第136話 親子?積み上げられる問題?


「テロス、フリムの婚約云々の話は聞いたことはあるか?」


「おそらく四代ほど前に酒の席で互いの縁を深めるためにもとクリータ側から持ちかけられたことがありましての、当時のご領主殿は「子供の仲が良ければその時はよろしく」と答えておりましたが……」



四代前って……亀人テロスさんは長命のようだ。というかそれで正式な話になるのか?お酒の席の戯言だし仲がよかったらって言われても会ったこともないんだが?


ん?あれ?そう言えば私の母親のフラーナは経歴によると祖父だか祖母だかの代で揉めて縁を切ったんだったような?………………関係ない、よね?


ついつい使者殿がふざけたことを言って拘束してしまったがそもそも主張がおかしい。船団の現場指揮官だったチャークさんにも確認してもらった。



「ウーダがそんなおかしなことを?正気でしょうか?……船が纏めて無くなって考えた一手なのかもしれませんね。いや、しかし……」



大量の船は完璧にリヴァイアス家のものとなった。


隣の領地の規模はうちよりも小さいと言うし、1隻に100人以上乗っていた。その規模の船ってもしかしてめちゃくちゃ高いんじゃないだろうか?



「彼についての情報を全部言ってください」


「勿論ですっ!!そうですね……49歳、息子がいてクリータの家の中では重宝されています。しかし、性格は嫁に逃げられ、息子に毛嫌いされる程度にはクソ野郎です。他者を貶めることを得意とし、それを楽しむ紛れもないクソ野郎です!――――しかし、その能力と忠誠心は本物で弁が立ちますね。獣人を毛嫌いしています」


「なるほど」


「先程も申し上げましたが能力は本物。人の功績を盗むこともあるゴミではありますが……腹の立つことに頭が良くて領地の難題でも解いてしまいます…………奴がこんな頭の悪い方法をとったということに違和感を感じます」


「別の目的があると?」


「奴なら……いや、そうですね。当主ボルッソ・ルーリ・ア・クリータは女好きでうまいものにも目がありません。王都からのフレーミス様の噂は「とてつもなく腕の立つ強大な魔法使いではある」「マーヨニーズという神々の調味料を作った」「童貞王シャルトルを一瞬で落とした美貌の持ち主」「出るところは出て一目で人々を虜にするも誰も相手にしない」「商才もあり王都の学園にてすぐに権威ある賢者となる」「智謀・魔力・色気・礼儀・料理・商才など才気あふれる」などで家中では「彼女が結婚しないのはクリータとの縁談を知っているからではないか?」と盛り上がりました。続く噂から「もしもリヴァイアスの縁者であるのなら嫁入りによってリヴァイアスの頂点に立つことが出来る」と算段を付けるものも多く、特に美人という部分にボルッソは気にしていたようです。家内では王都からの噂に振り回されるものも多く、何度も会議を重ねた結果「リヴァイアスの加護を授かったとすればこれまでの行いからクリータが滅ぼされるぞ」と常識的な主戦派の発言によって結局は強襲することになりました。私は腕はないものの過去に武勲を上げ人望があったので無理やり指揮官としてすえられました。フレーミス様に忠誠を」



身振り手振りクリータの内部事情を惜しげもなくゲロってくれているチャークさん。


「噂を信じるなよ」とも思うが貴族社会なら噂一つでクビになることもあると習ったしなぁ……。



「色気?誰だそれは?いや、途中俺の名前が出なかったか?」



私もなんだかものすごく持ち上げられている気がする。


しかし、私の治療後から忠誠を誓いまくっているチャークさんは嘘はいっていない……膨らんだ私の噂には悪いものもあるはずなのに言ってないな。どうせろくなことじゃないだろうから良いけど。


使者であるウーダが能力のある賢い人間なら、こんな意味のわからないことはしないと考えられるようだ。


もしもチャークさんがいなければ彼は「私を無理やり連れて行こうとした」「賠償を求めてきた」という意味の分からない人物だが賢い人がわざわざ出向いてそんなことをするだろうか?


彼の中では私は御しやすい新領主とでも思われていた可能性もあるが確かに違和感はある。



「シャルル、噂って距離があるととんでもないものになりますね」


「そうだな、それにしても俺をフリムと間違えるとは……」



薄手のシーツの向こうで座っていたシャルルは私が迫られているんじゃないかとヒヤヒヤしていたそうだ。


とりあえず使者ということではあるが使者という扱いではなく牢屋に入れてチャークさん達に詰問してもらおう。


ジュリオンさんをかばった形になって彼女からものすごくキラッキラした目で見られている気がするが見ないふりをした。当たり前のことをしただけだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




使者という立場であの振る舞いをしたことには意味が分からなかったが、半日後さらなる来訪者がやって来た。



「フリム様!とても心配していました!!」


「エール先生、く、苦しいです」



エール先生がクラルス先生を連れて飛んできた。


中央からの援軍はリヴァイアスとクリータの領境いに向かっているが、2人はいち早く飛んできてくれた。


すぐさまエール先生に抱きしめられたが……胸にしっかり私を抱きしめてくるのでサイズは普通より少し大きい程度だが息ができない時もある。



「エール、城はどうじゃ?」


「誰ですか?この人は?」


「儂の顔を……そうか、儂最近また若返ったもんのぉ?どうじゃルリーナ?儂、少しはかっこよくなったじゃろう?」


「………………お、おおお、父さん?!」


「おお、やはり娘はわかるものじゃの!!」



クラルス先生は宰相に高い高いされている。……あれ?娘?父??



「エール先生、クラルス先生って宰相と親子なんですか?」


「えぇ、知りませんでしたか?ジャーリグ・ブルーネス・フラトクア・レージリア宰相はクラルリーナス・マゥアイアー・フラトクア・レージリアの父ですよ?」



長い。名前超長い。レージリア宰相のフルネームも既にほとんど耳から抜けたのにクラルス先生の名前も長くてマゥアイアーだけしかわからなかった。



「エール!言わないでよ!!?」


「まぁクラルス……様は結構な歳がバレたくないのであまり口には出しませんし知らない人も多いですが実は偉い人なのですよ。宰相からの情報はクラルス様にも届きますから学園の守護を任せられている一人です。本人もかなり脳筋なので知的に振る舞ってはいますが「ぎゃー!ぎゃー!!!ばーらーすーなー!!!!」



お姉さん先生のイメージのあったクラルス先生だけどもしかして結構なおばあちゃんなのだろうか?


学園では薬を作る派閥でクラルス先生はトップだった。


薬師の中には20代後半から30歳ぐらいの色気たっぷりのクラルス先生よりも年齢が上の人は結構いたが明らかに年下のクラルス先生を敬っていた。


経済の研究では多くの専門家に話を聞く機会があったが研究の世界は必ずしも年功序列ではない。しかし、長く研究を続けてきた人ほど多くの論文を世に出し、研究を重ねてきた実績を持つ人が多いからやはり自然と年嵩の人ほど偉く見えるものだが……この世界の人は見た目と年齢が一致しないな。



「ルカリム家と学園の状況を報告してもよろしいでしょうか?手紙も預かっています……フリム様?」


「……エール先生、こっちはこっちで大変なことになってるのですが………とりあえず報告を先に聞きます」



ルカリム家は本家ではなくうちのことだった。急に私がいなくなったが家は基本問題ない。


3つの派閥の内、ドゥッガ親分の息子であるレルケフが反旗を翻したことで家内で自分の派閥からも突っつかれていてドゥッガは結構参っている程度だそうだ。


親分さんの派閥はエール先生の派閥のように国から派遣されてきたり、偉い人から紹介されてきている「身元や性格の確かな人材」でもないしキエットのように水の名家の家宰だった経歴から水の属性の人間が集まっているわけではない。玉石混交、国中から様々な人材が来ているから親分さんの筆頭家臣の立場を狙う人もいるのだとか……うーむ。


学園ではミリー達が孤児院での戦闘に私が関わっていたことを知らなかったと私の身を案じているらしい。私も背中を打って療養してたから会ってはいなかったけど思った以上の大怪我をしていると思われているかもしれない。


問題だらけの中「心配されている」というまともな情報で少しほっこりする。クラスメイトからの手紙の中にギレーネからも届いていた。


ギレーネは命令した通り、うちの屋敷でガチガチに独房を作って監禁している。そしてラディアーノが彼女の生活の世話の全てを対応している。


2人はキエットの発案による罰でギレーネは独房内で作った刺繍などで稼いだお金だけで生活している。ギレーネはラディアーノの毎日働いて疲れて帰ってくる様子にとてつもなく反省しているそうだ。


ラディアーノはどんなに疲れていてもギレーネのご飯を持ってきてくれるしラディアーノが食べれるものもギレーネの稼ぎから出される。


ラディアーノは『調停』や『仲裁』という二つ名があるだけあって家内でドゥッガ親分を助けたり、元が貴族社会で一目置かれた学園長だけあって第四派閥が結成しつつある。……本にもなっている伝説の人物で、この国の貴族なら誰しも通う学校の長だったし、妻がやらかしたとは言え人望は健在らしい。


ラディアーノが働いて独房にいない間にうちの人間がドアを叩くなど嫌がらせをしてくる。家の中には事情を知るものもいて……ギレーネに部屋の外から罵詈雑言を吐く者もそれなりにいるようだ。


普通なら裏で「病死」という扱いをしてもおかしくないほどの罪。ラディアーノも離婚して見捨ててもいいはず、なのにラディアーノが毎日ギレーネの罪を償うべく必死で働いて見捨てずに離婚しないのが……彼女にはとても堪えているようである。


インフー先生は別の賢者たちが順番で研究を見に来ることが決まったようで日々研究を監視されているそうだ。一度ユース老先生がキレて肘打ちを食らわした、と……………何をしたんだあの人は?


倉庫や氷室などの事業は基本的に好調、まだ私が離れて1週間ほどなのでまだ特別大きな問題はない。強いて言えば雨雲が晴れてお客さんが増えたそうな。ちょっと氷室が心配だがヒョーカがいるし問題はない。売上は順調、うむうむ。



「報告は以上になります。こちらはどうなっているのでしょうか?」


「いや、もう、変な人が来たり、打倒オベイロスやリヴァイアス王家設立の風潮があったり宰相がオーガみたいになって空飛んだり、アホ毛が出来たり………」


「なんですか、それは」



こちらに来てからのことを報告するとエール先生は頭が痛そうだった。


アホ毛にずっと目が行っていて話してる途中に「おめでとうございます」とは言われたがもしかしたらハゲるかもしれないと言うと私の葛藤がわかってくれたようだ。



「しかし、その魔力水というのものはとんでもないですね」


「そうなんですか?」


「王都には、いえ、オベイロス国内には政争で怪我をしたものは多くいます。光の魔法使いは致命傷でもすぐには死なない程度に回復させることが出来ますが1日に多くても数人にしか使えませんし、ましてや腕を……生やす?なんて奇跡は起こせないはずです。フリム様に負担が少ないのでしたらその価値は………」


「Oh……」


「それに数多くの獣人言語を共通言語にするなんて――――とんでもない秘薬ですね。奴隷商人が食いつきそうです」


「おぉっふ………」



同じ年齢ぐらいまで若返った父親に対して思うことがあったのかぐったりしていたクラルス先生だが私も結構きつい。


とりあえず、ジュリオンさんにいつでも軍を動かせるように念を押しておこう……使者捕縛しちゃったしね。

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