本篇

プロローグ


第1章前

ざあざあと雨が降ってきました。少女は目が覚めました。この音気持ちいいなっと思いきや,雨粒がぽたっと額に落ちてきた。

「あかん!バケツを置かないと…」

少女は慌ててベッドを降りました。浴室に入って雑巾をとって、あちこちでデコボコが現れる古びた木製フローリングを拭き始めました。外が人群れの声で賑やかです。また魔王城南高校の入学式かと少女が思う。

「そういえば私、今年も高校生になるもんね。合格したらな」

少女が独り言をしながら浴室に戻って雑巾をしぼります。


「ユージェちゃん!起きてー」

窓外から元気な声が届いてきました。郵便員のボネさんだ。少女は作業を中断し,鉄筋加固された古びた木造階段を2階降りて,巨大な鉄ドアが立っている立派な玄関を抜けて,反対側にある人並の高さしかない木造ドアに向かいました。

「入学おめてどう!」

レインコートを着ているボネさんが微笑みながら華やかな1件の手紙を少女に渡しました。

少女は嬉しさを隠さずに手紙を開きました。

「ジャンヌ=ユージェニー・五月・ド・ルプレイヌ=ド=メ殿、ご合格おめてどうございます…下記の時間に下記の場所に学生登録してください…5月1日って今日じゃないか!何でこんなに遅いの?!」少女は少し怒りながらボネさんにじーっと見る。


「ニュース見れば分かるのでしょう?あ、ユージェちゃんが新聞の購読をやめちゃったのね。」

ボネさんは苦笑いながら説明している。

「実は連邦郵便の労働組合が計画ストライキに入ったのよ、おっとっと、もう1件郵便があった、今もう使わない住所表記だけど、この辺に魔王城を称している所はユージェちゃんちしかないのね」

「魔王城か…」

少女はため息をつきます。

「下ブルティノー税務署…マーシャンおじさんちのとこに行くしかないのか」

「世知辛い世の中ね…じゃ私はこれで」

「またあとでボネさん」

少女はボネさんのレインコートが雨の中に消えていく後ろ姿をボーと見ながら雨の中に立っていました。


濡れた手紙が机の上に置かれています。

「ジャン=フランソワ・ド・ルプレイヌ=ド=メ殿 前略 貴殿に対し以下の通知を致します…尚,本通知書到達後180日に本通知書記載する固定資産税を未払い分が残る場合は,△△連邦○○法☆☆条第××項に基づき, 本通知書記載物件を強制競売致します…」


第1章後

少女は傘を支えて街を歩いています。家を出た数百メートルでも街が静かになります。

「Tchi Hau で3.8リンジーRingétのセットを頼んで, 10年生の年度登録料350リンジーを払って,残りは40リンジーくらいのか」

少女は東側大陸風の料理屋Tchi Hauのショーウインドーに足をとめました。支度中のサインをボーと見る少女に,店の中からもう一人の女の子が声掛けて来ます。

「あら、ユージェ姫じゃないの?」

女の子が閉じたガラスドアを開きます。

「一緒に行こう、ヒ’メ’サ’マ ↗」

「シンメイさん、行こうってどこ?」

戸惑い少女に,怒っぷりと装うシンメイさんが言う:

「私たち,一緒にティボービル西高を受けたじゃん。今日はお店開かないよ。食べたいならご勝手にどうぞ。キッチン使わせてあげるわ,もちろん食材は付けで。」

「シノワ料理なんて分からないよ…」少女はがっかりします。


二人がそれぞれ傘を支えて歩いています。

「姫様は翼を持っているのに飛べないのよね」

不思議を感じるシンメイさん。

「自機免許を取らないと速度と高度の制限が厳しいし,健康診断と安全講習もうざいの。それに,シティホールにあまり行きたくないもん…」

語る少女が足を止めました。

「そういえばこの学校,飛行学導論が学べるんだ。単位足しに社会人向けの飛行免許教室の授業料に節約できるのね…」

少女が独り言ながら笑顔を出しました。

「やっぱり姫様かわいいわ」

少女を見るシンメイさんが言う。


シンメイさんが巨大段ボールのような小屋に足を止めました。

「ああ,こいつら,天気が悪いからストライキは後に延期なんて,勝手な都合で動く奴め!あれ,どこ行くの,姫様?ここでバスを待つのよ。ティボービル西高はヴァンディエール区だわ!まさかこんな雨で歩いていくかしら?バス代くらいならおごってあげるわ」

「ありがとうシンメイさん」

道を引き返す少女は言う。

「礼を言うなら今度宿題貸してー」

「どんな授業が一緒だってまだ分からないじゃない…」


第2章

魔王城と違って, ティボービルは料理屋が少ないようです。バスがスーパーマーケットやホームセンターらしいの建物の真ん中のアーケードを通ったら,キラキラと光った白いマンションが乱立のように見えてきました。

