第139話 無能な働き者?


「なぁ、俺らのせいでアモスの兄貴、めんどくせぇことになってるよな」


「そうだな、周りの奴らもあれだけ兄貴にへりくだってきてたのにな」


「……どうする?」


「どうするって言ったってなぁ……クリータの人クズの首持って行けば良いんじゃないか?」


「それは流石にまずくないかな?オベイロスの王様とフレーミス様は仲が良さそうだし、クリータはオベイロスの国の貴族だ」


「……このままじゃ兄貴……処刑、されないかな?思いっきり逆らってたし」


「「!!?」」


「……新しいご当主様に面と向かって文句を言ったわけだし、許されてもアニキはいなくなっちゃう気がする」


「あるかもしれないな、アモスの兄貴は潔いし」


「兄貴ぃ」


「……全部うまく行けば兄貴の手柄にできて、僕らも褒められる。そんな手があるんだけどどうかな?」


「さっさと話せ、羽引っこ抜くぞ」



「               ?」



「やろう」


「かんっぺきじゃないか!」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




空を飛んでいくとすぐにホーリーを見つけることが出来た。山中を大人数で移動していたし、人の蠢く行軍は空から見れば直ぐに目に付くものだ。



「ホーリー、何して……お前本当に何をしてるんだ?」


「どうぞ!アモスの兄貴!手柄です!!」



目をキラキラさせて褒めて褒めてと言いたげなホーリー。


ホーリーの頭を強めに掴んで何を考えるのか、既に何をしでかしたのか聞くことにする。



「キャインっ!な、なんで?!手柄っす!どうぞ!!」


「意味がわからんが何をしたのかさっさと話せ」



三馬鹿はたまにやらかす。


何がしたいのか全くわからんが良い時もあれば悪い時もある。軍の問題児だったこいつらの世話をいつの間にかすることになったが……なんでこんな山中を移動している?



「プゥロの村の住民と同胞たちを全員連れてきました!どうです!大手柄でしょう!!?これを兄貴が指示したってことにすれば……キャインキャイン!!?頭割れるぅ??!」


「大馬鹿者が……そういうのは先に相談してやれ」


「……失敗したら俺らだけ首になるんでよかったんスよ。ついてきた奴らも同じ気持ちです」



こいつらにだって数百の部下はいる。


見渡せば勿論だと言わんばかりの知った顔の馬鹿者共が頷いている。


色々言いたい事はあるがやってしまったことは仕方がない。それにこいつらがいなくなってからそう時間も経っていないことから本気で行動したこともわかる。



「馬鹿者共が……さっさと帰るぞ!」


「「「はいっ!」」」



これだけの人数に慕われていることに満更でもないが……俺の首で許してもらえるだろうか?




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




アモスさんがプゥロの里の人間および亜人奴隷を纏めて助けてきた。


ジュリオンさんがアモスさんを折檻している間に震えている亜人たちに事情を聞く。


クリータにあるプゥロの里は鯰人だけではなく多くの亜人奴隷が集められていた。


リヴァイアスの領主就任の可能性から暴動や反乱を避けるために、戦えそうな奴隷は船に、人質になりそうな女子供や老人は水場のあるプゥロの里へ……プゥロもリヴァイアスでの働きによって自分の里を救うだけの身分を与えられると約束されていた。


そしてプゥロはもしも自分が失敗すればいつでも逃げれるようにと準備だけするように言っていた。


そして何を思ったのか「三馬鹿」と言われる人たちは「俺らまだ軍の所属じゃないし!」「助けてきたらアモスの兄貴の手柄!」「兄貴はフレーミス様に仕えられる!」「失敗したら俺らの首で!」とクリータの山間を移動して里を見張る兵士を強襲、全員助けてきたと……。


亜人の身体能力半端ないな。距離や地形なんて無いかのように隣の領地から何百人も人が連れてこられて……え?カレー食べてからやけに調子がいい?魔法使いやすかった?え?魔法使えるの?アモスさんに部下が勝手な事をしたことについて謝られた。


お手柄ではあるけど、ジュリオンさんからしたら「勝手な行動してんじゃないよ馬鹿共」とお怒りで参加していなかった最高責任者アモスさんを折檻している。ジュリオンさん激怒である。壁の破片が飛んできて危ないしそろそろ止める。



「まぁまぁジュリオンさん、功績もあるので」


「しかしフレーミス様、愚弟がまた……」


「結果オーライです」


「おーらい?」


「結果良ければ全て良しってことです!」



戦国時代では「戦争にならない程度に物資の奪い合い」や「村を襲う」なんてよくあることだと歴史の授業で習ったことがある。


今回彼らは欲望のままに行ったわけではなく、捕まっていた同胞を助けることにもなったし……そもそも政争のいざこざで人を攫っていた隣が間違っている。


助けられた人の中には鉱山で働かされていた人もいた。明らかにムチや棒で打たれた痕もあるし骨が浮いて見えるほどにみんな痩せていて……三馬鹿と言われる救出を実行した人に「やっちゃだめだ」とは私は全く思わなかった。むしろナイスだと思う……法的にはやばいかもしれないが。



―――――――…………ファッキュークリータ領主!



