パラレルナイト

白羽

第1話 影の契約

Parallel Night


Chapter.1

影の契約




 静かな暗闇の中、音も風も、時間の経過も死に絶える。破壊活動と絶望を持つ眼前の風景。地球の全てが消え去ってしまった。


 自分自身を飲み込む暗闇の中で彼はひどく傷ついていた。彼の肌は、骨のように痩せ細っていた。彼は少し力を使って、声を振り絞る。


「冷たい地面が我らに触れた。どこを見ても、死しかありません。ゆっくりと暗闇はすべてを飲み込み、世界は我々の罪によって破壊されます。我々はこの手で悪魔を作ってしまった、我々は彼女を救うことが出来なかった…… 許してください。


 私が犯した罪の代価を払うことができないことを知っています。しかし、私は神様に祈りたいのです。私の罪を許してください、彼らに希望の光を与えてください、この世界とあなたの愛する人々を救ってください!」


 罪深い人の神への嘆願の終わりに彼は目の前の美しい青い世界に伸ばした。すべてが終焉し暗闇に沈む前に……


「................」




「チュン チュン」


 小鳥が枝や建物のベランダで愉快な鳴く。昇る太陽を歓迎する準備ができているということだ。朝風が木々を吹き抜け始める、風に合わせて草は垂れ、朝日を浴びて目覚めつつある巨大な首都の建物の屋根や高層ビルを撫でた。


「ゴーン!! ゴーン!! ゴーン!! 」


 街の中心部にそびえ立つ大きな教会の鐘楼が街中に鳴り響いている。同時に街の生活音が、過去繰り返されてきたように、そのリズムを奏で始める…… 人々はベッドから起き上がり、一日を始める準備をする。バルコニーに花をいっぱいに咲かせた二つの建物は、太陽の下でその花を開かせ、煙突からは白い煙が漂い始める。


 朝食を取る人々は食堂へと出歩いた。焼きたてパンと熱いコーヒーが次々と出された。街を通る長いコンクリートの道で車が走り回り始めた。


 列車の汽笛がけたたましく鳴り響き、プラットホームは混雑し始めた。市内の駅の蒸気機関車は、出発の準備ができている。そして今、朝日は首都の隅々を照らした。




 まるで要塞のような巨大な防壁に覆われた、広大な教会の敷地に、ゴシック様式の大きな学生寮がある。この寮ではザ・センターの生徒たちが暮らしている。ここで学生達は、次世代のスレイヤーとして鍛錬を行なっている。人々を危険から守るために、そして、ザ・センターからの指令を遂行するために。


 彼らの練習は日常的に非常過酷である。そのためこの寮は疲れを癒すためのオアシスのような設備が整っている。リラックスとレクリエーションスポットが揃えられている。例えば、カラフルな花壇の近くには3、4人が座って話ができる喫茶コーナーがある。他にも豪華な図書館のホールは木の彫刻で飾られ、カーペットのいい香りがする。


 建物の廊下はファンタジーの世界の建物のように磨き上げられ。丸い柱は天国への入り口であるかのように整然と並んでいる。特に重要なことは、彼らの部屋に用意されたベッドと枕がふかふかということだ。体を下ろすだけですぐに眠れる。


 この建物の4階は、学生寮の最上階である。ここはかつてすべての部屋に学生が住んでいたが、悪い噂が立ち、引っ越すものが相次いだ。そのため現在は誰もここには住んでいない。だが例外的に、通路の端の部屋はまだ誰か住んでいるようだ。


「ギシッ、ミシッ」


 誰かが階段を駆け上がって来る。しばらくして、少女が現れた。白い制服の袖とスカートには黒いストライプがあしらわれている。白いロングストッキングに黒いローファーの足元はうら若き乙女によく似合っていた。見習い修道女らしく白いヘッドスカーフを纏い、ミディアムロングのピンク色の巻き髪を覆っていた。


 彼女はすぐに部屋の端まで走る。目的地に着いたとき彼女はその部屋のドアをすかさずノックした。


『ドン ドン ドン!! 昼野!! 私です、ヴェロニカ。もう遅刻ですよ、早く起きてください!」


 物、本、木製の剣、汚れた服の山が散らばった部屋の中。窓際の木製ベッドには、朝の陽射しを完全に遮る古いカーテンがった。若い男がその上で寝ている。黒髪の少年の耳は若い女の子の声に気づいた。


「あ…、あむ…… 朝か?」


「昼野!聞こえてる?あなたは遅刻ですよ」


「ううむ。分かった、すぐに行くから」


 若い男はそっとベッドから体を引きずり出すが、まだ眠気は覚めず、足取りは酔っているかのようにおぼつかない。床に落ちた制服のシャツを拾い、外で待つヴェロニカの元へ出た。ヴェロニカは昼野の姿を見て眉をひそめた。


「もうぅぅ…昼野ってば、みっともない。」


 ヴェロニカは中に入ると彼の服の支度を手伝い、昼野の散らかった髪をスタイリングした。神父の装束を元にした黒い制服は、上着の袖を縮め若者らしい活動的なデザインにされている。袖口と襟は十字架で飾られている。スーツはシンプルですぐに整えられる。しかし白いスラックスはアイロンがけができておらずシワがはっきりと目立っている。


「すまんな、いつも手伝ってくれて……」


「いいえ、私はいいですが、なぜ今日はいつにも増してひどいんですか? まさか、あの噂のせいだとか言わないでくださいね。」


「いやいや、そんなわけないよ!今日は模擬戦闘試験があるでしょう?オレは戦闘が苦手だから、昨夜から必死に練習したんだ。」


「じゃあなぜその分野を選んだのよ?あなたは私と同じサポーターに来るべきですよ」


 昼野はしばらくの間黙っていた後、ヴェロニカを真剣な顔で見て回った。


「オレはスレイヤーになると決めたから、何としてもね……」


「13年前の悲劇のせいなの?」


「まあね……」


「私は13年前のことをあまり知らないのですが、それはすべて単なる事故でしょう? 昼野のせいではない。それに……」


「そうじゃない、 あれは事故ではない…… スペクターのせいだ。やつらにすべてが破壊された。あの日からずっと……殺された人々の悲鳴がオレの耳を離れない……オレが、その……ああ、もういい忘れてくれ、朝から嫌なことを言ってごめんな、アハハ……」


「いいえ、私こそごめんなさい……」


 ヴェロニカは思いやり目で昼野を見て、昼野が頑固であることを知っている、彼が何かを決めたら、彼の考えを変えさせるのは難しい。彼女の細い口は何かを言おうとしていたが、その言葉が口から出ることはなかった。


「私には、まだまだかな……」


「何か言った?」


 ヴェロニカは答えず、昼野のシャツのネックラインを急に引き締める。


「おい! ちょっ……」


「あなたがスレイヤーになりたいなら、まず自分自身の世話をする必要があります、分かっていますか?!」


「はっ、はい。わかっています……」


「うむ! 分かっているのならいいんです。はい、行きましょう!もう時間がありません。」


 二人は支度が済むと、すぐに学生寮から飛び出し、そう遠くない距離にある学校に直行した。学生の校舎は、戦闘部とサポーター部に分かれている。建物はアーチ型の入り口や壁や柱など、美しいゴシック様式の模様で装飾されている。一度見ると、魅入ってしまいそうになる。


 校舎の脇には、エレガントな白い十字架が背の青いコートを着た人がいた。下半身白いズボンと黒いブーツ姿……彼らはザ・センターのスレイヤーだ。定期的に生徒の安全を確保するために学校の周りを巡回している。


「……、スレイヤーか」


 昼野はスレイヤーを見て立ち止まった。憧れのスレイヤーになる、という目標を思い出す。それは彼にやる気を与えてくれた。


「ねえ、昼野、行きましょう。」


 ヴェロニカは昼野の袖を引っ張る。もうすぐ授業が始まる時間だ。彼女は彼に朝のテストを欠席して欲しくない。


「はいぃ はいぃ」


 二人は自分のクラスに向かうために別れようとしているとき、


「いけない!忘れる所だった。」


 ヴェロニカは突然、いつも持ち歩く小さな弁当箱を開け、おもむろに栄養満点のサンドイッチを昼野の口に突っ込んだ。


「はい、朝食ですよ。」


「ハ……フム ハヒハホウ」


「よし、行かなくちゃ……放課後にお会いしましょうね。」


 昼野は振り向いて校舎に入る前にヴェロニカに別れを告げる。昼野が階段まで座席を配置した小さな劇場のようにも見える教室に着いた。すべての座席は、部屋の真ん中に先生の机に面している。昼野は教室の端の角席に向かう。誰かに自分の死角を取られたくなかった。席に座ると、昼野は教室を見回し、最後のサンドイッチを口に詰め込みながらつぶやいた……


「まあ、当然だろうねぇ。」


 周囲に座っていたクラスメイトは、昼野が座っていた場所から離れていった。まるで彼が気持ち悪い存在であるかのように。他の生徒たちは部屋の隅々で噂話をする、それが昼野の耳に届くこともある。


「殺人の息子……」


 最初は傷ついたりしたが、昼野は次第に慣れつつあるような気がした。何年前に父親が悲劇の原因であるという噂が流れて以来、学校内に噂が広がっており、誰もが昼野を嫌っている。


 幸いなことに、ヴェロニカがいつも彼のそばにいるが、ヴェロニカと昼野はこっそり会うようにしている。彼女が非難されないために。そのような事態を 昼野は望んでない。


「おい! あそこのゴキブリ。」


 昼野は気にしない。誰の声か知っている。


「はあぁ……また、始まったか……」


 昼野は次に何が起こるか分かっているので、少しため息をつく。毎日のことだ。


 赤毛の生徒が昼野が座っているところにやってきた。彼はまっすぐ歩き、昼野の隣の席に座って、何やら悪さをする用意を始めた。周りのクラスメイト達は何もしない、遠目に見て笑っているだけだった。昼野は彼を無視した。するとジャックは起き上がって昼野の胸ぐらをつかむ。


「オレを無視するな。オレはお前と話している」


「用があるなら早く言え。時間の無駄だ……」


 昼野は目も合わせずに答えた


「はあああ!! 何言って!!」


 ジャックは昼野の表情が気に食わなかった。突然昼野の腹を殴り、地面に押しやった。昼野はジャックがここまですることは想定外だった。今までジャックは楽しむために昼野をからかっていただけだったが、今日の彼はかつてないほど暴力的になっている。その後も昼野はクラスメイトの笑い声の中でジャックの攻撃を防ぐ事しか出来なかった。


「ガラガラ~」


 昼野が気を失う前に教室のドアが開いた。男性の司祭が教室に入った。短い赤毛の男、眉毛の端に長い傷跡が浮かぶ。常に周りの人間にメンチを切る。性格は司祭というよりチンピラだ。彼は昼野のクラスの先生であり、ジャックの父親でもある。昼野の先生は愛する息子と同じように昼野をいじめている。


