実体験怪奇録
Sierra
心霊体験
第1話 中学、高校生時代、お泊り会
中学、高校生時代、仲の良い男友達6人程が、『お泊り会』という名目でかわるがわる毎週のように著者の家に泊まりに来ていた。
お泊り会と言っても、夜通しゲームをしたり映画を見たりで横になる事は少なく、ほとんど放課後の延長のようなもの。
目的が集まってから決まる事も多く、いつからか、著者の部屋に集まる事自体が目的のようになっていた。
はじめの頃こそみんなでゲームを持ち寄って協力プレイをしたりもしたが、それも高校生にもなると頻度が減り、代わりに麻雀卓を囲んだり、映画を観たりといった体力をあまり使わないものへと変わっていった。
映画を観る場合、地元のレンタルショップに参加メンバー全員で立ち寄り、それぞれが好きな物を借りる、というルールがあり、ターミネーターやロードオブザリングといった王道の物から、ディセントXや死霊の盆踊りと言ったB級どころかZ級クラスの映画まで、目についた物は片っ端から借りて観ていた。
それがいつしか、著者の趣味もありホラー映画観賞会へと形を変え、高校生時代の三年間の間にそのレンタルビデオ屋にあるホラー作品をほとんど観尽くしてしまう程になる。
対象は映画以外にも借りられる物全てであったため、本当にあった呪いのビデオや封印映像、闇動画なども当時出ていた最新作まで全て観た。
これは、そんなホラー映画上映会を行うようになった2年目の夏。
三人の友達が家に泊まりに来た日の事だ。
その日はK、S、Tの三人が泊まりに来ていて、家に集まる前に当然、レンタルビデオ屋でいくつかのホラー映画を借りていた。
昔の話のため何を借りたかは覚えていないが、各自夕食を食べてからの集合であったためスタートが遅く、一本目の映画を観終える頃には夜の十時頃になっていた。
大して怖くなかったな、金の無駄だったわ、などと笑いながら話し、次の映画を選んでいる時に、Sは突然姉の話をし始めた。
Sが言うには、姉貴が霊感を持っていて、心霊写真が撮れたり、そういったモノがわかったりするという。
血の繋がりに、最近ホラー映画を多く見るようになった事もあってか、どうもその霊感が自分にもついてきたというのだ。
こんなタイミングで話すものだから、その話を聞いた著者らは怖がらせようと思ってふざけている、と思い、全く相手にしなかった。
そこからは高校生らしい悪ノリが始まり、女の声が聞こえるだの、椅子に女の子が座っているだの、ありもしない心霊体験をでっちあげて笑っていた。
結局Sもその事を真剣に考えていた訳ではなく、何事もなかったかのようにホラー映画観賞会は継続される。
二本目、三本目と順調に進み、全てを見終えた頃には深夜一時過ぎ。
その日は話が盛り上がり、このまま徹夜でゲームをするかという事になり、区切りも良いからと夜食をとる事にした。
KとTは持ってきたお菓子で腹が膨れたからと断ったので、著者とSの二人で一階のキッチンへと下りていく。
Sがカップ麺を持って来ていて、お湯が欲しいと言ったからだ。
田舎なのもあり、深夜の家は無音状態。
廊下を歩く音で家族を起こしては悪いと、二人で抜き足差し足、音をたてないように階段を下りた。
Sに倣ってカップ麺を食べようと、自宅の押し入れを開ける。
家ではそこにカップ麺をまとめて保管しており、常時何種類かストックがあった。
その日に選んだのは醤油ラーメンだったのを覚えている。
やかんに水を入れて火にかけ、コンロの前に二人並んでひそひそ声で映画の感想を言い合った。
そうして映画の話をする内にSのした霊感の話になりお姉さんの話になり、実際にどんな心霊体験をしたのか聞こうとした。
しかし、ちょうど良いタイミングで湯が沸いたので一旦話を切り上げて、コンロの火を止める。
その時、著者とSは何の前触れもなく、キッチンの入り口の方へ振り向いた。
扉の先、左側に伸びる廊下の方から白く細い女の腕が揺れている。
腕はゆらゆらと見せつけるように揺れていて、その色の白さと異様な雰囲気から、ただ事ではないと察知した。
時間にすると数秒だが、腕が揺れている間は時間の感覚が遅くなり、数分間はその腕に釘付けになっていたような気がする。
女の腕はゆらゆらとした動きのまま廊下の方へと消えていき、キッチンにはただ静寂だけが残される。
しばらく廊下の方へ向いて固まった後、著者はSに見た? と聞いた。
Sは見た、と短く答え、その話はそれ以降しなかった。
そのまま著者たちは湯を注いでカップ麺を作り、それを食べて部屋に戻る。
部屋に戻ってもKとTにはその事を話さず、ゲームをして他愛のない会話をし、出来るだけいつもどおりに過ごすよう心掛けた。
その日から数年が経ち、著者とSは大学生になっていた。
成人を迎え酒が飲めるようになったのもあって久しぶりに家へ呼び、一緒に酒を吞み交わした。
その時にふと白い女の腕を思い出し、改めてその時の心境を聞いたのだが、Sは著者と同じように、出来るだけ刺激せず、平静でいるよう心掛けていたらしい。
女の腕を見た時の異様な静けさと、目が離せなくなる不思議な感覚は未だに覚えている。
もしあの時声を上げていたら、どうなっていたかはわからない。
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