怖さすら通り越す意味不明の当たり具合

「ハードバンクス、ピッチャーの交代をお知らせします。石見に代わりまして、渡邉」



ベンチ裏に下がってひとまず治療していますとなったわけだが、やはりマウンドに上がるのは厳しかった。



代わりのピッチャーがリリーフカーに乗ってやってきて、足早にマウンドに向かいキャッチャーと打ち合わせをする。




引き続きノーアウト満塁となって3、4番というところ。



ビクトリーズとしてはアクシデントに乗じて動揺している相手チームを一気に引き離したいところだったが、期待のお祭りちゃんは上手く打ったが打球は上がらずショート正面のライナー。



4番芳川君はストレートを打ち上げてしまい、ファーストへのファウルフライに倒れた。



2アウト満塁となってバッターボックスにはマテル。打率は2割4分、ホームラン4本という成績だが、規定未達ながらリーグ2位となる27個のフォアボールを選んでいる。



ワシが打たねば!と、初球のストライクからボールになる変化球に手を出してしまった前の2人とは違い、しっかりその変化球。きわどいところではあったが、2つ見極めて2ボールとした。



そして3球目。同じ変化球だが、今度はストライクゾーン。少し甘くなったボールを叩く。



打球は飛び付くショートの左を破って、しぶとくレフト前へ抜けていった。



3塁から緑川君、2塁からナミッキー。2人が大喜びしながらホームイン。見事なバッティングをした助っ人に拍手を送っていた。



3点リードはデカイ。




7回には左の玉地。8回には豪腕エンゲラ。

この2人がハードバンクスのいやらしい上位陣を抑え、9回はキッシー。


スコーンとホームランを打たれて1点を返されはしたが、問題なし。気づけばリーグトップに並ぶ12セーブ目を挙げ、ビクトリーズはついに開幕戦から抱えていた借金を完済することに成功した。




そして繰り出す。





福岡の街へ。



欲望の玄界灘へ。




そして帰還し、部活が始まる。




ビジターホテルの前でよなよなすぶりー部である。




「新井さん?ずっとさっきから左で振ってますね」



さすがはFPSのゲーム部にも所属するノッチ。観察力と視野の広さが高まっている様子だ。



すぐ俺の違和感に気付いた。



「いやあ、ロマーノのスイングを参考にしててさ」



「俺のっすか?」



「そーそー。ロマーノはずっとくねくねしているように見えるけど、打つ瞬間になるとしっかり形が出来てるんだよね」



「確かに。露魔野君は足を上げてバットがトップにある形というのは安定してますね」



顎に指を起きながら、ノッチが分析するロマーノは少し照れ臭いような顔をした。



「新井さん!俺は、俺は!?俺もしっかり形を作って打つのは意識してますよ!」




そう訊ねてきた並木君には、別の問題がある。


「ナミッキーはね、今ちょっと上半身と下半身の動きがずれているかな。毎回ではないんだけどね。下半身の粘りが足りなくてこらえきれてなかったり、逆に早く打ちたいからバットを出そうとしてるのに、腰が回って来なかったり……。だから、ポイントがずれているだよ」



「なるほど。確かに指摘されてみればそんな気が………って、分かってるなら早く言って下さいよ!!」



キャプテンナミッキーはそんな風に憤った。



「だから、毎回じゃないって言ってるじゃん。大丈夫な時は普通にヒット出てるし、緩い変化球でそんな感じで抜かれた時に粘れてないって話で……」



俺はそう話ながらなんとなくナミッキーの件についてはごまかした。



「新井さん、俺は?緑川君に負けたくないんすけど……」



「ノッチは…………もっと頑張れ。打率1割台じゃ教える以前だよ。もっと打ち込め」



「イエッサー」







なんてアホなやりとりをしていたからだろうか。




「これも大きい当たりになったー!レフト露魔野が見上げるー!!………入りましたー!!野田の2ランホームランで、ハードバンクスがリードを20点に広げました!!」




まだ6回だというのに、気付いたら0ー20という差がついてしまっていた。



出る投手、出る投手がボッコボコ状態である。





「空振り三振!!最後はフォークボールか、いや、チェンジアップでした。露魔野、タイミングが合いませんでした。………緑川は初球打ち!打ち上げてしまいました、内野フライです。野田が出てきて掴んで3アウト。ビクトリーズ、この回も得点ありません!」




先発の小野里君が2回持たず7失点。2番手の笹沼が満塁ホームランを浴びるなど6失点。3番手で、1軍初登板となったルーキーの大前も途中、5連打を浴びるなど2回で7失点という大惨劇。



そんな中、4番手で上がったのがブライアンだった。


スーパーが付くレベルの敗戦処理。ありがたい存在。


さすがに20点ともなると、相手も少し集中力がなくなってきたのか、単にブライアンの投球の思い切りがいいのか、2イニングで3つの三振を奪うピッチングでようやく守りのテンポが良くなった。



そして、フォアボール、ライト線へのポテンヒットときた俺の第3打席目である。




「さあ、試合は7回に入ります。ビクトリーズの先頭は新井です。復帰してから18試合というところですが、打率は5割をゆうに越えています。5割6分6厘です。そして交流戦の打率は10割。目下、プロ野球記録更新中の16打数連続ヒット中です。あり得ない事態になっています」



「ちょっと、当たっているとか、すごいではなくて、訳が分からなくてもはや恐ろしいですよね。しかし、今日のビクトリーズはまだ新井のヒット1本しかありませんから、点差は置いておいて、まずは繋いでいきたいですよね」



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