第180話 宝物庫……。


ワーが帰ってきた。帰ってきてしまった……。


闇の魔法を使える狐人であるワーが魚人達によって泳いで帰ってきたということは緊急性があったということだ。


何事もなければ商売を終えて船で帰るか、魚人の誰かに伝えれば良いはず、無事なのは喜ばしいが本人が伝えないといけないほどの緊急性があったということだ。



「つまり?」



報告を聞いて、意味はわかるはずなのに、理解に、時間がかかる。



「もーいっかい、やーってちからしーめしてから話したーみたー」


「…………< は ? >」



怒りが溢れ出してきてしまった。


ワーは悪くないのに、体から魔力が溢れてしまった。



「ワ、ワーはみーてきただけ。……その、ごめんなぁい」


「いえ、ワーさんが無事に戻ってきて何よりです。報告ありがとうございます。ゆっくり休んでください」



ワーはゴーガッシュについていった。ゴーガッシュの部下として情報収集し、もしもゴーガッシュが……いや商団ごと捕まったり、戦闘になりそうな場合に海の種族と協力して情報を届けてくれることになっていた。


なんとか商談自体はうまくいき、ゴーガッシュは過去に出会ったクーリディアス王イルーテガとの話し合いに成功。ただ、全面的に敗北を認めることは出来ない。だから『どこかを攻め落としてから』交渉のテーブルに付くということを考えているようだ。


完全なる敗北を国民や貴族に知られるなど、反乱や革命が起きかねない。かと言ってこのまま交渉をするなど属国になることすら要求される可能性もある。


だから、小さな砦、小さな領地でも落として、交渉のテーブルに付く前に「クーリディアスは少しでも戦える力が残っているぞ」とアピールしてから交渉に望むつもりらしい。




―――――つまりは、己の力を誇示するために、弱い民を強襲、虐殺しようというのだ。





「抑えてください、フリム様――――お願いします」


「ふぅー……ごめんなさい、エール先生」



あまりの怒りでくらくらする。魔力が漏れてしまう。


魔力が漏れること自体は稀にあるらしいがあまりに魔力の差があると近くにいる人は息苦しくなるらしい。悪いことをしてしまった。


……ただ、考えることがある。私が彼らを許せようと許せなかろうと彼らは攻めて来る。勝てそうな相手に向かって、国のために、容赦なく。


なら、それを止めないといけない。



「――――計算が必要です。飛べるものは最小限の人数を残して全員呼んでください。それと宝物庫をあけます」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




私にとって王都のリヴァイアスの屋敷は苦い経験だ。見えないボスゴフさんに体当たりをされ、一人で屋敷の中を探索、キッチンにはコップから蔦が生えているなど見たくないものが残ったまま。ホラーハウスの探索のように恐ろしい経験をした。


しかも水路の中を通った先にあった宝物庫からストーカー杖はついてきた。


だからこの領地でも変なのがいたら怖いし行きたくはなかったのだけど……どうしても財政のチェックは必要だった。


『オベイロス王シャルトルの王命』で貴族や商人はリヴァイアスに戦力と食料を集めてくれている。しかし王命はスマホで対象者全員に届くわけではなく人伝てであることから若干ネジ曲がっていたり、お金はリヴァイアスからもらえると思っている人がいる。


他領の貴族がリヴァイアスに食料を持ってくる際、商人から貴族に食料の売買が行われれば本来はその領地の貴族が建て替えて後にオベイロスに請求が行くはずだったのだが……それは商人には関係がない。


彼らは私がほしい「食料」を持ってくるし、私はそれに見合う「対価」を支払う必要がある。


当然身一つで来た私の持っていたお金では支払えないので領主として渋々ながら宝物庫をあけた。


お金の管理はひとまず信頼できそうなニャールルに任せた。お金自体は交易都市というか歴史あるリヴァイアスだけあって山ほどあった。部屋は私の杖で触れないと開かなかったし宝物庫の扉の先にたくさんあった部屋を一部屋一部屋開けていくと様々な物が眠っていた。


超がつくほど怖かった。部屋を開けられるのは私だけで、何がでてくるかわからない。王都の屋敷の探索も凄い怖かったのを思い出してしまった。



「なぁお?」


「……調べましょうか」



今回は一人ではない。ちゃんと宝物庫には複数人では入れる。ここになにか使えるものもあるかもしれない。


魔導具類は使い方がわからないから基本何も出来ない。触れると爆発したりするものだったらと考えると恐ろしくて使えない。


宝物庫は物が多すぎて小部屋で整理されていたのだが……貴重な魔導具、特別な武器庫、酒、保存食、領主一族の趣味の部屋まであった。酒の保管部屋がいくつもあったのはなんだかなぁと思ったが保存食は全部腐っていた。高圧洗浄の出番である。


しかし、その先はまた見えないバリアがあって……入れるのは私だけだった。


奥の部屋にはこれまでの領主一人ひとりの趣味部屋があるようで、面白くもあり……死者の墓を暴くようでなにか少し怖かった。一応全ての部屋の入口を少しあけて異臭がしないかのチェックだけはした。腐っている食品は凄まじい匂いがするしね。あと、もしかしたら誰かいる可能性も考えた。


