第67話 賢者たちと杖の手がかり。
「まずどうやってあの的を破壊できたのかおしえてもらってもいいかしら?」
「それより杖のこと知ってる人はいませ「いやいや、それはこれから見れるだろう?」「馬鹿が、大魔法をそう何度も撃てると思うな」「最年少入学など外の問題だからだろう?やはり不正が行われたのではないか?」「杖なしで出来てこそだろう」「水魔法ごときでアダマンタイトの破壊ができたのはやはり儂の理論が正しかったのではないか?」「もしもそうだとすれば今まで的を授かった者の全員の実力が疑われることになるぞ」「いいじゃねぇか学園長は前から怪しく思っていたんだ」
なんだろうこの人たちは?科学の研究者も何人も集まっているところに新技術について聞きに行くと同じようなことはあったが似た雰囲気を感じる。行き過ぎた科学は魔法のように感じる?だったかな?そういう言葉があった気がするがその逆もしかりということだろうか。
このまま何も言わなくても見た目おこちゃまな私はきっと「研究対象」として見られるだけだろう。シャルル王とルーラという精霊の加護の影響もある私はさぞ調べてみたい対象のはず。
――――だけど
「私がやった方法は金属に対する熱による金属への変化を利用した方法を試した後、水と氷による質量攻撃によっての破壊です。どなたかが言っていた理論とは金属疲労のことでしょうか?」
彼らは会話をやめ、ギョロリと研究者たちが一斉にこちらを見てきた。
普通の5才児から絶対に出てこない言い回しはさぞ不気味だっただろうな。
――――私は踏み込むことにした。
「『金属疲れ』とはどういうものじゃ?金属が生き物のように疲れるという表現はいうのは意味がわからんのじゃが?」
「人間が走れば疲労が蓄積するように金属にも疲労のような性質があります」
あ、言葉の問題だけど金属疲労の概念のこちらで説明するのは難しいかもしれない。聞いてくれるかな?それとも小娘の戯言と受け取られるかな?
一人のおじいさんは食いついたが呆れてる人のほうが多い。
「馬鹿な……」
「小娘の言など聞く価値はない」
「知らぬのか?闇の加護によって彼女は未知の力を得ているのだ。聞く価値はある。ルカリム伯、続けて」
こういう人たちと話すのにはどうすればいいか?
こちらが「こういうものだ」と断じて一方的に話すのではなく相手にイメージさせることが大事だと思う。
「はい、例えば鉄、いつまでも同じ状態ではなくいつかは壊れますよね?」
「うむ、使えば壊れる。何もしなくともいつかは錆びて朽ちるの」
新技術や新開発、革命的なものは最初は受け入れがたい。それはそれまでの常識にないものだからだ。
海外ではそういった物の発表を大々的かつ口の回る人にプレゼンしてもらうことがある。彼らの話し方、伝え方は「今の生活の何に役に立つのか」「どんなことに使われているものなのか」を説明し、既存の知識とのすり合わせをして「イメージしやすい土台」を作り、更にそこから「未来においてどんな場面において活躍するのか?」をわかりやすくイメージさせて投資を募る。
私には準備もないし、舞台もなくスタッフもいない。かっこよくも出来ないが相手にイメージさせて話すぐらいならできると思いたい。
「ではどんな状態で壊れますか?もしくは壊れやすくなりますか?」
「強い攻撃をした時、より硬いものを切ろうとした時、使い手の技量が悪い時、火の魔法で溶けた時、錆びて悪くなった時、酸で溶ける時、そもそも鉄の質が悪い時……あたりじゃろうか?」
「そうですね、金属は強い衝撃や熱、錆や金属内の組成……作りが悪い時などにも壊れることがあります。しかし素晴らしい金属でも目に見えない劣化があります。繰り返し衝撃を与え続けることで金属が弱くなる。それが金属疲労です」
詳しいことは分からないがこのあたりは現代では常識だ。
ただ、こちらの言葉で、こちらの人間にわかるように話すのは難しい。
「儂は金属の劣化理論としてそれを知っているが……証明はできるかの?」
「できます。というよりも皆様、お持ちの硬貨でそれは明らかではないでしょうか?」
「「「?」」」
「硬貨は製造された当時には同じ光り輝く硬貨だったはず。しかし壊れるほどではないはずの小さな衝撃、受け渡しや財布の中些細な振動でほんの少しずつ元の状態の硬さはなくなり脆くなっていきます。果ては指でちぎれるものもあるほどです。金属の疲労、劣化と近いですが、先生の言っている理論とはこれと同じ現象であり、的の金属も目には見えなくともこういった疲労がたまり続けた結果である。ということでしょうか?」
大量の貨幣を見てきたからこそ分かる。この世界は製鉄や冶金技術がそれほど発展していない。国家として硬貨の回収と鋳直しもしていない。まぁ、滅んだ国の硬貨もあるのだろうけどそれでも金属でできた硬貨がぼろぼろになっていたり半分に割って使われている時点でこの根拠は伝わりやすいし、ある種の実証ではないだろうか?
摩耗も考えられるが……あっているか間違っているかは分からないがそれでも理論的な会話ができたのではないだろうか?
