第60話 倉庫は出来たが杖は何が起こるかわからない。
レードックさんが言った一言は思ったよりも重い問題らしく、レードックさんは領地に帰されることとなった。それ以外は問題なく倉庫は作られていく。
倉庫には内部に図面にも書かれていないが初めから予定されていた通りに秘密の部屋を作ってくれている。
「それにしても王宮内の仕事が忙しそうだったのは良いんですか?」
王宮で私が掃除で働いていた時、バーサル様もクライグくんもなにやら忙しそうだったはずだ。
こちらでの作業が長引くと王様に恨まれないかな?
「あー……、あの騒動で徹底的に王宮内を調べているところだと思うよ。僕らが巻き込まれると大変だから王宮内の仕事は今はないんだ」
「隠し通路とかあるみたいですもんね。私も小屋で寝てるといきなり人がいてびっくりしましたよ」
「きっと調査が終わったら僕たちはもっと仕事に駆り出されることになります…………はぁあぁぁ」
10歳ほどとは思えない深い溜息。
レードックのおかげで一度はギクシャクしたもののお互いに家臣の前で「打ち解けられるようにしましょう」と宣言した。私達の仲は少しは固いものの悪くはないように思う亀裂が入ったり殺し合いに発展しなくてよかった。
というか普通の10歳の少年はこんなにちゃんと話すことは出来ないと思う。きっとクライグくんはかなり苦労しているのだろう。
クライグくんは今の学校はすぐにでも卒業して高等学校にまで進学したいらしい。
しかし彼には名代としての仕事が多くて試験が受けられずになかなか進学できずにいるそうな。彼は高等学校に進学して貴族科で学びながら魔導具の研究もしたいらしいのだが、可哀想に……。
「ケディ・ローガ将軍が国境に出向いていることで父上達はそっちに借り出されていますし……さっさとこの国も安定してほしいものです」
「なるほど」
何言ってるか分からなくても聞き手に回るのは会話において大事だと思う。
悩みごとがあるのは私も同じだ。
王様や貴族の争いという危険もあるし、賄賂をこっそり裏で贈り合ってる忠誠心不明な家臣共もいる。―――そしてこの杖だ。
大きなこの杖はフヨフヨと浮いてついてくる。王様からの手紙によるとこの杖は歴代当主が使っていたそうだが、それしかわかっていない。使用法やストーカーをやめさせる方法なんかは全くわからない。調査は続行されている。
何日かかけて地下含めて7階建ての倉庫が完成した。
地下4階。地上3階の巨大倉庫。水の脱出路や氷を利用した罠、完成したそれに氷を満たし、氷室がどれほど持つのか実験をする。
過冷却水は水を単純に冷やしたものだが出した衝撃でドンドン氷が出来て落ちていく。……高い場所であればこの魔法だけで下に氷を降らせることが出来るな。他に使用用途は思いつかないけど。
過冷却水は杖にとってはぶつかっていくものとカウントされたのか……凍りつくその水に自らかかりに行って――――杖は氷漬けになってしまった。
「まずっ!?」
「ええっ?!」
まさかセルフで封印にいったわけじゃないよね?!
攻撃されないか心配だったが、すぐにマーキアーが盾を構えて間に入ってくれた。
………しかし、何も起こらない。
「「―――はぁ」」
何も起こらず、緊張が解けるとマーキアーと私の口からため息が出た。
やはりストレスだ。何が起こるかわからない杖なんてどうすれば良いのだろうか?
「ぬるま湯をかけてみますね」
幸い出来立ての氷はガッチガチという訳では無いではない。
すぐにお湯で杖を覆った氷を溶かすが……何がしたいんだろう?
「えっとどうしたのでしょうか?」
クライグくんや外部の人にはこの不審な杖については細かくは言っていなかったが話すことにした。
「いえ、この杖、勝手についてきた杖なのですが良くわかってないのです。ついてきたり私の魔法に当たりに行ったり……ほんとよくわからない杖なんです」
「そうなのですか!?」
「何かわかりませんか?」
「確かリヴァイアス家のものと言っていましたよね?杖型の魔導具は多くありますがその中でも曰く付きのリヴァイアス家の……。い、いえ詳しくはわかりませんが」
曰く付き?リヴァイアス家は単に潰れた家で何処かで海塩が取れるだけの領地ではないのか?いやキエットやエール先生はリヴァイアス家について話す時は何か誤魔化してるような気もする。
単に滅んだ家について「私に言うのは怖がらせる」と考えて話さないだけだと思っていたが……もしかして何か隠されてるのかな?
