第47話 5章・一年生・長期休暇編_047_行軍
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5章・一年生・長期休暇編_047_行軍
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「俺も行くぜ」
「でもアベル兄さんは士族じゃないし」
「バカ言え! 弟が戦場に赴くってーのに、俺がここでのほほんとできるかってーの! ランドーは俺が守ってやるからな!」
「兄さん……」
嬉しいことを言ってくれる。でも二人も戦場に出ると言ったら、母さんはなんと言うかな……。
「そうかい。しっかりおやりよ!」
「おう、任せておけってんだ!」
母さん……はそういう人だったね。忘れていたよ。父さんは特に何も言わなかった。うちから僕とアベル兄さんが出征するから、父さんや長男のベルトン兄さんが徴兵されなかったので胸を撫で下ろしていたんだと思う。
アベル兄さんは僕の従者枠でついてきてもらうことになった。
アベル兄さんはオリビアちゃんが乗る馬の手綱を引き、僕は馬の横についた。見上げるオリビアちゃんも可愛いね。僕が創った
二千人の行軍は結構な長蛇の列になっている。僕たちの現在地からアキロス砦までは三日の距離だけど、帝国軍がアキロス砦を包囲するのは明日と予測される。二日の時間差があるけど、領主様やデューク様たちは持ちこたえてくれると考えているようだ。
デューク様は斥候を多く出して、帝国軍の動きに目を光らせている。僕もフウコに帝国軍の上空を飛んでもらい、その動きを確認している。
行軍二日目の夕食が終わり、軍議が開かれた。
「帝国軍は凄い数です。七千から八千といったところでしょう。正午頃にアキロス砦に攻撃を仕かけましたが、火竜剣の餌食になって今は距離をとって包囲している状況です。明日の朝からまた攻撃をしかけそうな感じですが、援軍対策もしっかりしています」
フウコの視界を共有して見た帝国軍の配置を、地図の上に石を置いて説明した。
帝国軍はアキロス砦の包囲が完了していて、こちらの援軍を考えたような部隊配置になってる。
「こちらが不用意に近づけば、敵に半包囲されるか」
デューク様が腕組をして唸るような声を出した。
こちらが行軍できるルートを押えられていて、帝国軍の半数が援軍対策として配置されているのだ。
デューク様の重苦しい表情が、幕僚たちに伝播していった。重苦しい空気に、僕の気まで重くなる。
「これって、各個撃破すればいいんじゃないの?」
「む?」
オリビアちゃんの軽い感じの言葉に、デューク様たち全員が視線を向けた。
「だって帝国軍の配置はそれぞれ数百でしょ? こっちは二千もいるんだから、各個撃破しながら進めばいいと思うのよね」
オリビアちゃんが大き目の石を、帝国軍の部隊に見立てた石にぶつける。
「全てを各個撃破できないと思うけど、数部隊は確実に潰せるわよね」
味方の石を動かして帝国軍の石の代わりに置いて、別の石のところに移動させる。
「帝国軍の動きはランドーが教えてくれるんだから、こちらはそれに合わせて各個撃破し、敵が集結したら一旦引けばいいのよ」
「なるほどな。こちらは上空から敵の動きを知ることができるから、包囲される前に引けばいいのか。ふふふ。オリビアの作戦案に反対の者はいるか?」
誰も反対しない。敵の動きが丸分かりなんだから、それに合わせて動けるこっちは有利だ。しかも敵は数百単位の部隊に分かれているから、二千の兵で圧し潰すことも難しくない。
「ランドーは明日の朝早く、敵の部隊の配置に変更がないか確認を」
「はい。承知しました」
軍議の重苦しい空気は一変した。これで勝ったら、オリビアちゃんが勝利の女神ってことだね。
軍議が行われた大きなテントを出て自分の野営場所に向かっていると、宝石を散らしたような星空に気づいた。
「綺麗な星々ね」
心が洗われるような清々しさを醸し出す星空を見上げていたら、オリビアちゃんが横に立っていた。その横顔も星々に負けないくらい綺麗だ。
「僕たちは勝てるかな?」
「何を言っているのよ、チートのランドー君は」
「僕自身はそこまでチートだとは思ってないんだけど?」
「それは厭味になるから、ちゃんと自覚しなさいね」
「そうかな……」
ステータス補正はたしかに凄いけど、加護はレベル一ばかり。神様たちには失礼かもだけど、レベル一の加護は所詮レベル一でしかない。俺Tueeeもチートも実感がないのが正直な感想かな。
「自分が凄いんだって、自覚しなさい。そして誇りなさいよ。少しくらい鼻が高くなったっていいのよ。高すぎるようなら、私がぽっきりと折ってあげるから」
「そのうち実感するかもね。でも今は驕らずに努力をしていこうと思うよ」
「ふふふ。そういうランドーが私は好きよ」
「っ!? ……からかわないでくれるかな」
「本当のことよ。ランドーの庶民的な考え方に、私は好感を持っているの」
「庶民って」
「力を持っていても驕らず、誰かを侮らない。私はランドーのそういうところが好きなんだからね」
「……ありがとう。これからもオリビアちゃんに好きだと言われるような男でいるよ」
「私もランドーの横に立っていられるいい女であるように精進するわ」
「いい女は率先して戦場に向かわないと思うんだけど?」
「そこは見解の相違ね」
「えー、僕の中のいい女じゃないの?」
「お淑やかな大和撫子とか言わないわよね? 前世でも時代遅れの考えだわよ」
「そこまでは思ってないよ」
「今のうちに言っておくわ。私は家で夫の帰りを待つような妻にはなれないわ」
「そんなことをオリビアちゃんに期待してないから、大丈夫だよ」
考えたら今のオリビアちゃんが良いんだよね。綺麗で貴族の息女なのに鼻につくような言動がないし、僕を引っ張ってくれるような明るく闊達な性格の彼女が僕は好きなんだ。
「オリビアちゃんは……今のままでいいよ」
「ランドーも今のままでいいわ」
手を繋いで二人して星空を見上げた。明日のことを考えると、それ以上は言葉が出て来ない。彼女を必ず守ってみせる。そして家族たちを守るために僕は自分の持つ力を発揮する。それだけだ。
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