「その通りじゃ!!歳に合わず話せるの!」
「しかしアダマンタイトですよ?不朽不壊と名高い金属ですよ?ミスリルであればまだわかりますが」
「試す方法は簡単です。繰り返し破損しない程度の衝撃を与え続け、衝撃を与えていないものと強度実験を行えば結果は出るかと」
「君なら実験をどう行う?」
「そうですね……、紐を繋いだ重りを一定の高さから落として当てます。これで与える衝撃は一定のものとなりますし、それを続けて時間で回数を計測します。その後アダマンタイトがどんな金属か私は良く知りませんが……これによってどれぐらいの衝撃であればアダマンタイトに影響が起きるのか、最低どれほどの力がかからないとアダマンタイトに影響がないのかを調べられると思います」
「『賢者』の二つ名に偽りなしということか……」
「杖なしの魔法にも期待したいところだ」
「うむ」
最初は侮られて居たのか私はそっちのけだった。しかし今では見る目が変わったように感じる。
……なんとかこの学園の、それも偉い人たちとコネクションは出来たようだ。
話をするにしても「研究対象の一人」よりも「話ができる一個人」と認識してもらえれば幸いだ。
彼らはこの学校の中で力を持つ人達だろうし、この国の中でも一目置かれるはずだ。しかも多分ここの外の争いには関与していない。となれば私の勢力の敵でもなく味方でもない別の勢力である。
こちらの味方になってほしいが敵にならない程度には友好的関係を築いて損なことはない。彼らはここで様々な研究をしているそうだし、私も魔法についてはもっと詳しく知りたい。いろんな物も作りたい。
「この杖のことも後でお話を聞かせてください。それじゃアーダルム先生の準備ができたようなのでやりますね!」
杖を持たずに水の防御魔法を展開、試験と同じ内容を行う。
的に向かって水球から氷結ドラゴンハンマーまでを試験と同じように行い……破壊する。
杖無しで行うよりも見られていて疲れたが似たような結果となった。的もちゃんと曲がっている。
しかし、数十トンはあろう過冷却水を凍らせた氷結ドラゴンハンマーは一気に会場を冷やす。テルギシアさんは火で具合の悪い人を温めようとしているようで、何だか申し訳ない。
私を見に来た観客席の人も何人か魔法で対処しているようだ。
「これでいいですか?」
「素晴らしい。ルカリム伯爵。儂はこの学園内で『賢者』として推薦する」
「ずるいぞ爺!」「まだ早くないか?」「私も推薦します。これで二人ですね」「推薦しよう。あんな魔法は初めて見た」「まて、寒い。お、俺もだ」
研究者の人達には認められたようだ。賢者って二つ名のやつだよね?マヨネーズとトイレじゃなければなんでも良いんだけど……。
もう一本、的は用意されているし、もう一度かなと思ったが氷結ドラゴンハンマーを振り下ろした地面は凍りついて硬いのか、的を設置できないようでアーダルム先生はなにか指示を出している。
「うむうむ。まこと良き日じゃ!……杖じゃったな。伯爵は何処まで知っておる?」
「リヴァイアス家にあったもので当主が持っていた。屋敷に入ろうとすれば人が死んでいた。それとこの杖は私についてくる。私はこれに触れても死なない。出した水を吸い取ろうとします」
「なるほどの。寒い、キマ、もうちょっと火を強くしてくれ」
「わかった」
ぶっちゃけ私も寒い。偉そうな人の一人が火をつけてそれを囲んでいる。
さらに地面が盛り上がって火の回りに椅子をつくられたので座る。
「その杖は何処にも印がない。通常、世にある魔導具は殆どが人の手で作られているがそうではないものもある」
「温かいお湯いりますか?」
「頂こう」
他人にも水を飲んでもらう機会があるので小さなコップを幾つか持っている。袋から出したコップは人数分ある。
お湯を注いで茶葉はいるか聞くとまずはお湯でいいとのこと。
「ありがたい。――――染み入るの」
「一等魔力水か、気軽に飲めるものではないが……これ研究で使ってもいいか?」
「どうぞ」
「ルリーナ、どうせ菓子持っとるんじゃろう?伯爵に渡すとええ」
「……今探してるところよ。どうぞ、粗末なものですが」
「ありがとございます。いただきますね―――美味しいですね」
なんだろう、老人会の集まりみたいだな。
お菓子は信用している証として即かじる。豆を中心に砂糖なんかで固めたカロリーバーみたいな味がする。普通に美味しい。ちょっと固くて甘すぎる気がするがちゃんと美味しい。
「お気に入りなんです。後で届けさせますね」
「はいっ!」
「それでじゃな、その杖はおそらく精霊から直接授けられたものではないかと儂は見ている。ドゥラッゲンの資料によればその杖は儂等には作れるものじゃないからの」
「どうすれば良いんですかね?これ勝手についてくるし意味がわからないんで安心して使いたいんですが」
「リヴァイアスの地に行けばいいのではないか?この国は精霊によって任されている地が幾つもある。リヴァイアスも領地があるのだからそこにリヴァイアスの精霊様もいるかもしれんし直接聞くのがよろしかろ……もう一杯貰ってもいいかの?茶葉付きで」
「はい。携帯用のものなので美味しい保証はありませんが」
「人からの好意を無下にはせんよ」
ちょっと作ってみた茶葉入り自作ティーバックと熱めのお湯を入れて渡すと他の人達も同じく欲しがったので全員分渡した。
それにしてもリヴァイアスの土地か……関係あるのかな?
私は「誰かの孫」みたいな立ち位置なのか、彼らがポケットから出すお菓子を味わいつつ色々話すことが出来た。
すっかり話し込んでいると寒い中で作業を続けていたアーダルム先生に皆怒られた。お茶を渡して許してもらう。
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