第52話 リヴァイアス家再攻略と誰かの怒り。
「危なくなったら言ってくださいよ!」
「その前に動けないです」
――――安全は金で買うものだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リヴァイアスの屋敷は出来うる限り調べた。
屋敷の中を調べて回った時には「小さな隙間のような隠し通路」と「本棚の裏の隠し通路」の二箇所を見つけることが出来た。
本棚は厄介だった。
落ちてきた本に手がかりがあるのかと思ったら単なる日記だった。何がヒントか分からなくて何度も読み返したりしてみても何も分からず、その間もゴスゴスボフボフと何かにぶつかられ……また、別の本が落ちてきた。
「何なのよ、もう!」
家の何処かから起きる突然のラップ音は自分にぶつかってくる透明ななにかよりも遥かに怖い。
本棚から落ちてきた本はロマンス本や冒険譚、領地の収支報告書に異種族との接し方だったりと……意味が分からなかった。首をひねって一冊一冊読んで暗号や関連性はないかと調べていると――――本棚にある、全部の本が落ちてきた。
「ひょえっあっ★◎×▲!!!!???」
どささと雪崩を打って落ちてくる本。チビるかと思った。
ダッシュで逃げ帰って……もう一度見に行くと本が落ちてそれ以上は何も変わっていなかった。恐怖から恐る恐る調べてみた。普通の子供だったらこれトラウマになってもおかしくはない。
本棚自体が倒れてくるんじゃないかとも思えたし……安全に気をつけながら見てみると本の内容ではなく、本棚自体に仕掛けらしきものがあった。触って見ると本棚自体がドアのように開いた。部屋にあった椅子を噛ませて絶対に閉まらないようにして中を調べた。
「よっと……これ、奥行かなきゃいけないの?」
本棚の入口から地下に降りると下水路のような通路があった。……何処かから流れている綺麗な水場の横を歩くだけのような空間で少し暗い。戦々恐々、足ガクガクで調べて見るも……何処か特別な場所に繋がっているわけでもなく屋敷内の別の入口に繋がっていただけ。
通路の分岐も全て見て回ったけど「単なる屋敷の裏側の通路」というだけである。足元に水が流れてはいるが単なる水路。
そうして私のリヴァイアス家の探索は終わっていた。他に調べられるような場所もないほど調べ尽くしたしね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
王様がおいていった資料を見てわかったことがある。
・リヴァイアス家の敷地を流れる水路はリヴァイアス家が水源である。
・水源に向かってリヴァイアスの人間が逃げ込むことがあった。
・過去の当主が交代してしばらくは敷地に入ってすぐに水の球を出していた。
の3点だ。つまり……「敷地内で魔法を使えばなにか起こる可能性」と「水路になにか仕掛けがある可能性」が考えられる。
そこで私が取れる手段は3つ。
・新たな資料を待つ。
・水路の水の中に魔法を使って入る。
・屋敷内で水の魔法を使ってみる。
新たな資料を待っても良いかも知れない。
だって他の2つの選択肢では水路から人が出入りしていたってことは「なにかの魔法を使って水に入る」ことになるし、屋敷内で魔法を使うにしても「敷地に入ってすぐ水の球を作って出す」こととなる。どちらにせよ防衛システムらしきゴスボフのいる場所で魔法を使うことになる。
しかし私以外の侵入者に対してゴスボフは謎の殺害という手段を取っていて……魔法を使うのはあまりにリスキーだ。やる意味はあるのか?そう考えているのだが周りからの期待の視線は止まらない。
臣下たちは「今まで許されてるんだから大丈夫だよ」と言わんばかりである。期待が重い。だけど命をかけたくはない。
たしかに悪くない賭けだと思う。侵入した人と私ではゴスボフの対処も違うのだから。
―――――だが、命を賭ける以上……備えはさせてもらう。
「シュー……シュー………」
「ここまでやる意味ありますか?」
何も出来なかった路地裏の頃と違って!今ではできる選択肢がある!!
攻撃魔法を防御出来るらしい布地の魔導具に鎧兜!そして盾を装備する!!更に!動けないので台車を用意し!倒れないように木で支えてもらい!!セキュリティの境界線を超えていれてもらうのだ!!!
一撃ぐらいは耐えてみせますフルアーマーフリムちゃんが完成した!!!
「御当主様の考えだ、今死なれてもかなわんし備えておいておくに越したことはねぇだろ」
「そう、ですか?心配のし過ぎではないでしょうか……」
そんなわけで台車が押されて鎧ごと台車に固定されたフリムちゃんは前を進む。親分さんだけは危険性を理解してくれて助かる。
エール先生ですら精霊信仰からなのか「フリム様なら大丈夫」と考えているのが怖い。
「フリム様!もう敷地の中ですよ!」
「シュー……シュー………」
聞こえている。ただ手が重くて持ち上げられない。集中して水の球を浮かせてみる………来たっ!
ポフッと音を立てた……いつもの見えない精霊様。いつもよりも衝撃が軽い気がする。
ボフボフパチャパチャと体に2割、水球に8割は当たっているように思う。そのまま20分は体の周りに水を出してみるが私に向かって殺意のあるような襲い方はしなさそうである。
「フリム様どうなさいます?」
「シュー……シュー………」
ガタガタと体を震わせて左手の指を曲げる。撤退の合図だ。
「撤退!一度引きますよ!!」
またガラガラと台車で引き戻された。
その場ですぐに防具を取り外してもらう。鎧の一部は台車の柱にくくりつけられていたがこの鎧や護りの魔導具類はあまりにも重すぎる。
「ぷはぁっ!!?はぁ……はぁ………」
なにより風魔法への対策なのか、ほぼ密封されていて鎧の中は息苦しい。あんなの着続けていたら魔導具のせいで死ぬかも知れない。
しかしこれで敷地の中で魔法を使っても良いことがわかった。この確認のためだけに汗でびちゃびちゃになったので今日はこれでおしまい。明日また攻略しよう!……よく、こんな重いもの着て騎士って動けるな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―――3日後、再トライである。5歳ぐらいなのに全身分厚くした特製フルアーマーを装備した結果、若くして筋肉痛になった。もう二度と着ない。
若い体は良い。回復力が違う。デスクにかじりついて仕事していた時は肩こりでどんな体勢でもキツイ日はあったし……なかなか肩こりは治らなかった。しかし幼女ボデーは半日も寝れば全快である。雨が降ったこともあって3日経ってからの再挑戦である。
「<水よ。出ろ>」
胸がドキドキうるさい。皆が安全だ安全だと言っていても、自分でやった実験で大丈夫だったとしても……どうしても不安になる。
前世では「ドライヤーが埃で故障した」なんてニュースは全世界のどこでもあった。髪を乾かすためのドライヤーもゴミが入って燃えるのは構造上有り得る話だ。道具は「こういう事故も起こりうる」と知った上で使うかどうかで「安全性への心構え」が出来る。
友人の家で壊れかけのドライヤーを見た時は何かがパチパチと光と音を立てていたし、道具は道具――――どんなものでも完全に信じ切ってはいけないということだ。
しかも家電ではなく相手は何を考えているかわからない精霊かなにかの防衛システムである。しかも「正しく機能したセキュリティで人が死んでいる」のだから、用心に越したことはないと思う。超怖い。
出した水にパシャリと当たるゴスボフさん。数分水を出して待っていても襲われたりはしなかった。
「屋敷の中に入っても大丈夫ですか?」
思い切って問いかけても何もない。これまでにも何度も問いかけて、まともに意思疎通は出来ていない。しかしこの水の魔法でなにか変わったかもと期待もあったのだが……何も言葉は返ってこない。
「………行ってきます」
「お気をつけて」
「朗報をお待ちします」
「なんかあったらすぐに帰ってくるんだよ」
「ありがとう」
マーキアーも普段は何も言わないのに今日は声をかけてくれた。頑張ろう。
体の周りにいくつも水の球を作っておいてそっちにゴスボフさんが行くように誘導し、そのまま屋敷の本棚の隠し通路の奥に向かう。
「危ないって!もうっ!」
階段で後ろから押されるとちょっと怖かった。
この先は足元に水路がある通路だ。
「<水よ。体を包め>」
卵型のバリアを展開して水に入ってみる。
水路に入っていく人がいたという情報から……きっとこの先には何かがある。透明な水路だけど奥まで光は照らされていない。
「わわっ!?」
恐ろしいほどの力で水路の何処かに吸い寄せられていく。
水を動かして脱出しようとしたが全く歯が立たない。せめてこれが侵入者に対するセキュリティじゃない事を祈って……暗い水の中に無力に吸われてしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フリムめ!よくも……!!!なんと言う失態かっ!!!!!」
せっかくここまで来たというのに。あのガキ、死んでいなかったのか。
儂がせっかく、ここまでして大きくしてきた派閥を……っ!!!
「くそっ!!」
―――うちの派閥から離反者が増えている。
元々戦いには否定的な連中だ。仕方はない。しかし、このままでは儂の、いや、殿下の支持者が減ってしまう。
「どうして………どうしてこうなった?」
決まっている。
あの死んだふりをした卑怯な簒奪者さえいなければ、精霊が選び間違えなければ……!!
なぜあんな小僧が王位を……いや、それは仕方ないにしても……………まさかフリムが生きているなんてな。
しかも生きていただけではなく小僧が死にそうな好機をフリムが助けるなど、まだ5つぐらいだろうに何がどうなっているのだ?!
―――――――いや、違うな。おそらくこれはあの宰相の手腕だ。あの小娘が生きていたとしても5つの小娘が二つ名を持つ勇士を倒せるわけがない。
あの王位継承の争いによって権力争いを好まなかった者が儂の派閥にも他の派閥にも多くいる。そして、この先いつか起きるであろう争いを避けるために……伯爵位を与えられたフリムの派閥には人が集まる。
彼らの望みとは逆に争いは必ず起きるだろう。何もわかっていない。宰相はなぜこんなに下衆で非道な事ができる?人の命を何だと思っているのだ?
「はぁ………」
いかんな、薬湯を飲んで落ち着く。
娘も婚約者として送り込んだがうまくはいかんだろう。そもそも近寄ることすら困難な筈だ。歳をとったとは言え宰相が奴についた以上、そんな隙は無いはずだ。
殿下の叱責もきついがそれだけの失態をしたのは儂だ。
「まだだ、まだ奴らさえいなければ!!」
心苦しくはあるが、こうなってしまえば―――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます