第10話 怪談:売れない三原則

信用がない、客がいない、リピーターがいない。

俺の思う売れない三原則だ。


俺は人形を作っている。

この人形がどうしてだか売れない。

物はいいんだと俺は自負している。

特に、生きているような人形を作らせたら、

俺の右に出る者はいないと、俺は思っている。

傲慢かもしれないけれど、

そのくらいでなければ、物を作るのは無理だ。


自分が唯一であると。

世界に誰も真似できないものが作れると。

俺は思っている。

誰かを貶めはしないけれど、

この分野においては俺が一番だと思っている。

人形もいろいろあって、

それこそ作り手の感性が問われる。

作り手についてはそれでいいんだけど、

俺の人形は壊滅的に売れない。


人形の注文は入らなくて、

そのままでは食べていけなくなるので、

人形を売るためにはどうしたらいいか、

調べたり、本を読んだり、考えたり。

ある程度頭を使ってもわからなくなり、

結果、また、注文されていないのに人形を作る。

俺には人形を作ることしかできないんだよ。


俺に売れる要素があるかと問われたら、

人形においては間違いなく一番です、と、言えるが、

知名度がないとか、また買いたいと思わせられるかと言われると、

それもそうだなと思わざるを得ない。


「どうぞ」

悩む俺の前に、コーヒーが差し出される。

俺はそれを飲み、また、考える。

「どうしたものかなぁ」

弱音の一歩手前のことを、ため息交じりに言えば、

「私の妹や弟がいるみたいで、いいですよ」

と、答え。

コーヒーを出した彼女は微笑む。


「いつかみんな、わかってくれますわ」

彼女は微笑む。

まるで生きているかのように。


工房には、

彼女をはじめとした生き人形たちが暮らしている。

あまりにも生き生きとしていて、

人形に見えないらしいけれど。

作品である人形を認めてもらいたい半面、

これでいいかもしれないと思いつつある。


売れないことが、不幸だとは限らないかもしれない。

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