第68話 学園権力者たちとのコネクション、一言の忠告。
「もう!わたくし達が寒さに震えながら働いているというのに!」
「リーザリー達も私のお茶飲む?暖まるよ」
「勿論ですわ!」
「僕も」
「………」
私の氷結ドラゴンハンマーは目算だが10トンは軽く超えるし、頭の先以外の胴体はガチガチに凍ってないからか会場が一気に冷える。
過冷却水の凍りつく速度がいまいち分からなくて今度は頭が完全に残っている。前より威力があったし多分的は壊れているだろう。
地面を盛り上がらせて作られた壁の切れ目から見ていたリーザリーさんは冷風の影響をもろに受けたようである。
いつの間にかエール先生が後ろから来てコップを持ってきてくれたし、リーザリーさん、テルギシアさん、アーダルム先生にもお茶を差し出す。私の持ち運び用簡易コップよりもエール先生の持ってきてくれたコップのほうが立派だ。
「熱いので気をつけてください」
「うん」
テルギシアさんは火の魔法をつかっていたからか寒そうではなかったがマイペースにお茶を受け取った。
アーダルム先生も無言でお茶を受け取ってくれた。
「フレーミス君、この考え方が石のような老人共の相手は大変だっただろう」
「いえ、とても楽しかったですよ?とても知的な会話ができました」
「そうか?」
不思議そうなアーダルム先生。
きっと軽く悪口にも聞こえるようなことを言える程度には彼らの仲は良いのだと推察できる。いつも議論をしているのかな?
「アーダルム、フレーミス君はお前なんぞよりよっぽど話せる。俺たちは彼女を『賢者』と認めた。お前は推薦しているのか?」
フードを深く被った肌の黒い人。声からして男性、彼もおねーさんとおじーちゃん以外にもわたしを賢者とやらに推薦してくれていたようだ。
何人かは私と交流する気もないのか魔法についてあーだこーだ言い続けている。
「は?まだ強い魔法を見せただけだろう?それだけならまだ魔導師への推薦なら分かるが」
「いやいや、彼女はなかなかに賢い。理論的かつわかりやすく叡智を指し示してくれたぞ」
「そうね。それにこの水、一等魔法水としても使えるわ。私はこれを受け取って決めたわ……資格は充分よ」
「うむ」
「お前らな……」
なにか疲れたようなアーダルム先生。
賢者とはなんだろうか?二つ名に賢者というものがあったがなにか意味があるのかもしれない。
それにしても水が売れるなら売りたい。この学園は外の争いに関与しないそうだし、研究用に使うならフリムちゃん特製の水は気持ちよく売れる!!……知らない間に私は営業しちゃってたようだ。
「それにしても凄まじい魔法ですわね。あの蛇のような姿にはなにか由来でもありますの?」
「あれは竜の亜種の姿に似せて作ってます」
「なかなかに強そうな見た目ですわね!」
西洋の竜とか東洋の龍とかこっちにいるかはわからないしだいたいでいいだろう。祖母の家で飾られていた龍の絵をよく見ていたから作るのが簡単だった。
蛇のような体も中に酸素と空気を入れてもいいし、水で満たして質量を増しても良い。機能性を考えても効率的な形状だ。
「そう言えばこの杖を誰か「反逆の杖」って言ってましたが、何か知ってるのですか?」
微妙な顔をしたおじいちゃん先生とお姉さん先生、それとフードの先生。
ちらりと席に座ったリーザリーさんとテルギシアさんを見たおじいちゃん先生。
「あー……教科書からも消されている話じゃし……あまり大きな声では話せんが、まぁ少しぐらい知る者が増えるのも悪くないじゃろ」
人と精霊の歴史。この国は精霊様が王と契約し、王様は人々と精霊を紡ぐことが出来る唯一の存在となる。
そうしてこの国は発展していったのだが―――やはり、知性あるものが生きる以上、問題は生まれる。
人も精霊も個性がある。ある時、火の精霊と契約を結んだ新たな王がいた。その王は優しい性格だったそうだが精霊と契約した途端に傲慢となり、国土を大きく焼いた。
税を上げ、人を苦しめ、圧政を敷いた。力持つ暴君、逆らう者もいたが火の精霊は強い。世界を玩具のように焼き、この国のみならず多くの国を苦しめた。
他国の軍隊をもこのたった一人の王に燃やし尽くされた。
火は強い、風は火に味方し、土は溶かされ、水は蒸発してしまう。
人々は絶望し、嘆き悲しんだ。あんな存在に勝てるわけがない。山より大きな火の巨人によって世界は滅ぼされてしまうのだ。
そんな状況でリヴァイアスが黙っているわけでもなく、リヴァイアスは嵐の中その王を襲撃した。
争いは3日間ほど続き、力ある水の精霊や人も参戦、なんとか当時のオベイロス王と火の精霊を殺すことが出来た。
