お飾りの奥様 4人用台本

ちぃねぇ

第1話 お飾りの奥様


【設定】

男:年商100億の会社の社長。望月修也、36歳。縁談話がうっとおしくて、見栄えのする手っ取り早く結婚できる相手を探している。

女:吉岡奈津美、31歳。婚活中。なぜか突拍子もない結婚話にOKを出した女。

秘書:都築。男の指示に振り回されがち。男女変更OK。

家政婦:10年以上男の家で通いの家政婦をしているが、なかなかのクズ。あと出番が少ないです。表記が「家」になっています。



0:とあるホテルのラウンジにて



男:結婚しましょう

女:はい?

男:式は4か月後の第2日曜日でどうですか?その日であれば半日時間が取れます

女:ちょ、ちょっと待ってよ

男:なんですか?

女:何って・・・私たち、初対面よね?

男:そうですね。あ、自己紹介がまだでしたね、私は望月修也と申します

女:やっぱり初対面って認識で合ってるよね!?会って一秒で結婚申し込み!?

男:あなたはこうして今日、お見合い会場に現れた。ということは結婚願望がある。違いますか?

女:絶賛婚活中だけど!でも!自己紹介の前に「結婚しましょう」なんて素っ頓狂なこと言ってきた人、あなたが初めてよ

男:じゃあ最初で最後の男にしていただきます

女:なにカッコいい風に言ってるの!

男:吉岡奈津美さん。あなたのことは少々調べさせていただきました

女:は?

男:本人に素行不良はなく、親近者に犯罪歴や借金持ちもなし。ご両親もご健在、なにより吉岡さんの見た目は美しく、結婚相手に申し分ありません

女:プロポーズの理由が肩書きや見た目ばかりじゃない!

男:肩書きと見た目がほぼすべてでしょう?まさか恋愛なんてくだらないことに時間を割きたいと?

女:はぁ!?第一、私の意志は!?結婚しましょうって、まさか同意してもらえると思ってる!?

男:断られる理由なんてないでしょう。私は年商100億の会社のトップです。加えて見た目もそこそこ悪くない、婚活市場では引く手あまたの36歳

男:31歳のあなたには喉から手が出るほど欲しいカードだと思いますが

女:カードって!

男:あ、そうそう、言い忘れてました。私は別にベッドを共にしてほしいわけではありません

男:妻としてふさわしい立ち振る舞いをしていただけるのなら、あなたが他所で男を作ろうと構わないし、多少の贅沢にも目をつむるつもりです

男:家には通いのお手伝いがいるので家事はすべて彼女に任せていますし、両親はすでに他界しているので同居の心配もありません

男:ただ、パーティやお客人が来た時だけ、着飾ってニコニコ隣で笑っていてくれればいいのです

女:つまり、体裁のいい妻が欲しい、ってこと?

男:理解が早くて助かります。社長業って結構めんどくさいんですよね。懐に入らんとする輩に娘だの姪だの紹介されて、最近は仕事にさえ影響が出始めています

男:利害関係のない妻をできるだけ速やかに迎えたいのです

女:まあ分からなくもないけど

男:それで?結婚しますか?しませんか?条件面で不服があるなら対処しましょう

女:・・・いいわ。結婚してあげる。条件はただ一つ。私のやることに口を出さないで

男:常識の範囲内でしたら構いません

女:あなたの家に引っ越せばいいのね?

男:2週間以内に荷物をまとめてください。引っ越し業者の手配はこちらがやっておきます

女:住所まで把握済みなのね

男:愚痴なら秘書にいくらでもどうぞ。それでは、私はこれから会議に出なければなりませんので先に失礼いたします

女:・・・あなた、生き急ぎ過ぎてない?

男:仕事くらいしか楽しみがないもので。賢い伴侶に巡り合えてよかったです。それではまた

女:最っ悪



0:男退出、秘書登場



秘書:都築と申します、以後お見知りおきを

女:あの人、あんなに働きっぱなしで倒れない?

秘書:そうですね、忙しさを理由に健康診断すら受けてくださらないので、体調面で心配にはなります

女:年商100億のトップがあんなに働かなきゃならない会社って、逆に不安なんだけど

秘書:社長は仕事人間ですから。平日はもちろん、土日ですら会社にお見えになります

秘書:有休をとられたこともありませんし、多分、他の方をあまり信用していらっしゃらないのだと

女:なんだか敵が多そうな人ね

秘書:はい。おそらく数知れず

女:内外問わず?

秘書:鋭いんですね

女:あの態度よ?部下に好かれそうな要素が一個もないじゃない

秘書:数年前まではもう少しお優しい方だったのですが

女:ふーん?あの人を変える何か・・・誰かに裏切られた、的な?

秘書:察しがいいですね。でも、正直助かりました

女:なにが?

秘書:即決で社長の申し出を受け入れてくださって。実は本日、断られる前提で他に2件のお見合いを予定していたので、一組目で受けていただけて、こちらとしてはかなり嬉しい誤算でした

女:合計3件も?合間に会議を挟んで?

秘書:はい。とにかく早く結婚してしまいたかったそうで

女:忙しすぎでしょ。そんなの、身体がいくつあっても足りないって

秘書:不躾(ぶしつけ)な質問なのですが、本当にご結婚されるおつもりですか?

女:ええ。私もそろそろ結婚したいなって思ってたし、金持ってる干渉してこない夫なんて最高じゃない。win-winよ

秘書:なるほど。それではこれからどうぞ、よろしくお願いいたします、奥様



0:3か月後、男の屋敷にて


女:ちょっとなんなのこれ!

秘書:奥様!どうされましたか?

女:この料理!不味いったらないんだけど!?

秘書:え?でもこの家政婦は10年以上この屋敷で働いておりますが

女:信じらんない!無理無理!私この女の作ったもの、これ以上食べたくないわ

家:そんな!奥様、あんまりです!

女:あんまりなのはどっちよ!今日は修也さんが帰ってくる日だって、分かってるからこんなものを作ったんでしょ!?

家:こんなものって

女:あなた、今すぐここを出ていきなさい

家:そんな!すみません、すぐ作り直しますから


0:男登場


男:なんだ、騒がしい

家:社長!奥様が・・・奥様が・・・!

男:なんだ、どうした

女:どうもこうも、この女の作ったご飯があり得ないくらい不味いのよ!

男:え?そんなはずは(皿に残ったおかずに手を伸ばす)

女:ちょっと!食べないで!(払いのける)

男:何するんだ!

女:食べちゃダメ!こんなの!ほんと最悪よ!

秘書:奥様・・・

女:ねぇ、あなた。私のやることに口を出さない、そう約束したわよね?

男:あ、ああ

女:だったら今すぐこの女をうちから追い出して

家:そんな・・・!すみませんでした!謝りますから!

女:そんな謝罪意味ないのよ!いいからとっととこの家から出てって!

家:社長・・・!

男:・・・今までご苦労だった

家:そんなっ!

男:彼女のやることに口を出さない・・・その約束で彼女を迎えた以上、彼女が君をクビだと言うなら、従うしかない。

男:持ち帰りの仕事があるんだ。すまないが、私は部屋に戻らせてもらう

家:そんな!社長!

秘書:お待ちください、社長!


0:男&秘書、退場。場面転換、書斎にて。


秘書:社長!あの方は横暴すぎます!長年仕えた家政婦を一方的に解雇するだなんて!

男:それでも彼女がそうしたいと言うなら仕方ないだろう

秘書:どうしてあんな女と結婚したんですか!

男:見目がいいからだよ。他に理由があるか

秘書:そんな

男:ま、もう少しマシな性格の女を選ぶべきだったが。即断即決の出来る賢い女性だと思ったんだが、まさかこんなにヒステリックだったとは・・・いてて

秘書:どうされました?

