第7話

第1章


5月12日。少女が食べ物の香りに起こされました。少女が歯を磨いて、顔を洗って降りると、シアナさんが壁の暖炉に何かを焼いています。

「ブエノス ディアス(Buenos días.)、翼っち、ちょうどいいところに起きたぞ。」

「何を焼いているの?」

「ピタle pain pita だ。昨日のラタトゥイユを包んでいたら、わりと相性よくない?」

「参ったな…でもキッチンを使いなさいよ」

「ああ、ところが…」

シアナさんがしわだらけな手紙と厚い一冊の本を少女に見せます。

「まさかこれって大物の力で影響される法律じゃなくない?2年前に改訂されるばかりの△△連邦○○法に☆☆条第××項がないのに」

「そう…なの…ていうか、勝手に人の家であちこち掘ってひっくりかえさないでよ」

「犬が吠えても隊商は進むのだ(Les chiens aboient, la caravane passe.)それはうちの哲学だぞ。」

「私も、ついにシアナさんの言動を受け入れる心構えを持つようになったわ。そういえば、今日は学校に行く日じゃないの?何でシアナさんがのんびりとしているかしら?」

「胡椒かけるね、翼っち、受け取って」

少女がシアナさんから1個のピタを受け取りました。

すると、シアナさんはまた一枚のチラシを少女に見せます。「ブルティノーの市民たちへ」とかの文字が書かれています。

「すぐ近くの魔王城南高校も静かだろう?あそこも同盟休校(grève étudiante)に入ったらしいよ」

「シアナさん、賢いわ。分析力でも半端ないだわ」


ドンドン!屋外からドアを強く叩く音が伝わってきます。

「バカシアナ!私の布ナプキンを返しない!東部大陸の下着なんかじゃないわ」

「過ちを犯すこそ人間である。(L'erreur est humaine.)」

「橋の下は水になるわ(結論を急いではいけない)(Il passera de l'eau sous les ponts.)」


第2章

シアナさんが魔王城の正面口を開けます。

「アロハ、メイっち。いい天気だね。ワイン会も開いてみない?」

「バカシアナってまったく明日はまた別のなりゆきになる(今朝有酒今朝醉)人間だわ。ウルフ・ユニ・ヴェロのオーナさんと約束があっただろう?」

「あ、忘れた。ごめん、翼っちもついてこられる?出張受託で目的地も学校なのだ。うちの報酬分も翼っちにあげるよ」

「今日は自転車で行きたかったのに…」

「もちろん自転車で行くのよ、テンダム自転車で」

「ごめんね、ユージェ姫。嫌ならほかの人を探すわ」

「ゃ!」

少女の目線が一瞬シンメイさんの唇に移すも、すぐに逸らしました。

「あ…」

シンメイさんも顔が赤くなります。

「ヒューヒュー」

シアナさんがメンデルスゾーン(Hochzeitsmarsch)の口笛を吹きます。

「やめなさい」

「やめてください」


シンカンさんの後ろに男の子が現れました。

「魔王はどこだ?」

「ギョームくん?」

「魔王、俺と決闘だ」

「ごめんね、ギョームくん、春休みにあまり連絡してあげなかったわ。でも、いきなり来ないでください。これから出かけるわ」

「いい案があるぞ」

シアナさんが少女の耳に近づき、内緒話をします。

「いいと思う」


「何で俺が自転車に乗らなければならないんだよ。魔王も俺が自転車でバランスをとるのは下手だと分かっているだろ」

「これも魔王を倒すための試練と思え。先ギョームくんがやったこと、不法侵入ともいえるんだ。憲兵さんを呼んで処理してもいいわ。黙って漕ぎなさい」

少女がギョームさんに向いてニヤッとします。

「私の勇者くん」


「メイっち、これはただの労働力を掴む策なのだ。ヤキモチをやくのは危険なのだ」

「でも…」

シンメイさんの口元がわずかに下に向きます。


第3章


「市立大学まで運んでくれたら5リンジーあげるよ」

「5リンジーって、私の時給くらいじゃない」

少女がレイトさんの話でがっかりします。

「ったく、小娘のくせに、金銭感覚がずれているな」

「おととい5000リンジーももらった…何でもないわ」

「ねぇねぇ、翼っち、うちと隣県まで運んで、100リンジーで売ってあげようか」

「バカシアナ…あ、レイトさんもこれは冗談だと分かっているね」

「俺がやるよ、魔王」

ギョームさんがテンダム自転車の最後尾に乗りました。

「魔王の召使いたち、君たちも乗ってこい!」

「だれが魔王の召使いかよ」

「かっこいいあだ名付けだな。あ、そこの魔王のフォーク使わせ、早く乗ろう」

「みんな待ってくださ…もう知らないわ」

「頑張ってユージェちゃん」

レイトさんが少女の背影を見送ります。

「あなたはブルティノーのシンボルだから」


シアナさん、シンメイさん、レイトさんの順に、3人がテンダム自転車に乗って、後ろに少女が自分の自転車でついています。

「退屈だからシュウマイの歌をしよう」

「『海峡語で』ああまたか…(Here we go again)」

シアナさんが歌います。

「無添加のシュウマイデリシュー(délicieux)」

「知りたいその中身のラ・シャルール(la chaleur)」

「とろけるとこさえグルメ(gourmand)のエリア」

レイトさんも歌い始まりました。

「なぜ なぜ あなたは シュウマイを 歌いたいの」


「保育園児に囲まれたわ、姫様助けて」

「面白そう。私も参入するわ」

少女が自転車を三人に並行して歌います。

「ありの ままの シュウマイ食べてみよー」


「神様が生きているのなら私だって殺してもらえるかしら」


第4章

私は亡くなっていく、誰も私の痛みを知ることはない。

もう私を愛していないのなら、気づかれるのを恐れる必要はない。

二度と君の名前を口にすることはないだろう。

私の君への想いは、いつも優しい憧れのひとつのみだった。

君のそばにいたときには感じなかった、人生の不思議な些細なことのように。


4人がオノレ大通りの信号機に待っています。

「今日は違う通りから来たけど、またオノレ大通りに引っかかっているのだ。…うんうん、葬儀会社の広告はセンスいいだな。メモしておこう」

「シアナさん、ちょっと…」

「作文スキルを昇進するのはいいことじゃない?莊子も言ったじゃない?吾生也有涯。人生は短いわ」

「俺にとって死ぬのは怖くないけど、急ぎではいない。 まだやりたいことはたくさんあるぜ。」

「いったいどうして話題の転換がこんなに順調に進んでいるの?」



オノレ大通りを過ぎたら、先日にまだ存在しなかった検問所が設けられました。


「君たち、許可証があるかい?」

男の人が4人を止めます。


少女が片手で自機免許を持って、片手で片目を隠しながら話します。

「ジャンヌ=ユージェニー、じゃなくて…ド・ルプレイヌ=ド=メ、魔王さ」

「魔王ごっこの所じゃねぇよ…その翼…もしかして」

「私は魔王の身分を命じる、下がりない」


「魔王、ついに本性を表したのか」

「バカいえ、これはリハーサルだ、ねー、憲兵のヴィクトルおじさん」

「あはははっ、またド・ルプレイヌ=ド=メのお嬢さんに参ったな、憲兵のストライキに反対した人間たちが義務で民兵に務めるから、今は憲兵じゃないよ、あと今日のこと、ダノンくんに内緒にしてほしいな」


