第154話 敗北の竜?
精霊は美味しい。
最強種といえば世界を構築した天使・悪魔・竜・巨人・精霊の五種族。今の作り上げた世界ではそれぞれが殺し合うことは滅多にないが……あるにはある。
天使と悪魔の奴らは異界に行ってからずっと争い続けている。巨人は世界を踏み作ってから姿を見せない。今では我ら竜と精霊が残っているのと数少ないが例外がいくらかいる程度。当然、同じ場に力ある者がいれば殺し合いにもなろうというものだ。
精霊は世界を作った友でもあるが別に殺し合ってはいけないわけではない。たまに精霊を食い殺すこともあれば脆弱な竜がやられることもある……どうせ滅びることはない、いつかはまた別のなにかになるだけだ。
今の世界は様々な種族がいる素敵な世界となった。我らを創ったものは世界の創造と管理を任せるだけで何も口出しも手出しもしてこない。
出来上がった世界は歪で――――それでいて完璧だった。その世界に新たな種が増えて今の世界がある。
低級種との関わりは個体によって違うが……我のような竜でも人の友ができた。竜としての生き方も悪くはないが世界を作り終わって、もはや暇で暇で……刺激が欲しかった。
彼ら人間が世界に及ぼす影響は小さく、小さな住処を作るだけで何日もかけるのはとても可愛らしい。ついつい先達として「ああすれば良い」「こうすればもっと効率が良い」と教えることもあった。
まぁ、崩れない家を建てるようになってからは口出しはやめた。彼らの独自性が失われて面白くなくなる。あの頃は若かったし口出しは反省している。
人は停滞した世界をゆっくりとだが確実に変えていった。
かつて野原だったはずが時間をかけて人と建物で埋め尽くされた。
人は我らの力の一部を使って愛らしく短い生を全うするし、建物や道具はより洗練されて我らでは思いつかないような発展を遂げている。
かつて我らの作った世界が人によって小さく小さく変化していく様は面白くて仕方がない。
友も死に、その子孫を見守ってずっと国を守り続けてきたが……面倒なこともある。
人は世代を重ねるにつれ技術を積み上げ、能力を少しずつ磨き上げてきた。その中で力を持って長になるものだけではなく血筋や権力で長となるものがでてきた。
血縁を大切にするものもいるのに、血縁だからこそと殺し合うものもいる……力以外で群れの長になろうとするし、納得せずに毒や多数で囲むと行った方法で殺し合う事もあって…………人の営みというのは実に興味深い。そして我らへの敬意は明らかに減った、別に構わないが。
そろそろこの国も狭くなってきて、大きくなるか割れるかと思っていたが大きくなることを選んだようだ。
ここに残って文明の最後まで見届けるのも面白そうだったが、この風景も見飽きたし新たな場所を見るのも悪くない。
同じように感じていた竜は他にもいたし、連れて行くことにする。
新たな地に行くのは血が滾る。新たな地には当然別の主がいる……弱者を息吹き散らすも良し、強敵と喰らい合うも良し――――実に愉しみだ。
そして彼の地には同格が、海の王がいた。
お互いに群れを成しての戦いではない。個と個の戦い。連れてきた若輩共には牙を出さぬように命じた。
ただ、海の王には守るべき地があり、人という枷が出来てしまっていた。襲い来る雨はこちらの人間を襲うがそれは力を使う分こちらが有利になる。それは望むところではないが――――こちらも人に従うことを決めているし……これも道理、海の王もそうしたいならそうすれば良い。
同格同士の戦いなど久しくなかったが冷めた雨に、暴虐とも言えるその力には闘争の前の焦げ臭さを感じる。もうあと僅かで存分にやりあえるだろう。
愚かにも戦いが既に始まっているとも気づかぬ人共だったが……これも戦いよな。ようやく戦端が開かれたし、他の竜には絶対に邪魔をするなと強く命じ、楔を解いて好きにさせた。
海の王はこちらに気付いているのに襲っては来なかった。お前のような強き者を喰い破ってこそ意味があるというのに……しかし、人と契っているのは感じたし契約者を狙うことにした。
契約者と共にあってこそ力を振るえる精霊もいるし、契約者を見捨てる精霊はめったにいない。――――出てこなければ食いちぎって撒き餌にしてくれる。
海の中を船が走るなど正気とは思えなかったがさすが海の王の契約者。
力比べでも人とは思えぬ力で、それも島全体への力を使ったままに相手をされた。火の精霊使いや大鬼のようなよくわからんものも従えていたし当代の精霊王の縁者もいた。精霊王の縁者を噛み砕けばもっと遊べるかと楽しみになったが……完膚無き迄に負けた。
人の作り上げてきた中でも最強の兵器『大弩弓』。
小さな人が考え、戦いに利用し、成功と失敗を重ね――――……ついには竜の鱗をも貫くまでになった集大成。
アダマンタイトにミスリルに角に牙、様々な穂先がこの身を貫いた。
海の王との戦いこそが望みだったが、海の王の契約者の見事なことよ。
追い立てて海の王が出てくるのを待つか、殺して餌にするつもりが……契約者は己が命を餌に竜たる我を見事に釣ってみせた!!
見事、ほんに見事!!もう動かせぬ体だが褒美をやりたいほどだ!!!
竜人も命を賭けようとしたのは見えていたが、命を散らす覚悟をするほどには慕われているようだった……世代を重ねて竜への敬意を失った今の王族とは全く違うな。次の生ではこのような者と縁を結んでみたいものだ。
体から魂が抜け、少し戦況を見ていたが他の竜は半数は海の王と戦おうとして吹き飛ぶ木の葉のように皆負けた。この海の王の領域で……この我と同格のものを相手に戦えると思っていたことが不思議である。
楔はないとただ自由を求めてその場を去る者や国元に逃げる高官に使われる者。――――笑いがこみ上げるほど無様な敗北である。いっそ腹も立たんな。
海の王共の笑いが見て取れるがあの契約者のような器はなかなか見つかることはないだろう……。
人の兵も成すすべもなく島から出られずに捕縛されていく。……海の王共が羨ましい。ここまでの力を発揮できる契約者はなかなかいないし、なかなか面白い魂をしている。
――――ちょっと見たくなったし、このまま海の王共だけに楽しませるのも癪に障る。少々遊ばせてもらおうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぐっ?!なぜ……なぜだ!?アモス殿!!?」
「――――王子、リヴァイアスは我らが故郷、攻めるというのなら立ち向かうは道理でしょう」
「まさか、獣刑に処されたというのに……」
「若いですな。あれは偽計、獣も出ぬように工夫されておりました」
「なんと、しかし、あれ程の傷を負わされてまだ忠義を貫くというのか?」
「いや、姉ちゃんにはいつもあれぐらい――」
「え?」
「――こほん、いや、なんでもありません。大勢は決しました……敗軍の長としてこのまま大人しくしていただきましょう。我が主は優しい人ですし貴殿のような人物を痛めつけたくはない」
「ふん、好きにするがいいさ。しかし、非戦闘員への配慮だけは約束しろ」
「承知しました……賢明な判断です」
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