「さあ、聞け!全員が知っているように、今日の1限目は模擬戦闘試験がある。全員、下の中庭に集まれ」


 生徒達は先生の命令を聞いた後、すぐに教室から出始めた。昼野は出て行く前に、クラスの皆が完全に部屋からいなくなるのを待つ。 他の生徒と一緒に歩くのが嫌だった。


「酷い格好じゃないか?鳳翔」


 先生は、口の隅を笑いで歪めあざけるようにで昼野に話しかけた。


「たいしたことないです。 ほっといてください」


「俺の自慢の息子がお前の首を引き裂く事を邪魔したくない」


「そうですね、先生はちゃんと教師の仕事をしていないのだから」


 先生は昼野に恨んだ目を送りながら手を出さないように怒りを堪えた。そして、笑顔で昼野に話した。


「まあ、今日の試験は楽しみしたまえ。……鳳翔」


 生徒達は校舎に囲まれた下の広場の中庭に到着した。ここが今日の模擬戦闘試験するために準備された場所だ。生徒達の前に先生が再び現れると命令もなしに整列した。試験を受ける準備ができた。


「全員、よく聞け!今日は模擬戦闘試験だ。お前らがスレイヤーになれる資格があるかどうかここで証明して見せてもらおう!お前達が今まで習ってきた事をここで活かして見せろ!分かったか!!」


「はい!!」


「よし!! さて、俺はお前達のために練習用の武器を持って来た。好きなのを選べ!そして、試験を始める前に対戦相手を選べ!」


「はい!!」


「あと、お前らに光の晶を手首につけてもらう、この光の晶は相手の攻撃を吸収するフィールドとして使える。先にこの結晶が破れた者は敗者となり。分かったか?」


「はい!!」


 説明が終わると、生徒達が対戦相手を探し始めた。 対戦相手を探すのは少し混雑しているように見える。一方で、建物の壁に寄りかかって座っている若い男の子は、熱心に対戦相手を探しているクラスメイトを眺めて居る。昼野は誰も彼と一緒に組む人がいないのを知っている。


「ハアー、昨夜は一体何のために訓練したんだか? 今日さぼった方が良かったかなあぁ……あ、だめだ、ベロニカが観に来るかも知れない。はあぁぁ……つまらない……」


 昼野が建物の物陰でうんざりしていると先生が彼の所にやって来る。


「鳳翔……クラスの皆は誰もお前と組みたくないようだね? 可哀想にお前は助けが必要だ」


「……」


「心配するな、俺はちゃんと先生の仕事をするからお前の対戦相手になってやろう。立ち上がって試験場へ行きなさい」


 昼野はただ早くこのくそのような一日を終わらせたいため先生の指示に従った。


「了解……」


 先生はただ彼を説教したいだけだ昼野が気づき。彼はこの機会を利用して先生に恩返しようと考えた。


 テストのペアは、テストヤードをまたいで武器を発動させ、相互に攻撃を行う。うまく自分のスキルを披露できる組みもあれば、子供の喧嘩レベルの組みもある。彼らはこのテストで持っているすべてのスキルを使用します。


「ヨッチャアアアア!!」


 勝利の宣言で彼は手を挙げながら声を叫んだ。ジャックは無傷で相手を倒す事が出来た。それにクラス全員が歓声をあげた。すべての生徒が試験を完了するまで試験は続いた……最後は昼野だけだ。遂に彼が望まない時がやって来た。


「おい!! 鳳翔、こっちへ来い!」


 昼野が自分の選んだ長い剣を持って試験場に入った。


「さあ、この俺がお前にスレイヤーに相応しい者とはどのようなものか教えてあげよう」


 先生は両手を上げて攻撃体制に入り、武器がないにも関わらず信じられないほど圧倒的な力が見える。


「さあ、来い!殺人の息子……」


 先生の口から、一番不愉快な言葉が出てきた。昼野はいつもその言葉を無視したのだが、時には耐えられない時もある。彼は剣をしっかりと握りしめて先生に向かった。


「ハアアアアっ!!」


 次の瞬間、昼野の体が吹っ飛ばれた。先生の攻撃は速過ぎてまったく動きが見えなかった。


「フ……お前は弱すぎる、その程度でスレイヤーになれるのか??笑わせるな!!」


 先生は前に突き出して昼野の腹の部分に蹴りを入れた、かなりの距離でその場から昼野が突き飛ばされた。昼野は起き上がろうとした時に痛みを感じた。何故痛みを感じたのかと考えた。彼の光の晶は、まったく先生の攻撃を受け止められなかったのか? 彼の試験を見ていた生徒達は大きく笑った。特にジャックが嬉しそうな顔をしている。


「おや、その痛みは明日まで残りそうねー」


「なせ?オレの光の晶が……」


「当たり前だろう!!それはただの結晶なんだよ!!」


 先生は昼野の腹を強く蹴った、彼のよだれは昼野の口から広がる。 その蹴りは普通じゃない、それは骨を折ることができるくらいのだ。このくそのような試験は続く。昼野は反撃もできず、生徒達は先生にもっと昼野を引き受けてくれると歓声を上げた。


「今日はお前をボロボロにしてやるぞ! 鳳翔うぅぅ」


 先生は再び昼野を蹴ようとしていますが、彼はその場で止まった。彼の前にボロボロ姿の昼野が立ち上がった。昼野は先生をじっと見つめている。彼の手はしっかりと練習用の剣を持って。そして、彼は先生を挑戦させた。それに対して先生は非常に怒り、昼野に拳を出す準備をした。


「ムッッ テメイッ……鳳翔!!」


「シンィィィィィィ!!」


 突然、先生の耳際に刀の先端が突きつけられた。剣の鋭い縁は、彼の髪の先端を切って落ちた。生徒達、先生自身でさえ、その瞬間まで気づかなかった。この刀が誰であるかをすぐに知っていた、彼は震え上がった。


「その野蛮な行為をやめろ……」


 昼野は深く恐ろしい声の持ち主を見た。青い鬼のマスクに隠された顔。ザ・センターの教皇の女性ガーディアンの声だった。ポニーテールで結ばれた長い銀の髪は吹き抜ける風にひらめき、目を離せなくなるほど魅力的だった。


 濃い青色のガーディアンコートは、長い襟から裾までゴールドの文様で飾られている。背面の黄金の十字架はコートの深い青色の下地と対照的に陽の光で輝いた。それは栄誉ある戦士のようにエレガントだった。黒いインナーシャツと白いスラックスは鍛冶屋も認める美しい紋様が刻まれた東洋の鎧で包まれていた。それはコートと相まって美しさを引き立てた。


「少し騒がしいようですねぇ」


 一人の老人の声が響いていた。生徒達と教師がすぐ様にひざまずき、一人も頭を上げなかった。昼野を除いてまだその場でまだ立っている。


 ガーディアンの後ろから、頭から爪先まで純白の装束に身を纏った男性が現れた。純白の杖を持つ手は白い手袋を纏い、人間の顔の形をした金色のマスクを纏う、あますところなく全身を覆っていた。彼はザ・センターの教皇だ。偶然この試験場通りがかったようだった。


「ここで何が起こったのかな?」


「あ...あの..えっと....ああ……」


 地面に膝まずいた先生は何も言わなかった。彼の青白い顔から汗が流れ込んだ。今彼は極限の状態にあった。


「我々は学生にこんな酷い事をするために試験を行った覚えはないなぁ~……ピーター先生?」


「は..は..は.い..い 教皇.. さ..ま……」


「ああ……オレのクラスの先生の名前はピーターだったのか?  まあ、いいや、明日になったら忘れてしまうからなぁ」


 同時に教皇の女性ガーディアンが昼野に剣を向けた。


「そこの生徒!なぜ教皇様の前に膝まずかないのか?」


「あ、あの。すいません……」


「よいだろう、そんな状態で敬意を払うことは難しいでしょう。」


 教皇は昼野の元に来て。そして、彼の頭を優しく撫でた。 昼野は何も言わず、あんな風に撫でられるのは家族を失って以来とても懐かしく思った。


「矢美さん、この子を保健室で手当てをしてあげてなさい。それが終わったら彼をわしの客室まで連れて来てくれ」


「かしこまりました。ところで、この先生と生徒達はどう致しましょうか?」


「部下にピーター先生と生徒達を教室まで送ってもらうから、後は頼んだよ。矢美さん。」


「はい!」


 教皇様の祈りの後、矢美さんはまっすぐに昼野を保健室まで連れて行った。一方、先生や生徒達は静かに教室に戻った。今回の騒ぎが終わったのは教皇様が通り掛かったお陰だった。


 大きな窓が並ぶ広々とした保健室には陽の光が差し込む。この部屋の空気の良さは、負傷者の苦痛を和らげた。腕の確かな医師によって昼野は怪我を手当を受けていた。ベッドの片隅には矢美さんが佇んでいた。昼野の完治を待たず彼を連れ出すつもりのようだ。教皇からの要求だ。


 昼野は矢美さんを見つめている。彼は矢美さんと話す勇気を出そうとタイミングをうかがっていたが、矢美さんは何か話しかけ難いオーラを放っている。


「あの、矢美様はここの人間ではない……ですよね?」


「うん?なぜ、そう思うか……?」


「刀と鬼の仮面です。子供の頃、ボクの父は彼の故郷の東方領土について聞かせてもらったので、えっと……すみません。突然こんな話を……」


「いいえ、その通りだ。我は東方からやって来た。ザ・センターとのつながりための戦士交換として来たのだ……ちなみに我の事は矢美でいい」


「あ……はい、矢美さん」


「君と父上も同じ東の地の出身じゃないのか?」


「はい!しかし、ボクは物心ついてからはずっとここに住んでいました。 ボクは父の故郷の東方領土についてあまり知らないです。 ボクが知っているのは父が教えた事しか知りません」


「そっか……」


「そうだ! 矢美さん、東方領土について教えてもらえませんか?」


 そう言いながら昼野が大きな目で矢美に向けて、物凄く興奮な表情を見せた。


「いいけど…しかし、我の話は退屈だぞ、それでもいいのか?」


「いいえ、そんな事はないです。逆に話を聞く事が出来て嬉しいですよ。」


「そっか、分かった……今度、機会があったら教えてあげよう。」


 矢美は自身に興味を持ってくれることに少し嬉しさを感じた。彼女の厳しい性格のせいで、彼女に興味を持ち話しかける者は少なかった。


「ありがとうございます!矢美さん……矢美さんは見た目が怖い人に見えるんだけど、話してみたら意外と凄く優しい人ですね」


「//////!?」


 矢美さんは急いで背を向けて昼野からから離れた。彼女は今まで褒められたことが少なく、あまりの恥ずかしさに昼野の目を合わせる事が出来なかった。


 二人は知り合いのように会話を続けた。医師から昼野の状態について告げられた。重傷ではないが彼の体はまだ完璧に回復してないので戦いをさせないようにと注意された。診察後、矢美は昼野に教皇様の客室まで付いて来るようにと言った。


 二人は保健室から出て、そのまま客室へ向かった。その時間は昼休み時間なので、あちらこちらの教室から生徒達が一斉に出て来た。移動中の二人に生徒達の目線が集まった。教皇様のガーディアンがこのような学校の敷地内で歩いている所を見るのは滅多にないので注目された。そして、更に注目が集まったのはガーディアンと一緒に歩いている噂の殺人の息子である昼野だ。