「翼が痛い…」バスから降りてきた翼を撫でる少女がいます。

「姫様はホンマルに姫様だわ…バスもそんなに長くないのに…雨もやんだのね…姫様は普段どうやって寝ているの?」

好奇心旺盛なシンメイさんが半分畳んだ折り畳み傘を振り回しながら質問を出しました。

「それは…その…うちの布団が柔らかいし…バスと違うの。それに,バスの中で翼を全開したら皆に迷惑をおかけるの」

「迷惑?何でいつも他人ばかり考えているの?他人が代わりに生老病死してくれているのかい?郵便の労働組合もシティホールも税務署も我ら消費者納税人に迷惑を掛けるなんてちっとも考えてなかったわ…姫様は東側大陸すみっこの島の人間に似ているね。」

「シンメイさん?」

「わるいわるい。昔親に連れられてあっちこっちに観光してきたわ。さ、着いたよ、一緒に入るわ」


開放感のあるフェンスがない広い敷地に低いビルが散在します。楕円形の花畑の真ん中に白い玉石が「下ブルティノー市立大学ならびに下ブルティノー市立大学付属ティボービル西高校」という文字が刻まれて立っています.

「オーッ」目がキラキラした少女の傍にシンメイさんがぶつぶつ言う:「このビルからそのビルだと20分も足りないだわ…もう私たち納税人のお金を無駄に仕上がって…」


「そっちのつばさちゃん,きみたち新入生?」一人の男の子が話掛けて来ました。

「俺はダニエル・ペリシエ。ダニエルでいいよ。俺もつばさがあればいいな…」

「私はジャンヌ=ユージェニーだわ。でも、翼はそんなにいいものではないの…」

少女は翼を隠そうとしています。

「それはごめん,失礼,誤って種族差別の言葉を使っじまった,訴えないでくれる?」ダニエルさんが謝りながら説明しています。「この辺の空域は排除済みだよ。学校に申請すれば敷地内で自由に飛べるんだ。」

「よかったね姫様」

「あの辺は法学ビル、その後ろは魔導学ビルだ…あっ、俺時間ないから先にいくぞ、生徒登録はあの看板に沿って」

走り去ったダニエルさんに、シンメイさんが言います。

「いい人だったね、姫様あの子がタイプ?」

「別に」

ドキドキした気持ちは―もちろんありません。

「しかしシンメイさんと一緒にいるとなんとか落ち着く」と少女が思います。


第3章

「まもなくティボービル西高校の10年生の入学式が始まります。生徒ならびに関係者各位は速やかにご着席くださいますように」

少し遠いところから声が届いてきました。

「姫様、急いて」

「うぁっ、翼をひっぱらないてっ」

走り始めた二人は入学式が行われたビルにまだ遠ったようです。

「ね、飛んでみない?このままじゃ遅刻するわ」

「でも…」

「先の男…ダニエルだっけ、この辺の空域は排除されていると言ったよね」

「…わかったわ…」

少女が翼を降り始めました。

「ウーフー!飛ぶぞい!」

少女の翼を避けて抱き詰めるシンメイさんが叫びました。


10年生の入学式の会場はきちんとした階段教室でした。

「間に合った!最初から飛べばいいじゃない」

「もうっ!知らないわ」

二人は小さい声でしゃべりながら校長先生か学年主任からしい人物の演説を聞いています。

「メイっち!晩ご飯シュウマイにして」

二人の会話を割り込んだ女の子が1列後ろにいました。

「誰かと思ったら、シアナか。私のボディソープを勝手に使った分、シアナの給料を引いてあげるわ」

「ええっ!なーんでー、うちがメイっちのレストランでそんなに頑張ったのに…翼っちもメイっちに言ってよ」

「私は翼っちじゃない!ちゃんと名前あるの!ジャンヌ=ユージェニーというの」

「えー、やだ、長すぎて、うち、覚えられないー」

「とても簡単だわ。ジャンヌ=ユージェニー・ド・ルプレイヌ=ド=メ姫様…」

「ド・ルプレイヌ=ド=メ君」


「ド・ルプレイヌ=ド=メ君?」

教壇からの声が教室中を響いています。

「はい!ド・ルプレイヌ=ド=メです」

「ド・ルプレイヌ=ド=メ君、教壇まで来てください」

「あっ、はい」

少女が階段教室後方から教壇に降りました。

「うそっ!1位なの?」

「翼っちが1位?何の話?」

驚きが収まらないシンメイさんに戸惑うシアナさんが疑問を出します。

「シアナは出願書類を見ないの?入学試験の順位で好きな専攻を優先的に選べるわ…」

「うち、面接しか受けなかったけど」

「面接だけ?」

「うち、おばさんが市立大学の教授だよ。おばさんを通って学年主任にあった」

「ああ、こういうときこそ人間と人間のギャップは、人間と犬のギャップよりも大きいってことを感じるわ」


「なにを話しているの?」

「お帰り姫様、何でもないよ…ただこのばかでも受かる高校に受験したことを悔しいと思っているだけだわ」

「誰がバカか。メイっちこそこの間…」

「だまれ」

シアナさんの口がシンメイさんに塞がれました。


第4章

「その子の名前、聞いたことがある、遊園地だっけ?」

「バカ、魔王城だ、その子、魔王の一族の末裔らしいぞ」

シンメイさんが教壇に行ってきました。


「魔王っておとぎ話によくでるのね」

「ねぇ、あの子、魔王城と同じ苗字だわ」

「背中に翼が生えている、なんと不気味だ」

シアナさんが教壇に行ってきました。


「黒い顔マスクに黒いケープを付けて、下ブルティノーを救う謎のヒーローの正体がここにいるのか」

「そんな奴いねーよ」


「もう次から次と、うぜぇな、お前ら、○○法☆☆条第××項をしているか。こんなにしつこかったら、6ヶ月の禁錮と5000リンジーの罰金を食わせてやるぞ。」シアナさんが後ろに大声で叫びました。少女が翼を隠そうとして、シアナさんとシンメイさんに囲まれながら階段教室を出ました。


「○○法は人身攻撃に関わらないのはずだわ…」

「そんなに真面目にしないで翼っち、うちが思いついたおばさんの本棚にある本のタイトルを言っただけだ」

「シアナさんのおばさんって…」

「大学教授だわ。こいつが入学できるのもそのおかげ、こいつを見たらあんな入学試験をパスできるはずもないわ…そういえば姫様、何の専攻を選んだの」

「法学だわ。法とは、それが地上のすべての民族を支配する限り、人間の理性であるっという言葉をずっと好きだったわ…特にグネル教授の授業を受けたいわ」

「はいっ!グネル教授参上!」

「シアナさん?もしかしてシアナさんのおばさん…」

「おばさんって…血のつながりがないのかしら、なら納得するわ!…でないとバカのチカラで法が崩壊するわ」

「おいっ!メイっちってひどくない?」

「シアナが私のブラを壊したこととかもまとめて精算しよっ」

「ああ、パ〇ドのことか」

フェーローンザイーテーンっ!」

シンメイさんは謎の東の大陸の体術を使ってシアナさんの動きを封じ込めました。


第5章

「そいえば、姫様はまだ翼を登録していないのかしら」

「あっ、ありがとうシンメイさん、行ってくるわ」

「姫様って予定ないのね、ならば今日いっぱいまで付き合ってあげるわ」

「なにそれ、面白そうー」


3人が学生課オフィスに行きます。

「あ、この申請、シティホールで届出証明書をもらわないといけませんよ」

学生課のお姉さんがこう言いました。

「あらあら、姫様、これは行かないとあかんわ」

「翼っちってシティホール嫌いだね、うち、シティホール大好きだよ、子供のごろも△△おじさんのオフィスで遊んでいた、□□課の××姉さんが窓口を閉じて遊ばせてくれたよ」

「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である…すべての人間は…」

「あっ、メイっち壊れた」


3人がバス乗降場に行きます。

バス乗降場の前に一人の男の子がタンデム自転車を押したまま立っています。

「リンジャーっち!」

「だからそういう呼び方はやめてって」

「シアナの知り合い?」

「うん、うちの中学校の先輩だ」

「どうも初めまして、僕はジャン=サリンジャー・ベルトードです。」

「私はカクシンメイといいます。この人はド・ルプレイヌ=ド=メ氏のお姫様…」

「ジャンヌ=ユージェニー。ユージェでいいですわ」

「魔王の末裔か、ご高名はかねてから伺っております。」

「ごめん、リンジャーっち、敏感な話題はパスだパスだ」

「大丈夫だわシアナさん」

「ベルトードさんはここで何をしていますの?」

シンメイさんは疑問を感じます。

「ご覧の通りこのタンデム自転車をバスに乗せて回送しようとしています。しかしなかなかバスが来れなくて…」

「あらら、バスは来ませんわ。バス会社の労働組合はストライキの予告をあちこちで貼っていますわ」

シンメイさんは乗降場のサインに指差します。

「あっ、ほんどですね。どうしようかな… (ペイジとアドリーゼのやつめ!3人で乗ってリターンしようと約束したのに…)」

「うっ、うちを無視するじゃないっ!」

「落ち着いてシアナさん…」

「わぉっ!そうだ!私と姫様とバカムシがこれに乗ってシティホールまで行きましょう。これウルフ・ユニ・ヴェロの自転車でしょう、あの店主でしかこんな無駄な自転車をどんどん仕入れして来ますわ。私たちと道筋がいいですわ」

「ほんとですか?それは大変ありがとうございます。今度礼を言いますよ。僕は歩いて帰りますね」

「ほら!誰がムシだよ」


「お気を付けください。ベルトードさん」

少女は翼を少しリラックスさせました。


第6章

「つーかーれーたー、あーきーたー」

「元気いっぱい¬¬¬¬に見えたけど、まさかシアナムシが三人の中で一番体力がないのかしら」

「ムシが飛べるー、うちが飛べないー」

「もう少し頑張ってくださいシアナさん」

「ねっ、翼っち、つばさをひらけてよー、地面から離れなければ飛行に当たらないじゃない」

「ん…」

「ロンシャン通り…そういえば今はティータイムだわ。このままシティホールに早く行っても待たされるだけだわ。姫様はお腹空いていない?私、この先に美味しいカフェを知っているわ、そこに行こう」

「シアナさんはどう思う?」

「メイっちが奢るなら行く」

「調子に乗るじゃない!これも給料につけるわ」

「そんなー」


3人は緑色のチェーンカフェに行きました。

「いらっしゃ…」

「あら、朝のナンパ失敗男だわ」

「ペリシエさんこんにちは」

「壁のメニュー、一つずつ全て…へぇー、翼っちナンパされたんだ」

「ナンパ男なんかじゃないっ!朝のは口のミスだ!」

「ここに大食いさまのスポンサーはいないわ、食べたいならここに働きな、私が別に求人を出すわ」

ジェニーGénieさん、朝はごめん、これあげるから許して」

ペリシエさんは1枚の無料引換券を少女に渡しました。

「別にいいよ、でも、ペリシエさんの厚意なら頂くわ」

「メイっちって本当にうちのことが嫌いの?」

「めいっちも分からないわ。どうしても頭にくるわ」

「本気おこおこメイっちってこわっ、あっ、ねね、翼っち、それ、うちにくれよ」

「バカシアナ、同じ値段のものを注文するから、姫様をいじめのはやめられるのかしら」

「はーい」


第7章

「やっとシティホールについたわ」

「メイっち、今夜はシュウマイましましだ!」

「よく頑張ったねシアナさん」

3人がタンデム自転車を止めて、シティホールの本館に入りました。


「申請書はここだよ」

「シアナってこういう時だけ役立つもんかしら」

「シアナさんありがとう」

少女が1枚の申請書をとって、書き始めました。


「ジャンヌ=ユージェニー・ド・ルプレイヌ=ド=メ」

「あかんあかん、ミドルネームを忘れた」


「ジャンヌ=ユージェニー・・ド・ルプレイヌ=ド=メ、あらら、姫様、ミドルネームもあるのかしら」

「その辺はあまり詳しく言いたくないの…」

「やっぱ長すぎだ、いっそJ.マルタンMartinに改名したら?」

「あんたこそムシとミドルネームを追加したらどうかしら?」


「親権者同意書は?身体能力評価書は?まだまだたくさんの書類がいるからそっちを先に回しなさい」

窓口のおばさんは少女がきちんと書いた申請書を引き返しました。そして、シアナさんは窓口の反対側に走りました。

「シアナさんどこ行くの?」

「ムーテおじさんのとこに行く」

「このバカはついてこなければよかった…」

2人はシアナさんの後ろについてきました。数階の階段を上って、いくつか廊下を通って、シアナさんは一つの扉に足を止めました。

「ブーヴィエ・ムーテって…副市長オフィス?!」

「そうだよ、うちが初めて来た時、ムーテおじさんはシティホールの入り口すぐに座って働いていたけど、いつの間にこんなところに左遷されたんだ」

「シアナさん、これは左遷じゃないわ」


ポンポンっと、シアナさんは扉を叩きます。

「どちら様ですか?」

「秘書官のお姉さん、ムーテおじさんはどこですか。」

「おっと、シアナちゃんじゃないか」

扉が開かれ、スーツを着たすっきりとした姿のおじさんが出てきました。

「こんなに大きくなったな」

おじさんがシアナさんにビズの礼La biseをして言います:「わたくしに何の用件があるのかい?」

「ムーテおじさん、実は…」

「そうなんだ、そんな書類、要らないよ。ド・ルプレイヌ=ド=メ嬢もいっそ自機免許を制限引き上げしたらどうだい?わたくしが案内するよ」

「ありがとうございます。ムーテさん。」

「よかったね姫様」

「えへへへ、メイっち、今夜はシュウマイ山盛りだ」

「あるわけないわ、空気でも噛め」


第8章

「未だに信じられないわ、まさかこのまま自機免許が取れるなんて」

少女がピカピカなカードを握っています。

「うち、凄いのだろう、えへ」

「ほら、まだこのテンダム自転車を返却しないといけないだわ、私もベタベタしたわ、早く家に寝たい。あら、そんなに飛べたいなら姫様、ここで飛んでみない?免許も取れたし」

「でも…シティホール周辺って飛行禁止区域じゃないの?」

「大丈夫だ、うち、ムーテおじさんに言ってこよう?」

「やはりここはシンメイさんの言う通り早くテンダム自転車をリターンしよう」

「へー、つまんないー」


少女とシンメイさんが真ん中のシートにシアナさんが座っているテンダム自転車を押して歩いています。

「おそーい、もっと早く押して」

「シアナムシも手伝いなさい」

「シアナさん、さぼるのは悪いことわ」

「えー、やだ、だってメイっちが方向をコントロールしているし、翼っちが後ろに支えているし、うち、立つ場所ないじゃない、まさかうちがナマケモノのようにボディを掴むほうがいいのか」

