でも、しっかりエロいページも見てやがりましたわ!

「分かったから乗っかるなって、危ないから。ビクトリーズが優勝するためには、むしろ、俺以外がもっと頑張らないといけない気もするけど」





「時くん。そんなこと言わないでまたキャプテンとしてみんなを引っ張れるくらいに復活してね。ビクトリーズファンは時くんがスタジアムに帰ってくるのを待っているんだから」





そう1番の時くんファンに言われてしまっては、なかなか胸に来るものがある。




とちおとめの酸味で涙が………!!なんてごまかしなど3人には通用しなかった。どうやら3人も同じだったようで……。






今年で俺も肉体的には35歳になってしまった。アスリートとして下り坂に入ってもおかしくない年齢プラス5年のブランク。




そのまま引退するという選択肢を考えても何らおかしくはないが、確かに待ち望んでいるファンがいるならば、やることがまだまだ残っているならば、俺はまたグラウンドに戻らなくてはいけない運命の中にいるということなのだろう。





「パパ!きゃらめるは!?新しいおうち出来たら、きゃらめるも一緒?」




「ああ、そーだ、そーだ。忘れてた。きゃらめるも引き取らないとねー。もう完全におじいちゃんちの犬になってるから。2人がもう少し大きくなったらお散歩お願いするかもねー」





「「うん、わかったー!」」





それから数日後。おふたりを幼稚園に送り届けた俺は2軍の練習場に来ていた。




2軍の本隊は戸田に遠征中であり、いつもより人気は少ないのだが、1軍のとはもちろん違うざっくばらんなサロン的な部屋にチーム1のベテラン選手がいた。




「おはようございます、鶴石さん」




「おう、新井。おはよう」




そのベテランキャッチャーは、何年経っても変わらずに、日当たりの良いテーブルに着き、ブラックコーヒーを飲みながらスポーツ新聞を広げている。




その見出しには………。





ビクトリーズ、鶴石引退!!現役23年に幕!!と、デカデカと書かれていた。




引退記事を引退する本人がコーヒーを啜りながら見ている瞬間を目の当たりにしてしまったわけである。






だからといって、俺はお疲れ様です!とか、今までありがとうございました!とか、そんなことを言うつもりはない。





野球選手はどうなろうとずっと野球選手のままだ。




コーチや監督になろうが、解説者になろうが、野球の現場から離れようが。1度プロ野球選手として袖を通してしまえば、死ぬまで野球選手である。





グラウンドでプレーしなくなるだけで、ずっと現役なのだ。





それが俺の考え方である。





だから俺は一緒に座ってコーヒーを啜る時間など作らずに、43歳になったベテランをグラウンドに引っ張り出したのだ。




「いっち!」




「そーれ!」




「にっ!」




「そーれ!」




「さん!」





「そーれ!」





誰もいない2軍のグラウンドを鶴石さんと一緒に走る。ただ静かなグラウンドを黙々と。


1ヶ月後に引退する人間と1ヶ月後に復帰を考えている人間が一緒に汗を流す。




素晴らしい光景だ。





そして軽くダッシュをして、キャッチボールを始めたのだが、30メートルを越えようとしたところで…………。



「ごめん、新井。これ以上無理だわ。ワンバンで投げるからな」




本当に鶴石さんの肩はもう限界らしい。




20歳でプロ入りして23年。それまでに痛めた箇所は数知れず。特に、肩と腰はこの方は何回も手術しているみたいですから。




ビクトリーズで最初の3年を元気にやれていたのが奇跡なくらい。




静岡ヒーローズが身売りとなるが買い手がつかず、球団が無くなり絶望の縁にいたところからの新規参入球団に入ったという経緯の中でしたから。





ちょっと座らせて2塁に送球する練習とかもやろうかと思っていたけれど、それだってもちろん無理みたいだ。





それならばと、そこからの時間はバッティング練習に割くことにした。




「体の具合はどうだ? やっぱり久しぶりのみのりん飯は美味かったか?」




などと茶化されながら、互いにボールを上げっこしながらひたすらにバットを振り込む日々が続いたのだった。




そして1ヶ月後。





ビクトリーズはホーム最終戦。





試合前の円陣。あと2安打すれば自身初の打率3割に乗るというところまで来ているキャプテンの並木君が真ん中に立って声を張り上げる。




「みんな分かっていると思うけど、鶴石さんの引退試合と新井さんの復帰試合です。どんどん積極的に行って、2人を盛り上げて、ビクトリーズスタジアムで最後の試合ですから、気合い入れて勝ちに行きましょう。………いくぞっ!!」





「「おおっしっ!!」」




並木君の掛け声にチームメイト達の声がさらに重なって、試合前のボルテージが出来上がる。




並木君、露摩野君、北野君、芳川君、柴ちゃん、桃ちゃん。




5年経って、レギュラーとしてチームを引っ張る立場。


野球選手としてさらに磨きがかかった彼らの表情が実に頼もしい。




円陣の後ろの方にいた鶴石さんと俺は確かなチームの成長というものをひしひしと感じていた。





ブルペンでの最終調整を終えた先発の碧山君も姿を現した。




「今日は何点差つけば、2人が出てきやすいですかね?」




「そりゃあ、出来れば4、5点は頼むよ」




俺がそう答えると、碧山君は真新しいボールの感触を確かめながらベンチ前でのキャッチボールに向かう。




「それじゃあ今日は1点もやれないようにしないと。序盤は楽に試合を見ていて下さいよ」




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