エルフと同居始めました
爆滓
第1話
「腹減ったー!」
仙台と郡山から駅弁用の弁当を積んで新潟まで配送した帰り道。
行きは高速だが、帰りは下道だ。
時刻は午前1時過ぎ、七ヶ宿ダムのあたり。
仙台を出たのが17時くらい。
ずっと走ってたからまだ晩飯食ってなかった。
食うと眠くなるから、腹の事は意識の外へ追いやってたんだが、さすがに限界だった
駐車場に車を止める。他に車はいない。
自販機でお茶を買って、荷室においてあった弁当を出す。
後で食べなと、仙台の弁当屋さんがくれた牛タン弁当。
紐を引っ張ると温まる奴だ。
はじめて食べたが、本格的に温まるもんだな。
弁当屋さん、ありがたくいただきます!
因みに俺が運んだ弁当は、東京で売られるのだそうだ。
仙台でも売ってるならまた食いたいと思うくらいに美味かった。
さて、正直少し寝たいところだが、軽トラの運転席なんて寝れたもんじゃない。
今は空荷だから荷室で寝てもいいんだが、この時期この時間は寒い。
保冷車は冷やせても温めることは出来ないからね。
毛布でも積んでるなら良かったんだが。
いや積んではいるが、荷物にかぶせたりする奴なのでビミョーに汚いのだ。
流石にそれで寝ようとは思わん。
だからとっとと帰りましょうってことになる。
少し外でアタマをスッキリさせて出発しよう。
と、ドアを開けて外に出た瞬間、カメラのフラッシュのような光とともにバシュッ!って感じの、一瞬空気が噴出したような音。
「おわっ!」
突然の事で思わず声が出てしまった。
音のした方を見ると、少し離れた街灯の下に女が立っていた。
「あ!びっくりさせてごめんなさい!」
一瞬幽霊か何かかと思ったが、普通に人みたいだな。
「えーっと・・・気が付かなかったけれど、ずっとここにいたの?」
「いいえ、たった今この世界に転移してきました」
「は?転移?」
アニメやラノベの話か?
そう思いつつ彼女を観察する。
服装はローブってやつか?アニメなんかに出てくる魔導士って感じだ。
見た感じは白人っぽい。
だが話す日本語は完璧だ。
「その格好ってコスプレかなにか?」
「コスプレがなんなのかはわかりませんが、本当にわたしは今この世界に転移してきたところなんです。すぐに信じていただけないのは当然かもしれませんが、事実なんです」
異世界モノのアニメやラノベは好きだったりするが、だからって現実にこんなことに出くわして信じられるわけがない。言ってる人の頭を疑うのが先だろう。
だが気がついた。耳が人間とは違っていることに。
「エルフ?」
「エルフ族を知っているのですか?」
「神話や物語に出てくる、耳の長い長寿の種族・・・だよね?」
「こことは別の世界には、現実に存在しています。わたしはエルフのファニア・ミネニスという者です」
「本物だって言われても・・・・嫌じゃなかったらだけど、耳に触ってみてもいいかな?」
「それでわたしを信じてくれるのなら」
「じゃあこっちに来てくれる?何もしないよね?」
「何もしません。信じてください」
俺は車から一歩出ただけ。
ドアは開いているし、エンジンはかけたままだ。
もし彼女が強盗か何かだとしてもすぐに逃げられる・・・・多分。
男の俺の方が力強いだろうしな。
彼女が歩いてくる。
正直怖かったのだが・・・・・
彼女、ファニアのあまりの美しさに見惚れて、恐怖感は吹っ飛んでいた。。
白髪・・・いやちょっと金が入ってるか?目の色は黒に見えたが緑っぽい。身長は173の俺が少し見上げる感じになるが、ヒールの高いブーツを履いているので、大体同じくらいかもしれない。
そして何より特徴的なのが耳だ。
漫画やアニメのエルフの耳だった。
「どうぞ触ってみてください」
「それじゃ・・・ゴメンな?イヤかもしれないけど」
「いいえ、あなたに触れられるのは嫌じゃありませんから」
「? じゃあさわらせてもらうよ」
恐る恐る彼女の耳に触れてみる。
「本物・・・だよな?」
作り物には見えないし、触れてみても本物としか思えなかった。
「正真正銘、わたしの耳ですよ?」
「すまない、少し混乱している。ああ、少し寒いな。車の中で話そう」
「これは車というのですね?どうやって開けるのでしょうか?」
「ここを引くんだ。あ、ゴメン。片付ける」
助手席においてあった伝票や書きかけの配送報告書などを荷室に放り込んだ。
「ここに座って」
「失礼します」
「本当に異世界から?」
オカルト話でも異世界に行った話の方が多いだろう。
異世界から来た話なんて俺は聞いたことが無い。
だが彼女の耳はどう見ても本物だった。
「本当です。嘘ではありません。どうすれば信じていただけるでしょう?」
耳が本物だとしても、やはり異世界なんて簡単には信じられなかった。
幽霊と話してるって方がまだ現実味がある。
「そうだなぁ・・・魔法とか使える?」
「使えます」
「それじゃあ俺が今考えてることもわかったりする?」
「出来ますが・・・よろしいのですか?」
「ああ、かまわない。今考えていることを読み取ってみてほしい」
正直なとこ、彼女は頭がちょっとかわいそうなお姉さんってとこだろうと思う。
異世界なんてやっぱり信じられない。
そう思いながら、彼女から目が離せない。
美人すぎるだろ、この人!
「では・・・・あの!そう思っていただけるのは嬉しいんですが、少し照れます!」
「ん?あーゴメン!でもホントにそう思って・・・・・って今、本当に頭の中読んだのか?」
今俺が考えていたのは、彼女がすごく美人だってこと。それと・・・
「はい。わたしのことを美人と思ってくれていること。それとエルフなのが事実だったらいいな、と思ってくれてますね。嬉しいですよ、飯野森雄司さん」
そう言って、彼女は微笑んだ。
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