第148話 憎しみの国王弑逆?


「その悩み、すぐにでも解決できますが如何でしょう?」


「――――え?」


「今すぐにでも婚儀が行えるよう、姫の懸念を晴らしてみせましょう。ついてきてください」



――――この男と2人だけになるのは危険なはずだ。



盛った犬のように襲おうとしているのかもしれない。しかし、いや、踏み込むしかない。


ジュリオンさんを伴にボルッソに先導されて地下に向かう。



「一体こんな地下に何があるというのでしょう?」


「それはついてのお楽しみです。……時にリヴァイアスではリヴァイアス王都と民が声高に言うほどにオベイロス離れが進んでいたのだとか?」



ドシンと耳に残る音が静かな廊下に鈍く響いた。


ジュリオンさんの尾が床を叩いた。もしかしたら床は割れているかもしれない……顔は見えないが、それでも不機嫌さが伝わってくる。



「そうですね。こんな世の中になったのは、前のご領主様方が亡くなったのも、フレーミス様のご両親が亡くなったのだってオベイロスが、シャルトルが悪いでしょう」


「王都は、いえ、王は勝手なものですから」


「リヴァイアスだけではありません!国中が王族の勝手な争いで酷い事になったではありませんか!一体どれだけの人間が死んだというのでしょう!!なのに争いを起こしたシャルトルが王?そんなの人の道に外れてます!!」



ジュリオンさんが激高してシャルルの批判をしている。これは演技ではなく本心も入っているだろう。そもそも辺境では領主を「精霊に認められた王様」のように扱うこともある。


表立っては言わなくとも酒に当てられて口に出す人は稀にいるが……人々が声高に言うことはない。オベイロスに忠誠を誓っている貴族がいればその場で反逆や扇動の罪になるし杖を向けられたっておかしくはない。


盛り上がった2人が話している横を歩いていく。



「……フレーミス様もそうは思いませんか?」



前を歩くボルッソに聞かれた。



「愚問ですね、シャルトルは死ぬべきです。――――それも惨たらしく、惨めに、己の行いを後悔して死ぬべきです」


「そ、そうですか?あ、歩みが遅いようですが大丈夫ですか?」


「前が見にくいので、申し訳ありません」



少し言い方に棘があったのか、ボルッソ殿にはあからさまに話をそらされたが遅いというのなら歩調ぐらい合せてほしい。


ジュリオンさんの超高身長で圧迫感があるのはわかるが。



「此処から先は私の……いえ、俺の魔法で移動します。きっと面白いものが見れるでしょう」


「楽しみですわ」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




石の魔法で小部屋ごと地面に動かし、王のいる場所に穴を開けてみる。


座ってこちらに気付いたような王。運よく生きているのは接している石でわかるが……灯りをつけよう。



「シャルトル!!?」


「だ、だれだ?!」



驚く姫君と王だが、双方何が起こったか分からなさそうだ。あれから数日放置していたというのにしぶとくも生きていたか。


死んでいたほうが何も喋らせずに姫君の心も決まるというものだが……いや、メディッサの言うように姫君の嫁ぎ方には「爵位のための婚姻」と考えても違和感があるし、シャルトルが来てからの時間を考えればもしかしたら王都の噂通りこの2人は仲が良いのかもしれない。そうであった場合、婚姻自体が偽計の可能性もある。


さすがの俺様も寝室でまた刺されるのは勘弁してほしいし……ここで見極めねばならない。



「フレーミス様、王の承認がないのはご覧の通り、王自身がここにいるからです。……今ならこの王を殺したって誰も文句は言いませんよ」


「ボルッソ!貴様!我が精鋭たちをどうした!!」



意外と元気だな。さすがは大精霊の加護を授かった王ということか?


よろよろと立ち上がってくるがもう少し痛めつけて身体を石で固めてしまったほうが良いだろうか?



「ふん、俺様の罠で全員精霊に導かれたことだろうよ」


「貴様ァ!!クァッ?!!」



フレーミス姫が飛び出しシャルトル王の喉へ一撃喰らわせた。



「もう二度と喋らず、寝てなさい、クズ」



腹に強い一撃を与え……倒れた頭を踏み潰した姫。


仲が良くとも王の頭を踏みつけるなどしてしまえばここから出れたとしても関係の修復はありえない。なにか策があったわけでもなかったのか……それはそれとして、嫁にするのにこの暴力性はメディッサ以上で別の意味で震えが来る。



