第12話 できてしまった謎の魔法と賭場の掃除。
「すぅー……はぁー………ゲホっゲホッ!」
焦った。寝耳に水というか焦って猛烈にダッシュして足がガクガクする……。
オゾン(O₃)はオゾン層のオゾンであるが、機械でもオゾン(O₃)を発生させることができる。どんなに掃除しても取れなかった臭気を取ることができる便利なものだった。使い始めは生臭い臭いはするものの時間が経てばあら不思議、その生臭いオゾンが部屋の消臭をしてくれる。
野菜を洗うのにも水にオゾンを溶かせば洗浄能力があるとか排水口がきれいになるとか……。預かった躾のなってない犬の粗相の臭いに困った友人が、別の友人のすすめで買って感動したそうな……しばらくオゾン信者になってて私も勧められて使ってみたので良く覚えている。
あー頭ぐっちゃぐちゃ……あーせったー……。
ただオゾンは「除菌や消臭効果があるだけの素晴らしいもの」ではなく、毒性があるので一度使うと部屋を出ないといけなかった。
たしかオゾンの濃度とかで効果は変わったはずだが、どんな濃度のオゾンが出てどれだけ吸ったかは分からなかった。ただ人がいても使ってもいいレベルのオゾンは吸ったことがあるがその臭いよりも薄かったから多分大丈夫、多分。
学校の理科の実験で停電させたり火をつけてしまうってよくある笑い話だけどまさか自分がやってしまうなんて。
寝ぼけながら使ったオゾンの魔法に自分で驚いた。普通に足も動くし、立ち上がって親分さんの部屋にごはんを貰いに行く。
「どうしたフリム」
「お腹すきました」
「好きなの食ってけ」
自爆して死にかけたかもしれないなんて言えないが、こんな悪人でも誰かと話せて少し安心してしまう。
「はい、あ、一つ魔法覚えました」
棚の上のパンを一つとって水差しから水をいれて座って食べる。石とは言わないでも堅焼きフランスパンのようでもっちゃもっちゃ噛む、顎は痛くなるがこれも栄養である。
親分さんは護衛たちの酒を飲んでる部屋の端のベッドで寝ていたが暇なのかこっちを見てくるので報告する。テレビとか娯楽が無いもんな。
「おお!早速覚えたか!……どんな魔法だ?」
「毒の魔法でした、臭かったけど便利そうです」
「毒……どんな魔法だ?」
少し目の据わった親分さんに聞かれた。
護衛たちも会話を聞いていたのか近くの兄さんの酒を飲む手が止まった。
―――親分さんは毒殺されかかったという過去がある。親分さんは毒に敏感だしいつでも警戒している。食べ物も見える棚の上だし、ほとんどこの部屋から出ない。
何も報告しなかったら後で何を言われるかわからないし親分さんへのアピールになるだろうと報告することにした。
「空気を綺麗にする魔法なんですが…毒の臭い、いや毒の精霊みたいなのが悪い空気を持って行ってくれるような魔法でした。褒めてください!」
「……お、おお?よくわからんがよくやったフリム」
オゾンがどうとか意味がわからないだろうし雑な例えでごまかすためにも明るく振る舞ってみた。
親分さんにはかなり意味不明だろうな。若干ぽかんとしている。
「今度一緒に使いましょう!これ覚えておけば親分さんが誰かに毒にやられる可能性がちょっと減りますし!!」
媚びすぎたか?呆れたような親分さんにこっち来いと手をひらひらされたので向かっていくと頭をグシグシ撫でられた。
「お前は良い部下だな……その調子で頑張れよ」
「―――はいっ!」
マフィアの下で、人の命を食い物にするなんて、しかも媚びないといけないなんて…………最悪だが、それでもここが自分の生きる場所だ。
まぁそれはそれとして親分さんには誰もいない個室に使うのにオゾン魔法の匂いを覚えてもらった、生臭さがした後は精霊的な何かが汚れを取っていってくれると説明した。酸素や水素のほうが多分使い道はあると思うが消臭に使えるからこの魔法は使いたい。
「てーことはクセェ臭いは毒なのか?」
「かもしれませんね」
お腹を擦りながら親分さんは神妙な顔をしている。
「掃除だ……一旦賭場はしめて大掃除する!おらっ!お前らも掃除だ掃除!!!」
親分さんは目をつぶって一瞬黙ったと思ったら掃除することに決まった。近くの護衛の尻も蹴り上げている。
―――そんなわけで大掃除が決まった。
親分さんにとって悪臭は問題のないものだったはずが賭場やオークション会場、娼館などの全体を掃除することが決まった。
元の色の分からない真っ黒な絨毯部分が取り替えられたり、吐瀉物の臭いの取れない木の棚なんかはすぐに撤去された。
人の居なくなった部屋ごとに高圧洗浄とオゾン魔法で空気清浄機をしていった。何日もかけて高圧洗浄をかけていったがこれで大分汚れはマシになったと思う。
親分さんはというと普段掃除なんて部下任せなのにブラシで気になっていた場所をゴシゴシ洗っている。よっぽど昔食らったという毒にトラウマがあるんだろうな……。そんな親分さんを見て子分一同必死で掃除している。
「掃除がなっとらん!もう一回だ!!」
「ぐっ………はい」
親分さんは掃除自体はそこまで悪い気はしなかったようだ。一緒に掃除しているが掃除が少しでも足りていないと親分さんが感じれば鉄拳付きでの再掃除、うむ、最低だな。
「親分さん、後は奴隷のいる場所だけなんですが」
「おう、任せたぞ」
疲れたのか、一日で終わらないことに気がついたのか、それとも自分がやらなくてもいいことに気がついたのか。親の仇のように掃除していた親分さんは落ち着いていた。
掃除に床や壁、トイレの実績があるからか任せてもらえた。結構信用されてるんじゃないかな?
全部の掃除ができた訳では無いが賭場の主要な場所は掃除ができたが………何をどうすればあそこまで汚せるんだろう?詰まっていた排水溝的な場所なんてカビと苔と酒と吐瀉物の混じったようなとんでもない状態だった。
後は親分さんもあまり行かないような場所だけだ。結構疲れたが高圧洗浄魔法も慣れれば出せる量も増えてきた。
「えっと、私は小さくて舐められてるのでローガンさんをつけてもらってもいいですか?」
「ローガンを?わかった。好きにしろ」
―――これで、奴隷たちのいる場所を好きにしても良い許可が出た。
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