これが恋じゃないのなら
うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
第1話
ゆっくり、自分のペースで歩く。様々な音楽と熱気の中を通り抜け、アスファルトを踏みしめて踊るダンサーたちを横目に、私を待つ彼等の元へ。
きっと私の歩くスピードは同い年のみんなよりも少し遅いだろう。それでも、彼等はそこには
「
「ううん。大丈夫。今回はどんなのか楽し……み……」
お兄ちゃんにそう答えながらも、私は同い年くらいの子から視線を離せなくなった。
のびやかな手、軽快な足取り、しなやかさ。色素の薄い髪から光る汗までも彼の
「いいだろ、あいつ」
「うん。あんなに
私の声が聞こえたのか、と思うほどタイミング良くその男の子と視線が合った。すると、
「はぁ!?」
私が一体、何をしたと言うんだ。ただ見ていただけだというのに。そんなに見られるのが嫌なら、ここで踊らなければいいだけだ。ここはストリートダンスを楽しむ人が集まる場所なんだから。
「おい、おまえ。
「なっ……。そんなこと言うなら、公共の場で踊るのやめなさいよ! ここは誰が踊ってもいいし、誰が見てもいい場所でしょう!」
こんなやつに視線を奪われたなんて、最悪! 確かにダンスは良かったけど、性格最悪じゃん。
まだギャンギャンと言いがかりをつけてくるので、言い返そうとした時、お兄ちゃんからストップが入った。
「いい加減にしろよ、
「えーっ」
「えー、じゃない。これから仲間になるんだ。お互いにあいさつはきちんとさせるからな」
仕方がない。お兄ちゃんは、こうと決めたら
「どうも、
「桜田? えっ……桜田って……」
「あなたの大好きな
文句でもある? と首を傾げれば、気まずそうな顔をした。
「悪かった。てっきり雄大さんのしつこい追っかけかと。俺、
そう言って差し出された手に気がつかないふりをして、私は近くの段差に座る。十月に差し掛かったこの時間帯のコンクリートは冷たくて、少しだけ私の頭に上った血を冷やしてくれる。
あまり、天宮と関わりたくなかった。正直、同年代の子は苦手だ。それに天宮 紫って、たぶん──。
「なぁ、理央は何が得意なんだ? ヒップホップ? それとも──」
「私、天宮が思ってるようなことできないから」
急になれなれしく隣に座ってきた天宮の質問にかぶせるように答え、お兄ちゃんに視線を向ける。その視線の意味を正しく理解してくれたお兄ちゃんは、メンバーを集めてくれた。
「おっ! 今日は理央が来る日か。気合い入れねーとな」
「ちょっと雄大。理央ちゃん来るなら事前に言いなさいよ。分かってたら、何がなんでもみんな来たのに!」
わいわい、ダンスチーム『
「理央っていつも来てるんじゃないよな? それなのに、何でこんなに
「それは、これからのお楽しみだよな、理央」
「お兄ちゃん、ハードル上げるのやめて。それと、天宮。私のこと、なれなれしく名前で呼ばないでくれる?」
距離感は大切だ。特に天宮とは。
「よし、みんな位置についたな。理央、音楽頼む」
「はーい」
お兄ちゃんに返事をして、私は音楽を流す。テンポの良い、洋楽を。
すると、リベルテのみんなはダンスを始めた。彼等はプロを目指している。みんなダンス経験者で、お兄ちゃんはこのダンスグループのリーダーだ。
はじめは通しで踊ってもらい、録画をする。
そして二回目。私はものの二十秒で音楽を止めた。音楽を少し戻して、気になる
「このタタターンのところ、もう一回お願いします」
私の言葉にみんなは真剣な顔で、天宮は不思議そうに繰り返す。
「めいさん、
「了解! ありがとう」
「
「オッケー! サンキューな」
気になったところで止めて、アドバイスを繰り返していく。これが、私のリベルテでの役目。人よりちょっと目が良くて、何となくどうしたらもっと良くなるか、その人はどこまでできるのか、そう言ったことが分かるのだ。
「天宮、そこのターンの時にもう少し
首を傾げながらも、天宮は言った通りにやってくれる。すると、思った通り。より安定して、しなやかになった。
一通りアドバイスを終え、みんなが個人練習をしている間に私はもう一度今回の音楽の聞き込みをする。
パワフルでアップテンポのこの曲は、男性九人、女性二人と男性が圧倒的に多い、力強いダンスを得意とするリベルテにぴったりだ。
ポイントは途中の曲調が変わる部分をいかに見せられるかだろう。ここでしなやかさや美しさが出せると、パワフルな部分がもっと
「もう一度、通すぞ!」
お兄ちゃんの声にみんなが個人練習を止めて、配置につく。私は音楽を流し、ダンスを録画した。
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