第10話

第 1章

「人質司法というものが私も嫌いだわ」

少女が取調室で女の人に声をかけました。

「…」

「人為的に作り出された困難や障害は、事実や証拠が重要でないと感じさせてしまう。」

「…」

「衛兵隊に捨てコマとされたこと、悔しいでしょうねぇ」

「…」

「気軽に言えることじゃないかもしれないけど…両親を探す努力もしてるわ」

「魔王の…両親?」

「魔王と言っても、銃に撃たれた死ぬものだ。」

「ごめんなさい…」

「そう言えば、戦時中にいろんなドリルを使って、銃の生産に手伝ってきたの。多分、ブルティーノの子供たちは銃工場の場所を知らない人はいないと思うわ」

「…」

「信じられなかった…私にも銃の製造に手伝うことを」

「…」

「あなたの心の盾が頑固だわ。私に分けてほしいとお願いしたいくらいに」

「…」

「最もチカラを持つことは、私にとって重要ではない。夜、横になって眠りにつくときに”本当に素晴らしいことをしたんだ”と言えることが、私にとって重要なことなのだ。」

「…」

「すべての乙女のこころの中には、踊りたいと願う白鳥が眠っている。その一羽の白鳥を救うことは私の今日の”素晴らしいこと”にしたいわ。私を代理人として、私が処理してあげようか」

「…」

「私に奉仕せよ、私の盾となれ…ってお願いしたいとしても、強要しないわ。自分の心に従いなさい。」

「…やります」

「あなたの代理人としての書類を準備してくるわ」


少女がミノさんと話しています。

「被害者であって、加害者の代理人であって、慣習法の世継ぎでもあって、まるでトリニタスTrinitasだわ」

「新しい宗教を開拓して、集金したら簡単に魔王城の税金を解決できるのにね」

「私は多い借金を背負ったとしても、賭博場に行って夥しいリンジーを稼ごうとしないわ」

「次はどうする?」

「とにかく、明日は新しい日だ。」


少女が委任状を書いています。

「…権限を委任します。 △△年5月…29日」

5月29日。

第 2章

「メイっち、思ったことある?エンドレスな計算より効率のあることを。地下で数十キロのトンネルを建てて、昼夜問わず魔法を打ち続いたら、何だかの結論を必ず出すぞ。もしかしたら時間も空間もチョコチップpépites de chocolatのように散らばってしまうかも」

「もし結果的に何もなかったらどうするかしら?」

「周り環境に何の作為もない魔素子が発見されたことと宣言して、ノブルトリノnobletrinoと名付ける」

「市立大学の学生会が1年かけてようやく300リンジーの図書購入予算を可決したことより意味があるわね」

「『東部大陸語で』姉上、これが分からないよ」

「『東部大陸語で』どれどれ?『連邦語で』この仕事は1ヶ月で ___(終わる)。 Ces travaux _____ (finir) dans un mois. 『東部大陸語で』前未来形って学んだ?avoirとêtre単純未来形と併せて過去分詞…」

「『東部大陸語で』分かった。『連邦語で』またねau revoir」

「こんなんじゃ編入試験に間に合わないんだ。学校と違って誰でも簡単にお金を払えば知識や情報を提供する場所を作って商売すれば儲かるのだろう…カルメン!Carmen」

「できたいならカルモン♪」

「いい感じだわ。けど、メロディーは新聞に載せないよ」

「続けて、この五次方程式の単調性を分析する力を貸して、でないと魔導コアを遠心分離する範囲量というドラゴンを倒せないぞ」

「御意。団長さま」

「簡単に大量の数値を計算できる機械を発明したら、爆薬商人の賞杯をもらえるのかな」

「零点を計算するだけで魔導コアを遠心分離することを導くなんて、数百年前の人が思ったこともなかっただろう…できた、孤立零点だわ」

「メイっち、導関数の係数を間違ったぞ。魔導学に向いていないのなら翼っちのクラスに編入していいよ。うち、さびしくならないから」

「バカシアナに言われたら屈辱だわ」

「天才シアナへの褒美と受け入れにしよう。ゆっくりしていってね」


第 3章

「当該犯罪が重大な性質のものであると憲兵に思われる場合、または憲兵がその者を拘留すべきであると合理的に考える場合を除き、憲兵は、保証人の有無にかかわらず、その者のために相当額の保証人を立てる…結局お金が役に立つものだわ」