「木や石に見えたら注目されますか?(似木头 似石头的话 得到注意吗)」

シンメイさんが歌います。

第5章

市立大学に近づいた途端、少女が一瞬クラっとして倒れそうになりました。

「魔王、大丈夫かい?」

ギョームがテンダム自転車を飛び降りて、少女の傍に駆け付けました。

「無線電伝研究会と書いているハコが動いているぞ」

「それが原因かも、シアナ、テンダム自転車を支えて」

シンメイさんもテンダム自転車を飛び降りました。

「バランス保つ継続不能だ、倒れるよ、ガイアとの肌の触れ合いが嫌だ」


「そのハコ、元の場所に戻していただけるかしら?」

巨大なハコの後ろに台車で押している男の人がいました。

「何でだよ。俺たちはこの無線電伝機を賢者の石で囲まれた部屋から運び出しただけだけど」

「賢者の石って言ってた?もしかしたらこのハコ、魔族に強い悪影響があるじゃなくない?魔族の生徒もたくさんいるのに、何故こんな危ないものを持ち運いでいるかしら?教務課か学生課かに苦情を言ったら、その同好会が活動停止確定じゃないかしら?」

「ごめんだって、シノワちゃん。…シャイセ(Scheiße)、シノワのガキにやられた」

「黙れ、もうたくさんだ。Tais-toi, j'en ai marre.そのハコ、元の場所に戻してこい!」

「ごめんなさい!」

男の人が台車を押して逆方向に走り去りました。


「皆さんごめん、私が迷惑をかけてしまって…」

「魔王がここに倒れたら、俺と決闘できなくなるのが嫌だぜ」

「魔王のくせに、無線電伝のハコに倒されちゃって、くやしい?ねー、くやしいー?」

「シアナ、帰ったらお仕置きが必要かしら?っ…無線電伝…そういえば、ブルティーノに来たらどの固定式の魔導機械でもかならずポスト魔導回線で動いている仕組みだわ」

「やだコワーイ!うちみたいな可愛い子相手に、何考えてるんだろー!」

「アーンラーンシャーウホーンザーン黯然銷魂掌」

「ゲボッ!メイっち、ひどいぞ、うち、自転車から転んでじまったじゃないか」

「シアナさん、体が大丈夫なの?」

「人好しのままじゃ魔王の威厳が成り立たないぞ、俺、失望したぞ」

「ギョームさん、ごめんなさい!」

「無線電伝と魔導と魔族の関係が興味深いわ…」

第6章

「テンダム自転車ってどこに止めばいい?」

「ああ、私が降りるわ」

「まだ降りなくていいぜ、魔王」

「ゆっくりでいいわ、ユージェ姫」

「魔王のシノワ召使い、それ、見た?」

「誰が…」

「魔王のフォーク使わせ」

「やめてちょうだい?バリケードの形で置いても役に立たないと思うけど…」

4人の前にたくさんのテンダム自転車が2行で置いてあります。

「なんでうちが翼っちの自転車を乗るのだ?利益相反だ!あ、そうだ、翼っちの自転車もそこに捨てておこうー」

「シアナさん、そんなことはダメじゃないの?※※法第◎◎条が適用されるかな。一般に、他人の所有物に対する破壊行為、破壊、損傷は3000リンジーの罰金又は2年以下の禁固刑に処されるだっけ?」

「但し書きに軽微な損傷のみは除くが書いてあったぞ」

「シアナって誠にバカなんだから。軽微かどうか、シアナが勝手な解釈をしても受け入れないよ、鑑識係を雇って、シアナに不利な結果が出たら、その費用が訴訟費用や罰金に上乗せしてシアナに請求してしまうわ…けど、シアナがペナルティ金が遭ったら、私のところに請求されそう…」

