第33話 火事と幽霊と親父と変質者の夢。


異様なほど美味しく出来たマヨネーズだったが料理長は死ぬほど食べていた。チューブ2つ分ぐらいは飲んだだろうか?やばい気がしないでもなかったが偉い人に気に入られてよかった。


香辛料や野菜について「マヨネーズと合いそうなものが知りたい」といえば何でも教えてくれた。


食材の見た目はかなり独特で面白いが食べ方さえ分かればこっちのもんよ!てやんでい!ちくしょーめ!とフリムちゃんは少し調子に乗っていたがすぐに敗北した。食材の方向性がかなり違っていたからだ。


オーストラリアのフィンガーライムそのままのような……単体でも美味しくて組み合わせるのも楽しそうなものはまだいいが、サボテンのようなマスタード、ヘビ、コウモリ、人間よりも大きなサンショウウオらしきもの……水苔?どうやって食べるんですか?


調理法の最低ラインは「洗えばそのまま食べれる」ことだと思うがそうできるのかもわからないものが多数という現状では現代知識で即解決とはいかなかった。こういうのは安全だとわかるものを煮たり焼いたりして少しずつ食材の特性を知っていくしかない。


それでも知識を蓄えられたので良しとしよう。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




三日後にはマヨネーズは城中に侵攻を開始した。マヨネーズ信者となった料理長の強権によって城中で広まった。好みもあるし全員に受け入れられた訳では無いがこれまでにない斬新なソースとして大好評である。マヨネーズバーガー大人気。



「もったりしてていけるな」


「ドゥッガも好きかもな」


「ありがとうございます」



私的には一体感を考えるともう一味足りない気もするけどこれはこれで美味しい。


バーサル様は交渉に勝利してきた。バーサル様の上役の人はフリムちゃんの掃除が評価されたことによって褒められ、調子に乗ってあっちもこっちもと指示してきていたらしい。


にこやかに「本家のカスは拳で制裁してきた」と言うバーサル様に抱えきれないほどの金貨を渡された。尻餅をついてしまってお尻が痛い。


報酬を受け取って一度帰ることが決まったが最後に中途半端な掃除をした場所だけは掃除していくことが決まった。


ここでの仕事は良いことばかりではなかったがそれなりに過ごせたと思う。清廉潔白で人のことを水魔法装置として使わない貴族が保護してくれればそのほうが良かったが……それは高望みだった。


料理長はロライと言う名前らしく、私を引き取ろうとしたが食の追求者というか変態というか。マヨネーズ食べさせてから様子がおかしいし、マヨネーズ製造装置の人生もちょっとな……。



「多分またすぐ仕事で戻ることになるだろうな」


「仕方ないですよ。偉い人の言うことですから」



背負鞄に一杯に詰めてきた掃除道具、持ち上げるのも精一杯だったが今では更に荷物も増えて持ちきれない。大量の貢物と金貨の袋……来たときよりも荷物が3倍以上に増えている。


賭場の人は元気かな?もう水はとっくに無くなっているだろう。トイレも掃除だな。……なんて、もうすぐ帰れるというのにもう帰ってから何をするかまで考えてしまっている。ここのほうが美味しい料理も食べれて好きにしても良い小屋があって……石鹸なんかももらえたというのに。


明日最後の掃除をして一旦帰るわけだが、また呼び出されるということはわかっている。荷物の整理をしてここにおいていくものと持って帰るものを決めよう。この小屋の鍵は持ってるし閉めていけばいいだろう。何年も使ってなさそうだったし許可はもらった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