「今なら殺しても大丈夫かと思いますが?恨みがあったのなら晴らす絶好の機会ですよ」


「……それにはもったいないですわ。―――――そうですね、領や家の様子を見るにオベイロスに逆らおうという考えはまだ広まっていないのでしょう?」


「あ、あぁ」


「賢明なボルッソ殿の立場からすれば私のためだけにシャルトルを捕らえたのならリヴァイアス王国の建国のためともとれます。メディッサ婦人はライアーム派の家の出。繋がっていたのなら辻褄が合いますしね。いえ……しかし、それではここまで行うのは危険が過ぎます…………違いますね。西に本拠を置くライアームとここが協力して動こうにもリヴァイアスを抜きにクリータの単独、いえ、もしくは周辺領地を束ねたとしてもオベイロス正規軍の前では仇討ちにすり潰されるだけ。――――なるほど、ボルッソ殿、どこの国と呼応しておいでですか?」


「クーリディアスです。流石は賢者ですね」



姫君は見識も深く、政治もわかっている。


学園で俺は『魔導師』として力は認められたが学がなさすぎて『賢者』には成れなかった。


このまま行けば彼女が俺のものになる。身震いするほどに気持ちが昂ぶる。


学生時代、辺境の出身で精霊と契約するまでは生来のカエルのような容姿を醜いと貶されていた。


学園で輝くのはやはり何と言っても魔導師と賢者だ。魔導師は魔法力が認められた者や強い精霊と契約できた者がなれる。賢者は更に勲章を得ていたり世になにか貢献できれば得られる称号。


俺を貶していた高慢で愚かな愚図共ですら彼らには敬意を払っていた。


名家は彼らを取り入れたくて仕方がないし、大家ですら彼らを無視することが出来ない。そんな至高の存在である賢者。それを、俺様のものにできる。



「クーリディアスですか……なるほど、ではボルッソ殿。クーリディアスについたとして我がリヴァイアスは?手柄にするためであればリヴァイアスは滅んで差し上げるのがボルッソ殿にとって利になるでしょう」



一歩俺様から離れて向かい合ったフレーミス姫。


ジュリオン姫もこちらに向かって前傾姿勢をとっていつでも飛びかかれるようにしている。



「ジュリオン、やめなさい」


「しかしっ!」


「この場は精霊と契約しているボルッソ殿の領域。ボルッソ殿を攻撃しても私達に勝ち目はないでしょう。……ボルッソ殿の考えをお聞かせ願いたく」


「リヴァイアスはおそらくクーリディアスの軍港となり、一時は取り上げとなるでしょう。しかし現在クーリディアスは大精霊リヴァイアスによって危機にさらされています。一度でも精霊の猛威にさらされたのならその地の契約者をないがしろにすることが危険というのは理解されるはず。――――すぐに貴女のものに戻りますよ」


「…………」



考えているようだ。


彼女の立場では身の危険はあるだろうし仕方がない。


精霊を舐めているクーリディアスも列島だけを襲う怪異に怯えているようだが、おそらくどのような筋書きを辿っても一度はリヴァイアスはクーリディアス王家の直轄地となるか古くからの信に足る重臣に任せるはずだ。そして姫君は必要のないものとして殺されるか領地替えとなる。もしくは自分かクーリディアスの家臣との婚姻となる。


他の国の貴族であればよくある手だが精霊に認められた存在を蔑ろにすれば当然精霊が怒る。現在軍が動けない程のクーリディアスが姫君を殺す確率は低いはずだし、今以上の被害にあえばすぐにでも姫君は呼び戻されるはずだ。それも高待遇で。


もしくは……初めから折衝地帯としてリヴァイアス王国を建国しクーリディアスの属国として認める代わりにオベイロスの切り取りをするかもしれないな。…………他国に留学して知見のあるメディッサと何度も話しをしていてよかった。俺様だけだったら絶対ここまで思い至らなかった。俺の嫁最高。



「わかりました。では、この王を使って領地を纏めませんか?」


「どういうことでしょうか?」



賢い姫君であればこの場だけ切り抜けて後でどうにかしようとしてくる可能性もある。


この場から出て部下に俺を暗殺させるなり毒を盛るのがよくある方法だろうが、敵意のない現れとしてこの領に持ち込んでいない精霊杖を婚儀で使って俺を討つなりできるはずだ。



「王を    にしましょう。家臣と民を集め、身動きを取れなくして私が         」



――――しかし、どうやらこの世界は俺様のためにあるようで……姫君は慈悲もなく国王を殺すようだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「いやぁ怒られましたな」


「申し訳ありませんアモス殿。僕の我儘で……」


「仕方ありません。しかし今晩の夕食に毒が入ってないかは心配ですな!」


「ならば目の前で僕の夕食と取り替えてみよう!」


「臣下の肝が冷えそうですな」



「アモス殿は何をしている?」


「あのトカゲですか?この寒いのに相変わらず空に火を吹き、崖の上で1人で棒切れを振り回していますが」


「おい、アモス殿への無礼は許さんぞ!!誰か!こいつを連れて行け!!!」


「お、お許しを!!私はこれまで誠実に仕え……!?は、離せ!!!あ、あやつは危険です!臣下にしないというのなら牢に入れておきませんか?!!」


「まだ言うか!さっさとこいつを連れていけ!!」

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