「どうやってその発想が出たのか」

「シアナさん…私、限界だわ」

「姫様っ!」

シンメイさんがテンダム自転車を捨て、少女の傍にダッシュしてきました。

「ぐっ」

テンダム自転車が倒れました。

「ちょっと、ひどくない?」

「少し黙ってシアナ、姫様が熱中症だそうわ」

「早くいえばよかったな、メイっち、一緒に翼っちをテンダム自転車に乗せて」

「いいえ、こんな時は陰のある木の下に休憩をとるべきわ、テンダム自転車なんてしばらくここに放っておいておこう」


少女が2人に木の下にあるベンチへ運ばれました。

「アイスコーヒー買ってきたわ」

メルシーmerciメイっち、早くくれ」

「あんたにあげるものじゃないわ」

「…シアナさん?ここは?」

「ラングラード川迷子センター、お子様を取り戻したいならお金頂戴」

「それは誘拐だわバカシアナ」

「テンダム自転車は?」

「心配しないで姫様、こんな地方で無くすわけないわ、ほら、コーヒー」

「ごめん、シンメイさん、私のせいで…」

「だからその考え方はやめてって、私たちもう長い親友だわ」

「はい、親友、コーヒーまた買ってー」

「あ、葉っぱにも水分が含まれているのね、ねね、シアナムシ、口開いて」

「やだー、気持ちわりー」


3人はテンダム自転車が残されている場所に戻りました。

「この車両は〇年5月1日□時×分に放置違反が確認されています…50リンジーもするのっ?!私、こんなお金はもうないよ…」

「うそ、こんな地方でも切符がくるの?ごめん、姫様、私が全額を肩代わりするわ」

「メイっちってバカ、最初に翼っちを載せたらいいじゃん」

「もう発生済みなことは戻せないわ、シアナ黙ってってなさい」

「メイっちの責任だ、うちが引き受けないぞ」

「はいはい、メイっちが責任をとるわ、この辺のGendarmerieは暇すぎだったのかしら、あぁあぁ、だから公務員って嫌いわ」


第9章

「ウルフ・ユニ・ヴェロ!」

「シアナって本当に陰晴定まらずだったわ」

「そういえば、うちたち、いつの間にルプレイヌ=ド=メ区に入ったっけ?」

「オノレ大通りをすぎたくらいかしら」

「メイっちって土地鑑だね」

「ねね、姫様、どうしてシアナを出前に行かせないのを知っているかしら?この方向音痴が一度出かけたら世界一周しないと帰り道が見つからないわ」

「あははっ、シアナさん、もっと頑張ってください」


3人がウルフ・ユニ・ヴェロのショーウィンドウ前に立っています。

「この店主、死んだ?うちたちがせっかくテンダム自転車を届いてきたのに」

「店の中にいなければ、裏の自転車ガレージにいるかも」

「姫様って詳しいね、常連さんだったかしら」


3人がテンダム自転車を店の裏にあるガレージに押して行きました。そこで、一人の男の人が自転車をハマーで叩いています。

「レイトさん、こんにちはー」

「あら、ユージェちゃんかい。俺がチューンした自転車は走りにくかったかい?」

「走りやすかったよ。でも、今日は別の用件にきたの」

「オーナー、これ、受け取れー」

シアナがテンダム自転車のハンドルをレイトさんに手を放しました。

「痛てぇ」

「ちょっと、バカシアナ、なにをしているの」

「所有者に返すこと」

「あっ、これか、これがユージェちゃんの用件?このテンダム自転車はアドリーゼに頼んで運んできたはずが…」

「アドリーゼって奴は誰?うちたちはリンジャーっちに頼まれたんだ」

「アドリーゼさんは今日あっていないわ」少女が返事します。

「このバカ息子…今度は懲らしめるんだ、ありがとう、きみたち」

「恩を返すなら何かを奢って」

「バカシアナっ!もう行くよ、ごめんなさいレイトさん、私たちはこれで」

「いそがなくていいぞ、つけでもいいぞ」

「もう行けー」

「レイトさん、では失礼するわ」少女が挨拶をして立ち去りました。


第10章

「大胆不敵にシュウマイ革命♪」

「シアナって、そんなにシュウマイが好きなのかしら、なら今度私の特製シュウマイを作ってあげようかしら」

「磊々落々シュウマイ最高♪」

「シンメイさん、シアナさん、こんな遅くまで付き合ってくれて今日ありがどう」

3人が夕焼けを浴びながら街を歩いています。


「姫様って一人暮らし?晩ご飯、一緒にしない?天気もどんどん熱くなったし、今日店が営業しない分、食材はまだ残っているよ、明日まで立てないかも」

「シンメイさんが言うならいいよ」

「△〇☆♪」

「うるさいっ!続けて歌ったらシュウマイは無しだわ!」