 これから昼野は何かの罰を受けるじゃないかと生徒達が思っているに違いない。


「気にするな。その話が真実でなければただ噂に過ぎ無い。それが君に影響を与える事はない」


「大丈夫です。ボクはもう、慣れているから。」


 とその時、ヴェロニカはクラスメイトと一緒に通りかかって来た。ガーディアンに付いて行く昼野を見たヴェロニカは昼野を呼びかけようとしたのだが、そんな事をしないようにと昼野が頭を振った。もし、そんな事をすれば、ヴェロニカと彼の関係が皆に批判される。結局、ヴェロニカはただ昼野の事を心配することしか出来なった。昼野が戻るまで彼女はこの不安に胸に締め付けられた。


 矢美と昼野が教会の巨大な鉄の門の前に到着した。そこは教皇様の住居だ。教会の人間でない人はあまりこの場所に立ち寄らない。特命を受けた貴族や教皇だって、この教会に足を踏み入れることはほとんどない。


 鉄の門を守っている兵士は矢美に敬礼をして巨大鉄の門を開けた。そして、矢美と昼野が中に入った。昼野はとても興奮している、恐らくこの教会に入った学生は彼が初めてと思う。門の向こうは美しい装飾に彩られていた。屋内に入ると別世界のように静かだった。幅広い廊下の上には空高くステンドグラスの窓があり芸術的に美しい装飾がされていた。光沢のある大理石のフロアは歩く訪問者の足音を反響させた。


 二人とも礼拝室や告解室などの部屋を通って中に入った。そして、彼らはとある部屋のドアの前に到着した。今まで通って来た他の部屋と違ってこの部屋はまるで掃除道具を保管部屋に見えた。


「えっと……ここですか?」


「あぁ、君はこの中で待っていてくれ。我が教皇様を呼びに行く。」


「はい、分かりました。」


 昼野が客室に入ると、部屋を見回り始めた。その部屋は全く客室に見えないくらい小さな部屋だった。その客室は外の世界から切り離された、プライベート部屋のようなものです。明るい彩色がされたランプが付いた木製机があり、その机の上に置いてある紙の山と羽ペンを示した。


 ドアから入ってすぐ手前には客人用の机があった。机の上には何も置かれていなかった。本の棚はきちんと整理されていた。


 この部屋の真ん中には、ソファと小さな丸い机があって、彼が座ったとき、彼は凄くリラックスしていて、ソファはとても柔らかかった。 彼はこの柔らかいソファに慣れながら、 彼は教皇様がなぜ彼に会おうと思ったのかを考えた。おそらくそれは彼の父親の噂についてだろうかと思いを巡らせた。その後、背後のドアがノックされる音がした。


「ドン! ドン! ドン!」


 昼野はすぐにドアを開けに行くとは金色のマスクの教皇が中に入って来た。


「待たせて申し訳ないなぁ〜。中に入ってもいいのかな?」


「あっ、はい!もちろんです、どうぞ。」


 教皇様は昼野の向かいのソファに座った。 教皇様のガーディアン矢美の後ろに、手にファイルが教皇様の背中に歩み行きます。昼野は教皇の前にどんどん緊張になってきた。 彼は振る舞い方を知らないし始めている。


「どうしたの君?」


「あの…えっと……」


「どうして、君をこんなに小さな部屋で会うように案内されたのかと思っているのでしょう?それとも、我の前でただ緊張しているだけ……そうでしょう?」


「は…はい、教皇様の言う通りです。」


「ハハ……君の心を推測して申し訳ない。」


「いいえ、確かにボクはそのように緊張してます。」


「少し、落ち着いたか?」


「あ……はい。あはは…」


 二人とも話を始めた。驚くほどに教皇様の言葉は魔法のように昼野を落ち着かせた。


「さて、話の本題に入りましょうか?」


「はい!」


 昼野は座り、そして、耳を立てた。矢美は教皇様にある書類を渡した。


「履歴書によると、君は鳳翔竜谷教授の長男で間違えないよね?」


「はい、彼はボクの父です。」


「13年前、君の父親が勤務していたザ・センターの中央研究室で悲劇が起きた。この悲劇のせいで何千人ものの命が落とした、研究者やザ・センターのスレイヤーや市民だ、本当に悲しいと思わないか? 君はこの事について何が知っているのかねー?」


「その事は…その、ボクはまだ子供だったのであまり覚えていないのです。ボクが知っている限り、父はあの事件からボクを救う為に命を落した。でも、それは父のせいじゃありません。そして、あれは事件ではないのです。すべてはあのスペクターの仕業だ。僕はこの目で見たのです。その後…その、今までの噂は… あっ えっと……」


 教皇が右手を上げるだけで落ち着かない昼野を落ち着かせる事が出来た。


「君のように我もあれは事件ではなかったと信じている。」


「教皇様はボクを信じるのですか?」


「ああ、信じるよ……」


 昼野はザ・センターの最高指導者である教皇様が彼の言葉を信じてくれる事を嬉しく思った。


「君は13年前に何が起きたのか知りたいのかい?」


 昼野は教皇様の黄金のマスクを見て、うなずきで返事した。


「はい、お願いします」


 教皇様は手にしている昼野の履歴書を小さな丸い机の上に置いた。彼の背中は柔らかいソファに寄りかかり、昼野に色々な話を話す準備をしています。


「13年前にザ・センターの我々は影の儀式に関する研究を行った。我はこの研究の情報が漏れる事を漏れないように関係者しか知られない秘密の研究だった。その研究はザ・センターや市民達の安全を脅かす存在になるかもしれないからね。我は研究するために多くの研究者を集めた。もちろん、君の父親である「鳳翔竜也」もそこの研究の責任者として呼ばれたのだ」


「影の儀式……ですか?」


「君の授業で影使いについて何が知っているはずです。」


「はい、スペクターを使って人々を恐怖に陥る人達の事ですよね?」


「そう、この人達はスペクターを召喚するために影の儀式を使って、自らの影を捧げた。」


「自分の影を捧げる……そんなこと」


「その儀式は昔の戦争に使われた物だ。スペクターは月の光がある戦場で使用される。敵を壊滅する事が出来るくらい恐ろしい破壊力を持っている。


 スペクターは自由自在に変化することができる。 その召喚者の心どんなものでもなれる。人や動物、物体、場所、時あるいはこの世に存在しない物までもなれる。」


 昼野が真剣に教皇のスペクターの話を聞いた。彼は少しずつスペクターの事を恐れ始めた。


「しかし、スペクターは不安定です!それを使用する人間を暴走させる事が出来る。良い心を持つ人間でも一晩で悪魔のように変えられる。最悪の場合、スペクターはその使用者を飲み込んで同化する。最終的に最も強力な影であるナイトメア・スペクターになる。そいつを抵抗する事は困難、更にそのスペクターは太陽の下で平気に歩く事が出来る」


「昼間に歩けるスペクター? …嘘のような話ですね」


 そのようなスペクターがあるとはとても信じられ無かった。今までの授業ではそのような話は全く教えてなかった。


「それはそうでしょう。なせなら、それを見た者はほとんどいないからだ。それに影使いが死んだら影も消える。しかし、ナイトメア・スペクターは作り話ではなく本当に実際するのです」


「そう……ですか。」


「もし、良ければ話の続きをしてもいいのかな?」


「あ……はい、すみませんでした。」


「戦争が終結した後、人々にとって影使いは恐ろしい存在となった。彼らの事を悪魔の使者と非難するようになり、彼らは自分の故郷の人間に襲われ、追放され、処刑され、一部は行方不明となった。生き残った者の一部は批判に対して立ち上がって抵抗した。


 再び、殺し合いが始まり、それは今までの戦争と変わらない。その直後、多くの王国が影使いと対抗する為に力を合わせた。彼らはザ・センターを設立し、影使い退治専門とする戦士を作った。それは君が勉強しているスレイヤーの事だ」


「...」


 重い空気が流れる。昼野はただ静かにその話を聞き続けることしかできなかった。


「しかし、人間はまだ影使いのスペクターに対抗する事が出来ない。スペクターと戦えるスレイヤーはごくわずかだ。そして、ザ・センター側の方が被害が大きかった。


 あの日以来、我々はずっと人々を影使いから守って来た。幸いな事にスペクターは光に弱い。まあ、ナイトメアは例外だが」


「こいつらは……まるで吸血鬼みたいですね」


「そう、かもしれない。我々はスペクターについてもっと研究する必要がある。そして、スペクターを使って影使いと対抗する方法を見つけ出さなければ」


「ちょっと待ってください、教皇様は影使いに対処するためにスペクターを使用すると言っていますか?…そんな危険な物なのに?」


「そうだ。我々には他の選択の余地ない。長年にわたり、我はスペクターと戦う方法を見つけようとしてきたが、それがすべて失敗した。恐らく、我に残された方法は毒を以て毒を制ことのみだ。ちなみに彼はこの研究を半分まで完成したおかげで我々は現代まで十分にスペクターを扱う事ができるようになったのだ。矢美さん、彼にあれを見せて下さい。」


「はい!」


 矢美さんは青い縄で結ばれた黒い鞘から刀を抜いた。


「解放……」


 言葉の最後に、刀は黒くなり青い炎が明るかったので、小さな部屋中が青くなった。昼野の前に青い鬼の影が現れる。


「これが……、父が作ったスペクターですか?」


 それを見て昼野はただ驚くしなかった。


「その通りだ。これが君の父の研究を元に作られた、矢美のスペクターだ。とても凄まじいでしょう…… 矢美さん、ありがとう。」


「はい……」


 矢美が刀を鞘に戻した。昼野の前にいる青い鬼が突然消え、部屋全体が元に戻った。


「当時、彼はとある研究を始めた。そこで彼は実験体を生み出した。その実験体は『ニグレオス』という名を付けられた。それは契約を必要としない、新たなスペクターだ。


 もしその研究が成功すれば、我々は部下達に危険な契約させる必要をなくせるかもしれない。


 だが、残念な事にその試験体はまだ使用できるほど安定してないだ。君の父はこの研究を成功する為に色な努力をしたが、彼の運命が味方しなかった。現在、見つかった当時の報告書によると、何者かがその実験体を研究場から解放しようとする者がいるという報告があった」


「まさか……影使いですか?」


「恐らく、君の想像通りだと思う。影使いが研究員に化けて中に侵入しただと思う。そしてあの悲劇を引き起こした。」


 昼野の表情が怒りに変わった。影使いが起こした悲劇のせいで彼の愛する者を失った。そして、悪い噂にされてこんな酷い人生に堕された。


「昼野君、君の気持ちはよく分かります。だが怒りに任せていけません。さもなければ、取り返しのつかない事をしてしまうだろう。それに、この話について本当かどうかはまだ十分な証拠が足りません」


 教皇様は昼野の手の上に手を伸ばした。昼野は怒りが収めた。


「はい、すみません。お見苦しい所をお見せてしまいまして申し訳ありません」


「まあ、良いです。これを聞いて怒るのは当然だ。その怒りを鎮める方法知ることが大事です。さて、矢美さん……」


「はい!」


 教皇様は隣に立っている矢美に支持し、書類を持って来て昼野に渡した。


「何ですか?……これは」


 昼野が受け取った書類を開いた。その書類の中には四角の眼鏡をかける研究員の中年男の白黒写真と色な情報が入っていた。


「この写真の人物は影使いと関係している可能性が考えられる。だが、あの事件の後は彼が行方不明となった。彼の捜索を出したのだが、彼を見つけた者は誰もいなかった、しかし、つい最近我の部下が西側の国境の近くにある町で彼を見かけたという情報が入って来た。だけど彼が本人なのかはまだ誰も確認できなかった。そこで昼野くん」