「オベイロス王家の歴史の中でも恥の出来事である。その杖の正式な名前は知らぬが歴史書の一部で出てきた杖の名前が『反逆の杖』というわけじゃ」
おぉう……なんという曰く付きの杖なのか。
なんとなく杖が胸を張っている気がするが気の所為と思いたい。
「この杖の制御はどうすればいいと思いますか?屋敷の中からずっとついてくるんですが?」
「使えてるのなら良いのではなくって?」
まぁ使える杖はそれだけで便利な気もするが、そういう問題じゃない。あの屋敷が使えたほうが便利なはずだし、この杖自体が不安の種なのだ。
もしもこの謎の杖がフリムちゃんを見極めている状態だと仮定して、それに合格しなかったら?………寝ている間に殺されてしまうかもしれない。
ずっとこのままならそれはそれでいいけど説明書の提示か、もしくは製造者に説明していただきたいものである。
「それが、リヴァイアスのお屋敷には私以外入れなくて、使えるようにしたいのですが」
「ふーむ………その杖は歴史書にあるほど長い年月存在しているわけじゃし、精霊様の作りじゃろうな。リヴァイアスの領地に行けば分かるのではないかの?」
「どんな土地なんですかね?」
「数年ほど前から領民もいない領地じゃよ。海の塩を取れるいい土地じゃ………ここまで運ばれてきていた魚が懐かしいのぉ」
「勝手に取りに行かないんですか?」
「オベイロス周辺では王よりも精霊が偉いのよ。その地を治める主を決めるのは王ではなく精霊よ。精霊に許されたものがその地を治め、上位精霊である王の契約精霊のために税を差し出す」
このあたりは習った覚えがない。リーザリーたちも驚いた顔をしている。
お姉さん先生は少し私達の反応に気を良くしたのかちょっと楽しそうだ。
「何もない土地ならどの領主が治めてもいいけど、国の中でも幾つかの土地は精霊様の許可がなくて入れないのよ。穏やかな精霊だったらまだ交渉できたりもするのだけどリヴァイアスはねぇ……」
「うむ」
何だかリヴァイアスは危険と見られているようだ。
もうちょっと、こう、ファンタジーに……『だれでもすぐに治す魔法が使える』とか『恋愛運が手に入る』とか『金の鉱脈に案内してくれる』とか………そういう話はリヴァイアスにはないのか?なんか好戦的な話ばっかりだ。
コロシアムの中心でのお茶会は終わり、準備ができたようなので、今度は杖ありで同じく的を破壊する。
これで的の破壊は3本、やはり小さな的に対して氷での質量攻撃は有効なようだ。
幾つかの魔法を思いついたし試したいがそれはまた今度にしよう。氷は色々と使い道が多そうだ。
「儂は ユースス・ドリー・ ヴァリエタース。ユース老と呼ばれておる。いつでも研究室に来るとええ」
「私はクラルス。うちにも来てほしいわ」
「フレーミス・タナナ・レーム・ルカリムです。フリムとお呼びくださいませ」
アーダルム先生の同僚たちとも友好的に話せた。彼らは学園内で権力を持っているようだし良いコネクションが繋げたように思う。
現代ではコネというのは良くない風潮のようで近づこうとも思わなかったけどこっちじゃコネ一つで命が助かるかもしれない。大切にしよう。
深くフードを被った肌が浅黒いおじさんにちょいちょいと手招きされたので近づく
「俺はインフー・デラー・ヒマラエ、火の魔導具を研究している。………何も言う気はなかったが気が変わった」
「なんでしょう?」
「――――君は狙われている。力を誇示するのは良いがもう少し身の回りに気を使いなさい」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……インフーさんの言葉はわかっていたことだけど、それでも私は動揺せずにはいられなかった。
2日ほど落ち着かないまま勉強をして、氷室のチェックに行って思ったよりも減っていない氷を補充、新しく挨拶に来た人と面会して書類をチェックし、学校に戻る。
無警戒なわけじゃないんだけど、人から指摘されるとなにか心に刺さるものがある。
私の水を私が飲むと他の人と違って普通の水にしか感じないが少しはストレスも解消される気もする。お風呂ももしかしたら疲労回復効果があるのかもしれないな。魔法の水というのは不思議なものだ。
「いい湯だぁ~~」
「フリム様、もう少し恥じらいというものをですね」
「エール先生は厳しいなぁ」
エール先生は数回に一回は一緒にお風呂に入ってくれる。
インフー先生の言葉はちょっと落ち込んだけど、どうしようもないから仕方ない。それにしてもリヴァイアスの領地か……時間を見つけて行くべきかもしれないな。
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