3人がTchi Hauの正面ドアに着きました。

「えっと、鍵が…ポケットにないのね」

「ええっ、うちのシュウマイが…」

「シンメイさん、レイトさんの所を出たとき、まだ鍵が残っているわ。カチャカチャの音が聞こえていたの。もしかしたら誰かが憲兵さんに届いたのかも、憲兵さんを探そう」

「だろうね、姫様、一緒に行こう」

「ううっ、シュウマイが…うちを待ってよ」


3人が数分道沿いを歩いたら、憲兵スーツを着ている男の人が夕陽を眺めていると見えました。

「リョネルさん、この辺りに鍵が見つかっていませんの?」

「おっ、シノワ料理屋のカクさんだね、どんな感じの鍵か?」

「カートゥーン風のキノコのキーホルダーが付いていますの」

「ピンポン!あたり!先ほど誰かが届いて来たよ。コーヒーを買って警察署に戻って遺失物書類を作成しようとしたが、これは手間を省いたな」

「シュウマイ♪」

「ユージェちゃん大丈夫?また魔王城に住み続けるつもり?今日の雨も大変だったよね、嫌でなかったら僕の家に来てもいいよ」

「大丈夫ですミノさん。お気持ちはいただきます」

「あははっ、僕、最近連勤が多いし、居所にほとんど帰れなかったんだ、本当にユージェちゃんのために考えてたよ」

「シューウーマーイー! っ痛ってば」

「晩ご飯カルボナーラパスタにしよう」



第11章

「忘れた!」

「急にどうした姫様?」

「魔王城のことだよ!今朝の雨で床がびしょびしょのをまだ片付けていなくて…」

「なら私も姫様に手伝ってあげるわ、今日いっぱいまで付き合ってあげると約束したし」

「いえーい!探検の時間だ!」

「待ちなさい、シアナ、遊びじゃないのよ、行ったらちゃんと働いてね」

「なんかシンメイさんママみたいね」

「仕方ないじゃない、こいつの両親に頼まれたから、娘を自立させるためらしいよ、それに、店の賃料と光熱費も支援してくれているし…えひっひっ」

「そっちが狙いだったのか…」


日の入りがすぎた時間、3人が魔王城に行きました。

「ただいまー」

「シアナさんの家じゃないよ」

「やばくない?こんなひどい景色初めて見たわ。姫様よく住んできたのかしら」

「住めば都だわ」

「とりあえず掃除機は?」

「ないよ」

「浴室はどこ?」

「そっちだわ」

「うち、帰る、遊べる場所がないんだ」

「遊びにきたじゃねぇー!シアナもちゃんと手伝いなさい!ごめん、姫様、靴のまま中に入るわ」

「あっ、はい」


シンメイさんが急いで床を拭いている姿をじっと見ているだけの少女がいます。

「姫様も何とかしてよ、姫様の家じゃない?」

「でも、雑巾は一つしかないわ」

「ああ、メイっちが翼っちをいじめている」

「ばかばかしい、ほら、見て」


シンメイさんが巨大な鉄ドアまで行って、ドアを手を触りながらドアに沿って歩いています。すると、大きい鉄のチェーンが動くらしい音が響き、巨大な鉄ドアが開きました。

「姫様、翼を使って、勝手口と正面口の空気を流通させるよ」

「はい!シンメイさんすごく頭がいいわ」

「1位のくせにこんなことも考えられないなんて、情けないじゃない」

「頭がいいけど、口が悪いの…」

「効率わりーな、翼っちもうちょっと頑張って」

「こらシアナ、またさぼっているのかしら」


第12章

「お疲れ様、よく頑張った、はい拍手」

「シアナってほとんどさぼっていたわ」

「シンメイさんとシアナさんありがどう、ここまで助けてくれて…」

「これはつけるぞ」

「いいよ別に、それより姫様、晩ご飯は絶対に来てね、では私たちは先に準備をするわ」

「お気を付けて」


シンメイさんとシアナさんはTchi Hauに向かって歩いています。

「あの子が心配だわ…ずっとその魔王城を住んではいけないじゃない…」

「あ!分かった!メイっちってもしかして翼っちが好き?」

「す、すきってっ!」

「なによこんなに反応が大きいであれば、当たりだな」

「シアナと関係ないわ」

「神様にお祈りしてあげるか」

「私は神なんて信じないし…」


少女が外出着を着たままベットで横になっています。

「180日か…これからどうするの…」


どの時間が過ぎたかわからないまま、少女が起こされました。

「おーい、翼っち起きろー、でないと翼を引っ張るぞ」

「シアナさん?!どうやって部屋に入ったの?」

「カギはかかってないよ、メイっちに頼まれて翼っちを呼びにに来た。メイっち、オイスターパスタとトマトの卵炒めを作った…翼っちのつばさ、柔らかいし、いい匂いもする…」