男:ああいや、最近妙に腹が痛くて・・・都築、ダイニングテーブルから胃薬を持ってきてくれ。あの場所に戻るなんて、考えただけで億劫だ

秘書:・・・わかりました


0:秘書再登場


女:よくそんなシクシク泣けるわね

秘書:奥様・・・

家:ひどいです奥様。秘書さんからも何か言ってくださいっ

女:ひどいのはどっちよ。人の旦那に毒盛ってるくせに。ほんと信じらんない

秘書:え?

家:っ!

女:舐めんじゃないわよ。あんたの料理が、修也さんが帰る日にだけ味が違ってることくらいとっくに知ってんのよ

秘書:それは、どういう

女:ここに引っ越してきて2か月ちょっと。あなたの料理は幾度となく食べたけれど、修也さんが家で食事をとるときに限って味付けが少し変なの。濃いっていうかなんていうか

女:お腹を壊すこともあったから、気になってツテで大学で調べてもらったわ。まさか洗剤を混ぜてるなんてね。誰の指示?それとも自分の意志かしら?

家:そ・・・れは・・・

女:洗剤の主成分である界面活性剤は人の粘膜を腐食するくらい毒性が強いのよ。気づかれないように少量ずつ混ぜてたんでしょうけど、あの人はいったい今まで、どれだけの洗剤を飲まされたのかしらね?

秘書:本当なんですか?

家:・・・私は・・・その

女:横田でしょ?頼んできたの

家:なっ!なんでそれを

秘書:横田って

女:修也さんの部下で、目下会社の乗っ取りを画策中の部長さん、よね?

秘書:なぜあなたがそのことを

女:私、ツテは色んなところにあるのよ。あの狸、裏でとんでもないことしてるわよ。邪魔な奴は消しても構わないって、もう極道も真っ青の考え方。家政婦さん、あなたはいくら積まれたの?100万?200万?

家:わ、私は

女:金じゃないなら弱みでも握られてるのかしら?もう全部わかってるんだから、さっさと喋って頂戴

家:・・・やらないと、私の浮気を主人にばらすって・・・

女:呆れた・・・そんな理由で人殺し?

家:殺す気なんて!ただ、ちょっと体調を壊して入院してくれたらって・・・そしたらその間に会社を好きにできるって横田さんが・・・!

女:えげつな。都築さん、この女、速攻解雇でよろしく。あと、今までの音声録音したから

秘書:いつの間に!?

女:ご主人に浮気と、それを隠すための毒殺未遂がばれたら・・・あなた、どうなるかしら?

家:すみません・・・すみません・・・!

女:謝罪はいらないの。私はこれ以上、修也さんを傷つけたくないだけ。速やかに出てってくれれば大ごとにはしないわ

家:ほんとですか!?

女:ええ。そして二度と私たちに関わらないで頂戴

家:約束します!本当にすみませんでした・・! 



女:この音声データであの狸をどこまで追い込めるか微妙だけど・・・やってくれるわよね?都築さん。裏取り調査もしっかりね

秘書:はい・・・あの、奥様

女:なに?

秘書:奥様は、何者なんですか?

女:ええ?ただの奥様だけど?

秘書:そんなおためごかしで誤魔化さないでください

女:・・・私はほんとにただの奥様にすぎないのよ?お飾りの奥様・・・心の底からあの人を愛してる、バカな奥様

秘書:え?

女:あの人が大事だから全力で守ってあげたい。そのために私にできることをする・・・ね?どこにでもいる、ただの奥様でしょう?

秘書:でも・・・お二人の結婚は一般的なそれとは・・・

女:だいぶ違うんだけどねぇ・・・私ね、あのお見合いの日、プロポーズされて嬉しかったのよ

秘書:え?

女:ほんとひどいプロポーズだったけど、嬉しかったの。だってあの人・・・15年前、電車で痴漢されてじっと耐えていた私を救ってくれた王子様だったんだもの

秘書:ええ?社長が、ですか?

