The wolves in the dream
篠目薊
第1話
プロローグ
少年は連なる建物の間を駆けていた。今は夜だ。周りはもう
「そこを左、曲がったら三つ目の角を右」
少年は言われた通りに角を曲がった。そのまま一つ、二つと右側の黒い口を開けている路地を数え、三つ目の曲がり角で同様の暗がりに飛び込む。そこは、真っ直ぐな通路であった。どこまで続いているかは分からない。なおさら、入ってくる光が少なくなる。一瞬足がすくんだが、なんとかこらえ、止まらず駆け続ける。
「もうすぐ階段がある。見つけたら、上って」
少女が言った通り、しばらく走ると階段の手すりのようなものに触れた。周りにはほぼ明かりがなく、何も見えないと言っても過言ではない。だから、あくまで「手すりのようなもの」なのだが。しかし、ぼんやりと見える登り切ったであろうところは完全に闇だ。登るのを躊躇した、その時。
「待ちやがれゴラァ!!」
「どこ行きやがったあのクソガキ!!」
怒声が今しがた来た道の方から聞こえてきた。少年は身震いした。
「やば……」
暗いことなど関係なかった。今はただこの肩の上の少女と共に逃げるだけ。
「逃げて」
背負った彼女が静かに言う。少年は止まりかけていた脚をフルに回転させ、猛烈に階段を駆け上がりだした。
何を隠そう彼らは今、追われているのである。しかし理由も無しに追いかけられているというわけではない。少年は追っ手から、あるものを盗んできたのである。食べ物か?金か?どちらでもない。少年が獲ってきたものは、今、彼に担がれている……あの、少女であった。
では追っ手は何者か?
「なんだあいつら……人間か?」
少年は思わず、と言った調子でつぶやいた。息が切れているので、本当に極々小さな声での呟きだったのだが、それに律儀に答えた少女の返答は、ひどく簡素なものであり、またひどく異様なものであった。
「あれは、鬼」
何気ない調子で発されたので、一瞬聞き逃してしまいそうになるほどだったのだが、聞き逃すわけにはいかなかった。
「……マジで?」
「うん」
返答が簡素すぎる。
追っ手が鬼なら、まさしくこれは、本物の鬼ごっこ。捕まったら何をされるか分からない。よって、捕まるわけにはいかない。
彼らは更なる闇へ身を躍らせた。
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