照明の眩しさが刺激してくるんですわ。
ベンチで1列になってのハイタッチタイムが終わると、興奮したブライアンが、また俺を抱っこするようにして喜びを爆発させる。
こっちは3児の父なんですけどという言い分もお構い無し。
それを見ていたチームメイト達もまたわらわらと集まりだし、ブライアンの背中や肩を叩き、ついでに俺のおケツも揉まれる。
「やったな、ブライアン!お父ちゃんとお母ちゃんにやっと恩返し出来るな!」
「そういうこと言わないで下さいよ、泣いちゃいますって!」
「気をつけろ、ブライアン!そうやって油断させる新井さんの罠だ!気を引き締めろ!」
などと、並木君が実体験から来る忠告を入れてきた。
そして快音続く。
「いい当たりだ!緑川がナイスバッティング!ストレートを捉えてセンターへクリーンヒットです!」
スコーンと叩き、ライナーになった打球がピッチャーの伸ばしたグラブの先を抜けていく、2塁ベースの向こうで跳ねた。
「2アウトランナー1塁。緑川は盗塁を狙える選手。今シーズンはここまで6回走って5回決めています」
「相当警戒される場面ですけど、走りたいですよねえ」
「打順は1番に返って並木。打率は3割1分5厘と当たっています。次が新井ですから、どういう考え方をしますか。セットポジション。………走った!初球から狙ってきた!」
1球牽制が入り、緑川君は余裕を持って戻る。
それがあっての初球にスタートを切った。ピッチャーはアメリカタイプの豪腕系。やはりそれほどクイックが早くないタイプ。投球はストレートだが、素晴らしいスタート。これは盗塁が決まった。
と、思った瞬間に………。
カキィ!!
そのストレートを並木君がきれいに打ち返した。しかも引っ張り。打球がレフト線に向かって飛ぶ。
「ハイレェー!!」
「残れェー!!」」
チームメイトが叫ぶ。3塁コーチおじさんも左から右に向かって腕を振り、風を吹かそうとする。
スタジアムにいる全員が見つめる打球。俺が可愛く2回くしゃみをしている間に、キャプテンマークを強奪した男の魂のこもった打球がレフト線のちょうどライン上に跳ねた。
3塁審判おじさんが3回、4回とグラウンドを強く指差す。
レフト線ギリギリに入った打球が、小さく2回3回と弾みながら、ファウルグラウンドへ切れていく。俺がたまにおサボりしているフェンスとフェンスの繋ぎ目の角っちょにちょうど打球が入り込んだ。
スタートを切っていた緑川君があっという間に、2塁を蹴り3塁へ。
俺はネクストのわっかにおピンクバットを置いてホームベースの近くに走る。
ボールに追い付いたレフトがボールを待つも、角ちょまでいったボールのクッションが弱い。
若干のロスが生じた瞬間に確信した。
後はもう早く、早くと。3塁を蹴ってホームに突っ込んでくる緑川君を招き入れるように上から下へと何回も腕を下ろす。
ボールがレフトからショートへ。
そのボールがバックホームされた時には、緑川君がホームへスライディングを決めていた。
「よっしゃああぁっ!!」
「うおっしゃああっ!!」
俺はその場の雰囲気に任せて、スライディングの勢いで立ち上がった緑川君と抱き合った。
すると………。
「うおおぉっ!!」
「俺も混ぜろー!」
「ナイス、ミドリー!!」
柴ちゃんと桃ちゃんとノッチが覆い被さるようにして飛び込んできた。
「キャプテンだ!キャプテンのところにも行くぜ!!」
「新井さん、水!」
「サンキュー!!」
柴ちゃんの背中を追いかけるように、桃ちゃんにもらったお水入りのボトルを受け取り、走り出す。
2塁ベース上に立って両腕を広げる並木君のところにチームメイトが襲いかかっていた。
マテルに後ろから肩を掴まれ、祭りちゃんに蹴られ、赤ちゃんとはシャドーボクシングみたいなことをして遊ぶ。
そこに俺たちホームベース組が集まり、こうなりゃみんな巻き添えだと、その場にいた全員をボトルのお水でびしょ濡れにしてやったのだ。
そのサヨナラの勢いのまま、翌日も5ー3で勝利し、交流戦開幕3連勝を飾った。
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