第149話 哀れな虜囚?
ボルッソにしてやられた。
いきなり床が抜けるとか何を考えればそんな発想になるんだ?
皆は無事だろうか?俺という人質がいる以上爺たちは動けない。そもそも生きていれば良いのだが……。
「<ルーラ、どこかに逃げ場はあるか?>」
「<…………>」
ルーラは身振り手振りでどこにも行き場がないことを教えてくれる。大精霊と言っても言語を話す個体は少ないし、意志が伝わるだけマシだな……普通なら人から言葉をかけても見向きもされない。
落とされてボルッソと少し話して……部屋ごと動いたと思ったら大きな何もない空間に入れられた。
頭や腰も打ったが秘薬を飲んで傷は大体治った。だが耳の中の血のかたまりはそのままだし、痛みが全身からする。
持ち物は短剣にいくつかの魔導具。火は灯すことができるが暗闇のほうが俺には都合がいい。飲水は……少しずつなら道具で出せるな。
薬の苦味が残って反吐が出そうな口内をどうにかしたいのだが……。
持っているものを整理していくと――――使うことは二度とないと思っていた魔導具があった。
袋の魔導具『闇の宝物庫』真っ暗な場所でだけ使える小さな袋である。
闇を展開してその中で物を出し入れする。何代も前の闇の精霊から王家が頂いたものらしいが使い勝手が非常に悪い。かなりの魔力が必要で……明らかに人間の魔力で使う想定がされていない。たまにルーラが勝手に物を入れたり出したりはしているようだが一つのものを入れるか出すだけで倒れるかもしれないほどに魔力を食われる。
ルーラに言えば出してもらえるものもあるがたいていゴミしか出てこないしルーラに命じてこれを使うようにと言いつけると使った魔力は俺から持っていくから迂闊に使えない。普段はきっと俺の知らない寝ている間に魔力を持っていってるのだと思う。
あるだけでルーラが勝手をするし邪魔で焼きたくなる魔導具だったが……手持ちの道具を確認しても使えそうなものはもう何も見つからない。自分にはあまり合わない杖だったがそれでも大事な杖も無くしてしまった。
「すぅー……はぁー…………」
もうこれに賭けるしかないとわかっているので気合を入れて袋に手を突っ込む。
良い物出ろ!良い物出ろ!良い物出ろ!良い物出ろ!良い物出ろ!できれば死なないようなもので良い物出ろ!良い物出ろ!
祈るように身体からごっそり魔力が減って……そして出てきたのが……。
「これは……?おい、ルーラ?」
「<………!!>」
出来てきたのは深い木皿。来る途中に肉を食べたが皿のうえでは肉が調味料でひたひたに沈んでいる。調味料の瓶ごと。
ルーラがおずおずと来て額に触れてきた。
そして何故これが入っていたのか見えてきた……。自分たちが食べていたのが面白そうでフリムの鞄から勝手に拝借、見様見真似で眠ったフリムにとりわけた分の肉にかけようとして全部こぼした。怒られると思って頑張って隠した。
人の見た目をしている闇の大精霊だが、怒られた子供のように顔をそらしている。
「…………一緒にフリムには謝るからそんな顔するな」
「<……!>」
精霊はあまり物を食べない。酒や果実程度だが……なんだろうこれ?
肉に、プリンのような塊がのって、液体に肉が沈んでいる。
袋の中で何かと混ざったんじゃないかと警戒して様子を見る。
そもそもフリムは確か実験で作ったものだからと傷んでいそうなものは除けていたはずだが……その「傷んでいたなにか」だとすれば食べるのは危ないか?………とりあえず皿の上から瓶を退ける。
匂いはとても甘い。傷んだ食材は変な匂いがすることがあるのと腐敗して糸を引いたりすることもあるそうだ。液体部分に少し指を入れて観察する…………糸を引いているのか?なんだかとろとろしている。
フリムの調味料は美味しかったがとてつもなく辛い物もあった。
ルーラが何故か物欲しそうに見ているが。ほんの少し舐めてみる。
「あっま?!いやほんのりなにかの香辛料も入っていて……蜂蜜か!?」
秘薬を飲んで……口の中が酷いものだったから非常に助かる。
魔導具で水は少しずつは出せるがある分全部飲み切って気持ち悪かったのだ。
変な塊と液体は蜂蜜が固まったものと分離して液体になったものだろう。味は甘くスッキリしているのに香辛料が少し入っているのかどこか少し辛い。
肉にも……多分あっている気はするが、肉よりも大きな蜂蜜がかかっているのは流石に甘すぎる。肉は不思議なことに少し食べてみるとあれから日が経っていたのに焼き立てのように熱い。精霊から渡されるものは不思議なものが多いが……道に落ちている「変な形の石」とか「いい感じの棒」が出てこないでよかった。まだ袋の浅い場所にあったのかもしれないな。
この袋の中から昔は鍛錬と考えて毎日物を出していたのが懐かしい。無作為に出してみるとゴミばかり数えて100にもなってやめたが……。
肉は食べきって食べきれない蜂蜜は置いておく。すぐにでも助けか……敵が来るかもしれない。
土の魔法使いが敵だ。いつどこから襲ってくるのかもわからない。
――――油断せずに、待ち受けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
数日経ったがずっと誰も来ない。他にまともな食材もないし少しずつ水と固形の蜂蜜を舐めて過ごした。
なにせ、この広い空間には出口がない。
ルーラが別の食べ物や城にあった魔導具をいれてくれればと思って魔力の回復が済み次第で闇の宝物庫から取り出していく。
木の棒、紐、動物の毛、腐った野菜のかけら、魔石、紙、ハンカチ、魚の鱗………………ゴミばかりである。
もう真っ暗なここに何十日ここにいるのかわからないが、このままでは餓死してしまう。ついに蜂蜜が無くなって――――ここまでかと思ったがボルッソが来た。
久しぶりの光で目が痛むがボルッソ以外にも白いなにかが二体いた。おそらくボルッソのゴーレムか従者だろう。
「シャルトル!!?」
「だ、だれだ?!」
反響とくぐもった声で誰かわからないが女の声だった。
「フレーミス様、王の承認がないのはご覧の通り、王自身がここにいるからです。……今ならこの王を殺したって誰も文句は言いませんよ」
「ボルッソ!貴様!我が精鋭たちをどうした!!」
フリムにしては大きいし、いや、強い光に目が痛んではいるがボルッソの顔はかろうじて分かる……。しかし白い人らしきものはよくはわからない。
それよりも護衛が心配だ。全員殺されてしまったのだろうか?ずっと暗闇で心のどこかで彼らの安否を気にしていた。
というか、何だこれは。もしかしたらフリムはボルッソについたのか?
