短歌集・蝋燭

江葉内斗

短歌集・蝋燭

ヒーローにあこがれていた時もある

  今は一人の支えでありたい


いつからだ

  「ありがとう」を言えなくなり「ごめんなさい」を忘れ去ったのは


天も地も全てを風が包み込み息を潜める

  青い揺り籠


河川敷意味なく石を投げた過去

  もう何年も土手で寝てない


少年は愛と知識と権利を得、青年になれどまだ二才


思春期の男女にとって双方は異星の人に見えて恐怖す


初恋の心は去れど情熱はより強く燃え我が身を焦がす


梅の木の下で待ち合う

  彼が来る後一分がせんしゅうのよう


土曜日の午前九時から午後六時ただそのために余りを生きる


空中にそっと置いてみた

  この心いつかあなたが拾う日を待つ


耐えられず彼女は肩に寄りかかる

  流星群に見守られつつ


角砂糖一つだけ入れたコーヒーをしかめた顔で飲む君が好き


長き夜を一人で過ごす先人と自分を重ねため息をつく


あの子から借りた詩集を読み込んで翌朝無理に感想を言う


気まぐれに「君が好きだ」とつぶやいて「私も」と聞く

  十七の夏


今はただこの感動を分かち合い乾杯しよう

  時も忘れて


帰り道一緒に行こうと君に言う

  君は呆けて何も答えず


霧時雨僕の視界を狭めたる

  君に夢中なあの時のように


図書室へ続く廊下に一人分の足跡響き夜を知らせる


蝋燭の溶けるがごとく少しずつ混ざり合っていく

  二人の心

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短歌集・蝋燭 江葉内斗 @sirimanite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