「ユージェちゃん、初めての書類作りとしては、立派なもんだ。」

「9年生の作文で基礎を築いたわ」

「刑事訴訟法le code d’instruction criminelleを読んでいるのか」

少女が厚い本をつくえに置いて、浮かない顔でミノさんを見ます。

「ねぇ、ミノさん、お金さえ払えば、罪のある人間も解放できることって、現代の奴隷制度と思わない?」

「世の中に2人でも奴隷制度のような関係が続いているのなら、奴隷制度が存在すると思う」

「私が7年生の歴史の授業で学んだように、サン=エティエンヌ=ブルティノー王国時代では、もう奴隷制度が廃止されたじゃなくない?」

「奴隷制度の合理性を考慮するのは、平和に戻って暇すぎて余計なことばかりしている人だ。戦場に行ったら、1日の配給は1人当たり粗塩漬けのコンビーフ1缶だった。3日に1度、温かい食事が出るけと、そのとき、缶詰は半分しかくれなかった。信じてくれ、毎日何万人が亡くなっているのなら、奴隷とされても文句を言う人はいないんだ。」

「パン・オ・レザンPain aux raisinsを食べたくなってきたわ」

「少なくとも紙の女神像が人を騙しやしない…人を食いやしない…」

「ラコストLacosteさん?サインしていただけます?ミノさんが幻覚でも出ましたわ」

「ミノ?除隊年金を紙の女神像にぶっ投げるやつには自業自得だ。」


第 4章

「どうしてあたしを解放してくれた?初対面なのに…」

「今日からあなたは私のメイドだわ。3万リンジーで保釈したもの」

「…まるで気まぐれで人の運命を操つろうとする魔王みたい」

「魔王だもの」

「自分が賢いでも思っていた?」

「ねぇ、レタヌールさん、汽車に乗って来ただろう?どうして連邦国鉄の職員がストライキをしないことが分かっている?待遇がいいだから。もしも国鉄の職員がストライキを起こしたら、物流や交通がすべて麻痺状態となる。その時には、スーパーに何も買えないし、病院に薬も入ってこないのよ。ラ・シテの連中らが魔王の一族の力に怯えているから、少なくともラ・シテとブルティーノの鉄道を優先とメンテナンスしているわ。この町に魔王城が立っている以上、ラ・シテが安定を守る行動をし続けるのだろう…」

「そうなんだ」

「それくらいは分かっているわ。魔族と人間が交わった町だから、戦争の時に兵士の召集が少なかったの。ブルティーノ人を犠牲にしてラ・シテの連中の紙の上での用兵を充てることは、この町で望む人がいないわ…私からしたら、一般人にとって、この世界には2種類の死がある。平和の時代に同族からの無関心による死、あるいは、戦時におけて同族の血に飢えた情熱による死だわ…」

「示唆に富む言論だ」

「聞いてくれてありがとう。教育を受けたことのない人間に見えないわ」

「ラ・シテ南郊陸軍軍官学校141期卒業生、カルメンシータ・レタヌールと申す。」

「下ブルティノー市立大学付属ティボービル西高校在籍生、ジャンヌ=ユージェニー・ド・ルプレイヌ=ド=メだわ、よろしくね。あと、嫌でも3万リンジーまでの分を働け」

「かしこまりました。ガキ…お嬢様」

「よしよし」

少女がレタヌールさんの頭を撫でろうとしたが、届かなかったです。

「二段ジャンプ!あ、飛んだからカウントできないかしら…」

「この子、本当に魔王の一族なのか?」


第 5章

深夜になり、魔王城の中は静まり返っていた。 時計だけが、カチカチと澄んだ音を立てながら不眠不休のように時を刻んでいる。魔王城の中にいる二人はどちらも眠らない。


「ああ、学校に行かなくて最高だ!代数学や幾何学は死ぬほど退屈だ! 何のために勉強するんだ? 女として当然結婚するんだから、妻に代数を知ってほしいなんて男はいないんだ」