「シンメイさんが悪くないなの…撤回だ!撤回だわ!」

「うんうん、そんなことはないと思うわ。あくまでも思考実験Gedankenexperimentだわ」

「思考実験?」

「駄目じゃ、メイっち、法学のクラスに説明するのは大変だぞ」

「あ!その…思考実験とは…」


「テンダム自転車を置いたぞ…ってか聞いてる?」

「あ、ごめんだった。ねぇ、勇者さん、見て、この形、イバラと似ていない?」

「俺は魔王と戦うために知識を蓄えているんだ、弁護士や植物学者とのじゃないと思う」

「ていうか部外者が立ち入りべからずなのだ、退けなさい」

「俺が魔王の変わり者召使いに従う必要がないが、パトロールとかに遭ったらまずいから、今日は撤退するぜ」

第7章

「今日は人が少ないな」

少女が二人と別れたあと、10年生の教室に向かいました。大きな蓄音機が教室の中心に置かれていて、机と椅子が周りに散乱してあります。

「今、わたくし、サン=エティエンヌ=ブルティノー王国の臨時首相ジャン=マシュー・ガリポーは、王国の国民および魔王を代表し、この日から、自由、正義、公正の原則に基づき建国されたサン=エティエンヌ=ブルティノー王国は、魔族、人間を問わず全ての国民の福祉と幸福を常に求めるよう誓うことを宣言する。何が起ころうとも、レジスタンスの炎が消えることはない!」