「わかったから手を放して、嗅ぐのもやめてー」


「あら、姫様、寝ぼけて目がひどいわ、寝込んだかしら、それはいけないわ、寝ることは晩ご飯を取った後で…狭くない?翼が置きにくい?椅子をどかすから少し待ってって」


「おいしそう、シンメイさん料理上手だわ」

「建前はもう結構だわ、ここは料理屋だったじゃない」

「シノワ料理屋なのにパスタだった…メイっち、シュウマイを弁償して」


「はいはい」

シンメイさんがキッチンに入りました。


「シュウマイだよー」

「ウォー…ってっ…パスタじゃないか」

「同じ小麦粉からできたものだわ…つまりパスタはシュウマイの姉妹だ」

「そんなー、屁理屈だ」

「シュウマイに使う食材なんて最近仕入れしてないよ、売りが悪かったの」

「次から仕入れしてくれ。うちが年俸を抵当する!」

「なら吐くまでシュウマイ食べ放題にしてあげるわ、かかってこい」


無言で食べ続いている少女に、シンメイさんとシアナさんは彼女の少し暗い顔を気づきませんでした。


第13章

壁にカレンダーが掛けられていて、5月2日のページが表しています。

「えっ、ここは?私、着替えている…」

扉が開かれました。

「おはよう姫様、私のベッド、どうだったかしら」

「シンメイさんのレストランに来てからのことは覚えていない…」

「あら、これは医者にいくべきかしら、昨日シアナがお泊まりを誘ってあげていて、シアナと深夜まで枕投げをしていたじゃない」

「そういえばシアナさんは?」

「銀行へお使いに行かせた。昨日、切符が切られたじゃない」

「ごめんなさいシンメイさん、お金は後で弁済するわ」

「だからいいって」


「あ、今は何時だったの?」

「△時すぎたくらいかしら」

「あかん!私、バイトあるの」

「あらら、姫様は姫様らしくないわ、今日は出前をやめよう、私の自転車、使っていいよ」

「シンメイさんありがどう」


少女が全力で自転車で走って、「デリ・シー・ピザ ルプレイヌ=ド=メ魔王城店」という看板のある店の前に止めました。


「おはようございます、シアボーネさん」

「おはよう、ユージェちゃん。ユージェちゃんって遅くない?キャロルちゃんはもう何回も出入りして来て、大変だったよ」

「ごめんなさい、ダブル分を頑張るわ、それよりシアボーネさん、見て見て、私、自機免許を取れたの」

「本当?ならより早くお客さんに届けそうだよね。手間を省いた分、給料に増してあげるぞ…どれどれ?あ、これ、講習を受けた印鑑をもらわないとと効力がないぞ。すぐに役に立たないのね、今度の休み、講習を受けてきたらどうだい?講習料はお給料の前借りで」