「ふん、俺様の罠で全員精霊に導かれたことだろうよ」
「貴様ァ!!クァッ?!!」
やっと定まってきた視界、フリムがぼやけたかと思ったら喉をやられた。
「もう二度と喋らず、寝てなさい、クズ」
喉への一撃は相当なものだったが腹はそこそこで……頭を踏み潰された。
頭の圧は体重とおりか軽い。フリムは一体何を考えているのか?
「今なら殺しても大丈夫かと思いますが?恨みがあったのなら晴らす絶好の機会ですよ」
「……それにはもったいないですわ。―――――そうですね、領や家の様子を見るにオベイロスに逆らおうという考えはまだ広まっていないのでしょう?」
気絶したふりをしながら、フリムの言葉を聞く。落ちた時に耳を打ち付けて血が溜まっているからか声が聞き取りづらいし声がおかしい気もする。
しかしリヴァイアス領やクーリディアスのことはわかった。それに大きな白い塊がゴーレムではなく竜人のジュリオンであるということも……。フリムに裏切られているかの確証はないが、今暴れたとしてもこの体調では全く勝てる気がしない。
踏みつけられはしたが……俺はフリムを信じているし、大丈夫なはずだ。きっとこの行動もなにかの意図があってのはず。
「王を公開処刑にしましょう。家臣と民を集め、身動きを取れなくして私が海に突き落とします」
フリムを信じよう…………。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しばらくして口を縛られ、目も見えなくされたまま柱に繋がれた。
連れて行かれた先、人の声や外の空気を感じる。
目隠しをとられると……崖先の城だ。後ろは断崖絶壁、その下は海。前はクリータの兵と領民が集まっている。
やっと目が慣れた先には獣用の檻に入れられた我が精鋭達。
生きているのか死んでいるのか、動けずに繋がれている。
「<これより処刑を開始する!!このリヴァイアスと縁を結ぶ良き日!!!リヴァイアスとクリータはオベイロスと決別する!!見よ!これがオベイロス王だ!!!!>」
魔力のこもった大声で宣言され――――……俺の処刑が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「しかし、クリータからの朗報は聞いたが……少し状況は良くないな」
「兵の損失を減らすためには仕方ありません。オベイロスの王の捕獲にリヴァイアスの姫君の婚姻、あの醜い領主……見かけと違ってやり手のようですね」
「それは良いが海の荒れ方がなぁ、食料が少し心もとない」
「この広い海で魚は取れずにいるのは化け物ばかり。……また一隻沈められたそうですよ?リヴァイアサンの怒りだと網元も船を出しません」
「精霊か……実態なき精霊など、竜に比べればと思ったがこういう形で来るとはな…………竜も理不尽だが本体の居所の分からぬ災害など卑怯ではないか」
「自然に文句を言っても仕方ないでしょう――――いっその事フレーミスとやらを殺して領地奪い取ったほうが早くないでしょうか?主がいないと精霊も力を失うこともあると聞きますし……侵攻を開始しますか?」
「やめろ、大領地が2つ無傷で手に入るかもしれんのに、そんなことを寒さに震える兵に聞かれてみろ。いつ誰が略奪に手を出しに行くかわからんぞ」
「すみません……オベイロス王の処刑はいつでもできるそうですが婚儀に時間がかかっているようですね」
「……仕方ないな、何も知らない姫の前で処刑させれば婚儀に支障が出る。どう対処するかはともかく婚儀を済ませないとリヴァイアスの抵抗は激しいものとなるだろう。――――あの海の城塞は攻め難い」
「血統魔法の使える獣人がいるのに城を残すように戦うなんて自殺行為ですからね」
「……勝ち戦だ。お互い、死なないように立ち回って領地をもらおうぜ」
「はい!クーリディアスの栄光と発展に!!」
「「乾杯っ!!」」
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