは薄くてあまり覚えてない。たしかに何かを学んだ記憶はあるはずだ。胸の内に思い出さなきゃいけないなにかがありそうな気がして……大切な何かがこの絵のどこかにありそうで……ついつい見入ってしまう。
「オルダースとフラーナも見せてやりたいが離れている。時間もないしそろそろ行くぞ」
「はい」
残念ながらはっきりと思い出せるものはなく、部屋を出ることとなった。
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