わたくしの背番号は4でしたわね。忘れてましたわ。

「なあに。今のは難しいプレーだったし、同点くらいでちょうどいいよ。最後に俺と鶴石さんでサヨナラにしたら1番綺麗でしょ?だから気にするなって!」




俺はみんなの前でそう言いながらあっはっはっ!と、笑っていたのだが………。




「おい、新井。お前は後ろでバット振ってろと指示しておいただろ!適当なこと言ってねえで早く戻れ!」




と、よく知らない打撃コーチに怒られてしまった。しかし、笑いは生まれた。




あの、お腹の大きなコーチはここにはいない。







8回裏、ビクトリーズは3番からの良い打順だったが得点なく、試合は9回へ。同点の場面でリリーフカーに乗って現れたのはキッシー。




通算100セーブまであと少しに迫っている彼がここでマウンドに上がった。




後攻ですからね。サヨナラに賭けていいピッチャーをどんどん注ぎ込めるという強みがある。







「ストライクバッター、アウト!」






「ストライクバッター、アウト!」





「スチョライク、バッター、アウト!!」






なんと!





ストレート、ストレート、フォークボール。




スライダー、ストレート、スライダー。




フォーク、ストレート、ストレートで3者連続三振。




35歳のクローザーが僅か11球放っただけで、涼しい顔でベンチに戻ってきたのだ。




そして、彼は控える鶴石さんと俺に言う。




「舞台は整えましたよ。後は水用意して待ってるんで。2人で決めちゃって下さい」




スタンドからのキ・シ・ダ!キ・シ・ダ!コールが鳴り響く中、彼は不敵に微笑みながらベンチ裏へと退いていった。







そして、満を持すようにして阿久津監督がこちらを向く。



「鶴、新井!行くぞ!!ファンはお待ちかねだ!」




「よっしゃ!」




「はい!………鶴石さん、お先に行ってますよ。俺、この試合に間に合って本当によかったです」





「やめろ。泣けてくる」








「9回裏、ビクトリーズの攻撃は、6番セカンド、祭」






バッターボックスには最近のビクトリーズで1番の成長株だという祭君。




そーれ、それそれ、お祭りだぁー!







という曲が流れる中、右打席に入った。






そして、果敢に初球攻撃。インコースのボールを引っ張っり、打球はいい角度で上がったが、やや詰まった。




足の速いレフトの選手がファウルグラウンドまで入り込みスライディング。差し出したグラブに見事ボールを収めたのだった。





これで1アウト。







そして、にわかにスタンドが蠢き立つ。




ピンクのアームガードにピンクのリストバンド。さらにピンクなフットガードを左足にはめた背番号4番の男が1番ピンクなバットを手にした男がネクストの輪っかに現れたのだ。





しかし、まだ俺の打席でない。




まあまあ落ち着きなさいと、俺はスタンドに向かって手の平を地面に向けるようなジェスチャーをした。




「バッターは、7番、レフト、露摩野!!」







「大原さん、露摩野がバッターボックスに入りますが………」




「いやあ、私もね………すみません………。ちょっと言葉が見付からないですよ……」




「恐らくスタンドのお客様も。モニターやラジオを通して試合を見守っている皆様も同じ気持ちかと思いますが、まだです。バッターは露摩野です」




「おっしゃる通りですね。試合に集中しましょう」





カキッ!





「その露摩野が打っていきました!見事な流し打ち!打球はレフトの前に落ちます!これがサヨナラのランナーということになります!」





「アウトコース低め。コースに逆らわずに見事なバッティングでしたねえ」





「そして、この男です」





「ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、8番北野に代わりまして………新井!バッターは、新井時人!!背番号4!!」





「「「ウワアアアアアッー!!!」」」





ヤバい。ヤバいムードと歓声。まるでハリウッドスターが現れたかのような。









とても野球が続行出来る感じではないので、打席入ろうとした俺は周りのスタンドを見渡しながら、ゆっくりとヘルメットを外した。




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