「はい!?」


「この捜索任務を君に頼みたい、やってくれるかね?」


「はいもちろん、やらせてください!」


 昼野は迷わずに答えた。教皇様に頭を下げ、任務を与える許可を求めた。噂を消し、罪のない人々と彼の父と自分自身を解放するチャンスだった。


「わかりました、頭上げてください。」


「はい!ところでの任務から始めるのですか?」


「その前に君にわしにとある場所までついて来て行って欲しい」


 矢美は本棚の所へ歩いて行った。彼女は何かを探すかのように本棚で並んでる本を触り始めた。


「クリック!!」


 矢美の前の本棚が動き出した。煉瓦の階段が下へ続く通路が現れた。壁には小道を照らす小さな提灯もあり奥まで続いていることがわかった。


 教皇様を先頭入り昼野が続き、矢美は隠し扉を閉めてから二人に続いた。3人は通路の先まで歩き続けた。その果ては大きな煉瓦の壁に塞がれていた。教皇は壁の近くに歩み寄り十字架の形をした煉瓦の上に指を置いた


「神よ、あなたの最愛の同盟国に希望の光を与えてください……」


 煉瓦の壁は十字架の形で光を放ち、開かれた。抜けるとそこは図書館だった。それは広大で何万もの人々を収容することができるほどに見えた。見渡す限りは本棚となっており天井の大きなステンドグラスからは太陽が虹のように輝いている。図書館は生きているようかのように機能していたが、長い間ほとんど使われていないらしく隅々に埃が見受けられた


 昼野は周りを見渡した。古びた場所ではあるが、彼はわくわくした。


「ここは部外者から守られた場所だ。沢山の本や聖文が集められている。もちろん禁断と呪いもある」


「え!?」


「ハハハ、心配ありません。それらの禁じられた本や呪いは完璧に封印されている。だが万が一のために、この場所を立ち入り禁止にした」


「ああ……はい、ところでボク達はここで何をするのですか?」


「もうすぐだ、君。目の前の部屋だ。」


 教皇様は昼野と彼の矢美と一緒に小さな部屋に入った。部屋には空の本棚だけが並んでいる。周りを見渡してもほこりしかない。教皇様は目の前に置いてある木箱を拾い、その箱のふたを開けた。その中には黒い本が入っていた。


「君、この本を受け取ってくれ。」


 教皇様は昼野に黒い本を渡した。昼野はその本を受け取ることを恐れた。


「ハハハ、怖がらないでくれ、その本は呪われたりしてないから」


「あ…はい」


 昼野はその黒い本を受け取り、本を開いた。


 この本にはスペクターに関する情報と対策方法が載っていた。正しくはスレイヤーのガイドブックだ。昼野は本を見続けた。授業で学んだ本とは全く違う。ここに書かかれている事はすべて、最高位スレイヤーためのものだ。昼野はまともな戦闘スキルを持っていない、教皇様が彼にこの本をくれるのかと疑問に思った。


「えっと、教皇様はご存じていないのかもしれませんがボクの腕はそんなに凄いものではありません。なのに何故、このような本をくれるのですか?」


「ええ、知っています。君の成績を見ましたから間違ってない」


「す……す、すみません!!」


 昼野は完全に教皇の言葉に刺されて、彼は落ち込んだ。


「だからこそ、この本を受け取らないといけないのです」


「何故ですか?」


 教皇様は昼野に向かって歩いた。そして、昼野の手を絞り、昼野は教皇に心配されているのを感じた。


「昼野君、我の話をよく聞いてくれ。今回の任務は君の安全を保証する事が出来ないからよく、注意して下さい。我はとても心配です。」


「それについて心配しないでください! ボクは自分の面倒を見る事が出来るから。」


 昼野は自信を持って話したお陰で教皇様の心配を少し解けた。


「君に知っておくべき事がまだあります」


「何ですか?」


「パラレルナイト……地平線上から太陽が落ちたその時、地球上の夜に結界が開かれます。その結界はスペクターの世界だ。その結界に迷い込んだ人間はほとんど生きて戻る事が無かった。影使いはその結界を隠れ場所として使う。」


「結界?しかし、今までの夜は何も変わってないに見えますか?」


「今まで私達が平和な暮らしができるのはこの首都にある光の晶から放った神聖な結界が守ってくれるのだ。しかし、西の国境はそうでは無い。街を守る神聖な結界がありません。


 我の限界までは王国全体を神聖な結界に入れる為に最善を尽くしたが、首都を守るだけで精一杯だ! だが、幸いな事に町の建物は小さな結晶から神聖な空間を作る事が出来たので市民は夜が来ても生き延びる事が出来た」


「そう……ですか。」


 昼野は教皇様の心配を理解し始めた。王国に住む人々達だけではなく恐らく全世界にとって教皇様が担当する役目は非常に重要であるに違ない。


「もう一つ!君が西側の国境に着いたら、ヴィンセント司令官を会いに行きなさい。彼はザ・センターの第4司令部を担当している方だ。今から我が任務の内容証明を書く。この任務を君に担当させた内容を証明する為に、この書類をヴィンセント司令官に提出しなさい」


「はい、分かりました」


「最後に……暗闇から離れるのだ。それに飲み込まれたら想像つかないくらい最悪なものが待ってる……今日は以上だ。君は早く帰って休みを取るといい。任務の内容を記載された書類は、我の部下が市内の鉄道駅で君に直接渡す。受け取る時間は午前の6時、始発が出る前にそこで受け取るのだ。さて、矢美さん、昼野君を送ってくれないか」


「はい!昼野!こっちについて来てくれ」


「はい、どうもありがとうございました!それでは失礼します」


 昼野は教皇に向かってひざまずき、感謝を伝えると、昼野は振り返って矢美の所へ向かった。部屋を出る前に昼野は足を止めた、遠慮がちに教皇に振り向いた。


「えっと……失礼ですが、教皇様のお名前を教えて頂けないでしょうか?」


「?!ハハハ、我は自己紹介を忘れてようだな〜 本当に申し訳ない。 我の名前は教皇マグナスだ」


「マグナス様ですね?お名前を教えて下さりありがとうございます」


「まあ気にするな。さあ行きなさい、矢美さんが待っていますよ。あと、その本を無くさないで下さい。君にとって大切な本です。」


「はい!」


 教皇様の名前を聞いた後、彼はすぐに矢美を追いかけた。教皇様は昼野が図書館からいなくなるまで見送った。


「神様……どうか、我の希望の光を守ってください。」


 矢美が昼野を連れて来たのは最初の入り口であった木製扉の所ではなく、別の扉だった。矢美がその扉を開けると、すぐ教会の壁の外の小さな路地に出た。多くの人々の賑やかな音が聞こえた。そこは屋台が沢山並ぶ、この都市の夕方市場だ。


 昼野は、このような魔法の扉の存在に驚いているようだ。太陽の光がオレンジ色に変わり始めている。彼は長く話をしていたようだ。昼野は地平線から消えていく太陽を見て、教皇様が言っていたパラレルナイトの事を思い出した。


「パラレルナイトか……神聖な結界が無かったらどうなるんですかね?」


「王国全体が一瞬に崩壊し、多くの人々が死んで行く。そんな事が起きて欲しくないでしょう?」


「はい、ボクはそんな事を望んでいません。」


「さて、ここからは目の前にある橋を渡れ。そうすれば、すぐ首都に着く。学生寮に一人で戻ることができるでしょう?それじゃ、さようなら。」


「ありがとうございました!矢美さん」


 昼野は矢美に別れを告げた後、彼は橋を渡って市場に入った。矢美はドアに戻り図書館の奥まで入った、そこで教皇様がまだあの小さな部屋で立っている。


「マグナス様はまだお部屋にお戻りになられないんですか?」


「昼野君はもう帰りましたか?」


「はい、……しかし彼で本当によろしいのですか?」


「神様が彼に希望を託すのであれば、我は彼を信じるしかないだ。」


「...」


 矢美は心の中に何かを考えているように見えますが、それを教皇の目から隠す事が出来なかった。


「矢美さんはまだ疑問を持っているのかね?」


「はい… 私はまだわかりませんのです、なぜ彼を選んだのですか?」


「そうですねー なぜ、あの彼を選んだのですかね… 恐らく、神様が人間にいたずらするだけなのか、それとも、我達を試しているのか……どっちらかでしょうね?」


「……」


「ハハハ、我は国家の最高の元首なのに神の事を疑っている。我は教皇に相応しくないですね」


「いいえ、マグナス様はどれほど高貴であるか私は知っています。」


「我はそのような人ではありません、矢美さん。我は普通の人間です……昔ではね。」


「え?」


「ハハハ、冗談ですよ!悪かったなぁ……さて、行こうか?矢美さん。 我らにはまだ仕事が残ってるぞ。」


「はい!」


 マグナス教皇とガーディアン矢美の一日の仕事は簡単に終わりそうにない。二人とも遅くまで仕事を続けた。




 太陽が地平線に沈み、夜が街を訪れ始めます。街の明かりが点灯しどこもかしこも照らす。街全体が暖かい黄色オレンジ色の光で明るく照らされている。


 幸いなことに、街全体が神聖な結界に守られている。そうでなければ人々はこのような生活を幸せに暮らせないでしょう。昼野はいつもなら学校が終わった後、すぐに寮に戻るのだが、今回ばかりは回り道をして街にでた。市場、レストラン、夜更けの街を行く昼野の気持ちは昂っていた。


 まるで子供に戻ったかのようだ。彼は街の明るい通りに沿ってここを歩いている。そこで彼がよく知っていた女の子、ヴェロニカがいた。 彼女は偶然に市場で昼野と会った。この時間は彼女がいつも買い物する時間だ。


「昼野!?」


「え!?ヴェロニカ!……」


「なぜ、あなたはこんなところにいるの?」


「えっと、それは……」


 彼はマグナス教皇と話した事や任務の事をヴェロニカに話したくなかった。ヴェロニカが彼を止めると確信しているが、でもまだ何も答えていない。そして、ヴェロニカは白い包帯を見た。


「昼野、怪我をしてるの?」


「ああ、この包帯?ちょっと怪我したね。心配しないで。」


「でも……」


「大丈夫だから、ねっ……せっかくだし一緒にこの周りで一緒に歩いて行こうか?」


 ヴェロニカに心配させないように昼野は急いで話を逸らした。


「うーん、昼野がそう言うなら」


「よし、それじゃあ、行こうか!」


 昼野はヴェロニカの手を握り、街の方に向かった。二人は夜の街の明かりの下を歩いた。それは奇跡のように今までの嫌な気持ちを忘れられる事が出来たが、それでも、昼野は今日の出来事を決して忘れる事ができなかった。


 ヴェロニカとしばらく離れることを思い後悔したが、自分自身のために必要だと考えた。ヴェロニカをできるだけ幸せにする機会を得た。悪い噂があったにもかかわらず、いつも世話をしてくれてありがとう。ヴェロニカの幸せな笑顔を今夜見て。昼野の心は固まった。


