Journey of Pulver
COTOKITI
第1話 与えられざる者
―お前には何も与えない。
「なんで」
超常なる存在の声に対して青年は問う。
―お前は何十年もの生の中で何も成さなかった。
―人並みの業も成さぬ者に如何にして人並み以上の物を与えられようか。
淡々とそこにいる何かは青年にそう告げ、彼は自らの体が消えかかっていることを悟る。
「俺は、これからどうなる」
―知らぬ、ただ一つ言えるのは次の生でお前は求む物全てを自らの力で手に入れねばならぬという事だ。
その一言と共に、青年の意識は途切れた。
==========
1908年の春の事だった。
魔獣の群れが一度だけ城壁を越えて内部に侵入してきた事があった。
唯一の防衛戦力である騎士団の迎撃も空しく居住区域内へ魔獣が攻め入り、多くの人々が生きながらに食い殺された。
蜘蛛の子を散らすように逃げ行く人々の中に、一人の少女がいた。
血まみれの体に鞭打ちながら目指す先は近場の森の中。
近隣の人はあまり立ち寄らない人気のない森だった。
手足の噛み傷からは血が絶えず流れている。
今にも途絶えそうな意識を保ちながら森の中に逃げ込んだ少女に数匹の魔獣が追いついた。
大振りに振るわれた人間よりも何倍も大きな手が少女を吹き飛ばす。
大木に勢いよく叩き付けられた少女は、骨折とそれによる激痛で立ち上がることはおろか声すら上げられない状態。
獲物が逃げられなくなったと知ると魔獣達は悶え苦しんでいる少女を取り囲み、その大きな顎で食らいつかんと襲い掛かる。
少女の絶望に満ちた表情が鮮血に塗れる。
だがそれが自身の血でないと気付いた頃には目の前の一匹の魔物が地面に横たえていた。
あの悍ましい見た目の頭があったところには何も無く、代わりに首元に頭が根元から千切れ飛んだかのような跡が残されていた。
そしてこの魔獣が倒れる直前に、後方からとても大きな爆発音が聞こえた事を思い出した少女は背後に目をやる。
他の魔獣達も動きを止め、森の向こう側を睨み付けている。
目を凝らすと、木々に囲まれた暗闇の中に一人の人間がいる。
大きなケープのような布を羽織っており、その正確なシルエットは分からない。
しかし魔獣達はあれを明確な敵と認識したようで、少女そっちのけで人影の方へ向かっていった。
するとまたあの爆発音が森の中に響き渡った。
爆発音が一回なる度に魔獣が一匹ずつ奇怪な叫び声を上げながら倒れる。
唖然とする少女を他所に魔獣の姿はすでに視界の中から消えていた。
魔獣がいなくなると人影は少女の方へと歩み寄る。
武骨で飾り気の無い、鉄の筒のような物を両手に持ったそれは少女に声を掛ける。
「拡散種と接触したか。もう助からんな」
その言葉に少女は一瞬凍り付いたように動きを止め、すぐに噛み傷を確認した。
すると、噛み傷を中心として皮膚が青く変色し始めているのが見て分かった。
拡散種と呼ばれる魔獣と接触した人間が魔獣に変異する兆候だった。
これを治療する術は今も尚存在しない。
再び絶望に塗れた少女の顔に、彼はその銃口を突き付けた。
迷い無く引き金は引かれ、銃口から放たれたライフル弾が少女だった物の頭部に風穴を開けた。
後頭部から脳漿をまき散らして息絶えた死体を一瞥し、男は再び森の中へと戻っていった。
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