第42話 ガマズミ
土曜の朝。さてのんびり二度寝を決め込もうとしていたら、椿が叩き起こしてきた。
「桜! 起きて! 私は早く行きたいの!」
もそもそ起き上がる。結局、椿の家にお泊まりしてしまった。まあもう数えるのも面倒くさいぐらい泊まってるけど……。
昨日の夜、椿は今日のためにしっかり早めに寝ていたから元気いっぱいだ。朝ごはんを食べた後、いろいろと準備する。
「そういえば、椿はどうやってあの店を見つけたの? きっと、家の前に知らない扉があったんだよね?」
「えっ、なんでわかるの? なんかね〜、二週間ぶり桜と一緒に夕ご飯食べる日だったから、アイス買いに行ったの。その帰りに桜に連絡しようと思って連絡しようとしたらポケットに携帯なくて。スマホ忘れたことに気づいて焦ってたら、なんかシャボン玉みたいなのがふわふわ飛んでて……」
シャボン玉! そうだ。ずっと店長に訊きたかったことだ。タイミング逃し続けてた。今日訊いちゃおう。
「準備はいいかい?」
「できてるよ!」
「じゃあ行こうか」
一応誰にも見られないように、椿の家の裏にドアノブを設置する。そして、見慣れた扉を開いた。
「おはようございまーす」
「ああ……おはようございます。今日は神凪さんまだ来てないですよ。一等賞なんて珍しいですね……」
「ま、まぁ、起こされたんで」
「起こしました! 私が!」
椿が得意げだ。なんだか、今日の店長は少し疲れているように見える。
「店長、なんかふにゃふにゃしてますけど、なんかありましたか?」
「あぁ……先程まで厄介なお客様がご来店なさっていて……」
「……釜田さん……?」
「はい……」
よっぽど疲れたんだろうなぁ〜。椿は不思議そうな顔をしている。どう説明しようか。
すると、カランッと鈴の音。挨拶をしなき
「桜ちゃあ〜ん!!」
……釜田さんだ。ガバッと抱きついてきた。
「うち、昨日のことずっと謝りたくて! ごめんね! 急に帰っちゃって! うちはただ桜ちゃんと友達になりたかっただけなの〜! 見捨てないで!」
昨日と様子が違いすぎる。え……どうしよう。1回だけなら許してあげた方がいいのかな?
「あれ? その子は?」
私を抱きしめたまま、椿を見つける。椿の様子が見えない。
「昨日、店員になった椿です」
「え〜! そうなの!? うち釜田爽世! 友達なろ!」
「私は宮崎椿! よろしくね!」
おお……さすが椿……。仲良くなろうと思ったらすぐにいけるって言ってただけあるな。
「今時間あるよね! おしゃべりしようよ!」
店長は苦々しく顔を歪めながら嫌そうにオーケーのサインを出した。ならいっか……。いいのか……?
「うちこの席〜! 椿ちゃんと桜ちゃんはこの席ね!」
カウンターの椅子に座るように急かす。釜田さんを挟む形だった。
「ねね、椿ちゃんはどういう理由でこっち来たの〜? うちはね、薬でふわふわして酒飲んでたらこっち来てた!」
「え? こっち? 爽世ちゃん何歳?」
まずい、椿にも釜田さんにもバレる。此岸の人だってバレる。
「うち? 十八〜!」
「お酒飲んでいいの!?」
「だってうちがいたとこ無法地帯だったもーん」
そう言って袖をまくる。腕を見せてるんだ。椿にも。どう対応するのかな。
「そっかぁ……。今は? もう大丈夫な場所にいる?」
「そりゃね。だってぜーんぶおさらばしたし。死のうとして死んだわけじゃないけど、別に生きたいわけじゃなかったし〜?」
「ん? 死んだ?」
椿の顔が固まる。店長は忙しい忙しい、なんて言って奥に入っていってしまった。まてまてまて。逃げるな卑怯者。
「爽世ちゃんって亡くなってるの?」
「え? そうだよ? 椿ちゃんもでしょ?」
「はえ?」
「待ってごめん! 椿! 椿は生きてるよ! 自信もって!」
思わず立ち上がって叫んでしまった。助けてくれ店長! だめだ助けてくれない!
「え、なになにどういうこと? 椿ちゃん達、生きてるの? じゃ、なんでここいんの?」
「仕方ないので僕から説明します!」
店長が颯爽と何かを持って奥からでてきた。店長!!! 初めて敬えるかもしれない!!
「えーと、まずはお二人に謝罪を。黙っていて申し訳ありませんでした。実は、この世には二種類の世界? がありましてね。ついてこれてます?」
店長は、用意していたらしい木の模型で彼岸と此岸を作り出す。椿はついてこれていない。目の中のぐるぐるマークをぐるぐる回してる。
「で、この店は此岸と彼岸の間にあるお店です。というわけで此岸の人である桜さん達に働いてもらってます」
「え、店長さんは?」
「僕は彼岸の人間ですよ」
椿がふらっと椅子から落ちそうになる。頑張って受け止めた。
「大丈夫? 椿」
「私まだ夢の中にいる?」
「へー。二人ともまだ生きてたんだ〜。別に羨ましくはないけどね」
つまらなそうに釜田さんは呟く。羨ましくないのか。私たちにとっては都合がいい。でも、なんだか悲しくなってしまう。
「幽霊……には見えないや。なるほどねぇ……だから桜は黙ってたのか」
「落ち着いた? ゆっくり理解していってね。焦らない焦らない」
「まぁ今日の説明はここまでにいたしましょうか」
店長はガタガタと木の模型たちをしまう。釜田さんはまたちらちらと椿に腕を見せ始めた。
「……ねぇ爽世ちゃん。私はね、爽世ちゃんがどんな人生を送ってきたかは知らない。でも、私は爽世ちゃんのことを何があっても対等な友達でいるからね」
椿は釜田さんの手を取りながら諭した。なるほど、そう言うのかぁ。
「私も! できることならするから、友達でいるから! そ、爽世ちゃん!」
釜田さんの顔はパァっと明るくなった。すごく上機嫌だ。
「ありがとう椿ちゃんと桜ちゃん! 大好き! ねぇ、外行こう! うち案内するよ!」
席を立って勢いよく外に出た。有無を言わせないようにしてるみたいに。
「え〜……。ここ異世界じゃん……」
「まぁ今は何も考えずに後を追わないと。店長、行ってきてもいいですか?」
「いいですよ。でも、多分彼女はあなた達を離したがらないと思うので、仕事があるって言って適当に切り上げてきてください。長くても一時間を目安にお願いします」
店長はまたも苦々しく了承した。椿が振り返る。
「ねぇ、桜。なんかあんまり忠告みたいなことするのも気が引けるけど……。あの子、たぶん私たちのこと何回か嫌いになると思う。でも振り回され過ぎちゃだめだよ。私たちは爽世ちゃんの友達なんだから」
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