第167話 砦へ……。


「見事なものです!」

「どうぞお収めくださいませ!!!」

「素晴らしい手際!リヴァイアスの将来は明るいですな!!」

「橋をこんなに簡単にかけてしまうなど歴史的偉業でしょう!!」



橋を作り終えると大げさなほど感謝をして取り入ってくる貴族や商人達。


領都に荷を届けるようには言ったのだが責任者級の人は何人か残っていた。偉い人が魔法を使っているのに礼を言わないのは良くないと思ったのだろうか?


……何人かは鼻をふくらませて言ってきているし本心もあるだろうが私の能力や人物を見極めようとしているのだろう。



「祈らせてください。我が子に水のご加護がありますように……」



作業は川を持ち上げていただけあって派手に見えたようである。


私を神か何かと思ったのか膝をついて祈られた。「手早く移動してください」とだけ言おうとしたのだが……祈られて一気に気力を削られた。



「…………領都まで移動してください。現地で王命の理由も聞けるでしょう」


「ありがとうございます。精霊の導きに感謝を」


「…………」



うへぇと少し言いそうになってしまった。石で作ったとは言え簡易的な橋だし、ここまで真剣に祈られると……どう対処して良いのか…………ただただベッドで眠りたくなった。


橋は立派だが完璧ではない。そもそもどれほどの水の量が来るのかという調査も満足にできていない。水の流れに沿って六角形の島を基盤に作って、頑丈な橋をかけたとはいっても今までにもここで橋が落ちたことが数度あったということはそれなりの水害があったはずだ。


重い荷物を積んだ馬車も超重量な見た目の騎獣もちゃんと通れたから一旦様子見である。


これで王命が果たせると私にお礼を言ってお金をおいていく商人や貴族多数、彼らにはリヴァイアスに行ってもらう。そろそろ日も落ちそうだし危ないんじゃないかと思ったが彼らはまとまって行動しているしこの先は道がしっかりしている。



「彼らに数人つけてください」


「はい」



彼らが領に入ってからついていたはずの本来の道案内人は迂回路を探したり川で渡れそうな場所を探しに行ってしまってこの場にいない。


多分大丈夫だと思うが「実は賊でしたー」という場合が怖いので道案内と監視のためについてもらう……案内人がいないのは殺された可能性もあるとジュリオンにも指摘された。犬人ホーリー曰く血の匂いはしないそうだが警戒して損なことはないだろう、何もなければそれでいい。


結構時間もかかったし私たちも日も暮れる前に帰るか迷ったがボルッソの子どもたちが疲れ切っているしここで寝るかな。



「砦にくっといいだす。部屋もあっしこっからちけだす」


「フレーミス様、砦はここから近いですがトルニーの商隊もそちらにいるはずです。それより近くの村に行ってはいかがでしょう?」


「トルニーはいいやつらだどおもうが?」


「彼自身のことは知りませんが彼の兄弟がフレーミス様を裏切ったのですよ、如何しましょう?」



ベスさんの護っている砦はここから近いらしいがジュリオンは近くの村がおすすめだそうだ。


トプホー達鳥人部隊の情報ではトルニーの商隊にレルケフはいなかったし容疑は晴れている。


ここは――


「砦に向かいます。村と砦に知らせを出して橋にも人をおいてください」


「はい」

「だす」



指示を出すと頭を下げた2人。


川の手前で待機していた商隊や貴族たちがそこにいたのは迂回を諦めて川の水量が減るときを狙っていた。近くの村はおそらく他の商隊で限界まで足止めされているのが容易に想像できるしトルニー達が迂回路を探してベスさんのところに迷い込んだのものそれが理由だ。


受け入れが出来ないほど人で溢れている村に行ってもまともに休めないと思う。貴族と商人の挨拶から逃げられないのもきつい。


砦を目指して川沿いの道を上がって1時間ほどか、草木も茂ってきたが山深くに入り、仕方なく竜車の上から揺れる中に戻る。エール先生は地形の確認のために一度空を飛んでいった。



――――ガルルルルルル!!



「狼が出たぞ!!」

「数がいるぞ!」

「足元気をつけろ!!」

「哨戒は何してんだ!!?」

「下がれ!追い立てると領主様が危ない!!」



ウォォォォォンっ!!!



騒ぎが聞こえてすぐに外に出て杖を構える。


周辺を警戒している哨戒部隊と本隊の両方を抜いて私がいる竜車のすぐ近くに狼が数頭現れたのだ。


前方の部隊が攻撃しようとすると狼は私のいる竜車に向かってきた。



「なぁにやっでんだぁ」



水の魔法を放つか迷っているとベスさんが目にも止まらぬ速さで後ろから現れ、一番大きな狼の首を抱えて……地面に頭を押し付けるように投げ折った。


他の狼はベスさんに吠えるだけだったが戦意を失わずにベスさんに飛びかかろうとしている。


膝立ちだが熊のように待ち受けるベスさんと狼がぶつかる直前、誰かがなにかぶつけたらしく狼がキャインと声を出して悶えた。



「<水よ、押さえつけろ。壁を作れ>」



ベスさんは片足が動かせていなかったがそれでも余裕そうだった。


私に出来るのは動くと危なそうな竜車の竜を腕で掴んで抑え込むことと竜者と狼の間に壁を作ることだ。


ベスさんや兵士が居るから味方を撃つのは怖い。



「なにをしている!?一掃せよ!!」



竜車のすぐ近くで竜を抑えていたジュリオンが槍を地面に打ち付けて号令をだすと竜車の後ろの護衛が狼の群れを一掃した。


水の魔法で私が対処してしまえば早かったかもしれないが味方ごと巻き込みそうだしね。



「ごぶじだす?こんあだりはほらあなにおっがみがいるだす」


「ベスさんは大丈夫ですか?」


「……あ、ぐるるルル、にゃ、ニャおわー……だす」


「そんな恥ずかしがらなくても、足は大丈夫ですか?」


「んな”ぁぁおっ!」



心配してくださるなんてと声を上げるベス、つい共通語が出なくて恥ずかしかったようだ。


それよりも片足が動かせてなかったので声をかけると古傷なんでと言って恥ずかしげに後ろに戻っていった。後で治療しよう。


途中何かが飛んでいったのはトルニーの投石だった。



「トルニー、ベスさんへの支援ありがとうございます」


「……フレーミス様は貴族なのに礼を言うんですね」


「それは当然でしょう」


「いや、その、えー……め、珍しいですね」



納得行ってなさそうで、不思議そうにしているトルニー。


一般的な貴族なら「余計なことをするな」とか言ってきそうだし、トルニーは一度エール先生によって厳しく話しをしたみたいだし私もまだそういう風に見られていたのかもしれない。第一印象って大事だよね。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




何事もなく砦に着くと……結構な大きさだった。


迷宮。ダンジョンというものがこの山奥にはあり、そのためだけに建てられた要塞についた。


ダンジョンの中には魔物が居るとかでその討伐のために軍がここに駐留している。リヴァイアス領では亜人同士でコミュニケーションできない異常事態もあってここよりも国境に兵を回していて部屋はあり余っている。


外灯もないし足元も暗くて見えなくなってきたから助かった。



「にぐもやざいもいくらでもあっだす。すきなだけだべでっでいぐといいだす」


「ありがとうございます。ベスさん、魔法で治療をしたいので怪我している人を集めてください」


「ありがてぇこっだす!!」



嬉しそうに出ていったベスさん。いや、ベスさんのことだったんだけどな……亜人は貴族や商人のような腹黒さが感じられないのが良い。いやプゥロは策略をかけてきたし……いやでも彼は彼で自分の里を守るためだったわけだし……ひとまとめには出来ないかな。


この砦の周りは生い茂った森で獣も多い。村でもこの砦の周囲でも野菜を作っていて食べ物に困ってはいない。ただ、こちらもトラブルの発生や橋作りで長丁場も考慮して食料は積んできているし商人たちの荷物がこちらに届いている。



「どうぞ!」

「なぁお」


「どうぞ!」

「コッコッコッコ」


「食べられないものあったら遠慮なく言ってくださいね」

「がぁう」



竜車から出たことをエール先生に注意され、部屋で休むように言われたが部屋から抜け出して料理と配膳を手伝っている。


食糧事情を考えて、そもそも私には荷が重いとか「あーしたらどうだこーしたらどーだ」とか……なんて悶々と寝転んで休んでいたがその前に調査しようと思った。


そもそも食材も違うどころか食べる人も私にとっては未知。何をどんな風に食べるかだけでも知りに行こうと――――配膳に紛れ込んだ。


髪と口元を覆って服も地味めなやつに着替えた隠密モードだ!主にエール先生から隠れるためのアイテム!……小学校の配膳を思い出すな。


ダンジョンの営業は24時間であり食堂にも常に人がいる。だからか「手伝いまーす」って言うと「おうよー!」と一瞬で仲間に入れた。

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