第99話 アイスクリームとかき氷。


まだオープンしていないお風呂屋で湯当たりした新学園長フィレーネ。


私が倒したとか噂にはなったが……この国の情報伝達の酷さにも慣れたものだ。悪意を持ってる人もいるのだから当然といえば当然だが、きっとあと半日もすれば私は空を飛んでいたり全裸で歩き回っていたことになっているかもしれない。


何にせよ、お酒飲んでる人はお風呂駄目だよね。


お風呂でお酒のみたいって人もいたけど禁止一択だ。フィレーは年齢はかなり上だが私と体格が同じぐらいで幸い事故には至らなかった。


しかし、もしも倒れたのがムッキムキの男性で体重100キロぐらいあったとして……現場には監視の小さな孤児しかいなかったらそれだけで死んでしまうかもしれない。



それはそれとしてフルーツ・ギュウニュウがものすごく噂になっている。



フルーツ牛乳ではない、フルーツ・ギュウニュウだ。私がブツブツいいながら作っていて、それを何人かの孤児の子が物欲しそうにしていたから上げたのだけど「極上の飲み物」としてオープン前から話題を呼んでいる。


そもそも牛乳ではないのだが……まぁいい。薄めたりせずに「数量限定なくなったら終わり!」で売ることは決まった。この銭湯を利用すると想定している生徒の数に比べて少なすぎると言われたので別のものも作ることにした。



「それはなんですの?」


「アイスとかき氷、好きな方食べるといいよ」


「わかりましたわ!」


「伯爵、好きな方ってことはどっちか一つってことですか!」


「噂のフルーツ・ギュウニュウは?!」



基本が石造りのお風呂、学園には土属性の魔法使いも多くいて直ぐに人が入っても問題ない状態となりプレオープンとなった。


もっとこだわっても良かったけどタオルやバスローブも布の余っている孤児院では凄まじい速度で作られていたし「エンカテイナー家と揉めたルカリム伯爵が学園のためにお金を使った」と宣伝するのは早ければ早いほうが良いそうだ。孤児のみなさんが不眠不休とかしてないか心配になる。


建物の作成に関わった人やうちの人間を引き連れてのプレオープンだ。現代と違って広告の期間や許可の申請がいらないからものすごく早い。


初お風呂は男女共にはしゃいだようだ。モーモスがかなり疲れた顔で男衆と先に待っていた。女性陣はかなり長風呂してしまったのは自覚している。



「これが美容にも効くお風呂!」

「ブクブクブクブクブク」

「お風呂初めてだけど気持ちいいね!」

「これが伯爵の美容の秘訣……!」

「私までいいんですか?」

「う、美しい像ですね」

「素晴らしい出来ですわ!」



クラスの子も含めて女性陣を連れてきたが美白や枝毛にまで効果があるとかで皆長風呂であった。……頭ごと浸かるのは止めたほうがいいな、髪が痛むと思う。


ナーシュ先輩とか私と一緒のお風呂にはいることを恐縮してたけどこれから何度でも機会はあるだろうしあるサービスは全て利用するが良い。君はうちの三大派閥のキエットの曾孫であるし、薬の知識もすごい。もちろんお風呂を含めた全てのサービスは無料なのだよ。


そうしてお風呂上がりの男性陣が休んでいる部屋に来たのだが……。かなりくつろいでいる。ダーマは待ってる間に寝てしまっていて、なぜかリコライが膝枕している。ミキキシカ、羨ましいかもしれないけどリコライは悪くないし睨むんじゃありません。


ダーマと同じく何人かグデンと寝ていた。部屋の端においておいた勉強用の本で学んでいる人もいる。アーダルム先生はクライグくんと本についてなにか語り合っているようだ。



リラックスしている彼らにアイスとかき氷を出した。ついでに作られた氷室には私の氷が詰まってるし作るのは簡単だ。



すでに受け取って食べているテルギシア。レーハとテルギシアは両方火の使い手だけど、テルギシアは火の名家、レーハは名家を目指す一家の一人。喧嘩するかもと思ったがレーハはテルギシアを尊敬しているようである。クラスの友達が仲良くなっているのはなんだか見ててほっこりする。



「今日は皆さん好きなだけ食べて行ってくださいね」


「「「「おぉー!」」」」


「あ、でも冷たいものを食べすぎるとあぁなるので気を付けてください」


「あ”だ”ま”い”だ”い”ぃ”ぃ”」


「冷たいものは一気に食べると人間は頭が痛くなる生き物です。気を付けましょうねミキキシカ」


「あ”い”」



ソフトクリームもどきを一気に食べるのは良くない。


バニラに似た風味の植物があり牛乳もどき、それに癖はあるものの砂糖があるのだから、冷やすだけでもバニラアイスもどきは作れた。練乳もどきも作れた。氷室は薬品を保管するのに今のところ使っているが、このままだとアイスやフルーツ牛乳専門の倉庫になりそうだ。



「この雪は面白い味ですわね、豆が面白いですわ」


「そっちも美味しいけどあいすは至高。リーズは変わってる」


「どっちも美味しいでいいでしょうが!」



かき氷を食べるリーズとアイスが気に入ったようであるテルギシア。


ソフトクリームにするには良く混ぜないといけない。機械を使って作ることができないから人力で孤児の子たちに作ってもらっている。バニラは固めも美味しいが柔らかいのも美味しいものだ。