「あなたの生涯の計画を批判する気がないけれど、思考回路が使わずに、ただシアナさんの宿題を写してくれているだけしかやっていないじゃない?」

「まさかメイドの仕事は魔王の宿題のコピペを手伝うなんて、考えでもしなかったんだ」

「仕方ないじゃない?この数週間の出来事って、知っているでしょ?それに大体復習となっているから、」

「道徳的にすじが通らない」

「道徳とは、ごく少数の天才を抑えるために、凡人たちによって発明されたものであって、ある哲学者はこう言ったわ。」

「はいはい、劣った凡人たちが魔王様に勝てやしない…水?排水管が真上?まあ雨上がりの歩哨所よりましだ」

「…そんなこと、言っていないわ」

少女が目がうるうるします。

「チェックメイト。あ、そういったら、今日の手伝った分3万リンジーから差し引ける?」

「…うん、いいわ。台所に行ってくるよ」

数分後。

「レタヌールさんー」

少女が哀願の口調でレタヌールさんを読んで、黒い何かが載っている皿を見せます。

「聞いておくけど、魔王の一族という言葉の意味って、炭焼きじゃないよね?」

「昔は料理はしなかった。 ただ観察して、その美しさを見つけるだけで十分だったわ。」

「愛する神よ、私の愛しい…ラザニア?の魂を天国におお送りください。」

「ラザニアの残骸に祈らないでー」



第 6章

5月30日の朝、少女が通学路にある店の窓の前で自転車を止め、ガラスに映った自分を見ていました。

「翼っちって、なんか元気ないね」

ボサボサの髪型をしている少女が通りかかったシアナさんに挨拶されました。

「ね、シアナさん、自分のしたことにつけが回ってくることって信じている?」

「モンパンソンMon pinson、混沌から神が世界を作ったくらいからゆっくり話を聞いてあげたいけれど、遅れて出かけているから、漕ぎながら話そうか?」

「あ!」


「昨日の雑誌月報で秘話コラムを読んだんだ。その小指を使って石を金に変える実験は、古典魔法学をひっくり返した、とんでもない詐欺事件だ」

「そして、父上の小切手を使って、なんとか保釈の手続きを済ませたの」

「それで分かった。すべての愚かな行為は、それが十分に気取って、呆れさせ、下劣であれば、常に群衆の喝采を浴びることになるのだ。」

「未だにレタヌールさんを完全に信用してない。レタヌールさんが逃げたら、その保釈金が没収されるわ…銀行口座に何リンジーがあるかさっぱり分からない…不渡りになったらどうするかしら」

「もちろんうちにとって闇の魔王として世界を支配するのは、世の中で最も素晴らしいことだ。」

「トピックもポジションもパラレルなトークでありがとうわ。…「止まれ」でオノレ大通りを渡るのは危ないわ」

「集中すればできないことはないのだ!」

「信号無視に使うことばじゃないもん」


「オララohlàlà、なんとかぎりぎり間に合ったぞ…って、駐輪場所が変った?」

「それが原因かも」

2人の目の前に大量のテンダム自転車が並んでいます。

「もしもメイっちがいたら、テンダム自転車の長城と呼ぶのだろう」

「そう言えばシンメイさんが一緒じゃなかったわね」

「メイっちが早く出てしまった。何の用だろう…勇者として選ばれたのか」

「魔王と勇者の話って全然面白くないなの。名誉毀損で訴えるわ」

「昔の人たちなら、こうした規則や規制など気にも留めなかったぞ。」

「謝って」

「ごめんね、モンパンソン」

少女がふざけてにやにやしているシアナさんの顔を見ながら軽く嘆きました。

「シアナ・グネル被害者後援会の会長にも務めさせていただくわ」


第7章

「あら、ルプレイヌ=ド=メの聖女la Pucelleさんじゃない?」

「あ、モニックさん、また会ったのね。数学の授業の時にすまなかったわ。聖女って、ラザニアを食べるから?ボーマノワールさんとランチを交換しただけだよ。シアナさんのことを教えたプレゼント…本当に私って秘密を守らない体質だわ」

