第2話 怪談:鉄棒ナンパ

体育なんて大嫌い。

あたしは放課後の校庭で、鉄棒をにらむ。

逆上がりなんて、できなくてもいいのよ。

大人になってから逆上がりができるなんて、

そんな事関係ないもの。

そう思うのだけど、逃げているようで気持ち悪い。

かといって、魔法のように逆上がりができるわけではない。

逆上がりのテストで、落第したと付けられる。

逃げるのも嫌、落第も嫌。

それなら逆上がりが、できるようにならないと。

できたら鉄棒をにらんでないもん。


あたしは意を決して鉄棒を握り、

逆上がりするべく地面を蹴る。

上まで上がらず、手がだらんと伸びる。

やっぱりダメなのかな。


「あれ、君もダメなの?」

声がかかる。

そこには同じくらいの年の男の子。

「ダメ?」

「逆上がりでしょ」

「うん」

「僕もいまいちコツがつかめないんだ」

男の子は頭をかきながら話し、

隣の鉄棒で逆上がりをしようと、

鉄棒を握って地を蹴り、

だらん。

同じようなところで進まないみたい。

ただ、だらんとなるのは、

お腹が鉄棒に遠いからというのが、見ていて分かった。

それには腕をぐっと近づけて、

お腹をあげて、

多分地面はもっと蹴る。


あたしがあーでもないこーでもないと考えていると、

男の子はにこにこ笑って、

「先に逆上がりできたほうが、一個お願いできるってどう?」

「おねがい?」

「僕が先に逆上がりできたら、恋人っていうのになってよ」

「はぁ?」

「決まり。絶対僕が先にできるもんねー」

あたしは文句を言おうと思ったけれど、

とにかく逆上がりを、できるようになればいいということに気が付いた。

さっき気が付いたことを、手に、足に、腹に伝える。


せぇの!


蹴り上げた先に世界が逆さま。

これが逆上がりの世界。


「ざんねん」

男の子が嬉しそうにそう言った。


ただ、男の子は、あたしが逆さまの世界から戻ってくる前に消えた。

お願いを聞くのが嫌になったのか、

あれは新手のナンパだったのか。

この学校では見たことのない男の子。

お願いは決まってたんだ。

まずは友達になってほしかったな。

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