実況!4割打者の新井さん!7
ぎん
ま、まさか……!
少し落ち着いてから、担当医にそれを伝えると、逆行性健忘という記憶障害の一部に当てはまるらしく、無理に思い出そうとすると、ストレスになってしまうので、自然に思い出したり、覚え直したりするのが一番だそうだ。
お腹の大きかったみのりんが通常モードに移行していて、代わりに5歳になった双子の娘がいらっしゃるわけですから。
言われなくても、薄々気付いていたのだが、俺はおよそ6年もの間、頭部外傷による昏睡状態に陥っていたみたいで、その現実を思い出す度に、言葉に出来ない恐怖感みたいなものがじわじわと沸き上がってくるのだ。
アスリートが6年間の昏睡状態目覚めたというシチュエーションを目の当たりにして、興奮していたお医者様の大多数が退出し、とりあえず静かになったところで俺はようやくはっとした。
マジでそんな漫画みたいなことになるなんてねえ。とりあえず、ゾンビの世界じゃなくてよかったですわぁ。
「次世代ゲーム機、エンジョイステーション5の発売日って、2020年の11月じゃなかったっけ!?」
「時くん。最初に聞くのはそれじゃないでしょ!」
みのりんに怒られた。
「おとう、おかあに怒られたー!」
「パパー、エンジョイステーション5、おうちにあるよー!」
「マジ!?今すぐ帰ろう!」
「ダメに決まってるでしょ」
「おとう、また怒られたー!」
「じゃあ、あれか!Mー1!5年の間にどのコンビが優勝したのか、調べないと………」
「時くん。…………あれは?」
みのりんはそう言って、ベッドの脇を指差した。
そこには、鍵付きのケースに入った金メダルが6枚入っている。
目を凝らして金メダルに掘られている文字をよーく見てみる。
「トウキョウ………2020…baseball………。はっ!!オサムライジャパン、金メダルに輝きましたのね!?」
「輝いたよ!文句なしの全勝で。メダルを預けてくれた、平柳君と前村君と藤並君と友寺君と浦野君と岸田さん。みんな、すごい活躍だったよ!」
「マジかよ!!」
「平柳君が代理キャプテンになって、6試合でホームラン3本。前村君は2試合に先発して連続完封。藤並は1番バッターとして打率5割5盗塁。
浦野君もピッチャー陣をナイスリードプラス準決勝と決勝で猛打賞!岸田さんは、4試合に投げて被安打0!フォークボールが魔球レベルにキレッキレ!」
「みんな凄すぎ!」
「おとう、抱っこ」
「もみじも」
「はいよ」
双子ちゃんは履いていたスリッパを脱いで、俺の体に寄りかかるようにしてベッドに上がる。
俺はその子達のお腹に手を回すようにして頭の匂いをクンクン嗅いでやった。
それをきっかけに俺は気付く。
2024年もオリンピックイヤーなのでは?
「ねえ、みのりん。もしかして2024年って………」
「そう。今年はパリオリンピックの年だよ。……そして、野球、ソフトボール競技も正式種目として採用されています」
「マジ? 東京で野球とソフトボールは終わるって聞いてたけど………」
「そうだね。でも、その頃から野球のプロリーグが始まった国も増えてきたから………。ヨーロッパとか、アフリカとか。東南アジアとか………」
「そっかあ。すげえなあ。知らぬ間にだいぶそんなに…………」
「それで今日は7月20日なんだけど、開会式は明日。お侍ジャパンの初戦は明後日」
マジかよ。我ながら目覚めた瞬間がタイムリー過ぎますわ。
「いやー、もう。なんだか色々あって頭がこんがらがって来たよ。ただてさえ、こんなに可愛い、かえでちゃんともみじちゃんがいるんだから。パパが居なくて寂しくなかったかい? 」
「おとう、くすぐったいよ!」
「ぜんぜんさみしくないよ。だって、パパはずっとここにいたから」
あかん。また泣きそうになってしまった。
「時くん。感慨深いところ申し訳ないけど、恐らく最大級の驚きがやって来るから覚悟しておいてね」
「なに、それ。怖すぎる」
どういうことなのだろうかと、軽く身震いする感覚でいると………。
タッタッタッタッタ!
「コラ、ナナコ!1人で行かないでー」
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