女:ええ。一目見て私はすぐ思い出したし、見つけ出して会いに来てくれたのか!って感激したのに・・・酷いわよねぇ~選んで妻に迎えてくれたんじゃなくて、お見合い一組目がたまたま私って

秘書:それで、奥様はあんな突拍子もない結婚話にOKを・・・

女:そ。この人、条件が合えば誰でもよかったんだ~ってめちゃくちゃ腹が立ったけど、一組目が私でよかったって思っちゃったの。いつか・・・いつか、本当の奥様になれないかしら・・・なんて・・・バカよね

秘書:だったら・・・だったらなんで、毒のこと、社長に隠したんですか!?あんな怒り方したら、奥様のことを誤解されるだけです!

女:あなたもひどい女だって思った?

秘書:・・・はい

女:正直ねぇ。都築さんのそういうところ、好きよ

秘書:奥様・・・どうして隠されたのですか

女:・・・だって、言えないわよ。修也さん、また傷ついちゃうだろうし。修也さん、数年前も誰かに裏切られて傷ついたんでしょう?

秘書:それはそうですが

女:裏切られるとねえ・・・心が閉じちゃうの。あの人がこれ以上傷つくのは見たくないの。だからね、お飾りの妻がヒステリー起こして家政婦を追い出す方が、まだマシなのよ

秘書:そんな・・・

女:あ、そうそう。あの人にちゃんと健康診断、受けさせてね?腹痛だけで済んでるのかちゃんと検査してもらわないと

秘書:・・・早急に手配いたします

女:よろしくね。私、少し疲れたわ。もう休むから、あとお願い

秘書:はい



0:女退出



秘書:あ、そうだ胃薬・・・って、え、社長!?



0:男再登場。扉の前でしゃがみ込んでいる



秘書:社長!大丈夫ですか!?

男:・・・ああ、大丈夫だ、色々と驚くことが多すぎて少しふらついただけだ

秘書:・・・もしかして、聞いてましたか?

男:そうだな・・・界面活性剤の辺りから

秘書:だいぶしっかり聞かれてますね

男:薬一つ取ってくるのに随分かかっていたから様子を見に来たんだ

秘書:すみません、遅くなりました

男:いや、構わない・・・都築

秘書:なんでしょう

男:俺はあいつに何を返したらいいと思う

秘書:え?

男:縁談がうっとおしくて、手っ取り早く社会的信用を得るためだけに彼女と結婚した。条件が合えば誰でもよかった。そんな俺をあんな形で愛してくれる彼女に、俺は何を返せばいいんだ

秘書:社長

男:仕事に差し障りがない女なら誰でもよかった。できるだけ見栄えが良くて舐められない女なら誰でもよかった。なのに、なのに・・・どうして俺はあんなに心の綺麗な人を捕まえてしまったんだろう・・・

秘書:社長。奥様は、社長に何も求めてはおられません。何かを返されたくて行動しているわけではありません

男:だったらなおのこと・・・俺にできることはないか?なんでもいい、なにか返したい

秘書:そうですね・・・あ、奥様が社長に求めていることが一つだけありました

男:なんだ

秘書:健康診断を受けてほしいそうです

男:・・・あは・・・あははっ・・・そうか・・・そうか

秘書:日程調整をいたしますので、お時間取っていただけますでしょうか

男:・・・わかった。この際人間ドックでも何でも受けよう。・・・あと一つ

秘書:はい

男:その日は一日空けておいてくれ。彼女と食事がしたい

秘書:かしこまりました

男:・・・今からでも、彼女をちゃんと愛したい

秘書:・・・できますよ

男:そうかな

秘書:はい。なんせ社長は、365日会社の為に働けるバイタリティをお持ちですから

男:なんだそれは

秘書:その情熱をほんの少しでも奥様に向けてあげてください

男:そうだな・・・そうしよう

秘書:それでは、日程を調整してまいります

男:よろしく頼む・・・ああそうだ

秘書:はい?

男:・・・なるべく採血の上手い病院にしてくれ。注射は昔から苦手なんだ

秘書:承知しました

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お飾りの奥様 4人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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