第45話 5章・一年生・長期休暇編_045_オリビアの兄たち

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 5章・一年生・長期休暇編_045_オリビアの兄たち

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 リベナ村に到着したら、アベル兄さんと実家に……とはいかなかった。オリビアちゃんを襲った人たちのことだ。

 捕縛した三人をサルガマル様が拷問尋問して、その背後関係を探ろうとした。しかし彼らはトカゲの尻尾のようで、オリビアちゃん捕縛を命じた者の正体は分からなかった。

 崖に上れる場所探し道を塞ぐだけの石を用意していたのだから、用意周到なのは否定しない。相手の戦力を正確に把握できなかったことを除けば、悪い作戦じゃなかったと思う。そんな相手が依頼主なのか主なのかの情報を残すわけがないか。


「オリビアを捕縛しようとしたのは、私への警告なのだろう」

 渓谷での襲撃だけに、警告。いや、ダジャレを言っている場合ではないね。

 領主様は敵が多いようなことを聞いていたけど、その敵の誰かが差し向けた武装集団という判断になった。

 その判断を否定する情報を持ってないから、何も言わずに黙っておく。だって、ここには領主様の他にリーバンス子爵家の首脳陣が集まってるんだもの。怖くて喋ることなんてできませんよ。


 出席者は領主様、領主様の長男のデューク様、次男のマーカス様、三男のアール様、それからサルガマル様をはじめとした士族の方々が六人。あとは僕とオリビアちゃん。

 領主様一家(四人)揃って、とっても怒っているんだよ。怖すぎるよ。


「これからもオリビアを狙う者が現れるかもしれません。護衛を増やしましょう」

 長男のデューク様の提案に一同が頷くのだけど、オリビアちゃんが手を挙げた。


「今以上に人が増えるのは嫌よ」

「オリビアが敵の手に渡ったら、何をされるか分からぬのだぞ。増やすべきだ」

 次男のマーカス様が即座に却下した。


「そうだよ。オリビアに何かあったら、私たちは平常心ではいられないのだからね」

 三男のアール様が諭すように言い聞かせる。


「もう、兄さんたちは過保護なのよ!」

「「「可愛い妹のためだ|(よ)」」」

 オリビアちゃんは愛されているね。僕が全部の加護をしっかり使えたら敵を探し出してやるんだけど……。


「とにかく、護衛を増やす。戦闘力だけではなく、索敵に適した者も配置する。それでいいな」

「「「異議なし!」」」

 オリビアちゃん以外の満場一致で護衛の増員が決まった。もちろん僕も賛成です。

 そんなに睨まないでよ、僕だってオリビアちゃんの身が心配なんだからね。


 会議後、僕は領主屋敷の敷地内にある倉庫へ向かった。

 倉庫はいくつかあるけど、僕はいつもこの倉庫だ。この倉庫には僕が創造した銅と鉄が保管されている。中に入ると、在庫がかなり減っていることが分かった。

「いつも悪いね。在庫が半分を切っているんだ。補充を頼むよ」

 領主様の次男のマーカス様も一緒に倉庫へやって来ている。この倉庫の管理責任者はマーカス様なんだ。マーカス様はリーバンス家の事務方のトップをしていて、当然ながら財政も預かっている人なんだ。


「いえいえ。僕はこれくらいしかできませんから」

「これくらいではないよ。ランドー君のおかげでうちの財政が潤っているんだ。君には本当に感謝しているよ」

 銅と鉄を商人に売ることで、領主家の懐に少なくないお金が入る。僕の懐にもお金が入る。いいことずくめだね。


「今は鉄が高騰しているから、鉄を八割にしてくれるかな」

「そんなに高騰しているのですか?」

「ああ、最近帝国の攻勢が激しさを増しているんだ。そこで武器や防具が大量に消費されているんだよ」

「帝国が……アキロスは大丈夫なんですか?」

 アキロスというのは、領主様が子爵に陞爵された際に増えた領地の一部なんだ。元々リーバンス家の領地は帝国との国境には近くても接していなかったけど、領地が増えたことで帝国と国境を接することになってしまった。その場所がアキロスで、そこに砦があるんだよ。


「うちは大丈夫だよ。帝国が攻めてきても圧倒的な防衛力があるからね。これもランドー君のおかげだよ。ふふふ」

 火竜剣持ちの騎士を配置しているから結構な防衛力があって、帝国の大軍に囲まれても十日や二十日は持ちこたえるだけの戦力らしい。その間に増援を送れるんだとか。


「火竜剣で思い出しました」

 そこで黄銀合金で創った皇龍火炎剣、皇龍暴風剣、皇龍地獄剣、皇龍隕石剣を出して見せた。


「これは……」

「皇龍火炎剣、皇龍暴風剣、皇龍地獄剣、皇龍隕石剣です。どれもオリビアちゃんが持っている天神雷光と同じ黄銀合金ですから、領主様が持っている皇龍火炎剣よりも丈夫でよく斬れます」

「これらの剣を当家に?」

「はい。領主様と三人のお兄様に一本ずつ」

「私にも!? だが、私が戦いに出ることはないから……」

「これは僕からの結納品の前渡しです」

「結納品……?」

 マーカス様が首を傾げた。この世界には結婚の際の結納品はないのかな?


「僕とオリビアちゃんの結婚の記念品ですね」

 ちょっと違うけど、こんな説明でいいか。

「結婚の記念品かい。随分と気が早いね」

「これを受け取ったら、もう僕とオリビアちゃんの婚約解消はできません。さあ、どうぞお受け取りを」

 マーカス様に皇龍隕石剣を押しつける。さあ、受け取るのだ! これを受け取れば、僕とオリビアちゃんの結婚を応援しなければいけないのだよ! ふはははは!


「それでは、この四本は私が預かるよ。父とアールはともかく、デューク兄さんはまだオリビアの婚約のことをごねているから、これを受け取れば結婚を認めた既成事実になるからね」

「はい! 是非そうなってほしいです!」

「デューク兄さんは実際に前線に出て指揮をするからね。それに脳筋だから、これだけの剣を見て受け取らないということはないだろうね(笑)」

 デューク様は武闘派の体育会系なんで、僕が苦手にしている人種なんだ。それにオリビアちゃんの相手には、騎士や武闘派の貴族をと考えている人なんだよね。つまり僕とオリビアちゃんの婚約を反対しているわけ。

 政務を預かるマーカス様と子爵軍の参謀を務めているアール様は婚約に反対してないし、マーカス様と僕は比較的良好な関係を築いている。デューク様を見ると、やっぱり体育会系の人は苦手だと実感するんだよね。


 この日は銅と鉄の補充をして、倉庫をいっぱいにした。

 マーカス様から代金を即金でもらい、実家に帰ったのは夕方を過ぎて夜の帳が下りていた。


 

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