第160話 理解るけど……。


「ベェスだす。ちゃーとしたりょっしゅ様がうんまれてうれしいだす。きんぞく様がきたってよぉ、こぉまでつれてきだす」


「えっと、私には領民の言葉がわかるので共通語じゃなくても大丈夫ですよ」



貴族の対応をしようとしたら見たことのない亜人の人が来た。


縦にも横に大きな虎柄の猫っぽい亜人の人が貴族を連れて来たらしい。


一応翻訳スープを飲むと共通語を普通に話せるようになるのだが元々共通語も話せる人は訛りが残る場合もある。


話すことも出来るし理解もできるようになる翻訳スープだが万能ではない。脳の切り替えとかもあるかもしれないな。



「ゴラルルル!ゴァッ!ゴァッ!!」


「にゃー、にゃー!!」



ニャールルさんは仲がいいらしく背も2メートルはあるベェスさんのふくらはぎを叩いて笑っていた。



「ゴァッ!でんもしつれっになっどできんだげちゃーとはなさせてもらーだす」


「はい、翻訳スープも飲んでいってくださいね」


「あーがたいこっだす!」


「…………」



ガハハと笑うネコ科の亜人だがなんか細身で小柄なニャールルさんと一緒にいると親と子というよりもなんだか怖く感じる……片目が潰れて、しかも全身、毛が生えてない部分が傷だらけとわかるし、戦いに慣れてそうだからかもしれない。


私には通じるのでできれば亜人の言葉で話してくれると助かるのだが彼なりの礼儀なのだと思うし甘んじて受け入れよう。若干なんて言ってるかは分からないが。



彼はリヴァイアスの中でもクリータとは別の付近で働いていて許可なく入ってはいけない場所に貴族や商人がたくさん流れ込んできたので数人連れて来たそうだ。



「ふだーならぶっころして子鬼の餌にすっだけどもこいつりゃ敵意はねぇだってこっちもこまっだす」


「にゃにいってるかわかんにゃーよ?おっちゃん」


「そが?ていねにはなしてっけどな?」


「ニャールルは領都で何があったのかをベェスさんに伝えて翻訳スープを作ってあげてください。それと、連れてきた人に話を聞かせてもらえますか?」



ニャールルさんにいつも身につけている水差しを手渡して……一応ちゃんとした領主だという証のためにも杖を掲げて魔力水を作り出す。杖の先に水を纏わせて翻訳用の薬草を混ぜてから注ぐ。後はこの水で調理、カレールウと肉を入れれば完成だ。


翻訳スープはこの領地の話せない人だけではなく、敵の戦闘員の中にいた亜人奴隷に食べてもらった。何話してるかわからないしこちらの亜人とも言葉が異なる亜人もいたので必要だった。


訛ってる共通語についてはよくぞ言ってくれたと思ったがあえてそこには触れないでおこう。ニャールルさんも「私の共通語は完璧」と胸を張っているし他の海猫族の人にも尊敬されているのを見かけるが……実は中途半端に話されるとわかりにくい時があったりする。



「にゃー!」


「りょっしゅ様ごぜんをはなれさせていたっきだす」


「はい」



ダグリムさんのように領地についてすぐに襲いかかってくる亜人もいたしそれに比べると好意的なのは助かる。


テロスによると私がまだ会っていない領地の人の中でも有力な人らしい。それとベェスさんではなくベス・ガラッド・ペルスという名前だった。



それはそれとして彼が貴族や商人を連れてきたということはシャルルが周辺の貴族に命じた戦力供与と食料輸送の可能性がある……つまり大切にしないといけない味方だ。


そんな彼らを捕縛したのであってはこちらの落ち度……だと思ったがエール先生によるとこういう行き違いはよくあることだし、ベスさんの管理している砦は部外者立ち入り禁止、しかも領境から領都への道からも外れている。


今こちらは戦地であることからも謝る必要もないそうだが……スマホやメールなんて連絡がないからなぁ……とりあえず会って話をすることになった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





