⑧二面作戦
「まさか魔人がアケルケイラを認識できるとは……。いや、なぜそれを俺は知らないんだ?
未来からこの知識は持ち込まなかったのか。持ってくる情報の取捨選択を誤ったということか。いや、あるいはその知識に紐づけされた情報に、この世界に危険なものがあるということかもしれん」
超時間の監視者によって乗っ取られた実隆がぶつぶつと何事かをつぶやいている。
しかし、信介と泰彦にはその様子を不気味に思う暇もなかった。
「加藤が滑落した。救助を呼ぶか? いや、そんな時間はなさそうだな」
本来、遭難者や滑落者が出た場合、無闇に自分たちでどうにかしようとせず、山岳救助に助けを呼ぶのが筋である。正式な手順を取らず状況を悪化させたのでは目も当てられない。しかし、加藤は得体の知れない、不可視の何ものかに攻撃を受けていた。現在も受け続けているのかもしれない。
一刻の猶予もないと思うべきだろう。そうなると、自分たちで助けに行かなくてはならないだろう。
「けど、
困惑した様子の信介に、泰彦がアイコンタクトを送る。
「実隆のことは俺に任せてくれ。超未来生命に憑りつかれた人間一人くらい、どうとでもなるぞ」
その言葉に、信介はさらに困惑の度合いを大きくした。泰彦に任せることが不安なのだろう。
「心配しなくていい。何のために修行を積んでいると思っているんだ。こういう時のためだぜ」
そう言って、泰彦はにやりと笑った。それを見て信介は呆れたように溜息をつく。
「そのぶよぶよの身体は修行を積んでいるものとは思えんぞ」とでも言いたいのだろうか。だが、次の瞬間に、決意をした表情をすると、地図を広げた。加藤を助けるためのルートを考察しているのだろう。
すぐに地図をしまうと、泰彦に向かって声をかける。
「しょうがねぇなぁ。泰彦、お前を信じる。何かあったら、承知せんぞ」
それだけ言うと、次の瞬間には崖を降り始めた。確かな足取りで一歩ずつ、体の芯がぶれることなく先へ進んでいく。瞬く間に、その姿は見えなくなった。
「さあ、イスの大いなる種族の一個体さんよ。こっちはこっちで片を付けさせてもらうか」
泰彦は超未来の使者に乗っ取られた実隆に向き合うと、いつになく真剣な眼差しで目の前の男を見つめいていた。
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