なにか、ストレスが脳裏をよぎったが仕方無い。


本来なら中央の貴族に申し立てたりするべきだろうけど「そんな人は元々いない、リヴァイアスの言いがかりだ」とか言われて売り飛ばされたり証拠隠滅に殺されてしまう可能性もある。


うむ。よくやった。



「ホーリーさん、シャルルは見かけなかったのですか?」


「見慣れないワイバーンの部隊とクリータに向かってました」


「そう、ですか?」



途中シャルルに隷属を解除して貰えれば隷属させられている人を気絶させて担いでくる必要はなかったはず。


だけどオベイロス正規軍とクリータに向かっていったのなら途中出くわさないように行動したホーリーは正しいと思う。正規軍からしたら突然現れた第三勢力なんて「燃やし尽くせ」ってされる可能性がある。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「フリムちゃん、シャルルに急ぎで連絡できるかしら?」


「情報によるとクリータにいったみたいですね」


「……最悪ね」



少し思い詰めた顔のクラルス先生がやってきた。使者殿に何をしたのかちょっと怖い。


クラルス先生は牢屋行き、捕虜にした使者殿に全て吐かせたようだ。



あの変なことをほざいていた使者殿には勝算があった。



まず今回、使者が来た事自体が『時間稼ぎ』である。


クリータ最上層部は海からリヴァイアスを襲ってくる賊共の大本、海上国家クーリディアスと繋がりが出来ていて、既にクリータの島々にはリヴァイアス領どころかもっと先まで侵略できる兵が待機している。


船の賠償請求や私の婚儀の申し入れ、それ自体が偽装。


突然リヴァイアスに家長が生まれたとしても巨額の賠償請求がされれば家の中で家臣たちが揉めるのは普通だ。


精霊に認められたであろう私がのこのこと1人で向かおうものならクリータはクーリディアスに私を差し出してポイント稼ぎができるし、うまく行けばリヴァイアスの領地まるごと無傷で手に入る。


そもそもこの交渉には失敗して貴賓対応で閉じ込められる前提であり、その状態でも「この領地はもうすぐ占領されるからこちらにつけ」と不安定な内部を崩壊させられると考えていたようだ。


もしも僅かな確率で交渉で死んだとしてもクーリディアスで息子は重宝されるはず……つまり、彼からすれば初めからどう転んでも勝てる前提で無茶苦茶な交渉をしてきていた。



―――――――…………まずい、まずすぎる。



相手はワイバーンなどを島で待機させていて船はこの間の10倍以上、戦力は更に多い。


クリータは真の敵ではなく、最上層部はもはや取り込まれていてクーリディアスこそが敵。これまでのように海から海賊や他国の貴族が攻め込んでくるわけではなく、国単位で攻め込んでくるというのだ。


その上シャルルだ。シャルルはそれを知らずにクリータに行ってしまった。


『オベイロス王シャルル』が前に出て捕まれば、いや、『レージリア宰相』それにシャルルが動かせるシャルルの信頼している『正規軍』このどれが欠けても今後のオベイロスにとっては大打撃となる。


宰相であればシャルル1人をどんな状況からでも逃がすことができるとは聞いているが、信頼できる正規軍が逃げ切るのは難しいだろう。彼らが犠牲になればその後は……国を挙げた戦争になるだろうし、オベイロス国家存続の危機だ。


ライアーム派もそんな隙を見逃すわけがない。



「お、お父さんのことは良いの、もう十分に生きたし、でも……」



顔が青いクラルス先生だが……国難を、そして死地にいる父親を理解しているのだろう。



「そんな事言わないでください、クラルス先生、お願いがあるんですが聞いてもらってもいいですか?私は――――           。           」


「正気?それはあまりにも……」


「やって見る価値はあると思うんですよ」


「でも失敗したらあなたが………っ!」


「きっとなんとかなりますって」



やると決めたのならやらないといけない。手早く地図と距離、作戦を練ってすぐにでも出発してもらう。


クリータの領主が想定通りの人間だったら……良いなぁ。もしも変態だったらと考えると頭が痛いがそこはクラルス先生の手腕次第だ。


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