「初対面の人を3万リンジーで保釈してあげた行為は、聖女がすることと言えるだろう。魔王城はどうするかしら?」

「それは…というか、ボーマノワールさんは?」

「テンダム自転車の搬出作業に腰が折れるなんて、冷めるわ。ところで、数学の先生に魔導学クラスの宿題をコピペした時のあの「魔王だから細かいことを気にしない」…ちょっと抜けてる悪役のフリ。お笑い芸者comédienneに転換したらいいくらいだわ」

「そして魔王城でサーカスを開く?それはありがとうね。魔王城ランドの専務さん。火の輪くぐりにも兼任したいかしら?」

「わからないの!?あの人の所属するラ・シテの衛兵隊に損害賠償請求が送れるのだわ」

「それ、誰から聞いたの?」

「話しかける気がなかったけど、数学の授業の時に…まあどうでもいい、シアナが聖女を助けてほしいって頼まれたから…」

「いい一手だわ…ちょうど市長らの連署を持っているの、使い回しにしてみるわ」

「感謝の言葉は?…まるで、悪しき世襲制が凝縮された光景ね…」


「そろそろ戻ってきてくれねーか…限界なんだよ…」

ガリポーさんが自分の腰に腕を回して支えて現れました。


第 8章

「お腹すいた!クレープある?クレープ」

Tchi Hauのドアがポンっと開けられました。

「ネギなしツォンユービン葱油饼?」

「あとお酒」


「やっぱ犬のように働いているのは、美味しい酒を味わうための試練だ。」

「『東部大陸語で』帰ったわ。シンカンちゃん、シアナ姉さんが晩ご飯の食材を買いに…メイド?」

「酒っていいものだ。混乱は私たちを苦しめ、酒は私たちに苦しみを捨てさせる。ド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢ちゃんが紹介してくれた店って、ちょうどいい感じ」

「あ、それ、紹興酒だわ。連邦って味覚が鈍感な者ばっかり…トマトソースSauce tomateをごくごく飲むと同然だわ」

「我味わう、故に我在り。ね、知っているか?大人になって素晴らしいところは、好きなときに好きなだけ飲み物を飲めることだ。」

「もしすべての人に銃を売ることって許可されたら、あんたの仕事がなくなるのだろう。これも税率を引き上げる議会の連中らしい提案だわ。」

「魔王のお嬢さんと私に、いまだに敵意と自然な反感を隔てていることを知らないのか?」

「拝聴するわ」

「懐の中の蛇、束の中の鼠、納屋の火は、善意の与える者に悪い見返りを与えることを知らないのか?」

「この話は非常に無責任だと思う。もし多くの人が善い行いは罰せられるという議論を座右の銘にしたら、憲兵の予算を大幅に増やす可能性があるわ。」

「言われたら、それもありね。こういう考え方はラ・シテで衛兵隊をやってたのが原因かも…けどラ・シテに戻る気がない。第3小隊の隊長が裏でみかじめ料を取ろうと…」

「話が長くなるのね。待って、お茶を淹れてくる『東部大陸語で』シンカンちゃん、お湯を沸かしてくれない?」

「一杯くらい飲まないか?」

「そちらこそせっけん水を飲んでみないかしら?」


第9章

「一体どうしてこうなったんのだろう…」



数時間前…少女が学校から離れてマーシャン法律事務所に訪ねています。

「パパの説明がわかりにくいんだ」

「空間幾何は中学数学の基本だろう?公式を暗記すれば解けるんだ」

「だって、正四面体の外接球の半径を求める公式なんかどこでも書いていないー」

「もう神のみぞ教える。母ちゃんの皿洗いに手伝ってくる」

「四面体を想像してみ?外接球の中心があるでしょ?そしてどちらかかの頂点から線分へ下ろしたて垂線の足があって、中心と頂点と三角形ができる。その三角形で三平方を用いて方程式を立てれば、簡単に求めるわ。ちなみに立方体における外接球の直径は、立方体の対角線の長さだわ」