…………まぁ、無人で誰もいなかったし。いくつかの部屋はお菓子が腐っていた程度だったが、謎の薬品を研究しているような部屋もあった。


そして禁書と書かれている書庫もあった。魔導書は高価で貴重だから宝物庫にあるのもおかしくはない。宝物庫に入ってすぐにも本棚があったのに……縁者でしか入れないエリアにあるということは更に危険なのかと思っておそるおそる調べた。


たくさんの本はどれも分厚く、革と金属のブックカバーがついていて、チェーンが棚についている。それぞれの本には鍵穴があったがどれがどれかは分からなかったが近くにあった小箱に小さな鍵が乱雑に入っていた。


試しに手に取った本の表紙には「水魔法の画期的な使い方」と書かれていて興味が出たのに……中身はエロ本だった。


わざわざ鍵を一個一個試してやっと読めるようになったのに!!他の本も!中身!本棚全部エロ本っぽい!!馬鹿か??!


しかも水の属性の家らしく、どれもタイトルは水魔法関連のものばかりで偽造していて……期待したのに!!クソ!なんで本にチェーン付いてるんだ!これじゃ捨てられない!!



「はぁ……」


「どうかしましたか?フレーミス様」


「………………いえ、なんでもないです。武器の状態はどうですか?」



一旦奥を調べるのはやめてジュリオンやニャールルの調べているエリアに戻った。使えそうなものを見つけてくれているかどうかの調査も気になる。こちらは…………エロ本が大量にあったとか言えない。


領主一族の個人スペースは謎バリアによって私しか入れなかったのでこの秘密は墓場まで持っていかねばならない。もしくは燃やしたい。



「そうですね。錆びついているものもありますがどれもよく手入れされています。見たことがないものもありますが使えそうです」



ジュリオンには宝物庫にある武具のチェックをしてもらっていた。私には鎧甲冑とか武器の良し悪しは全然わからない。


ただ、弓や槍がおいてある武器保管庫と違って宝物庫にあるわけだし何かしらの価値があるものだと思う。全部金ピカの剣とか実用性があるかは分からないが。



「ジュリオンが使えそうなものは使ってもいいですよ」


「いえ!流石にこれまでのものは私にはもったいなく!!?」


「今は戦時です。私を守るための武器を私の信頼する人に渡すのは……きっと集めた人も許してくれると思います」


「フレーミス様……!これからも努力をします。もはや死ぬしかなかった私を癒やしていただけて、それだけでも幸せなのです!この身はフレーミス様のもの、御身の好きなようにお使いくださいませ!!」



天井まで届きそうな頭を私に下げてくるジュリオン。土下座のような体勢であるのに私よりも大きい。


角が当たりそうだから!危ないから!とと少し思ったのだが……彼女なりに真剣なのだろう。



「ジュリオンさん、貴女の人生は貴女のものです。貴女の思うように生きるべきだと思います」


「それは、私の忠誠など不要ということでしょうか?」



すごく悲しそうにすこし顔を上げたジュリオンだが、そういう事を言いたいわけではなかった。



「私は、ジュリオンの忠誠をすごく嬉しく思います。でもジュリオンさんにはジュリオンさんの人生がある。私はジュリオンさんの能力を使いたくて治したわけじゃありません。苦しんでいた貴女が治れば良いと思ったから実験中ではありましたが超魔力水を使いました」



もしも私が瀕死で、不治の病にかかっていたとして、治してくれたのならその人に恩を感じると思う。


しかし、こうも思うのだ。



「ジュリオンさん、貴女は貴女の生きたいように生きるのも私の望みです。せっかくまた歩けるようになったわけですしね」



個人の選択。治したからと言って押し付けがましく「一生仕えろ」なんて気はない。


恩を感じるか、これからどう生きていくのかはジュリオンさんが決めるべきだと思う。



「……なら、私は私の思うように、貴女に仕えたいです」


「はい、それがジュリオンさんのやりたいことならぜひ!」


「ではこれまで通りジュリオンとお呼び下さい」


「はい……では、ジュリオン!使えるものを探すのを手伝って下さい!」


「はい!!」



ジュリオンさんと呼んだのは一人の人間として尊重しているからで、もしも兵士以外がやりたいというのならそれはそれでいいと思ったからだったのだが……。


ジュリオンと呼ぶと彼女の顔に笑みがこぼれたので仕事を言い渡した。



「もちろんです!……そう言えば父があちらの道具を使っていたのを見たことがあります!」



そうして見つけたのが望遠鏡だった。


火の魔法使いにはガラスを作れる人がいるのだから当然なのかもしれないが、うやうやしくいくつも展示されていた。


注意書きで「日の光を見てはいけない」とか書かれているのは前世と同じか……。他にも大きな地図なんかもいつか使えそうであった。


これからいつか使うことがあるはずだ。


ついでに見つけた褒美ということで良さげな宝剣を二振り渡しておいた。ここに眠らせるだけなんてもったいないしね。

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