水晶の遺産:幸せの探求者
水無月
第1話 暗闇への前進
「半端者!びびっていないでもっと前に出ろ!」
深く昏い森に響く怒声。
●●●。半端者と罵られた、髪は自分で切っているのであろう肩あたりに雑に揃えられ、前髪も目が見えない程度に隠れ、耳は完全に隠れている少女の名前だ。少女は魔物が潜むであろう森の中には不釣り合いな軽装をしていた。その装備も一部が破損し、随分と薄汚れている。
彼女の役目は勢子。といえば聞こえはいいがシンプルに表すとすれば囮。鹿や猪程度を狩る目的であるのならば問題はないが今回の相手は未だ姿を見せない魔物である。
魔物。魔なら物。生きる物、死した物、自然にある物。そういった物に魔力が過剰に蓄積することによって“成”りあがる物が魔物と言われている。
村の家畜の羊が無惨な姿で見たかった。死んではいない。では何が無惨か。横たわるまだ温かみのある羊には骨がなかった。骨だけがなかった。目だけを動かして何かを訴える羊に飼い主は腰を抜かしながら村長に訴えたのが2日前。
理解不能な事態。村長は魔物の仕業だと決め、討伐隊を派遣したのが今日の未明である。
討伐隊には上等な皮鎧を着て指示を飛ばすリーダーが1人。急所や動きに問題がない程度に皮や木でできた鎧を着込んだ物が8人。そしてボロと言っても良い軽装の●●●。
「おい!とっとと進めと言っているんだ、半端者!!」
リーダーからの何度目かの怒声。●●●が震えながら振り向けばリーダーが腰の弓矢に手をかけそうにしている。
まずい。これ以上は非常にまずい。
魔物がいるかもしれない夜の森をまともな装備も無しに進むなど自殺行為。しかし戻りたくとも戻れば死。
●●●に残されたのは前進のみ。後退の確実な死ではなく、前進によって砂粒程度の幸運を手に入れるしかなかったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます