第175話 将軍到着……。
ゴーガッシュには安全重視の方針でクーリディアスに出発してもらった。危険がありそうなら逃げてもらっても良い、無理をして無意味に死ぬようなことは避けてもらいたい……本人は自信ありそうだったが。
トルニーは超魔力水による治療をやめて肺の病が再発することを恐れて行きたがらなかったので私も考え直した。よく考えなくてもこんな石の仮面男がいると不審すぎる。
代わりにワーに行ってもらった。彼は闇属性だし隠れることが出来る。しかも小柄なので海の種族がついているので泳いで戻ってくることも出来るかもしれない。
「ワーさん。無理はしないようにお願いします!」
「うん、頑張る!あーつら裏切ったら殺してもい?」
「……殺さずに逃げて裏切ったことを報告してください。ワーさんの命のほうが大事ですから」
「うん!」
あいつらということはプゥロがまた裏切ると思っているのだろうか?行商で来たゴーガッシュには船を操れる船員はいない。だから情報収集も兼ねてうちの人員を商会勤めという形で派遣したのだが……どうなることやら。
もしかしたらクーリディアスに到着する前にやる気満々の大軍とかち合って拿捕されたりするかもしれないが、それでも何かしらの情報は得られるはず。これで膠着状態をどうにかできれば良いのだが……。
しばらくはリヴァイアスの防衛力を高めるべく指示をして……貴族や商人の挨拶に対応し続けた。
なにせこちらから攻勢に出ようにも海を挟んでるだけあって攻め込んだとしても行き違いになって人員不足の状態で攻め込まれれば目も当てられない。それにわざわざ攻め込んだとしても相手の国で戦うのは地の利が相手にある。
リヴァイアスの領民の怪我を治したりもしつつ特別何も変わりなく居ると……オベイロスの旗を掲げた一団がやってきた。
先触れによるとケディ・ローガという将軍が軍を連れてやってきた。城門で出迎える。
「出迎えご苦労!王命を伝える!!」
「はい」
将軍が前に出てきた。王命と聞いて周りが膝をついたのに遅れて私も膝をついて頭を下げる。
「精霊リヴァイアスの縁を確認したゆえオベイロスはリヴァイアスの統治を認める。えー、今後はルカリム伯爵はリヴァイアス侯爵を名乗っても良い!えー……戦時ゆえ侯爵就任の披露目は出来ぬが、……えー!オベイロス国王シャルトル・ヴァイノア・リアー・ルーナ・オベイロスが認める!以上だ!」
「謹んでお受けします」
ちょっと途中言葉に詰まっていたし、伝え忘れがないか心配である。
少しエール先生に聞いた情報によると彼は結構な歳だそうだが長年国のために働いてきた将軍で、権力争いがとにかく嫌いらしい。
城にローガ将軍を招いて情報のすり合わせを行おう。城の中に入ったところで兜を脱いだ将軍……どこかで見たことのある顔だとは思うがどこであったかは思い出せない。
私のことを睨みつけて、敵意、いや、怒気を感じる。
「貴殿には色々と暴言を吐きたくなるが、クーリディアスへの対応を教えろ」
「はい。クラルス先生、お願いします」
紫の髪色に立派な体格、壮年の男だがかなり機嫌が悪そうだ。
私がなにかしたわけじゃないと思うけど政敵とか何かしらの縁で私に対して良い思いをしていないのだと思う。
「わかったわ。ケディ、リヴァイアス侯爵に無礼でなくて?」
「ふん!クラルス……貴様はこちらにいたから儂の苦労がわかっていないのだ……無礼だろうと一言言わねばな」
「……王都で何かあったの?」
ローガ将軍とクラルス先生は知ってる間柄のようだ。
「とんでもないことになっているのだが?リヴァイアスのせいで」
「……あっ、いえ、詳しく教えていただけるかしら?」
ちらりと私を見たクラルス先生だが何か心当たりがありすぎる。
とにかく風呂に入りたいというローガ将軍に風呂の場所まで案内して私がさっさとお風呂を入れた。
「<お湯よ。出ろ>……どうぞ」
「桁違いだな…………いや、だからこそ儂等が苦労したわけか。とにかく風呂だ!」
風呂に入って今のうちに接待の準備をさせようとしたのだが烏の行水とも言うべきかすぐに出てきたローガ将軍。平服に身を包んで鎧を脱いだ姿はやっぱりどこかで見たことがある気がするがどこでだろうか?
「リヴァイアス侯、クラルス、王都では大争乱となっている。どこまで知っている?」
「クーリディアスからの侵攻でしょうか?それとも私の魔法?」
「はぁ…………いや、戦争は確かに騒動にはなっていたがそうではない」
戦争ではない。私の超魔力水のことでもない。
……なんだろう?クリータが裏切ったと知らないのであればクリータをいきなり私が攻め込んで占領したように見えたとかかな?――――アルキメデスのスクリューとベアリングか!?
いや。まだわからない。落ち着け、カレーと白米はありえないよね?心当たりが多すぎる。
「というと?」
「リヴァイアスの恵みの雨だ」
「――――え?」
予想外のものが来た。
そう言えば私が王都からここに来た理由はリヴァイアスの豪雨で王都が水害にあわないようにするためだった。
恵みの雨というのはリヴァイアスに認められて爵位継承の儀でリヴァイアスの地で起こる現象らしい。レルケフが裏切った時も私が王都にいたことで王都は雨に見舞われていた。
雨が晴れてしばらくして王都周辺ではスライムが大量発生。木々は成長し、道を草が覆うほどに生い茂った。今年は作物が豊作間違いなし……ここまでは良い。いや、良くはないが。
スライム自体は全く害のないものだし増えても問題はないがスライムを食べる生き物が多くいて、獣がテリトリーを無視して出没。基本的に獣はスライム目当てで人間に見向きもしないが普段出てこない場所に大型の獣が出るなどして対処が大変だったそうだ。
「元々こちらにはクーリディアスへの対処ではなく獣の狩りで来た。シャルトル陛下の言葉も途中で使者が倒れていたから代役である。……一言文句を言うことぐらい許されるじゃろうが」
「なんかすいません。しかし、精霊のすることですし」
「それもわかるが……すまんな。こんな仕事ばかり押し付けられて少し疲れていた。クーリディアスへの対応は?」
「再び襲ってくるということもありませんし、使者が来ることもありません。防備を固めつつ商人を介して様子を見てもらっているところです」
「……そうか、苦労しているようだな。手紙を預かっているし渡しておこう」
私がこのあたりでよくスライムを見かけていたのは地域差かと思ったがリヴァイアスが原因だったのか……もしかしたら「スライムが増えても報告することじゃない」と周りも判断したのかもしれない。こちらでずっと「豊漁」と聞いていた報告もそれが原因かも?
私にはこれぐらいが普通なのかと思っていたものが実は特別なことだったと……少し認識を改める必要がありそうだ。
しかし食料事情にとっては多くのプラスである。
ローガ将軍の話では豪雨によって崖崩れなども起こした地域があったり、スライムだらけで転けて全身ヌルヌルになったり、木を蹴ったら大量のスライムが降ってきたり、道が草木で見えなくなって軍ごと迷子となって彷徨ったあげくに精霊の領域を荒らしてしまって追いかけ回されたり…………と、ものすごく苦労したらしい。なんかごめんて。
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