夏季休暇 Ⅱ
夕食の席ではラフな格好をしていたエブリンが貴族の様な正装をしていた。
勿論アートとクリス、リリスも同様である。
「昼間は失礼しました、どうぞお掛けに成って下さい」
4人用の円卓テーブルにアートを挟む形で3人は腰を掛けた。
「料理は注文しときました、昼間のお詫びと言う事でご馳走させて下さい」
俺は初めて男性と触れ合って戸惑っていた、何故なら女性より優しいでは無いか。
「こちらこそ申し訳無いです」
アートが素直に頭を下る。
料理が色々運ばれてくる。
「それでは新しい出会いに乾杯」
4人は静かにグラスを鳴らした。
エブリンがグラスを置くと1つの提案を申し出たのだった。
「このままでも構わないけど折角知り合えたんだから自己紹介しないかい?」
自己紹介か・・・
「まずは僕からね、名前はエブリン出身はカルベラ王国で実家は商店、僕は3男だから跡を継ぐ事が無いのでね世界中を見て回ろうと出て来たのさ」
「そうなの、ゾネス皇国は良かった?」
リリスが皮肉っぽく聞くとエブリンは苦笑しながら答えた。
「どうやら良い男はお断りみたいでね、出だしの国として期待してたんだけど残念だったよ」
「次は私達の番ね」
「俺はアート呼び捨てで構わないよ」
「了解だアート、生まれは何処なんだ?」
「エブリンが断られた国から来た普通の男さ」
アートが笑顔で言うとクリスとリリスは固唾を飲み、エブリンは気に入ったようで大笑いを始めた。
「実家や何やらは聞かない方が良いな、一緒にいる間は仲間だ宜しく」
「こちらこそ宜しく」
「そうするとお嬢さん方にも聞かない方が良いのかな?」
「私はクリスよ盾と言った所かしらね」
「可愛い上に冗談も冴えてるなんてアートは羨ましいな」
「最後は私ね、名前はリリスと言うわ国は亜人国フリーシアよ」
そこから4人は食事を楽しみながら様々な会話を重ねて行った。
「所で3人は明日スーヤへ着くけど、その後は決めてるのかい?」
「スーヤ法王国で冒険者登録をしたらフリーシアへ向かおうと思ってる」
「僕はね腕にも結構自信があるんだ、それに何より君達を気に入ったよ」
「どう言う事?」
「旅の同行者として一緒に連れて行って貰えないかな?」
出会ったばかりの人間、こちらの身分も知ってる上での申し出・・・どうするか?
「1番の新入りとしてなら私は構わないわよ」
リリスはまたキツイ事を言って・・・。
「僕は構わないよ、フリーシアに行けるなんて中々無い事だもんね」
「良く知ってるわね」
「知識だけだけどね、家を継ぐ事が出来ないと知った時点で世界に出ようと沢山の本を読んだんだ」
「クリスはどう?」
「アートが良いなら私は何も・・・」
何時ものクリスなら反対しないまでも何か言うと思ったけど、あっさりと受け入れたな。
「それじゃ決まりだクリス、君が彼の盾なら僕が君の大盾に成ろう」
「エブリンは本当に強いの?」
「ああ、今度腕試ししよう」
「そうね」
クリスの様子が明らかに可怪しいな。
「アート少し外の風に当たりたいわ、付き合ってくれない?」
「良いよ」
楽しそうに話す2人を残してアートとリリスは前甲板へと出た。
「クリスは随分とエブリンを気に入った様ね」
「何だか何時ものクリスと違うよね?」
「貴方って本当に恋愛に関しては駄目なのね、クリスのあれはエブリンを気に入っての行動なのよ」
「クリスがエブリンを好きって事?」
夜も遅く強い風が吹いて来た。
「寒いだろ、これを羽織ると良いよ」
アートは自分が着てた上着をリリスに掛ける。
「貴方は凄いのか馬鹿なのか分からないわね・・・」
「何?」
「何でも無いわ、、今はお互いが好意を持ってるって事だからそっと見守りましょう」
「分かったよ」