「おーい、ガチ魔王が来たわ」

「っ!」

「おはよう、ガリポーさん、レグヴァンさん。あら、ガリポーさん、レコードでも持って来た?」

「おっ、おおー、おはよう、ド・ルプ…ペインドマイさん」

「焦っちゃだーめ、おはよう、ド・ルプレイヌ=ド=メの魔王姫」

「あの…今日は授業日なんじゃないの?」

「聞いていなかったのね、魔王姫…先日の授業で言ったじゃない?当面の間でまともな授業がないわ」

「そうなのか…ありがとう、レグヴァンさん」

「魔王姫、あたいは、あなたを気に食わないのよ。運命から逃げられるでも思ってる?ちょっと抜けてる天真爛漫のフリじゃ、なんの盾にもならないのよ」

「どうして…」

「やだ~悪役やっちゃったよ~。マシューくん、あなたが慰めて上げてちょうだい?」

「ああ…ド・ルプレイヌ=ド=メさん、レコード録音でも遊ぼう?実家のスライムでできたレコードだから、あげてもいいよ」

「ごめんね、ガリポーさん、今はそんな気持ちではないの…」

「バガだよね、あたい…人を傷つけるのは許されないことだと分かってたのに…わかってたのにね…」

「100リンジーならド・ルプレイヌ=ド=メさんの笑顔を買える?」

「いただく!」

「お金なんかじゃ、人の心は買えやしないと思ってたわ…」

幕間4

「魔族の由来はいくつかの仮説がある…しかし、魔導学も魔族も関する文献は、○○時代から徐々に減っているじゃない?」

「私からすれば、ある特異点を区切りで、魔導学と科学によって発展する世界はぶつかった。ビッグバン理論のように」

「でも、これは学会に承認されない、あくまで五月ヶ原さんの個人的な観点にすぎないじゃない?」

「いつか明確な証拠を見せる」

女の子が失望した顔のままある建物から出て、1回建物の入り口を振り返って見たら、去りました。

「にしても…今日まで更新しないと、県立図書館で文献調査ができないわ」


峰室みねむろ県市民サービスセンター。少女が閑散なセンターで何かを待っています。

「俺の名前は矢塚ミタロウ。知られないダサーいとこで暮らしている平凡な公務員だ。…ああ、精霊とか女神とかにとも対話できたらいいなー」

女の子の目先に男の人が古びた本を読んでいます。

「だが、俺、魔法の才能がないな…」

魔法という言葉もまさに知る人ぞ知る時代だから…と男の人が納得しました。

「才能がある訳ないだろ」

女の子が男の人に声をかけます。

「すみません、県立図書館の閲覧証を扱うのはここですか?」

「ん?えぇ、ここだけど」

「閲覧証を更新したいです」

女の子が県立図書館の閲覧証を男の人に渡しました。

「へぇー、五月ヶ原(ゴガツケバラ) 由理依というんだ」

「すみません、サツキガワラというんです。」

「じゃ…これとこれと、これを万年筆を書いて、と顔写真4枚くらい…勤務先か在学先の紹介状…あと無犯罪証明書も2部くれる?」

「そんなの持っていないよ…県立図書館の閲覧証を更新するのに…」

「手前のかからない方法もあるよ」

男の人がお金のジェスチャーをしました。

「お金の悪魔に魂を売る気はないわ」

「残念ながら、サツキケバラさんの更新は今日ではできないな~」


女の子が手をグーと握ったままセンターから出ました。

「…ドルボヨッブДолбоёб」

「ひ~やし~クワスквас♪」

クワスの移動販売行動機械が通りかかりました。

「待ってくださーい!」

女の子がクワスの移動販売行動機械を呼び止めました。

第8章

「ブルティノーからサン=エティエンヌまで、シェロンからブエニまで」

「ここに暮らしている何十万人もいて、その周辺には私以外、翼を持った人は一人もいない」

「渡り鳥ではない、遠くへ飛べない、魔王城から離れない、ブルティノーから離れない…」

