4.支店長はフーリにゾッコン


「ふ、フーリが来たのか…?」

「まずい…」

 雷山村支店の従業員たちは世界の終わりかのような顔でフーリを見ていた。

「…俺だって望んでこうなってるわけじゃないんですよ」

「フーリーーーー!!!!!!!!」

 少女がフーリに駆け寄り、抱きしめた。

「…」

 …まずこの状況を説明しよう。少女の名前は雷山村支店の支店長、稲妻一葉いなづまひとは。支店長といっても16歳。なぜこうなったのか、ちょっと見てみよう。



 2ヶ月前、フーリはワカメ上司こと翠玲のお使いに来ていた。

「…ったく…見習いは支店長同伴じゃないと入れてもらえないんじゃないのかよ……ハァ…」

「めんどくさいね」

 アサはフーリの肩に乗っているので文句は言えない。

 フーリは2階に上がった。

「あのー…」

「関係者以外の立ち入りは禁止させていただいております」

 一応秘密結社なだけあり、かなりセキュリティが厳しい。…まあもう手遅れな気がするが。

「…翠玲のお使いなんですけど…」

「あなたはデータベースに載っていないのでそれを表す証拠がありません。お引き取りください」

「いやここで返されたらちょっと困るんだよ。頼むから通してくれ!!!」

「なんで同じA《エース》でもここまで違うんだろ」

 アサは受付をめっちゃ睨んでいた。

「お引き取りください」

 そもそも南森支店には受付がいない。翠玲はなぜクビにされないのか。


「…なんの騒ぎですか」

 めちゃくちゃ怖いオーラの少女が出てきた。

「いや、えっと、あの、に、荷物…」

「私は責任者の稲妻一葉です。ルールなので、関係者以外はお引き取りください」

 フーリはもう限界だった。

「あんまりだ!!!この前も音々先輩にしごかれるし?!頑張って任務終わらせても褒めてくれるのはラーメン屋の大将だけだし!!!もう散々だあああああ!!!!」

 フーリは涙目だった。尚、14歳。


 …その時。一葉の中で何かが壊れる音がした。


「支店長、こいつ、つまみ出しましょうか?……なんでそんな顔赤いんですか?」

「…」

 一葉は無言でフーリに歩み寄って、抱きしめた。

「え、あのー…はい?ちょっと?」

「し、支店長?」

「んにゃ?!」

「…」

 一葉は動こうとしない。

「あの、ちょっと、困るんですけど…」

 フーリの持っている荷物を見て、一葉はやっと口を開いた。

「その荷物を受け取ってやる。その代わり…」

「…その代わり?」

「…お、お前にあったらあ、だ、抱きしめさせてくれ!!!」

「「「は?」」」

 フーリは30秒後にやっと理解し、脳みそをフル回転させていた。

 (なんだこの女は!いや、まあそりゃいいか悪いかで言ったら…いいけど。いやでも周りからの視線がものすごく痛い!!!今すぐにこの場所を抜け出したい!!!…いや、待てよ?南森からここまではけっこうかかる。翠玲のことだから、これが渡せないとまた行かされる…どうしようマジで)


 一葉に抱きしめられ続けて1時間、フーリはやっと結論を出した。

「荷物を…受け取ってください」

「うん。わかった。まあ渡さなくても抱きしめるつもりだったが」

 二度と来ない、フーリはそう願った。



「フーリ、全然会いにきてくれないじゃん。寂しくて死にそうだったんだぞ?」

「…稲妻さん…恋人でもないんですから…。あとちょっと苦しいです。」

「一葉でいいってば」

「……あのさ、ワカメ上司。なんでわざわざここにしたの?」

「ここぐらいしか協力してくれないからね。うちは」

 翠玲はニヤニヤしている。

 絶対嘘だろ…と思い、フーリはため息をついた。

「いな…一葉さん。そろそろ仕事しましょう。白虎が攫われて意外とやばい状況なんですよ」

 ここの人間は白虎のことなんて心底どうでもいいんだろうなということがよく伝わってくる。そしてフーリは、そろそろ周りからの視線が痛かった。

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