防護服ではなく魔法使いっぽい服装で高圧洗浄をかけた。帰り支度もあるし水のバリアを二重に展開してその先で高圧洗浄をかければ服が汚れることはない。


仕事も終わって帰ろうとするとずらりと貢物が届いた……。家紋入りのハンカチ?なんかこう、怖くて使えないんですがなにか意味があるって?ヤダー。



「すいませんすいませんすいません。最後にどうしても西の通路だけ、そこだけお願いします」


「えぇ……」


「フリム、行くぞ」


「バーサル殿、父がすいません。しかし、しがらみも、ありますし、この案件は、上の、ちょっと、止まって、ください、ませんか?」


「ふん!」



バーサル様の腰に掴まって引きずられて行く貴族の少年。


フリムちゃんを平民の魔法使いだと思って便利に使っていた一派の一人と考えると同情はできない。



「国の威信がかかっておりますし!ほら赤竜騎士団の前の通路で!」


「そうなのか……。バーサル、なんとかならんか?」



横を歩いていたフォーブリン様に一言言われてバーサル様が立ち止まったので私も歩みを止める。



「卑怯だぞクライグ!?……フリム、もう一日頼めるか?」


「私はバーサル様に従うしかありませんがバーサル様は大丈夫ですか?」


「ドゥッガにどやされるのは目に見えているな。今日送り届けるって先触れ出したのに……」



フォーブリン様は赤を基調とした騎士とわかる服や鎧を着ている。竜のようなマークがかっこいい。


仕事の場所が所属元の騎士関係であればフォーブリン様は立場上口添えするのは仕方ないし、ドゥッガ親分とバーサル様の兄貴分であるフォーブリン様の言う事ならバーサル様も考慮する必要がある。



―――そんなわけで仕事は延長された。



なんでも赤竜騎士団を中心とした地方の部隊がここに集まってきているのだとか。


不審者騒動で戦争寸前、数人いる将軍様が兵を動かしたから再編のために各地から騎士が集ってくる。そして王宮のいくつかの部分が明らかに綺麗になっているのにこの区画だけ何も変わっていないともなれば赤竜騎士団の予算不足や冷遇などの誤解が生まれるかも知れない。政治的配慮も考えて掃除してほしいと……。このあたりの掃除はしてなかったけどそこまで気を使う必要があるのかな?


まぁ事情はなんとなく分かった。監督者がやるなと言うならやらないしやれというのならやるだけだ。着替えに戻るのも手間だしそのまま掃除を始める。


大きな石畳の道と道の横に並ぶ偉そうな像の掃除だ。やはり高圧洗浄で目に見えて汚れが落ちていくのは楽しい。



ガンガン掃除していくと周りに騎士様が集まっていたが何も言われないので続ける。


途中で「訓練にもどれ」とか言われて居なくなったがやっぱり珍しいんだな高圧洗浄魔法。


仕事を終わらす気でいたのだけど汚れてもいい服でもなくて、そもそも範囲が広くて時間が足りなかったので更にもう一泊することとなった。


きっとまたすぐにここに戻ってくるとわかっているがそれでも名残惜しいような早く戻りたいような……。


お風呂に入って石鹸で体を洗って明日に備える。一人でいるとあの青年のことを思い浮かべてしまうがマーキアーやタラリネにマヨネーズ食べさせたらどうなるかな?なんて少し楽しみにしつつベッドで眠る。ちゃんと働いて疲れているし今日も良く眠れそうだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




――――深夜変な音がした気がして、目が覚める。


鍵はかけたし窓はない。気の所為だと思ったが……やはり音がする。


それもこの小屋の中から。


ゆっくりと目を開けると深夜なのか真っ暗だが人がいた。



「ギャアアアアアアア!!!??」


「―――っ!!?」

「なんだっ?!おぐぁっ!!?」

「バーディ!!何処に!?うぐっ!」



私が叫ぶとこの小さな小屋の中に3人も人がいて、なにかもみ合っている。


寝ていて、目を瞑っていたからか暗闇でもほんの僅かに見える。何処にでもいそうなおっさんとメイドの服を着ている痩せた男のやばいタイプの変態と……首だけで浮かんでいる処刑された青年がいた。



「誰だ!!?」


「生首ぃ!!!!???」


「お前はっ?!なんでここに!」



死んだはずの浮かぶ生首に、今まさに殺された変態とおっさん。


そしてきな臭い……木の焼ける嫌な臭い。



「――――あっ、これ夢だわ」



だって、意味が分からなすぎるし、私はちゃんと鍵をかけたのだから……これはきっとこれは悪い夢だ。

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