 二人が市内を散歩を終えた時、二人は学生寮に戻った。昼野は乱雑な部屋を整理した。彼は必要な物資を、茶色の革のスーツケースに詰め込み、もちろん教皇様が彼に与えた黒い本も、スーツケースしまった。夜遅く、準備が完了した。


 彼はアラームを設置した。午前5時に彼は教皇様の任務書を受け取るために駅に到着しなければならなかった。昼野はベッドで寝て、すぐに疲れ果てて眠ってしまった。




「……」


 翌朝5時、学生寮はまだ静まり、学生達はまだ部屋で眠っているが、4階の昼野の部屋ではいつも光景のように床に物は散乱していない。


 昼野がいつも使っている机を除いて、そこには彼の唯一の親しい幼じみ宛の手紙が置かれている。昼野は誰にも気づかれないように静かに寮を出た。もし、気づかれたら事情を説明するのは面倒だ。


 まだ、静かな学生寮を出るのはちょっと奇妙に感じた。昼野は一度、自分が小さい頃から育ってきた場所の方を振り向き、別れを告げようとしたが、それは難しかった。


「よし!行こうか……」


 彼はスーツケースを持って、駅に向かった。


 朝の涼しい天気はとても爽やかで、昼野は街を通って街の駅に着き、目の前の交差点を渡り、すぐに駅舎についた。


 駅に到着すると、昼野は西の国境に向かうプラットホーム4番に向かった。プラットホームに入ると、昼野はマグナス教皇から任務帳を届ける人を探し始めた。その時、後ろから声をかけられた。


「すみません、あなたは鳳翔昼野ですね?」


 背中に大きな丸いバッグを背負う青い制服の丸い眼鏡をかける男。ひと目で見ると昼野はすぐにザ・センターの人間である事が分かった。


「はい、ボクですが……」


 自分が昼野である事を答えると丸い眼鏡の男は教皇の紋章が付いた白い手紙を彼に渡した。


「はい、どうぞ。 マグナス様のお手紙です」


「ありがとうございます」


「羨ましいですね、マグナス様からのお手紙をもらえるとは」


「え……そうですか?」


「マグナス様が彼以外にあまり手紙を書かないのか?」と昼野が疑問に思った。


「どこへ行くのですか?」


「西の国境です。」


「はっ!本当ですか? そこはとても危険なところですよ!命令がなければ誰もそこへ行きたくないです」


「これは任務ですから仕方ないです……」


「まだ学生なのにすごいですね。」


 眼鏡の男は昼野のような学生が任務のためにあんな危険な場所へ行かされることにとても驚いているようだ。


「あっ、いけない!そろそろ行かないと!無駄をして申し訳ありません。それではご武運を。」


 眼鏡の男は別れを告げた後、すぐに大きな書類のバックを背負って立ち去った。彼は配達しなければならない書類がまだ沢山あるようだ。




「ヴウウウウウウ!!!」


 蒸気機関車の汽笛が鳴り、始発の列車がもうすぐ出発しようとしている。駅長はホームの安全を確認始めた。機関車に乗る人はそんなに多くない。ほどんど、ザ・センターの人間と荷物を運んでくる市民達でした。彼らは商売ために様々な場所やって来た商人だ。乗客が少なくても珍しい事ではない。非常に危険な国境に向かう列車は乗る人がそんなにいないでしょう。


 昼野は電車に乗り、空いている窓席へ向かって。彼は荷物を荷物棚に置いた。乗客がいない時に向かい合い席に座ると、妙に寂しくと感じるが、昼野はそういう雰囲気が好きだ。彼は気楽に座席に寄りかかって、彼が窓から離れている街を見つめた。




「ヴウウウウウウ!!!」


 午前6時、地平線から太陽の光が照らし始めた。列車の汽笛が再び鳴り響き、先頭車両から蒸気が噴き出した。 蒸気機械の力から列車の車輪が回転し始めた。車両が動き出す揺れが席に座っている乗客まで伝わった。外の風景が彼の前に流れる。今の列車は西の国境へ向かって行く。


「ガタン ガタン ガタン」


 しばらく電車が駅から出てきた後、 窓から覗く家はますます薄くなり、列車が牧草地や森林に入っていく。昼野は涼しい朝風が吹き込むよう席の窓を開ける。


「へえ~……街の外はこんな感じなのか。」


 列車が街から出てから昼野はずっと窓の外を眺めた。彼はこのような風景はあまり見た事がない。街を出て行く事はそんなに悪くないと彼が思った。


 涼しい風が昼野の顔に当たり、彼を気持ち良くさせた。彼はいつものように座席に寄りかかる。出発から目的地までの距離は4〜5時間かかる。その上、昼野がいる客車はとても寂しかった。彼を含めて乗客は5人しかないせいで昼野はつまらなくなってきた。


 暇潰しできる物がないかを探してみたら昼野は自分の荷物に目をつけた。その中にマグナス様から頂いた黒い本が入っているのを思い出した。その黒い本を取って暇潰しをした。空いている窓から風が流れると、気持ち良く読書ができる。彼が本を開く度に中に書かれている内容が彼を夢中になさせた。


「これはすごい!授業で教えられてない事ばかりだ」


 昼野が次のページをめくろうとする時に何かに彼の手を止めた。彼の目に写っる物に凄く目に惹かれた。他のページに書かれている文字と違って十字架が書き込まれている。昼野は、この十字架をどこかで見覚えがあると感じた。彼はしばらく十字架を見ていた、次のページをめくろうとすると思い出した。


「えっ!まさか……」


 彼はマグナスが壁を開けた時のように指を十字架に挿し、十字架を書いたが何も起こらなかった。


「違ったのか?うんん…確か、あの時マグナス様は何かを言っていた気がするなでも、何だっただけ?」


 昼野は何度も試したが、マグナス様があの時に言った言葉を思い出せなくてついに諦め始めた。紙に指で十字架を描いたせいで彼の指に黒いインクが付いた。


[はぁ~ うまくいくと思ったのに…… これ希望とかないのかいよ。 ..!!? 希望... まさか..」


 昼野がインクのついた指を再び十字架の模様を描き始めた。


「神よ、あなたの最愛の同盟国に希望の光を与えてください……頼む上手くいってくれ〜お願い!」


 彼は期待したが、何も起こらなった。あの壁のようなトリックが起きるのを期待したのはバカだったと昼野が思った。


 昼野が本を閉じろとその時、十字架のシンボルが突然、変化し始めた。生きているように動いた。本の表紙はまるで貴金属を隠す宝箱の蓋のように変化した。昼野は好奇心を抑えられず開かずにはいられなかった。




「クラック!」


 開くと紙であるにもかかわらず箱の様に開いた。昼野は躊躇うことなく中から金色の光を反射する物体を取り出す。新品の懐中時計の様に見える。何か他に隠されているものがないかどうか箱を調べたが他には何も見当たらなかった。


「うん? なんだ? これだけ? がっかりしたよ!」


 ただのアクセサリーと見た彼はがっかりしながらそのアクセサリーを胸のポケットに入れたが、誰が何のためにこんな物を本に入れたのかと不思議に思った。


 その時、前の車両で予想のつかない恐ろしいことが起きた。前に座っている男が慌てているように落ち着かない。彼の顔から大量の汗が床に塗れた。ちょうどその時、この車両を見回りに来た一人の車掌が入って来た。そして、その男の異変に気付き、尋ねた。


「お客様、大丈夫ですか?」


 男は返事しなかった。彼は震えながら膝を抱きしめていた、車掌と目を合わせた。


「ゆる.. しっ..て..く...れっ はっ..いいっ..」


 この怪しい男は何を言っているのか全然聞き取れなかった。それでも車掌は諦めなかった。彼は片膝をつきその男を落ち着かせようとする。


「あなたの体調はよくないみたいですね。私はこの列車にいる医者をすぐに呼んできますね。」


 この怪しい男はゆっくりと車掌に向かって。


「許してください.. おおおおおおおおっ?!?!?!?!」


 その瞬間、最悪な状況が起こった。その男の腕から黒い鋭いスパイクが飛び出て来た。そのスパイクが車掌の頭を突き刺して彼の頭を吹き飛ばした。彼の脳みその破片と赤い血が車両の壁に飛び散った。一瞬で車内を真っ赤に染めた。とても、恐ろしい光景だ。座っている乗客が悲鳴を上げて叫んだ。皆がパニックになって一斉に逃げ始めた。


 この騒ぎが他の車両まで広がった。昼野自身も聞こえるくらい席から飛び立って、急いで騒ぎの発生元へ向かった。移動中で昼野は数人の乗客とすれ違った。遂に昼野は騒ぎ発生元の車両のドア前に着いたが、そのドアを開けるべきかしばらく、戸惑うが、彼は自分を落ち着かせてからそのドアを開いた。


「うん!? 何これ?」


 彼の目の前に何かが黒い物体があり、その黒い物体が車両全体に広がった。逃げ遅れた乗客は黒いスパイクに刺されたり、体を締め付けられて体をバラバラにされた。


「ガラガラ」


 昼野の背後からドアの開く音がした。ザ・センターの者の2人男が現場に到着した。彼らは昼野と同じくらい目の前の光景に驚いた。


「うわっ!? あれは一体なんだ?? スペクターなのか?」


「ありえない!! こんな真っ昼間にスペクターが耐えられるわけがない..とにかく、急いでザ・センターに連絡するのだ おおっ!おっ くっん お..」


 突然、黒いスパイクがザ・センターの一人に刺さり、車両の天井に死亡した。


「ああああああああああ!!」


 別のザ・センターの人がその攻撃を見て足から力が抜けたくらい倒れた。昼野でさえ体が固まって立ったままだ。倒れた人が急いで体勢を立て直してここで起こった事をザ・センターに報告しようとする。


 でも、それが彼の不幸だ。彼がその場から走り出すと黒い物体が長い触手を伸ばし、彼の頭を切り落とした。彼の頭が車両の床に転がって、残された体は二、三本前にしてその場で倒れた。


「!?……」


 昼野はこんな恐ろしい光景を見て言葉を失った。彼は何もできず、困惑した。彼は自分の足を動かそうとするが動けなかった。


「ガルルルルル!」


 この元凶の男の顔が現れたが、その顔はもはや人間の面影に見えなくなった。真っ白な目、バラバラ鋭い牙。彼の顔から長い顎が突き出す同時に恐ろしい叫び声を上げた。


「動いてよ!オレの足……お願いだから動いてよ。ここにいたらやられるんだ。」


 昼野の全身は震えてまったく足を動かせなかったが、彼は諦めていなかった。彼が頑張って自分の足を動かそうとしたが、彼の時間はここまでのようだ。化け物から黒いスパイクが昼野に向かって飛んできた。


「カラン」


 奇跡が起きった。彼に飛んできた黒いスパイクは昼野のポケットの中にある物とぶつけた。さらに、その黒いスパイクはが粉粉になった。


「えっ?! 一体何が起こった??」


 昼野に何か起きたのがまったく分からない。どうやら彼はこの攻撃から生き延びたようだ。今がここから逃げ出すチャンスだ。しかし、化け物が彼を簡単に見逃すわけない。やつは黒い触手を伸ばし、車両全体を張り付いた。袋の鼠のように昼野の逃げ道を完全に閉鎖した。