クライグくんは魔導具に詳しいし、もしかしたら手がかりがあるかもしれない。
流石にリヴァイアス家の隠し通路の奥にあったことは秘密だが屋敷のギミックやゴスボフさんについてぐらいの話はする。少しでもとっかかりがあれば良いのだが……。
「そこまで話していただいてもよろしかったのでしょうか?」
「もちろん、クライグくんを信頼していますから!」
「……っ」
ん、あれ?クライグくん赤くなった??
……………………髪もツヤツヤになったフリムちゃんは美少女と言っても差し支えないだろう。10数歳の割りに成熟したクライグくんが惹かれても不思議ではない。私にそんな気はないが……ふふん、フリムちゃんも罪な女だぜ。
「何かわかりませんかね?あ、触ると危ないかもしれないので触らないでください」
「な、なるほど?……何処にも工房の刻印は無いな。浮かんで、自立して行動する。いえ、フリム様の後ろについていくるということは対象を選んでいる。ずっと距離を取っているということは距離を測っている?それも地面からも人からの距離も?青い宝玉はどう見ても国宝級。魔法に当たりに行く意味は何だ?防御用?いや、近くで土の魔法が発動していても反応すらしなかった。精霊杖?いや当主の使う決戦杖?……良く見えないな」
「触らないでください。触ると何が起きるかわかりません」
色んな角度から覗き込むクライグくん。杖に目が当たってしまいそうだ。
「あぁすいません!しかし見事な物ですね」
「ありがとうございます?」
「一度学校でも調べてみましょうか?」
「お願いします」
クライグくんはウッキウキでその場に階段を作って大きな杖の上からも観察してレプリカを作っている。
絵での説明よりも同じ形のものがあれば調べやすいそうだ。さすが土の魔法使い。レプリカを作って持っていけば何処かに資料があるかもしれないし知っている人もいるかも知れない。
国営の研究機関の人は高等学校には来るそうだ。学校と高等学校、それにいくつかの研究機関も学園内には存在している。だからうまく行けばこの杖の使い方がわかるかもしれないとのこと。クライグくんは高等学校に進学こそしていないが理由があれば高等学校や研究所に足を運ぶのはありらしい。
彼の趣味が全開な気もするがイケメンな王様よりも頼りになるかもしれない。私のクライグくんへの評価はうなぎのぼりだ。
この杖についてわかっている情報をメモしておく。勿論隠し通路の奥の部屋にあったとかは抜きにしてだ。
「フリム様は使えないのですか?」
「一応触れるし使えるようなんですが何が起こるかわからないので、できるだけ触れないようにしてました。……マーキアーの盾の後ろに下がってください」
やはり使えということなのだろうかと杖に触れて―――魔力をこめてみる。
魔力の通りは良い。
魔法は発動させずにそのまま持つだけにする。
「貴方は何がしたいの?」
「………」
「貴方に意思はあるの?」
「………」
「お風呂やトイレについてこようとするのはやめてくれませんか?」
「………」
「………」
「………」
この杖はっ!もうっ!!
ひくつく顔の筋肉をおさえて、できるだけ笑顔でクライグくんに話しかける。
「こういう時はどうすれば良いのでしょうか?」
「そうですね……杖に認められる、認証させるには……やはり製作者や工房にやってもらうのが基本ですが………なにかの試練を受けたり、血液をつけたり、魔力を一定以上貯めたり、何処か特定の場所で儀式を行ったりという例があります」
「なるほど」
ちょうどさっき書類仕事をするのに切りそろえられたばかりの紙で指が切れていた。
試しにつけてみる。
「………」
「………むー」
何も起こらない。
「試しに使って見るんで皆さん建物から離れてくださいね」
氷を作るのに使ってみよう。
どうせ結構な量の水と氷を出して何日も実験しないといけないし、試しに少し使う程度にはこの杖にも信用が出来てきた。使ってるうちに言うことを聞いてくれるようになれば良いのだが……トイレとお風呂だけはやめさせたいな。
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