④クトゥルー復活阻止

 実隆は目の前がクラッとなるのを感じていた。円錐型の超未来生物の脳内に意識が閉じ込められ、下手したら百年単位で戻れないと知らされたからだ。

 しかし、すぐに気を取り戻す。それが実隆自身の意識の持つ精神性なのか、それとも円錐生物自身の脳が持つ思考回路によるものなのか、いまいち判然としなかった。


「それで目的とは何だ? 知っていたら教えてほしい」


 漠然と待っていても、何の目途もつかない。それは、まったくの無為なことだ。

 ならば、自分の肉体に乗り移った未来生物の目的を知ることで、何かしら対策が打てるかもしれない。

 実隆が仮初の身体としている生物の脳にはその情報がなかった。何が目的かという情報は過去に持ち込むべ重要度の高いものだ。当然、過去の実隆に宿る生命の元にあるのだろう。

 この問いかけは答えてくれるかもしれない。実隆は話しかけてきた円錐生物の回答に期待した。


 しかし、もう片方の超未来生物は沈黙した。先ほどまでカチカチとうるさかった金属音が止まる。

 どうやら、考え込んでいるらしい。そして、しばしの沈黙ののち、金属音が再び鳴る。


「話しておいていいかもな。下等な知的生命とはいえ、共有することで、何かしらの智慧が浮かばないとも限らない」


 もったいぶった物言いだが、この生物もまた迷っているのかもしれない。

 実隆はその様子もまた情報なのだと思う。円錐生物に注視し、少しでも変わった行動はないか観察する。

 だが、次の言葉はそんなことが吹っ飛ぶほどの驚ろくべき内容であった。


「クトゥルー復活の阻止だ。お前たちの時代にはクトゥルー復活の契機がある。それは何としても潰えさせねばならない」


 それは聞き覚えのある名前だった。

 そして、実隆は実際に何度もその威容を目の当たりにした。失われた彼の眼球は、まるで引き寄せられるように、たびたびクトゥルーが復活し、暴れ回る姿を見ている。

 それは圧倒的な暴力であり、抗うことの叶わない悪夢であった。思い出そうとするたびに、自分の精神が汚染され、発狂しかけるものを感じていた。それが実際に自分のいた時代で起こりうることなのだろうか。


「あれを阻止できるなら、俺にも協力させてくれ。しかし、どうやって阻止するつもりなんだ?」


 実隆はリムと金属器を震わせながら、どうにか意味のある音声を奏でることができた。クトゥルーという名だけで気圧されているのが自分でもわかった。


「あの魔人……、あれがクトゥルーを……」


 円錐生物は核心めいたことを口にする。そう思えた。

 だが、次の瞬間、実隆は自分の身体に異変を感じる。風が吹いていた。強い風が。


「だが、どこから風が」


 そして、思い当たる。それは円錐生物に吹いているのではない。失われた片目に風が吹いているのだった。

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