やはり食材を知れると色々作れる料理の幅は増える。



特に豆類を知れたのも良い。豆は現代でも世界中どこでも調理法は違えど重宝されてきた。そもそも常温でも保管しやすいのが良かったのかも知れない。


食品の中でも「たくさん作れて」「保存ができる」「美味しい」の3点はとても大切だ。米や小麦、とうもろこしも同じような面がある。これらの条件があるからこそ普及するし、価格競争もあって安定した品質と安定した価格で皆が食べれる。


日本でも豆を加工したものは多くあった。小豆や大豆は一般的だったし、加工して醤油や味噌、簡単にきなこにしても良い。しかも長期の保存が可能である。


ミックスナッツのように乾燥させたり加熱加工してもいい。クラルス先生にもらったカロリーバーのようなお菓子も豆が基本だった。


確かメキシコのような暑い土地でも子供は豆のお菓子が普通にあった。お土産で食べたが甘くて辛い不思議な味だったが保存の観点では素晴らしいと思う。


国によって味付けはぜんぜん違うから日本のあんこというものはアメリカの人には「優しい甘み」と受け入れられたり、逆に「豆を甘くするなんて!」と言う意見もあった。納豆も美味しいのに日本のゲテモノ扱いされていたりと不思議なものだ。


だからかき氷に甘い豆をつけてみて……受け入れられるか心配だったがこちらではそういう忌避感は無いようで安心した。学生でも楽しめるサービスは大事だ。たくさん食べて大きくなってもらいたい。


若干砂糖と豆の味が喧嘩している気もするが……まぁ甘味は貴重だし「これはこういう物」と受け入れられるかもしれない。



「こちらは販売の予定はあるのですか?」


「んー、ちょっと迷ってる。結構砂糖使うからね」


「なるほど」



正直売り出すなら砂糖を使うし少しは高くなってしまう。豆をわざわざこういう調理をしなくても別の形で美味しく出来るし、砂糖もフルーツ牛乳に割り振りたい。


しかし、貴族だけ好きに食べて、平民は全く食べられないという状態は作りたくないし、たまに食べられる程度に値段は抑えられるかもしれないが……まだ原材料や人件費の計算が出来ていないし、どうするかな。高くするだけなら簡単なんだけどなぁ。


現代のように真っ白な上白糖が常にあったのが懐かしい……。こちらではそこそこ砂糖は高価だし、入手量が限られる。もっとお金で買うことも出来るが「別の人が買う分」も考えないといけない。他の貴族の購入分を買えば恨みにつながる。


更に調理過程の影響なのか拳ほどのサイズで硬く固まっているから塊を砕くのも大変だ。


……ロライ料理長に今度良い商店を教えてもらおう。お店や産地で味がぜんぜん違うのも現代では考えられなかったなぁ。



「―――ふふ、やるわね」


「負けませんよ!」


「………………うぐぅ」



ミリーとクラルス先生がなんかアイスを集めてどっちがより食べれるか競っていた。プレオープンだし好きに食べていいけど。


ミキキシカは横でギブアップしている。積まれた皿を見るに、バケツサイズぐらいは食べたようだ。



「アイスのほうが美味いと思うがの、乳の味が素晴らしい」

「いや、雪菓子だな、ユース老も耄碌したもんだな」

「なんじゃと!!?」

「それよりも茶が欲しい」

「風呂入りに行こうぜ!」

「ここのところの理論はどうなってるんですか?」

「俺は背中がなぁ、よろしく頼む」

「あーそこな、……この教科書は少し古いな。おーい若人がお前のとこの魔導具の素材について知りたがってるぞー」

「おー、もう少し下、おぉ疲れが取れるぅ」

「お、クライグ君か!何が知りたい!」

「ここのところの素材なんですが真鍮よりもいい素材はあるのでしょうか?」

「今その辺りは金属の素材研究で日々調べられてるぞ!」



「あの、フリム様……いいんですかねこれ?」



皆フリーダムに好き勝手している。モーモスが心配そうに聞いてきた。



「モーモス、男湯の方で人が倒れないように見てもらってもいいですか?私は入れませんし」


「わかりました!」



モーモスは最近忠犬のようである。クラスメイトと楽しむように言っておいたのだが働かないと落ち着かないらしい。


温泉と学者と学問、それと甘味を出しただけ。でも、そうだよね、時間制限がないもんね。くつろいで自由にしているのはいいことだ。もっとアミューズメント系の銭湯みたいに自由にしても良い開放スペースを広げて本をおいてもいいかも知れないな。マッサージも気持ちよさそうに受けている人もいる。


温泉旅館にもあるようにエアホッケーとかテーブルテニスとか、海外みたいにビリヤードや射的なんかも置いてもいいかも知れない。



………いや、孤児の子は大変そうにしているし、様子を見てにしようかな。



えっ、学園長がお酒持ち込んでお風呂入ってる?誰も注意できない?わかりました、行ってきます。

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