少女が図書室に時間を費やします。目当てを設けずに、ひとり言を言いながら、いくつかの本を乱雑で開いています。数時間経ったら、彼女の目にはもはや涙の跡形もなくなりました。

カラステングという単語は、少女が言葉を理解できた年から、数回しか他人の口から聞いていませんでした。

遠い記憶に父も母も翼を持っていませんでした。


レグヴァンさんは図書室に入りました。

「魔王の末裔って名乗ってる者は、所詮高校生ってわけね。」

「レグヴァンさん?聞いてました?恥ずかしいよ」

「なぜ山が目立つなのか、それはいたるところに平地と谷があるからだわ。」

「え?ああ、私を励む意味なのね、ありがとう、レグヴァンさん」

「泣きたいときは泣いていい。人には感情があるものだから」

「魔王の一族は本来、人前で泣いてはいけないと、お父様が教えていたの」

「ねぇ…魔王姫、七つの大罪って知ってる?」

「確かに傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲の7つ…合ってる?」

「正解だわ。いっそう吟遊詩人になって世界周遊してこない?」

「こんな時代に吟遊詩人なんて生きていられないんだよ。それに、私には魔王城を守る使命があるから」

「使命…自分の身を奮い立たせる都合のいい言葉わよね」

レグヴァンさんは凛とした目で少女を睨みます。

「魔王姫、まさにその傲慢だわ」


第9章

「本当に上品な女性は、自分が持っているものを決して見せびらかさない。自分が何を読んだか、どこに行ったか、何着の洋服を持っているか、どんなアクセサリーを買ったかを人に言わない。」

「…忠告をいただくが、レグヴァンさんはガリポーさんへの恋ごころ、余すところなくみせたがっているわ」

「…!」

レグヴァンさんの顔が赤くなりました。

「…それはそれ、これはこれ、分かったら、さっさと忘れることね」

「奪い合うつもりはないよ、私にはシンメイ…ううん、何でもない…イケメンだからモテモテ、それはこの世界の法則だから」

「…やっぱり、中身はただの小娘わね」

「初見では小娘、だけど魔王の血が流れているわ。」

少女が立ち上がります。

「立ちはだかってる巨大な壁も、見方を変えたら大きな扉!たったひとつの魔王城を見守る、見た目は弱小、中身は魔王、その名はジャンヌ=ユージェニー!」

「『海峡語で』It's fun to tempt the D-M-C-A♪」

「あ…」

「まあ、待っていても始まらない。未来へ一歩踏み出して、とにかく、悔いが残らないように、できることを全部試してみて」

「言わなくて分かってるわ…」

「お助けキャラになってあげる。あなたにそれだけの力になるはず。」

「ありがとう、レグヴァンさん」

「例えば世界を血に染める断末魔から救い上げるとか…」

「そんなことはないの。どうせ年齢制限を引き上げないわ」

「または裏切り者をすべて消去するとか…」

「そんなのはなし!ノン!」

「正義のための戦いに手伝うとか…」

「正義なんて抽象的な言葉に興味ないし…」

「あら、抽象的な言葉というなら使命もそうじゃない?」

「…レグヴァンさんに励まされたら、余計ストレスが溜まりそう…」


第10章

男の子がラングラード川沿いで座って川を眺めたりして手紙を書いています。


「…空は湖と海の鏡、だからこんなに青いのだとよく思った。ラングラード川沿いに黄ばんだ落ち葉が浮かび、その葉は水面に垂れ下がり、風が落ちてくるのを待っている。僕はここに座って、静かにあなたを待っている。 時間は、あなたが私にくれた思い出を壊すことはできないけれど、光陰矢(こういんや)の如(ごと)しで、気が付(つ)けば、僕は 変わっていた。