「マジかよ! やばいやばい.. これは最悪」


「グォオオオオオッ!!」


 化け物は再び攻撃を始めた。今度は昼野を飲み込むつもり、色な方向から黒いスパイクが飛んで来た。


「あっ……俺はここまでなのか ここで終わるのか くっ……ふざけんなああああ!!」


 昼野は様々な感情で声を叫んだ。彼は自分の死を恐れながらそれを納得する事が出来なかった。その声が喉から全力で叫んでいた。


「!!」


「キィイエエエェェェ!!」


 突然、無数の騎士の刃の様な十字架が上から化け物を貫いた。それは物凄い痛みを感じで叫び出した。十字架に刺された部分がほこりのように分解し始めた。


「君、ちょっと退いてもらえるかね?」


 昼野の背後から謎のおっさんの優しい声が響いた。黒いシャツを着た中年男、蝶ネクタイを持つ赤いスーツを着て。彼は乗客に飲み物を提供するバーテンダーのようだ。この男は何者か昼野は知らないが、確かなのは自分を助けてくれたのはこの中年男だ。昼野はこの中年男の言う通りに彼の背後まで引き下がった。


「ふん……どうやら私達が予想外の敵と遭遇してしまいしたね。しかし、悪魔は悪魔だ。」


 謎のおっさんは手を動かして十字架の模様を描き始めた。


「どうか、この男の罪をお許しください。」


 白い十字架が輝き始め化け物の体を光の柱となって吹き出し、化け物は塵となって崩壊した


「……スゲー」


 謎の中年男が化け物を倒すのを見て立っていた昼野。 彼はこの状況を生き延びたことにとても安心した。


「君、大丈夫か?どこかに怪我をしてないか?」


「いいえ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。」


「ふん、無事で良かった。」


「しかし、あれは一体何ですか?」


「私にも分かりません。ザ・センターの調査を待つしかない。」


「そうですか」


「日々に恐ろしい事が起こっていく、中々終わらないのだ。人間の私達は結構大変だね」


「あなたはもしかして、ザ・センターのスレイヤーですか?」


しばらくの間、昼野はこのおっさんが最強スレイヤーに違いないと思っていました。


「それは昔の事だ。今はもう引退したよ。」


「そうなのですか、こんなにすごかったのにもったいないですね」


「仕方ないでしょう。この歳で私はもうね、ほほほ」


「君はザ・センターの学生さんなの?」


「はい、ボクの名前は鳳翔昼野です」


「私の名はアレックス・ルシアンだ。よろしく、昼野くん」


「こちらこそ。」


「で君のような学生は一体、ここで何をしに来たの?」


「えっと、オレは教皇のマグナス様から第四司令部へ向かうようと命令を受けたのです。」


「マグナス様から? ふん、君のような学生をあんな危険な場所に送るとはとても重要な事みたいだね」


「ええと。グー」


 突然、昼野のお腹が鳴った。彼はとても恥ずかしかった。出発からまだ何も食べていなかったから。


「ハハハ、ちょっとだけランチがまだ残ってるけれど、もしよかったら私と一緒に食べるか?」


 親切なアレックスさんが空腹の若者をランチに誘った。アレックスの優しさで昼野が彼の親切を否定する事が出来なかった。




「ヴウウウウウウ!!!」


 遂に彼は安全に西の国境駅に到着した。昼野は電車から降りながら今日に彼の命を救ってくれたアレックスさんにお別れを告げた。


「ありがとうございました! アレックスさん」


「パアアアア」


「おい!!……そこの学生!早く車に乗って!」


 突然、グレイ色の車に乗って来たザ・センターの者が手を振って彼を呼んだ。それを見た昼野は急いで車の方に走った。彼はスレイヤーの制服を着た男の隣に座った。彼の制服は真っ白で、背中に十字架のシンボルはなかった。彼らは別の所に駐在するザ・センターの防衛隊だ。しかし、彼の表情は鬼のように怒っているに見えた。彼の濃い黒い色の髪と顎にひげを持つ、それが彼の外観を更に恐ろしく見せた。


「うむ、なんだこのプレッシャー? この人はオレの事を怒っているの?……ちょっと話かけた方がいいのかな? えっと……。」


「何だ!?」


「いいえ!すみませんでした!! ただ、機嫌が悪いように見えたので。」


「俺は長い時間待たされるのが好きじゃないだ!で何が?」


「すみません、ここに来る途中に事件が起こったので。」


「そのスペクターについての報告は受け取った。」


「えっ?? つまり、あれは本物のスペクター…… なんですか?」


「他に何になって欲しいのか?」


「アハハ……そうですね」


「お前は本当に運が良かったね。あの状況からよく生き延びた」


「いいえ、あの時はアレックスさんに助けられたのです。もし、彼がいなかったら僕はあの列車の亡霊になったでしょう」


「フン?? アレックス隊長はそこにいたのか?」


「はい、彼はボクを助けてくれたのです!あなたはアレックスさんを知っているのですか?」


「ああ、彼はここの第四司令部に所属するスレイヤーだった。あの頃、俺は第四司令部の司令官に就任したばかりだ、たまにはアレックス隊長と一緒に行動する事もあった。」


「へえ、そうですか…… うん!? ちょっと待ってください!第四の司令?もしかして、あなたはヴィンセント司令官ですか?」


「そう、俺だ」


「これは失礼しました!失礼なことを」


「気にするな。俺は気にしてないから」


 日没前に二人とも第四司令部に向かった。車は大きな壁に到着した。その壁はザ・センターの教会の壁よりちょっと小さいだけど、十分の高さだ。そして、その辺で巡回している兵士が沢山います。車は警備兵がいる門に到着した。ヴィンセント司令官が窓ガラスを上げたら警備兵達が敬礼した。


「俺だ」


「お帰りなさい!!司令」


「状況は?」


「今のところ異常はありません。今から結界を開ける準備に入るだけです」


「うん、分かった。あと、この車を頼むぞ。」


「はい!」


「よし、お前は降りて」


「はい」


 二人とも車から降りて、司令部の入り口まで歩いて行く。昼野はここの司令部の壁の頑丈さに感激した。ここの壁とザ・センターの壁を作った人は同一人物に違えないと昼野が思った。


「マグナス様の手紙を持って来た?」


「はい、これです。」


 昼野はポケットから手紙を取り出し、ヴィンセント司令官に渡した。彼は手紙を受け取り、すぐに中身を読んだ。


「さて、今日からお前は俺の部下だ。お前は俺からの命令しか受けない。もし、命令に従わない場合は処分を受ける。例え、お前は学生だとしてもそれは関係ない。分かったな?」


「は、はい!」


「ゴーン! ゴーン! ゴーン!」


 司令部の中央にある高い塔から鐘が鳴り響くと兵士達は急いで自分の配置に着きました。その鐘音は間もなく地平線から太陽が沈むことを示す警告だ。四つの高い柱の上にいくつかのエネルギーが放出始めました。 昼野はその柱を見て気になった。


「あの高い柱は何ですか?」


「あれは光の晶からの神聖な結界を発生させるジェネレータだ。外の影どもたちからこの司令部を守る為のものだ。詳しい事は後で説明するから、早く行こう。」


「はい」




 一方、地平線から太陽が消えつつ、何匹の鳥が家に飛び入った。周りの雰囲気は時間が止まったかのように静かになった。そして、その日の最後の光が地平線から消えた。


 地平線上から赤い光の波が空に広がって現れます。しばらくすると誰かが黒ペンキを注いだかのように巨大な黒い波が一瞬に空を真っ黒に変えた。通った場所にあるものがすべて飲み込まれた。


 4つの柱は結界を広げ巨大なドームのように地上まで第四司令部を覆った。昼野は唖然としてその様を見ていた。この光景を目の当たりにしたことによって、彼の運命は変わってしまった。




「ガツン!!」


 エリア全体に大きな音が響いた。近くにいる兵士達が驚いてこちらに振り向いた。少年の体はスーツケースと共に司令部の門の外に飛ばされた。


「え?! 何が起こったの??」


 昼野は強く地面にぶつけた。彼は手で体勢を当て直し、自分に何が起こったのか困惑まま座った。しかし、彼の前にヴィンセント司令と兵士達が昼野に武器や銃口を向かった。


「貴様……何者だ!!」


 鬼司令のヴィンセントは剣の先端を昼野に向けて怒鳴った。


「ち……ちょっと待ってください。これは何かの冗談ですよね?」


「全員!! 構え!!」


「待ってください!これは何か誤解でしょう、ボクはスペクターじゃありません。」


 昼野は一生懸命説明をしたのですが、誰も彼に耳を貸そうとしない。何故ならば、彼は皆の目の前で結界とぶつけた所を目撃したから言い訳するのは難しい。


「撃て!!!」


パン!パン!パン!


 ヴィンセント司令の命令を終わった後。昼野は急いで体を弾丸から避けようとしたが、彼の左足に一発の弾丸を受けた。


「あぁく!」


 昼野の血で学校の白いズボンを汚したが、それでも彼はここで立ち止まるわけには行かない。彼は弾丸に通過した傷口を手で塞いながらできるだけ早くその場から逃げた。


 その光景を見た兵士達は昼野を追いかけたとその時、影の波が司令部の前に向かって来た。その影は結界とぶつかり、全ての出入り口を塞いだ。そのせいで兵士達はパラレルナイトに逃げ込んだ昼野を追いかける事が出来ない。


「チッ、」


 ヴィンセント司令の表情は非常に動揺している。


「司令官、このまま見逃すのですか?」


「ザ・センターからの命令がなければ、外に出る事が許されない。何者であろうと絶対に外に出るな。それにまだ外にあいつがいるから。次の命令があるまで持ち場で待機せよ。俺はザ・センターに報告をして来る。」


「了解!!」




 一方、パラレルナイトでは運命が変わってしまった少年は生き残るために負傷した足を引きずりながら隠れ場所を探した。彼はこれから何をすべきかどこへ行けばいいのか分からない。ここのパラレルナイトでは外の世界と違って見覚えない建物ばかりが並んでる。ここは放棄された旧市街のように見える。さらに雰囲気はあまりにも不気味だ。


「はぁ はぁ はぁぁ……なぜ 何故こんなことに……なった はぁ……意味分かんねぇ……」


 逃げる最中に昼野はさっきの出来事と彼に何か起こったと自分に問い詰めた。そして、昼野は傷の手当できる場所を探すために冷静さを取り戻した。そうしないと彼は大量出血であの世へ行く事になる。昼野は放棄されたとある建物に逃げ込んだ。この建物は他の建物よりいい状態だから一番安全な場所と思った。


「うくっ……出血がヤバイ……どうしよう?」


 昼野は座ってしばらく止血方法を考えた。その時、彼は地面に落ちている割れたガラスの破片をちらっと見て。そして、そのガラスの破片を手に取り。自分の着ている黒いジャケットを脱いで、そのガラスの破片で内側に着ている白いシャツの袖を切り取り。それを使って足の傷をきつく締めた。


「よし、これで十分だね……はぁぁぁぁ」


 昼野は安堵して胸に手を上げ、疲れから壁に寄りかかり、彼に何が起こったのかを考えた、何故結界は彼にそのような影響を与えたのかについての答えは全く思いつかなかった。


「今日は最悪だ……でも、まだ生きているのは本当にラッキーだな……フン?」


 彼の胸を握っている手は、とある物を感じた。それを確かめるために彼は胸のポケットからそれを取り出して確認した。その物は電車に乗っていた時に入れた懐中時計のような金色物体だった。