「講習もいるのか…やっぱり今回はやめます。私、友達の自転車で配達してくるわ」

「いってらっしゃい(…あの自転車って…ああ、シノワの娘と仲良くなったのか)」


少女がお店を出て数十メートルの後、再びお店に戻りました。

「あ、シアボーネさんごめんなさい」

「だろうね、お客様の住所もメモせずに行っちゃったから」


第14章

「こんにちは!ご注文のピザです!」

「ご注文ありがとうございます!熱いのでお気を付けください。」

「毎度ありがとうございます!デリ・シー・ピザです!」

少女はピザ屋と異なる客のハウスに飛び回ってきました。


「あ、シアボーネさん、私は最後配達したのは7分前のことだわ、このまま直帰するわ、キャロルさんによろしくと伝えて」

少女は公衆電話ボックスを出て、川沿いの歩道傍にあるベンチに座ります。

「うさぎ、うさぎ、なに見てはねる…」

「翼っち、それは何の唄?オリジナルなのか?」

「っきゃ!シアナさん、いつの間に…」

「銀行から戻ってきたよ、切符の納付なんてあっという間だ。先程まで延ばされるのは前がお金を引き出すじじが遅かったせいだ」

「へぇー、そんなんだー」

「あ、翼っち、メイっちから自転車を借りただろう、用が済ませたら早速戻してよ、また出前に使うから…聞いている?」

「わかったわ、なら、シアナさんが戻してくれる?美味しいものを奢るから」

「絶対な約束だぞ。よーし、シアナ選手、出発っ!」

「ちょろいもんだわ」

少女はベンチに座り続きます。


そよ風を浴びる少女に、一人の男の子が来ました。

「ラングラード川っていつもこんなに綺麗じゃない?」

「あら、ベルトードさん、こんにちは」

「この間僕にテンダム自転車を返却することを感謝しているよ」

「いいえ、ちっともないことだわ、それに、あの二人と乗って帰ることも楽しかったし」

「そういえば何がほしい?口が荒れたよ。コーヒーがいい?それともミネラルウォーターか?」

「液体黄金がいいなー」

「あははっ、黄金を飲んだら人ごとが荒れるよ。アイスコーヒーを買ってくるよ、ここで待ってって」

「あ、私は大丈夫だわ」

「遠慮しないでって」


「サリンジャー様があのタイプの子がすきなのか。これはメモしておこう」

遠い所のかげから少女を観察する女の子がいました。


第15章

「またあとでベルトードさん」

少女はベンチに座り続きます。

「あ、雨が降ってきたわ」

少女は立ち上がって、巨大段ボールのような小屋に向かって、一面開けた小屋の中のベンチに座りました。

「やばっ、雨なんてやだー」

段ボールを背中に貼る女の子が少女に近づいてきました。よく見ると、彼女の背中の段ボールは少女の翼を真似しようとしている形にハサミの切り跡がはっきり見えます。

「…」

少女はベンチのすみっこに移ります。すると女の子もまた近づいて来ます。

「あの…何の用?」

「サリンジャー様があなた様によく話してくるのですか?僕、すごく気になります」

「ああ、こういう人だったわ」

「気になります!」

「1000リンジーくれるなら教えてあげるわ」

「1000リンジーですか?承知しました。」

女の子が斬新な10枚100リンジーを少女に渡しました。

「あっ、先の話は嘘だわ、リンジーを持って帰って」

大人しい語気の反対に、少女の顔に驚きが少し残されています。

「気になります!」

少女はその女の子に弱いようです。

「こんな時は自己紹介を先にするもんじゃない」

「はい!魔王城先生!僕はエグランティーヌ・トロワヴィルといいます!趣味はサリンジャー様です!将来の夢はサリンジャー様の嫁になることです!」

「私は魔王城じゃないわ。ド・ルプレイヌ=ド=メっていうわ」

「はい!ド・ルプレイヌ=ド=メ先生!どうやってサリンジャー様に会えるのか教えていただけますでしょうか?」

「ベルトードさんがテンダム自転車を押して歩いていたら、そのテンダム自転車を引き取ってあげたらいいわ」

「承知しました、ド・ルプレイヌ=ド=メ先生!僕、このプランを実行してみます!」


女の子は足どりが軽やかな走りで雨の中に消えました。

「雨っていつやむかな、バカが風邪を引かないけど、私は引くわ」


第16章

雨がやみました。

「あ、ひとまず必修科目の教科書を買っておくべきじゃないか」


少女は立ち上がって、魔王城とピザ屋の反対方向に向かって歩き出します。

10分くらい歩いていたら、少女の目の前に華麗な広い建物で大きい看板で「連邦国鉄 ブルティノー=ダンボワーズ駅」と書かれているものが見えました。国営鉄道の駅舎です。


本屋が駅舎のすみっこに位置していて、扉が開いたまま外に向いています。

「基礎法学…10年生の数学…10年生の作文…どうしよう、一冊が35リンジーもするのか…その時トロワヴィルさんのお金を借りたらよかった…」

少女は本棚の前にぐずぐずしています。


「あら、ジェニーちゃんじゃないか、駅で出会うのは珍しいことね」

「あ、キャロルさんこんにちは」

「ジェニーちゃんに合わなかったから、あたし今日寂しいよ」

「あははっ、今日は疲れたから直帰したわ」

「ジェニーちゃん忘れただろう、今日は給料日だよ、見て…あたし今週370リンジーも稼いだよ」

キャロルさんが封筒から札を出して少女に見せます。

「そういえば、ジェニーちゃん、何を買いに来た?ちなみにあたしは古本探しだよ!」

「教科書だわ」

「教科書ならこれらかな…優しい魔導書(後編)…工作1…極東語上級…」

「あのね、キャロルさん…私たち、同じ高校じゃないわ」

「あ、確かにそうだった!ジェニーちゃん、ティボービル西を受けたっけ?魔王城に住んでいれば魔王城南高が近かったのに」

「近すぎだったことだから行きたくないもん!」

少女は反応が大きかったようです。この時、少女の翼が後ろの本棚に一冊の本を落としました。

「傷ついたら商品にならないじゃない!あなたたちが買ってきなよ!」

会計カンターの奥から声が届いてきました。

「これは…魔導学略史…ごめん、キャロルさん、お金を貸してくれるの?」

「いいよ、ジェニーちゃんって先週も200リンジーくらい稼いだし、あたしがティツィアーノ兄ちゃんにジェニーちゃんの給料を除けばいいのことだ」

「ありがどうキャロルさん」

少女が何冊の本を持って会計カンターに向かいました。


第17章

少女は何冊の本を捧げて歩いています。

その時、キャリーバッグやスーツケースを引く何人が歩いて向かってきました。

「惜しかったな。他の所も回してきたのに、魔王城が見学出来ないって」

「あそこ私有地だよ」

「あと半年で公開される予定って噂を聞いたぞ、今度の年次休暇、またルプレイヌ=ド=メに来よう」


「…」

少女は無言のままキャリーバッグを引く人とすれ違いました。


「愚か者は、まじめさを盾にする…」

少女はベッドで横になっています。

「法学とは、正義に従って生きる人間の学問である…」

少女はベッドでうつ伏せになっています。

「全ての市民は、法の下の平等にある…」


少女は窓から外を眺めています。雨がやんだ後のすっきりした空気を浴びています。

「このきれいな青空も個々の市民の総体に所有しているのか…」


遠方から列車の汽笛が聞こえて、黒い煙が見えています。

「魔王城に住んでいるのに税金が納めないくせに…邪魔な翼だけだとそんなデカい鉄ハコも引っ張れないくせに、何が魔王の末裔かよ、何が姫様かよ…」

少女の顔からいつの間に涙が一滴こぼれました。


とんとん。「姫様!いただろう!窓からみえたよー」

少女が上の階から降りて、木製ドアを開けたら、目の前にシンメイさんが自転車を押して立っています。

「シアナが自転車を戻してくれているから、また出前に出てきたよ。そういえばシアナから聞いたよ、姫様は川沿いにボーとしていたことを、何か悩み事があったら、私たちにも相談できるじゃない?友達ってこういうもんじゃないかしら?」


少女が顔を手で拭いて、翼を全展開します。

「ならば、シンメイさんに一つのお願いがあるの」

「何でも承りますー」

「シンメイさん、私に姫様と呼ぶのをやめてほしいの、ユージェと呼んでくれる?」

「魔王の末裔も貴族扱いだよ、こうだったら礼儀正くなくなるかしら」

「私、自分が貴族だと最初から認識していないの」

「ユージェ姫、これは折衷案だ、これ以上は譲らないわ」

「ありがどうシンメイさん」

少女は笑顔をシンメイさんに見せました。


「私、この魔王城を法的な手段で守りたいわ」

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