「どうして誰にもあたしに難しい授業をしたいと思うのでしょうか?」

「話を変えよう。その結婚指輪が患者のお尻に傷付けてしまった看護師…サラの同級生のいとこは結局どうしたの?」

「それからのことはあまり詳しく知らないんだ。 彼女に一度鉛筆を貸したことから知り合った。この数週間に1回だけ話したことがある。ん…あと彼女が明日のテストに不安がるだから、今は集中する必要があるから話しかけないでってくらいの話だ」

「そうなんだ」

「ね、ユージェ姉ちゃん、一つお願いがあるの」

「今度の試験、赤点を取らなかったら、いいわ」

「羽根ペンがほしい」

「今度の試験、赤点を取らなかったら買ってあげるわ。羽根ペン…トロワヴィルで買えるかなー」

にたりと笑うリサを見る少女がなんか嫌な予感がします。

「ユージェ姉ちゃんの羽根ペンがほしい」

「私の羽根ペン…ダメダメ!」

「魔王って我が子のようにたみを愛すべきじゃない?」

「はさみを下ろしなさい…近寄るな!」


第9.5章

あらゆる種類のビジネスは、人に依存して、そして美への敬意があります。 そうした逞しさや美しさの価値は、真に歴史を知る者にしかわかりません。人には複雑な感情、さまざまな心の段階、喜びや悲しみ、気分の波などはないはずがありません。特に却下された、お尻に指輪が残されたから傷害罪で起訴したい訴状を見直しているエンリおじさんに、時々娘のバガけな宿題を無理やり聞かれた時に、その複雑さはなおさらだっと、少女が思います。

「忙しかったら、私自分が何とかするわ」

「ごめんね、ユージェちゃん」


「見せて見せて」

少女が握った何枚の手紙がサラに奪われました。

「この人のための書類だから、後ろにあいまいな文書ばかりが載っているから。前のページを書き直したらいいじゃない?」

「あ、そうだ!エンリおじさん、タイプライターを使わせてもいいかしら?」

「いいけど、下書きができてから使いなよ」


幕間6

「何をしている?」

「夜逃げの準備だわ。正々堂々と長野崎に行けるでも思った?」

「フェリーに乗ってモト島に行って、またフェリーでココノ州にいけばいいの話だ」

「…いいか?50ヘルツと60ヘルツのエリアに行き来するには、通行手形が必要だわ」

「通行手形を取ればいい」

「あなたは何もわかってない。60ヘルツエリアに訪問学者?ハードルが高すぐるわ」

「あと一緒に考えてよう。」

女の子のそっくりさんが妙な踊りをし始めました。

「ダックダックで見た踊りだ。男子に心を鷲掴みにして、惹きつけてしまうらしいぞ」

「男子がキノコで心を鷲掴まれるならまだしも。それにダックダック?スカルも置いて、ロウソクでも燃やしたらもっといいかしら?バカにしないで頂戴?雑誌で紹介した黒魔術なんかじゃないわよ」