「僕は中学校が好きではなかったが、あなたに会って以来、一日おきに、私は行くようになり、その後さらに毎日行くのをやめることはできなくなった。あなたを見て喜んでいることだった。未だに記憶に残る欠片に、2月の終わりの春近しの日、僕たちは並んでジュール・ラヴォー街道を歩いたことだった。ソテツの木はドラムの芽、愚かな外観の枝、そして僕たちは、古馴染みのように仲が良いことだった。僕たちは手をつなぐまで一晩中話をし、もう夜が明けようとしていた。

「あなたは私を極度の落胆と否定と退屈の人生から救ってくれた。 あなたはほんの少しの言葉で私の灰色の意志を目覚めさせ、あなたの言葉は私に計り知れない勇気と孤独を与え、私の人生のために戦ってくれた。しかし、あなたは貴族、僕は平民。僕の都合によってあなたに不利益を与えることは、決して僕の望むことではない。そして、僕は過去を灰にして、新しい人生をやり直したいと誓った。そこでは物質的であっても、未知の新しさや挑戦もたくさんある。あなたのことを欲しくていられないが、魔王らしい敬われるように遠いところでサポートする。あなたが今何をしているかは知らないが、会いたいよ。あなたの返信に何度もキスをすることを期待しているよ。


「恥ずかしい…」

「五月ちゃんに届くことは…ないだろう…」

男の子が手紙を丸めました。


「悪いな、ミローくん、非番なのに、ボランティア状態で民兵検査を付き合わせてくれた、感謝するよ」

「とんでもありません。中佐Lieutenant-colonelの役に立て何よりです。それに、寮に居たら、突然、呼び出されたあと3日連続に帰られないことも嫌です。」

「嫌でも我慢して、市民を守るのは憲兵の義務だから。ところで、ミローくん、クーヴァン=レ=タンプリエ地方出身だったっけ?あそこは魔女の里と言われているじゃない?もしも魔女の経歴があったまま憲兵隊に入ったら、厳しい刑罰が当たるぞ」

「魔女ではありません。それに、地名なのでお気づきいただけなかったかもしれませんが、レ=タンプリエの意味は騎士団ですから…」

「そっか…疑ったごめん、魔女を下目に見るつもりはないけど、ルールはルールだから…あ、ここで待機にして」

「承知しました。」

ミローさんは仰いで空を見ます。

「あの日も晴れた日だった。」

「何百年ぶりにまたブルティーノに戻って来たわよ。魔王陛下が生きているのなら、きっと“なんで今更”って思っているでしょ。」

「魔王陛下は死ぬまでにも魅力的な方だった。必死に生きてきた人の行きつく先が無であっていいはずがないじゃない…」

「…魔王陛下を見捨てるつもりはないよ。」

「想いって言葉でもう伝わらないんだけど、翼の生えた子を見守ってあげるよ」



少女が魔王城に向かって歩いています。いつの間にか、市立大学のキャンパス内に

「考える勇気を持て! 言い出す勇気を持て! 行動する勇気を持て!(Oser penser, oser parler, oser agir)」の横断幕やペンキの落書きがあちこちに現れました。市立大学の学生に見える男の人がペンキを壁に塗っています。

「その姿…まさか附属高校の生徒?今の時期のキャンパスは危ないじゃん。あなたはここに居るはずがないよ、分かったら、早くうちに帰りなさい。」

「ああ…ごめんなさい…」

少女が市立大学の学生に𠮟られました。

「…たく、魔王の末裔なのに、ゆるいな…」


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