第137話 クラルス先生20代?
「一度軍にシャルルを送って来ますので決してクラルス様と離れないようにしてください」
「宰相は?」
「走ってついてくるそうです。むしろ私は空からの索敵でシャルルはレージリア宰相が担ぎます」
どれだけ人間兵器なんだ宰相は……。
基本的に宰相1人でも大体の問題は解決できるそうだけどやはり索敵がつけられるなら居たほうが良いらしい。
領境いに向かっている王都の軍隊に最高権力者が行くことによってお隣さんが何を企んでいても権力でどうにか出来るかもしれない。精霊絡みでも大精霊がついているし、宰相の腕力もある。これまではそうして国内の問題をクリアしたきたのだとか……王家の仕事って………。
移動前にシャルルが心配そうに私の前に来た。
「フリム、お前は賢い。宮中のただ年をとって考えの凝り固まった者共よりもよっぽど周りが見えているだろう……クリータも何がしたいのかはわからんがお前はお前の考える通りに動くが良い。まぁ俺がどうにか出来るかもしれないし、お前が何もする必要はないかもしれないがな」
ニカッと笑って私に心配させないようにしているシャルル。
ぐしぐし撫でられるかと思ったらアホ毛があるから少し後ろめを優しく撫でられた。
流石に頭皮には気を使ったようだ。
「シャルルも王様なんだから無理しないようにね」
「おう」
「こういうときなんて言うんだったかな……ご武運を?」
「ヤメロ、戦わずに済まそうとしてるのに爺がなにかしでかすかもしれないだろうが」
あ、違ってたか。
「すいません。まぁ怪我しないように気をつけてください」
「お前もな……できれば俺がいない間に「オベイロス王家討つべし」って風潮はどうにかしておいてくれ。せっかく雨も領地も落ち着いたのにこんな大きな領地がまるごと敵に回るとか洒落にならなすぎる」
「頑張ります」
「頼んだぞ……頼んだからな!!?」
シャルルは私が近くにいない間、亜人たちによって監視がされていた。
私はシャルルを王として認めていて丁重に扱うように言っておいたし暴発はなかったが亜人たちのオベイロス憎しの感情はどうしようもないようで…………シャルルは全方位どこを見ても獣人たちが無言で見てきていたそうだ。
何なら牛の獣人のようにキレている人もいて、目を血走らせて見ていたのだとか……相当ストレスだったのだろう、お水渡しておこう。
大きな領地には大きな精霊はいるが、お隣のクリータには土地を支配する精霊はいない。際立って強いのは当主が強い土の精霊と契約しているだけらしい。だったら軍もしくは宰相による圧力でどうにかなるかもしれない。
3人を見届けてうなだれたクラルス先生と城に戻って軍についての報告をワーにしてもらう。アモスさんがこの領地の軍の中で一番偉い人だったが私に反発していたこともあってジュリオンさんを筆頭に軍を再編してもらっている。
言語が違っていて意思疎通出来なくても文字や共通言語でなんとかしていたが種族間で誰かが裏切っていたという可能性からギスギスしてしまい、軍隊はそれぞれ独立して動いているだけでまともに機能していなかった。
言葉が話せるようにはなったが軍というのはここ一箇所にいるわけでもなく領中にいる。当然任地を護っているため飜訳スープを飲めていない人もいる。指揮官や階級を発表・掲示すれば軍が成り立つわけではない。そもそも共通言語がごく一部のものしか使えなかったように、識字率もかなり悪いから公布しても意味はないだろう。
しかも亜人には「任命されたらそれで素直に序列が決まる」というものではなく、戦闘力で決める風習もありかなり血なまぐさい。見えないところでやってくれと思うのだが「ぜひ領主様に見てもらいたい」と張り切って決闘を見せようとしてくる。
彼らは俊敏に動き、力も強い。それでいてしっかり防具もつけて武器まで振るう。素手でも充分強いのに。
おかげで魔力水、いや、超魔力水をつかって怪我を治す人の多いことよ……というかジュリオンさんほどではないが元々部位欠損していた人もかなり多くて治療が大変である。
大怪我で軍をリタイアして生活していた人の中には軍で高い地位になっていた人も多く、治療によって私に恩を感じてか……軍で役に立とうと名乗りを上げて――――また序列のために戦って治療を受ける。
ズタボロだったジュリオンさんのように手間のかかる人は少ないがそれでも数も多いのでどんどん水に漬けていく。
治療は激痛から始まるため悲鳴や絶叫もするが「部位欠損を治すため」であるということを知っているから途中でやめようという人はいない。
「これは魔力水なんてものじゃないわね。超魔力水でいいと思うわ……これまでの一級品なんて比べ物にならないわよ、ぜひ研究したいわ」
「宰相も若返りましたしね」
「ぐっ……見た目だけなら私とそう変わらないじゃない。ほんときっついのよ、あのお父さんは………私の縁談だって「娘がほしいなら私を倒してからにしてもらおうか?」何ていうものだからどれだけ私が苦労して独り身になってることか………はぁ」
きっと筋肉ムッキムッキ状態で近付いたんだろうな。
魔法ありか無しかは分からないがどっちにしてもあれに勝てるイメージは全く出来ない。
「それは無理では?」
「まぁね、でも、そうね、フリムちゃん……ありがとうね。腰が痛くて動けないお父さんは見ていられなかったし」
「いえいえ、健康第一ですよ!」
なんだかんだ若返った父親に振り回されて疲れていたクラルス先生だが親子仲はそこまで悪くはないようだ。
私の治療を横で見ているクラルス先生は治療設備や置かれた薬草に興味津々のようだ。王都とは使う薬草の種類も違っているしオベイロスで珍しいものも多いらしい。
通常の治療にも使う薬草や麻酔効果のある薬草なども教えてもらって実験していく。
怪我が治っていくにつれて恍惚の表情を浮かべたりゲラゲラ笑っている人もいるが薬でどうにかできればその方が良いと思う。
途中まで治してやめればそこからまた生えるかわからないため皆やめようという人はいない……が、尻尾が切られてる亜人の人なんて痛みが酷そうで見ていられない。
まぁ私ができることは超魔力水を注いでいくことなのでやるだけだ。横でクラルス先生が色々とこちらの治療の常識なんかを教えてくれる。治療は余裕があるのなら罪人や志願者で練習する。そしてこれまでどおりの治療では間に合いそうにない人にも行う……ジュリオンさんはたしかにそうだった。
「そう言えばエールちゃんがバラしてくれたしね……エールちゃんの秘密をバラしてあげましょう」
年齢不明のクラルス先生だが気持ちは若そうだ。
数時間も治していると王都で美味しい料理の話まで出てきて、更にエール先生の話にまで広がった。
きっと私は微妙な顔をしていると思う。
「エールちゃんは蛇が苦手でねー。シャルルちゃんとエールちゃんは乳兄弟で昔からよく遊んでたのよ。休眠で投げても動かないって蛇をシャルルちゃんたちは集めてね、訓練で疲れ果てて眠ってたエールちゃんの部屋を蛇だらけにしてからエールちゃんは蛇嫌いになっちゃって………」
「それは誰でも嫌いになると思いますよ?」
それは怖すぎる。部屋に蛇がいるだけでも怖いのに、集めてってことは……。
他にもエール先生の弱点集を私に教えてくるクラルス先生。私やシャルルのこともちゃん付けだし歳のことも相まって開き直ってる気がする。
「ところで、クラルス先生は何歳なんですか?」
「――――――…………ねぇ、フリムちゃん、世の中知らなくてもいいことだってあるのよ?」
ついつい年齢のことを聞いてしまった。
人によって髪や目、老化や魔法も効果が変わる。ならもしかしたらクラルス先生も体の悩みがあったりするのかもしれない。膝が痛いとか。
にっこり笑って私に目を合わせてくるクラルス先生。……ただ、目だけは完璧に笑っていない。
「ヒェッ……だってどう見たってクラルス先生は20代にしか見えませんし」
「……いい子ねフリムちゃん。そう!私は20代よ!!」
「……ナルホドー!」
年齢不詳の20代だなー……。まぁ本人が困って無さそうなら良いかな。
ん?いや、宰相は400歳を超えてその娘ってことは20~400以上歳の間だから、その可能性も少しは……いやー、でも――――
「なにかいらないことを考えてないかしら?」
「ナンデモナイデス!」
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