「まさか……こいつが原因なのか?……いいややや違うだと思う。」


 その金色物体はマグナス様から貰った本と一緒に付いて来た物だ。この時計は何か意味があるかもしれない。そして、偶然に列車の中で命を救われたのもこの時計のおかげだった。昼野はそれを胸のポケットに戻した。


「はぁぁぁぁ、なせ、オレはこんな酷い目に遭わないと行けないだ……そう言えば、オレはパラレルナイトに入っているのでは?もし、マグナス様がこの事を知ったら絶対に怒られるな。でも、まずはここから抜け出す方法を見つけないと」




「ルルルル……」


 ヴィンセント司令官の執務室では彼は磨かれた木製の机で誰かと電話をしている。


「……我はあなたの報告を待っている。ヴィンセント司令官」


 ウィセント司令官の呼びかけに答えるのを待っているように見える老人の声が……


「あなたが送って来たあいつは一体? 彼はスペクターのか?」


「いいえ、彼は肉体的にも精神的にも人間です。」


「はっ? じゃあ、何であいつは……」


「神聖な結界の中にいることができない……だろう?」


「……そう、あなたの言った通り。」


「そうか……」


「それで、あなたはどうするのですか?」


「我はすで準備を進めています。司令官、次の命令があるまでいつものように第四司令部の指揮をやってください……報告をありがとう。」


「了解」


 ヴィンセント司令官は老人の電話を切り、お気に入りの黒い椅子に寄り添った。


「くそっ……教会の連中は何をするつもりだ?」



 一方、パラレルナイトの内側に昼野が隠れている放棄された建物では彼が窓の隙間から外の状況を確認しながら自分が遭遇した出来事を整理した。


「どうしよう……このまま朝までやり過ごせばいいんだけど、でも、ここは確か影使いの隠れ場所じゃないのか?……ここまで歩いて来たのにまだ一人も遭遇してないのはなぜだ? まぁ、よく考えたら誰とも会っていない方が良かったかも。」


「……た たすっ け……て……」


 建物の暗い奥から誰かが何かを言っているような音がした。昼野は怯えて動けなかった。この不気味な音を聞いた彼自身は、暗闇を覗き込む勇気がなかった。


「ズズズッ」


 昼野は暗闇をじっと見つめていると、目の前のかすかな動く影が自分の方向に向かって来たことに気づいた。


「ウワッ!?」


 昼野は壁にぶつかっても自分をその場から必死に離れようとした。


「……たすっ けて、 誰か……あのスペクターが 来るっ!」


 黒いマントを着た謎の男の姿が影から匍匐で出て来た。彼の体全体は血塗れで、両足が存在しない。この男が匍匐した道は血が流れ落ちました。


「えっ、人? それとも影使い?……しかし、なぜあいつはそのような状態に?」


 昼野はまだ怖がっていて、これからどうすればいいのか? 彼はしばらくその場で状況を整理し男を助ける事を決心した。


「助けて! あの化け物が あああああああああああああっ!!」


 だが、手遅れだった。黒いマント男が痛みで声を叫びました。彼の背中に巨大な黒い爪に突き刺れ、そして、彼は再び暗闇に引きずり込まれた。


 昼野はあまりの驚きで急いでその場から離れた。昼野が負傷した足を動かす度に傷口から血が流れて来た。


 黒マント男が暗闇に引きずり込まれても、彼を助けてくれる者を求めた声がまだ聞こえた。しばらくすると彼の声は暗闇の中に消えた。その代わりにその暗闇から浮かび上がる轟音が流れる。


 暗闇の中に細長い目が微かに光った。鋭い歯を持った嘴のモンスターの顔が現れた。それは口を開け刺すような轟音で唸り声を上げた。昼野は手を上げて耳をふさいだ。


「ス……スペクターなのか?」


 謎のスペクターはゆっくりと巨大な体を現し、その頭で天井を突き破れで一部の破片が落ちして来る。そして、物凄い力で狭いスペースから脱げ出した。今、落ちてくるのは天井だけではなく、この建物全体も崩壊し始めた。昼野はまずいだと感じて、急いで建物から離れた。


「ガガガシャーン」


 建物全体が崩壊し、ほこりがあちらこちらに散らばっていたが、謎のスペクターはまだ轟音を立て続けた。建物から脱出した昼野はもうじっとしていられない。彼は負傷した足を引きずりながら可能な限り急いで謎のスペクターから逃げた。


「はぁ はぁ はぁぁ どうしよう……どこに行けばいいの? 考えろ!考えろ!…… ふん……あそこなら助けるかもしれん でも……ああもう!ああもう! 行くしかない!」


 逃げた昼野は第四司令部を目指した。あそこは結界に守られているからパラレルナイトの影響を受けないはずと彼が願った。彼の背中から謎のスペクターの轟音が迫って来たが、昼野は背後に振り返らないように第四司令部へ必死に逃げた。


 昼野の表情はあまり良くない、彼のはまだ足に痛みを感じるが歯を食いしばって、その場所から脱出し遠く離れた。


 しばらくすると昼野はやっと司令部に到着したが、そこで彼が見た光景は他の場所と変わらない第四司令部の変わり果てた姿だ。兵士でいっぱいありふれた広場はもはや死の場所に変わった。


「……そ そんな、噓でしょう」


 昼野はそれに失望して進む事を諦めた。この状態でまともに身を守ることもできない。


 今まで逃げて来ことは無意味だった。この場所が一番安全だと思った自分はバカだった。この場所に戻って来た事は死刑場に来たと変わらない。


「バサッ」


 昼野の背後から巨大なスペクターの飛び降りた羽ばたきの音がした。他の選択のない彼はスペクターに立ち向かうしかなかった。


 月明かりの下で、巨大なスペクターの正体を現した。鳥の顔のような形で細長い首。その体には竜に似た黒い鱗で覆われている。巨大な翼は羽のように鋭い刺が並んでいる。そして、すべてのものを突き刺す事ができる曲がった長い黒い爪。あと、大きくて長い尾。


「…………」


 昼野はこのスペクターの圧倒的さに驚いた。彼は恐怖に支配されないように心を落ち着かせて、その場でただ静かにじっとした。昼野はまだまだチャンスがあると考えている。


「スゥー スゥー」


「!!?」


 昼野の耳元で、誰かの嗅ぐ音がした。昼野は急いで振り向いたが、負傷した足の痛みのせいで倒れた。


 昼野が知らないうちに頭が乱雑な黒赤髪の少女が後ろに立っていた。彼女の姿はとてもぼろぼろだ。白緑色の患者衣に血で染まっていて、どうやら彼女は精神が不安定なようだ。


 少女は倒れている昼野に飛び込み、気になる物があるかのように昼野の体の臭いを嗅いだ。


「な、何なんだ? こいつ……」


 少女はしばらく昼野を嗅いだ後、昼野の負傷した足を手で握った。


「いたっ!お前何をする」


 昼野は彼女を彼から追い出す前に、彼の頭が鋭い爪を持つ彼女の黒い手によって地面に押し付けられた。


「ベロ」


 少女は昼野の血にまみれた手を舐めた。そして、立ち上がって昼野の襟を引っ張って地面から持ち上げた。


「なぜ……お前の匂い……お前の味……私と同じ?そして、この気持ちは何なんだ?貴様は一体誰だ?」


「それはこっちのセリフよ……お前は誰だ?」


 昼野は少女の手から逃れようと必死に抵抗したが、それは叶わなかった。少女の見た目はごく普通の女の子のように見えるが、物凄い強大な力を持っている。


「めんどくせー もう知りたくない……早く消えろ。」


「グサッ」


「あっく……ひくっ ああっ……」


 真っ赤な血が少女の顔に飛び散った。黒いスパイクが昼野の影から噴出し、彼の胸を突き刺した。彼の血が大量に地面に飛び散った。そして、少女は昼野を投げ出した。


 巨大なスペクターは地面に横たわっている昼野を自分のエサのようにむさぼり食おうとするところに少女に止められた。彼女は優しくスペクターの頭を撫でただけで、スペクターは大人しく彼女に従った。


「ああー 俺... 死んだ? 体が...動けない 痛みはもう...感じない 寒い... 寒すぎる...どうしてこんなに寒いの? なぜ俺はこのように死ななければならないの? 俺は..まだやるべきことがたくさんあるのに、俺はまだ死にたくない 死にたくない 死にたくない、誰か..助けて」


 横たわっている昼野の体から流れてきた血が地面の色を変えた。彼の服は血にまみれて広がっていく。しかし、何かが彼のポケットから流れて出て来た。


 昼野のポケットから金色物体が落ちてきた。その物体は昼野の血に落ち、赤い血に浸された。その時、突然に輝く金色の輝きが周囲に飛び出し、昼野の体の周りに金色の魔法陣が形成された。


 少女とスペクターはあまりの驚きでその場から離れた。彼女は目の前の力に恐れた。スペクターは大声で吠えた。彼女が黒い爪を広げて、金色の光を見つめた。


 その滑らかな金色の肌はますます目立つように開いているように見え始めました。昼野の血が誤ってその機構を開いた。 その蓋はゆっくりと開き、無数の金色の糸が金色の物体からこぼれ出ました。それぞれの糸が結び始める前に、それは空中で羽ばたきました。


 金色の糸が集まり長い髪の少女になった。前髪の隙間から絹の様な白い額と煌めく小さな十字の耳飾りが見えた。赤いインナーシャツをした長い黒いコートを羽織る。鮮やかな金色の光の中で羽ばたき、白いスカートと黒いストッキングが太ももを覆っていた。


 宙をまう彼女の茶色ブーツの足先はゆっくりと地面に触れた。そして目を開けると、赤い瞳を誇らしげに輝かせた。


「フフフ……まさか、こんな風に出られるとは思ってもみなかったなぁ…… さて、私を呼び出す人はどこにいるのかしら?」


 少女はしばらくの間、影の所有者を探していた。そして、彼女は見下ろすと、血のプールに横たわっている少年の体を見た。彼女は少しショックを受けた。


「はっ?! 何故、私の前に死体があるの……ま まさか、このコイツが私を解放した人って言うのか?!」


 彼女は昼野に解放された事を冗談だと思っていたが、彼女が思っていた冗談は真実だった。


「はぁ?……冗談でしょう? 何故、私がこんなに運が悪いのか? 出られるのは嬉しいけど、影の所有者は死体だったとはな……」


 彼女のスカートを整理し、死にかけている昼野を見るためにしゃがんだ。彼はまだ意識があるかどうかを確認するために彼女は彼の頬に指をつつんだ。


「…………あぁ。俺の目の前いるのは誰だ、天使かそれとも死神か?僕を助けてくれ……お願い」


 昼野は金髪の女の子のぼんやりとした目を見ようとする。彼は残りの力で何かを言おうとして


「た..すっ..けて..ぼくは..死んにっ..たく.ないっ..」


 金髪少女は助けを求めている昼野の口の元に耳を傾け。


「まぁ~ 仕方ないわね、アンタが本当に死んでしまったら私も困るからね。」


 彼女が細い指をはじく。大きな時計の歯車の形をした魔法陣が地面に形成されました。金色の光線が空に舞い上がり、金髪の少女が昼野の頭を優しく膝に抱きしめた。


「これからアンタの命がある限り私はアンタの影になる。ええと……まぁ~今、アンタはもうすぐあの世に近づいているが、フン……契約者よ、私に答えて、私との影の契約を受け入れてくれるか?」


 昼野は、意識がもうろうとしているにもかかわらず、金髪の少女の話を聞く事が出来た。その瞬間、彼はかすかな声でためらうことなく反応した。


「お..おれ.. は..引き.受け..る..」


「ウム、いい子だ! 契約が完了ってことで! 私の名はクロノだ、でアンタは?」


「..ひ ひるっ や..」


「昼野か?変な名前だな〜 まあいいわ」


 クロノは髪を押さえ、身をかがめて昼野の口にキスした。歯車の魔法陣は絶え間なく成長し始め、明るい金色の光が明るい光線で空に舞い上がると再び点滅しました。契約が完了するとすべてが金色の液滴に分解した。そして、奇跡のように昼野の傷が完全に消えたが、彼はまだ無意識に横たわっていた。


「よし、それはアンタを救う事ができるかもしれない。」


 クロノは昼野の唇から離れ、そして、スペクターと少女を見上げた。


「アンタは良い子にここで寝ていてね。すぐ、戻って来る。」


 クロノは手で髪を伸ばし、黒赤髪の少女とスペクターの所に向かった。少女は、ゆっくり向かってくるクロノから距離を取った。彼女はクロノをとても恐れているように見えた。彼女はただ、クロノが近付く時に攻撃に備える事しか出来なった。


「どうしたの?何故そんなに恐れているの?まさか、アンタは私を恐れている? もしそうなら、おめでとう」


 クロノは少女に向かって歩くのをやめ、腕を少し広げて彼女に挑戦した。


「アンタは来るか?それとも私の方から行くのか?さあ、好きな方を選びなさい」


「てめえが嫌い..やかましい..めんどくさい..大嫌いだ..死ね、死ね、死ねぇぇぇぇぇ!」


 クロノの態度で少女を怒らせた。彼女は大声で叫ぶと同時に地面から丸太のような巨大な黒いスパイクが現れた。十本くらいの黒いスパイクがクロノの方に跳び向かった。


「フフ、そう来なくちゃ。」


 クロノは体を回して飛んでくるスパイクをかわした。スパイクは何も当たらずに彼女の前を通って行った。クロノは振り返り、スパイクの真ん中に蹴りを入れた。そうしたら大きな破れる音がして、スパイクの先端が空中に回転した。


「自分の武器でやられてみたらどうだ!!」


 クロノは投げ出された先端をつかみ、全力で少女に投げつけた。


「!!」


 少女は、クロノが投げて来たスパイクを手でブロックしたが、あまりにも強過ぎて、彼女がブロック出来ないくらい左手が一瞬で切断した。


「くそっ! ニグレオス! やれぇぇ!!」


 スペクターはその巨大な翼を広げて、クロノに鋭い爪を振り下ろした。


「ボカンンン!!」


 大きな音が響き渡り、巨大なコンクリートのスラブが平手打ちの衝撃で浮かんだ。セメントと土の破片が混ざり合ってほこりと一緒にいたるところに散らばった。しかし、この攻撃は無断だった。クロノは無傷で二グレオスの手に立っていた。


「ごほん、ごほん、外したわよ! 黒い鶏ちゃん…………おっと!」


 黒い爪が煙の中を斬ってクロノの顔に向かった。しかし、クロノのわずかな動きで爪を簡単に回避する事が出来た。クロノは少女の手首を掴んでひっくり返した。クロノは平手だけで少女の体に押し上げると、彼女の体は瞬時に空中で回転した。少女はニグレオスの爪に激突した。その時、彼女は二グレオスの手に身を潜めた。ニグレオスがクロノをむさぼり食おうとして大きな口を開いたが、クロノは急いでその場から飛び離れた。


「ご~めんなさいねぇ……今は鶏の餌になりたくないの」


 黒いスパイクが連続にクロノを攻撃続けた。彼女は回転しながらスパイクを避けた。まるで彼女は陽気に踊っているかのように見える。


「さっさと死ねぇぇぇ!!」


 少女はスパイクから現れた。彼女は手を振り下ろしでクロノの体を真っ二つに切り裂いた。クロノの鋭い目で地面に落ちている鉄の棒を見た。驚くべき戦闘スキルで、クロノはつま先で鉄の棒を手に弾きました。そして、その鉄の棒が黄金色に変わった。クロノは鉄の棒で少女の攻撃を受け止めるに間に合った。


「ガン―!!」


「フッ 残念でした。」


 クロノは目を瞬きで少女を怒らせた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 クロノの挑発はうまくいき、少女の顔に血がのぼって来た。彼女とニグレオスは交代でクロノを数回に攻撃を続けたが、どんなに頑張っても、クロノに指一本さえ触れる事ができなかった。


 しかし、クロノが使用してるい鉄の棒が少しずつ金粉に分解し始め、それは限界に近づいてきたという意味だ。そう見て、クロノは鉄の棒が壊れる前に少女に接近した。


「もういいかな……でも、楽しませてくれてありがとうね」


 クロノは少女のあごの下に狙って鉄の棒を振ったが、少女はすぐに気付かれてクロノから距離を取って下がったと次の瞬間、彼女の前で銃声が鳴り響きました。


「バンー!!」


 クロノはマグナムを振り回し、少女の左目に発砲した。黒い血が飛び散るほど弾丸が頭を通り抜けた。


[あああああああああああああ!」


 少女は地面に落下して、苦しみながら叫んだ。彼女は黒い血が噴出した左目をしっかりと押さえた。少女が撃たれたと同時にニグレオスの左目も爆発した。少女は自分がまずい状況に落ちたことに気づいて、急いでスペクターに自分の体を食うようにと命じた。そして、すぐに建物の影に逃げ込んだ。


「フン..逃げたか まあいいわ..」


 クロノはマグナムを下げて、そのマグナムが金色の粉になって消えた。彼女は嬉しそうな表情でまだ横たわっている昼野の方へ歩いて行く。


「私に救けられたアンタは本当に運がよかったわよ。ちゃんと私に感謝することを忘れないでね」


「........」


「もしもし、お目覚めの時間だよ。」


「........」


「ウム~いつまで寝ているのよ。」


 クロノは昼野の頬をつまんだが、彼はまだそのまま寝ていた。


「..え?? マジで、ねぇ、からかわないでよ..早く起きて!」


「........」


「いややや……嘘でしょう? なせこんなことに? あの時はちゃんと契約を結んだから傷はちゃんと治ったはず!?」


 クロノは何かを考えた。彼女は昼野の脈を取り、腰をかがめて耳を使って彼の鼓動を聞いた。


「…………マ マズイ」


 クロノは昼野の異常を確認した後、立ち上がった。大切なことをすっかり忘れてしまった彼女の顔は汗だくになった。


「わ……忘れていた!私の力は傷を癒す事が出来ても、魂はすでに壊れている……くそー!これはただの死体と何ら変わりのないじゃないか!」


「落ち着いて私……今、私の存在がまだ消えていないってことは、昼野にいくつかの魂がまだ残っている。まだ、救けられる……しかし、どうやって?」


「もし、私が昼野と一つになったらどうなる? この方法なら救かるかもしれない。でも、それはちょっと 恥ず か..し ぃ..////// ああもう!今は他の選択もういないし そうと決まれば、ちゃんと寝られる場所を見つけないと。」


 クロノは昼野を背負い、朝日が出る前にこのパラレルナイトで休める場所を探し始めた。




 翌朝、太陽が地平線に照らすと、パラレルナイトはゆっくりと消えていく。人々はゆっくりと窓やドアを開けて外を見た。彼らは結界が消えたことを確認する。そしてまた新しい日常生活を始める。


 長い間廃墟となった建物にほこりっぽくもろい部屋がある。その部屋の真ん中にある古いベッドには白い布で覆われた若い男がいる。引き裂かれたカーテンの穴から日差しが若い男の顔を照らすと彼がゆっくり目を開いた。


「……ウ、ウーム~?ここはどこ?……確か、昨夜が死んだはずじゃあなかったのか?…………フン!!?」


 昼野は裸姿でベッドから起こり出し。なぜ彼はこのような姿にあったのかについて彼自身の隅々まで調べました。


「オレは……まだ生きているの? 昨夜の胸の傷も消えた!?これは夢なの? それにどうしても何故、オレは裸姿なんだ!?」


「これは夢ではないよ、ばか……」


「そっか、でも、あの時はリアルに痛かったし。まるで現実だ……???」


 昼野は、誰かが彼の隣で彼と話していることに気づき。彼はすぐに声の持ち主に目を向けると、彼の隣に金髪の少女が裸で横たわっているのを見た。


「おはよう ヘンタイさん……」


「うわー!!?」


 昼野はびっくりしてベッドから飛び降りた。彼が目を覚すと隣に裸姿で横たわっている若い女の子がいる事に信じられないことでした。


「お前は誰だ? なぜ裸なんだ?」


「他人のように振る舞わないで、ばか……アンタには昨夜の責任を取ってもらうからね。」


「昨夜? 責任? えっ……どういうこと? まさか、オレがやったの??」


「フフッ アンタは中々やるじゃない!凄かったわよ。」


「嘘っ!?でしょう?」


「これからはちゃんと責任を取ってねぇ。ちゅー」


「あああああー! 本当にやったのか?? えっ で……でも、どうやって?あの時、オレはパラレルナイトにいたじゃないのか……なのに何故?」


 クロノはベッドから落ちた昼野に這い寄り、昼野の額を指でデコピンして感覚を取り戻した。


「痛っ!!」


「冗談なの……バーカ。」


「冗談??」


「そ、冗談だ……ジョウダン。」


「そうぅ……そっか、冗談か?よっかた。」


「なに……その失礼な態度は!もし、本当に私がアンタとやったらそんなに悪いとでも言うのか?」


 クロノは昼野を軽蔑しているように彼を見る、彼女は彼に対し非常に不満を持っていた。


「いいえ、いいえ、そうじゃない。なんでこんな事になったのか?」


「それで、どんな?」


「えっと……あの……それはぁ」


「まあ、いいわ……それを忘れて、早く服を着なさい。」


 クロノはベッドから起き上がり、服に掛けられた古い椅子に向かった。昼野はクロノの体から目を離せず、彼女の体を見た。彼女の滑らかな白い背中と美しいお尻は彼のような若い男を魅了した。クロノに聞きたいことがたくさんある。昼野は自分を落ち着かせて、スケベな事ことを考えないようにした。


「ねぇ……お前は一体、誰なんだ?なぜ、オレを助けた?」


 クロノは昼野の質問に答えながら黒い下着を着た。


「昨夜の事、何も覚えていないみたいだね?」


「うん……」


「まあ、いいわ。それではもう一度、自己紹介しましょう。ゴホン!……私はクロノ、アンタと契約した影だ」


 クロノは黒い下着を着て腰に立ち、自信満々で昼野に指さした。


「えっ? 今、何と言った? オレと契約?」


「そう!……私はアンタのスペクターわよ。」


「オレの……スペクター?」


「フフッ」

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