「スマホを持っていないのか?…何でもない」

女の子のそっくりさんが玄関にある黒電話を見て、気落ちてしまいました。


部屋隅っこの目覚まし時計が鳴りました。

「あ、そうだ。1.5倍特売の時間だわ。レプリカ、一緒にくる?」

「1.5倍特売とはなんだ?」

「2枚配給券を3枚に使えるってのこと」

「行動機械でも持ってるのか?」

「行動機械、うん。この世界では中学校を卒業したら必ずもらえるんだ。でも冬の燃料配給券が家に優先的にしているから、あまり使わないけど」

「羨ましい。モペットでさえ乗られなかったから」

「燃料配給券が…今夜は裸で抱き合って体力温存だわ」

「それは羨ましくない」

第 10章

夜になり、街の明かりが、人々のこまごました日常を語ります。少女が一人で書類を抱きながら、稀に1人か2人くらいすれ違う、ガラガラの石畳の道を歩いています。

「GO!GO!GOAL!」

あいきくマーシャンおじさんちにパンク修理セットが揃っていないから、仕方なく歩いて帰宅の少女の後ろに、妙な叫び声が届いてきました。

「GO!GO!GOAL!」

声が大きくなってきた。

「ボーマノワールさん?回送の仕事が押し付けられた?大変だね。」

たくさん汗のかいているボーマノワールさんが、テンダム自転車の前席に乗って現れました。

「ハーハー…ドルペヌ=ドメの姫さんじゃないか」

「いい加減に私の名前を正しく…。ウルフ・ユニ・ヴェロに向かっている?道順が同じのなら、前のカゴ、貸してもらえる?」

「一緒に乗ってくれるのか?やった!シアナさんが居たらなおさらだけど…」

「疲れたでしょ?ぶつぶつシアナの名前を繰り返して言うなら、乗ってあげないよ?」

「悪かった。行かないでくれ」


(数時間)お久しぶり爽やかな風を浴びる少女、風で服を乾かす少年がテンダム自転車に乗って無言のまま、十数分経ちました。

「テンダム自転車の回送…5リンジーで運んでいる?」

「結構いい金額が出たよ」

「一体いくら?」

「5リンジー20センだ」

気まずい沈黙が数分続きました。

「昼、ボーマノワールさんが交換してくれたラザニア、とても美味しかった」

「姫さんのアドバイス通り、シアナに声を掛けたら、彼女が返事でもせずに女子トイレに入ったよ」

気まずい沈黙がまた数分続きました。

「そういえば、ボーマノワールさんってグネルさんが好きだね」

「そうだけど、他の人に言わないでほしいなー」

「みんながこのことは公表したと思っているけど」

気まずい沈黙が再び始まりました。


第 11章

オノレ大通りの横断歩道に、テンダム自転車が止まりました。

「オノレ大通りを通る時には、きちんと表示板に従うのよ」

「『止まれ』くらいは分かっているって」

「朝通った時には、シアナが信号無視したわ」

「シアナへの愛は止められない。行くんだ!」

「待ってまってまって。警告!止まれ!いい子はそんなことしないわ」

「余計なお世話だ。僕の母じゃないんだ。」

「いいから止まれよ」

少女が全力を尽くして、ハンドルを握った翼を振ります。回り始まった後ろの車輪がどんどん宙に浮いていきます。ペーパーカッターのレバーのような角度になった時、テンダム自転車がまた傾いできて、二人を地面に転がせます。


少女が呼吸も速くなって、振り頻度もあげて、ようやくテンダム自転車180度回転して、横断歩道の逆方向に着陸しました。

「何をしているんだ?」

猛スピードで貨物輸送の行動機械が通りすぎました。

「…ありがとう」

「『行け』になったから、行こう」

ボーマノワールさんがテンダム自転車の方向を変えようとしている時、憲兵の行動機械が警笛を鳴らしながら猛スピードで通りすぎました。

「こちらこそノロノロでありがとう。『行け』になって、左右をきちんと見てから、行こう」

「ありがとうを言ってくれてありがとう」

「さあ、早く行こう」

「左…異常なし」

「こんな時にはノロノロでなくてもいいわ」

「右…異常なし」

「出発…また『止まれ』になった」

「降りるわ」


第11.5章

少女が魔王城に戻ったら、レタヌールさんが魔王城の壁に沿って登ろうとしています。1階の窓には、嘔吐したあとが付着しています。

「やがて遠くの地平線に、粘り強さの勝ちを見たわ。」

少女がレタヌールさんを無視して魔王城に入ろうとしていますが、宙から呼び止められました。

「あ、おかえりなさいませ、お嬢様」

「とにかく降りて」

レタヌールさんが猫のように降りてきました。まっすぐ立てずに、ゾンビのようにふらふらしています。

「私はどうしたらいいかわからなくて、そわそわしていた。これ以上の展開を見ないためには、逃げるしかないように思えた。」

「明日で掃除しましょ」

「人生にいくつの明日があるのか?乾杯!」

「また明日ね」

魔王城のどびらが戸締りされました。


少女がシャワーを浴びて着替えたあと、ふたたび魔王城のとびらを開けました。レタヌールさんが地面にくの字で寝そべっています。

「酒臭い…」

少女が何とか引っ張って、レタヌールさんを魔王城の中に引き入れました。

「魔王を倒すぞ」

「もう無理、おやすみ」

レタヌールさんが魔王城のホールの真ん中に置きされました。

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