「後ね私が貴方に男女の恋愛と言う物を少しずつ教えて行って上げるわ・・・全く親の顔が見てみたいわ」
「あはははは・・・帰ったら会わせるよ」
「冗談よ、一瞬で首が飛ぶわ」
寒さの中アートの上着を羽織ったまま戻ったリリスは丁寧に脱いで返した。
クリスは一瞬渋い顔を見せたが直ぐにエブリンとの話しに戻って行った。
「俺は先に休ませて貰うよ」
「それなら私も」
クリスもアートと一緒に立ち上がる。
「それじゃ今日はここまでにしようか」
エブリンがお開きを告げるとリリスも席を立ち船室へと向かった。
アートは部屋で考え込んでいた。
友情と恋愛・・・何が違うのだろう。
突然扉をノックされ我に戻ったアートは平静を装い扉を開けた。
「申し訳無いねもう休んでたかな?」
「いや大丈夫だよ、それで何かあった?」
「アートと少し話がしたくてね」
扉を大きく開けるとエブリンを招き入れた。
それぞれが腰を降ろし数分、エブリンは両手を前に俯いている。
「エブリン話って・・・」
「アート! 率直に聞くけどクリスの事はどう思ってるんだい、既に恋人なのかい?」
またその問題かどちらなのか聞かれても今は分からない、ただ言える事は結婚は考えて無いと言う事だ。
「友人だよ」
「そうかー」
ホッと笑顔を見せるエブリン。
「それだけを聞きたかったんだ遅くに悪かったね」
「気にしないで良いさ」
「そうだった! 明日からも宜しく頼むね」
「こちらこそ」
エブリンが部屋を出て行った。
同年代の同性と話すのは初めてだけど良いもんだな。
ワクワクとする気持ちが込み上げて来るアートであった。
翌朝早くには港に着いていたが波が荒すぎる為、接岸は昼近くと成ってしまった。
4人は軽く軽食を取ると冒険者ギルドへ行き、ギルドカードを発行して貰ったのだった。
「フリーシアへはどの位掛かるの?」
アートの質問に考え込むリリス。
「普通なら国境まで3日も有れば行けるわ」
普通と言う事は転移魔法を使わなければと言う事だろう
「それじゃ馬車を頼もうか」
「僕もそれで構わないよ」
クリスとリリスも素直に納得した。
「お客さん達4人だけかい?」
「そうだけど問題でも?」
御者は不安そうな顔で4人を1人ずつ見て行く。
「今はあの辺り危険なんですよね、料金は倍で危険を感じたら直ぐに引き返すと言う条件なら良いぜ」
「その条件で構わないから頼むよ」
走り出した馬車の中で御者から聞かされた事を整理する4人だった。
その内容とは・・・
獣人族がフリーシアの豊富な土地を求めて小競り合いがあちこちで起きている中、火事場泥棒の様な帝国の野党なども増えてると言う事らしいのだった。
魔王国に関しては隣接する国が兵を集め、勇者も帝国に戻ってる事もあり動く気配は無い様だとの事だ。
乗り込んでから険しい顔を変えず返事もうわの空なリリスを見かねたアートは耳元で囁いた。
「転移魔法で急ぐかい?」
リリスは無言で首を振った。
彼女としては昨夜からアートとの良い雰囲気を壊したく無いのだ。
「君だけでも行くべきだ、国民を守るのが上に立つ者の使命でもあるんだ」
「今夜の夕食後密かに抜けて行く事にする、でも約束して必ず無事に辿り着くって」
「必ず駆けつけるよ、俺は友人を見捨てはしない!」
そもそも何故獣人族は魔王国に肩入れをしたんだ?
唯一の男が女人国家を男女共存国家へと変えて行く物語 マナピナ @manapina
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。唯一の男が女人国家を男女共存国家へと変えて行く物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます