やっぱ試合はいいですわねぇ。

俺は料理を待つ間、腕組みをするようにして、マウンドに上がった連城君のピッチングを見守る。




いつものようにストレートをどんどん投げ込み、勢いのある高速スライダーと、カーブを上手く混ぜながらの強気なピッチング。




3番平柳君にはいい当たりをされたが、ライト正面のライナー。3者凡退で上手く立ち上がった。





スカイスターズのピッチャーは右のオーバーハンド。150キロ中盤のストレートを武器とする豪腕タイプ。





初球、インコースストレート。柴ちゃんは打ちに出る。





カキッ!




ボールの上を叩いたボールは3塁側のスタンドのネットに跳ね返るファウルボール。153キロ。




2球目はストレートが低めに外れ、3球目のカーブが真ん中低め。これも打っていったが、1塁側スタンドに飛び込むファウルボールになった。




初回の1番バッターとしては、かなり積極スイング。元々そういう男ではあるが、第1打席のファーストストライクからしっかり打っていくぞというスタンスを感じる。




「かえでよ。こういう打ち気なバッターにはベース板の上から落とす変化球が有効だ。まだ1ボール2ストライクだから、ボール気味じゃなくてしっかりワンバウンドするボールにしなくちゃいけない。少々のボール球だと踏み込んでスイングしてくるからね」




「うん、そうだね」





「あんた、どっちの味方なのよ。相棒を応援しなさい」









次のボール。バッテリーの選択はフォークボール。





しかし、ワンバウンドするようなボールではなく、真ん中低めのギリギリの低さ。柴ちゃんはそれを若干泳ぐ格好になりながら、ライト前に運んだのだった。




「打ちました!バットの先ですが、ライトの前に………落ちました!!先頭の柴崎が出ます!ノーアウトランナー1塁です!」




「低めのフォークボールかと思いますが、柴崎がかなり積極的にスイング来ていましたんでねえ。まだボールを投げられる状況でしたから、もっと低いところに投げてもよかったですねえ」




「なるほど。2番は並木です。今日は右ピッチャーですが、いつもの1番柴崎、2番桃白ではなくて、並木を2番に置きました、阿久津監督です。


並木バントの構えはしていませんがどうでしょうか。柴崎は今シーズン、盗塁は20個決めています。当然走れるランナーです」






初球。アウトコースのボールを並木君がセーフティ気味にバント。3塁線に転がした上手いバントとなり、1アウトランナー2塁となった。






3番はレフト祭。



この選手は俺と同期入団のドラ3。入団してからはケガが多く、最初の4年間は1軍でほとんど出番はなし。しかし、ポテンシャルは十分にあるという評価で、初年度ドラフト組最後の大物と言われ続けてきた。


元々は内野手だったその選手が今、ビクトリーズのレフト、3番打者としてチームを支えている。


その初球、ワンバウンドした変化球をキャッチャーが横に弾いた。



それを見て柴ちゃんがスタートを切る。





キャッチャーがボールを拾って3塁に投げるも、タッチには及ばずセーフ。今年で30歳。まだまだ速い。



カキッ!




「いい当たりだ!! センター前、抜けていきます!!タイムリーになりました!柴崎がゆっくりとホームイン!3番、祭のタイムリーヒットです!!」



幸先良くビクトリーズが先制点。ベンチとスタンドが大いに盛り上がった。




「お待たせ致しました!」




試合が順調に3イニングス目に突入する頃、注文したお料理が到着した。




俺はとんかつ御膳。みのりんはピリ辛ネギチャーシュー麺。ギャル美は、ラザニアとポロネーゼのパスタ。ポニテちゃんは、ビクトリーズステーキセット。宮森ちゃんはスペシャルツイングリル。



子供達はチーズハンバーグキッズプレート。



後はみんなでつまめるマルゲリータピザとポテトの盛り合わせ。




2人の鉄板にソースがかけられ、ジュージューする音を聞きながら、俺は怒りを覚えたのだ。




「君たち、ゲンを担いでカツを頼むとか、そういう気持ちはないのかね!?」




俺がそう言った瞬間、女性陣は顔を見合せて、平均年齢30、75歳の彼女達は……。




「「ああ〜………」」



と、それだけを言って、黙々と食べ始めたのだった。



ビクトリーズが今の弱い要因の1つですわ。



目覚めし4割打者はがっかりですよ。チームに自分の夫がいる人もいるのに。




「おとう、ハンバーグにカツ入ってるよ〜」




「マジ!?おお、それはカニクリームコロッケだな。かえでちゃん、気を使ってくれたのかい。ありがとうな」






「分かりました!私と宮森さんは、カツサンドも注文します!」




ポニテちゃんはそう言ってタブレットに手を伸ばしたが、届いた料理を見て、まだ入りそうだなと感じただけだったのを俺は見逃さなかった。





俺が復活したとれば、ビクトリーズの面々以上にテンションが上がっているのは、スカイスターズの3番バッターでして、4回の第2打席。




前の打席のいい感触そのままに、連城君の投じた141キロのスライダーを打ち返した。



インコース寄りのボールに対して、腕を畳み加減に腰を回して打つ、彼の得意なバッティング。バットの体に近いところから鋭く出てくるので、ライト線に舞い上がった打球がなかなか切れない。




今日はライトに入っている露摩野君が最後の最後まで打球を追っていったが、ライトポールギリギリ、フェンスギリギリのところに白球が飛び込み、客席で数回跳ねた。






平柳君の第12号ソロでビクトリーズは同点に追い付かれてしまった。







そして続く助っ人マンにストレートを叩かれてレフト前ヒット。さらにはフォアボールを出してしまって、2アウトながら1、2塁のピンチとなった。






北野君が少しマウンドに行って声を掛ける。間を取って、ゆっくり低めに低めにとジェスチャーしながらのアウトコース低めだったが、上手く流し打ち。




打球は三遊間へ。








バシッ!!




これをショートの並木君が、いただきますと言わんばかりのダイビングストップ。そして軽やかなワンバウンドスローを1塁へ。




ファーストのマテルがナイスストレッチ。



見事アウトとなった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る