私のワンショット

蒼機 純

5月7日 GW最終日

 GW最終日。私はカメラを片手に獲物が現れるのを待っていた。

 天候は晴れ。雲一つのない快晴で、日差しが心地よい。少し、眠くなってきてしまう。

 ぶんぶんと私は首を振る。レンズ越しに見える世界は未だに平和そのものだ。

「・・・・・・怪物、ね」

 今年のGWはどうしようかな、とぼんやりと空白の予定を思い浮かべていた私は職場でとある噂を聞いたのだ。

 近所の公園に【怪物】が稀に現れるのだと。職場の部長はどこか楽しそうに語っていた。どうやら部長のお子さんが通っている中学校でそんな噂が広がっているらしい。

 同僚は苦笑いを浮かべて聞き流し、どこか部長は寂しそうにしていたのが印象的だった。

 だが私はその話を聞いて、自らのGWの予定がぽんぽんぽんと埋まっていくのを感じた。

 何それ? めちゃくちゃ面白いじゃん。そんな気持ちが原動力になった。

 そうして私はネットで怪物が出ると噂の公園に来たわけだ。高校時代に所属していた写真部時代のカメラを持ち出して。

 ビニールシートの上に腰を下ろし、私はおにぎりをほおばる。GWも今日で最終日、未だに私は怪物と出会えていない。

「うま。やっぱりおにぎりは梅だよね」

 呟いて私は1人でクスッと笑った。懐かしい、と思ったからだ。

 目的の一枚を撮るためにずっと待ち続ける。

 雨の日も、雪の日も。当時一緒にワンショットを撮るために青春を駆け抜けた仲間達は地元を出ていってしまった。

 私もこのカメラを握りしめたのはいつ以来か。手に収まる無機質な感触を感じていると小さな来訪者がやってきた。

 やけに太った猫だ。野良だろうか? 目つきが悪く、だが不思議と憎めない顔をした野良猫がビニールシートの上に座り、両足を折りたたみ体を丸める。

「何? お前も何か待ってるの?」

 応えるようにくわっと口を広げ、欠伸をする野良猫。

「じゃあ一緒に待とうか。ふふ、どっちが先に待ち人が来るか勝負だね」

 私は再びレンズを覗き込む。

 レンジ越しの世界が茜色に変わり、私は背伸びをする。どうやらここまでのようだ。

「悔しいな。会えなかったか、怪物に。お前も待ちぼうけか、このこの」

 隣にいた野良猫が迷惑そうに鳴き、とことこと歩き出す。遊具の隙間を縫い、去って行く姿はどこか風格がある。

「怪物には会えなかったけど、公園の主には出会えたのかなーーーーえ?」

 私は思わず、カメラを握り、レンズを覗き込む。

 パシャ。

 ほう、と思わず息を吐く。身震いしてしまう高揚感が体を伝う。このワンショットのために待ち続けたのだ。

「確かに怪物、だ。ふふ、やったね、怪物捉えたり」

 夕暮れ時。人気が少なくなった公園に差し込む夕日が遊具の影を大きく伸ばす。だが影はそこで終わらない。影の先端に尖った二つの耳が生えているのだ。

 私は怪物を見据える。視線の先には遊具にドスンと座る先ほどの野良猫がいた。

 野良猫は私をじっと見て、『満足かい? 暇人め』と言いたげに鳴いて去って行く。

 公園から怪物が消え、私は帰り支度をする。心の奥底に感じる熱を抱いて、私のGWは終わっていく。

 帰ったらカメラの手入れをしよう。うん。そうしよう。


 

 

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私のワンショット 蒼機 純 @nazonohito1215

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