……胃が痛い。心苦しい。



「私がフレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです。事情をお聞かせ願いますか?」


「頭を上げて良い」


「……」



謁見の間で私が椅子から立ち上がって声をかける。


横にはクラルス先生やエール先生。亀人テロスに……立派な武装をしたジュリオンが兵を率いて立っている。



――――顔を腫らして既に血を流している……後ろ手に繋がれた人たちに向かって。



味方だと思うしめちゃくちゃ悪いことをしてる気分だ。前に出て声をかけようかと思ったがエール先生にスッと椅子に座らされた。



「代表として私が話させていただきます」


「貴殿は?」


「商人のトルニーです。この中で一番事情が掴めていることとフレーミス様とは少なからず縁がありますゆえ今回卑賤の立場ですが代表を務めさせていただきます」


「俺は別で捕まったからこいつを代表とは認めない。俺が話させてもらおう!こんな理不尽に殺されてたまるか!俺はオベイロス王シャルトル陛下の命を受けたフグラッテ様の命で食料をこの領地に運んでいた!であるのにいきなり領民に打ちのめされて食料を奪われた!これは王命に対しての妨害である!!今すぐこの縄をほどいて謝罪と賠償をしていただこう!!」



焦げ茶色の髪にメガネをしている細身の男性は私に縁があると言ったが私は見覚えもないし訝しんでいると少し派手な服のどう見ても貴族の……ボロボロの青年が抗議してきた。


謝ってしまいたいがテロスさんとクラルス先生が話し合いの前に「どうにかできる」と言っていたし、今も二人ともこちらに「大丈夫」と視線を合わせてきたのでおまかせする。



「リヴァイアス領主様の前ですよ。落ち着きなさい」


「これが落ち着いていられるか!!?商人風情が口を挟むでない!!!」


「両名、フレーミス様に無礼ですよ?その首と別れたくなければ今すぐ口を閉じなさい」



なにかテロスが言おうとしたのだが目にも止まらぬ速さで剣を二本抜いたジュリオンが二人の首の横でピタリと剣を止めた。



「ジュリオン、首を落としてしまえば背後関係がわかりませぬ。剣をしまいなさい」


「……はい」


「ひっ」



テロスに注意されたジュリオンだが剣を鞘に納めたがその巨体を折ってボロボロの貴族の顔を思い切り覗き込んでから数歩下がった。


お怒りだった貴族の人が一気に青ざめた。彼に注意した「自称私に縁のある人」に剣もを向けたのはちょっとあれかと思ったが……分別はしているようだ。



「オベイロス 王 がクーリディアスとの戦争中であるこの地に食料を届けるように指示したのは確かです」



少しテロスさんが王という部分になにか含ませた気がする。


一応戦争は戦争なのだ。終わったかもしれないがいつ敵の増援が来るのかわからない。



「――――せん、そう?」


「はい、しかし、戦時に貴殿らはリヴァイアスの案内人を無視して行動し、領都ではなく我が領地にとって重要な施設に無断で侵入……それも迷宮を防ぐ砦に、のぉ」


「い、いや、それは知らなくて!!?」


「もしも迷宮から魔物が解き放たれれば――――さぞ敵国に有利となったでしょうな」



迷宮……ダンジョンか、本では調べてみたことがあるが魔物とか魔獣が出てきやすい迷路とからしい。学説にもよるだろうが魔物が外敵から身を守るために穴を掘り進めた人間サイズの蟻の巣のようなものらしいが魔法のある世界だからか精霊や妖精がなにかしているのか宝物が出てくることもある不思議な空間だそうだ。


戦争中に人間よりも大きな魔獣のいる巣を突っついてリヴァイアスを攻撃しようとしたという嫌疑があるとテロスは言いたいようだ。



「せ、説明させてくれ!精霊に誓ってそんな意図はなかったんだ!!な、何を言ってるかわからない獣人を無視したのは悪かったし道に迷っただけで!??」



偶然でも立ち入り禁止区域に武装している集団が行けばそれは罪だ。


日本だって電気やガス、水道といったインフラ施設に武器を持った集団が何十人も向かえばそれは確実に警察を呼ばなくちゃいけない。



「それに貴殿らは途中の村で商品を仕入れようとしたそうですな?」


「し、仕入れ?あぁ村人に売れる奴隷はいないか聞いたことか?!そ、そん……なこ…………」



素行も不良だったと。これは彼の様子を見るに誤解があるかもしれないが処しても良いラインらしい。


厳しい取り調べをするように命じて全体に「今は戦時である」という自覚を持ってもらうこともできるが……。

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