第30話 3章・学校入学編_030_入学

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 3章・学校入学編_030_入学

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 魔法学校―――正式には侯立リューベニック魔法学校の入学式が行われている。バルガンテス侯爵領にあって、侯爵家が主な出資者だから侯立なんだとか。

 魔法学校生は軍服のような黒色を基調とした制服と、魔法使いのローブを纏うようにと決められている。魔法使いのローブは上級貴族が赤、下級貴族が青、士族が黒、平民がグレーになる。

 あと学年を表すボタンがあって、今年の一年生のボタンはフェニックスの意匠があしらわれている。このボタンは三年間同じものを使うんだ。


 学校長は意外にも若い女性だった。なんでも侯爵家の魔法士が校長を歴任するのが慣例だとか。

 校長や来賓などから長い祝辞を贈られ、僕の体はバキバキになった。


 僕は魔道具科に入学した。ロビン君は魔法使い科だね。

 魔法学校はこの二つの学科があり、生徒数は同じ三十人ずつ。

 前世だと地方の大きな大学のような広い敷地に、三学年合わせて二百人もいないのだからなんて贅沢な空間だなんだろうか。


 教室も広いね。まさに大学だ。それなのに学生は三十人。凄く密度が薄い。

「始めまして。私がこの魔道具科の担任をします。バルム=フォークです。よろしく」

 担任のフォーク先生は四十後半の渋いオジ様で、金髪をがっつりオールバックに決めている。


「最初に注意点を。当校は実力主義であり、君たちの親や親族の地位は関係ありません。成績において貴族だからと優遇されることはないと断言しておきます。毎年勘違いして父親に泣きつく者がいますが、そういう者は容赦なく淘汰されることでしょう」

 貴族の推薦があると優先的に入学できるみたいだけど、進級や卒業は実力を持ってしろというスタンスだと聞いている。

 魔法使いのローブで地位を表しているけど、それはトラブルを避けるためらしい。友達になろうと話しかけたら上級貴族だった! なんてことになると面倒だもんね。


「当校は試験さえ通れば、授業に出る出ないは自由です。その試験は毎年二回行われます。五月と十一月です」

 まさに実力主義か。


「試験は実技と筆記があります。魔道具科の必須教科は国語、算術、魔法史。選択教科に王国史と大陸史があります。選択科目は受講しなくても構いませんが、経歴に選択科目を書くことができますね。それから実技は五教科から三教科を選択してもらいます。刻印、魔法薬学、魔術のうちから二つもしくは三つ、選択教科の製作と魔法は選択しなくても構いませんが、三教科以上になるように選択してください。こちらも経歴に書き込めます」

 経歴は就職に必要なものだけど、僕はすでに領主様の家臣だからそこまで意味はない。転職する時はあったほうがいいけどね。


 刻印は僕がよく使うもので、得意分野だね。

 魔法薬学は俗にいうポーションと言われるものを製作する教科。

 魔術は刻印に似ているけど、剣などに効果を付与するものになる。

 製作は鍛冶や彫金、なめし革など職人の仕事を知って、目を養うためのもの。

 魔法はそのまま魔法。魔法使い科の生徒は必須科目になる。


「この後は自由時間です。選択する実技を三日以内に決めてこの用紙に書いて提出してください。提出を忘れると、即退学ですから忘れずに提出してくださいね」

 提出を忘れただけで即退学とか、これは厳しい。それくらいしないと、提出しない人がいるのかな。


「あとはサークル活動を推奨します。上級生から学ぶこともあるだろうからね」

 魔法使い科と魔道具科とか関係なしに、どんなサークルに入ってもいいらしい。こちらは成績に関係ないけど、勉強に役立つかもしれないし人間関係を広げる機会を得られるわけだね。


 フォーク先生が教室を出て行く。生徒同士の自己紹介はないようだね。ドライだね~。

 席を立って教室を出ていく生徒が半分、残る生徒が半分くらいかな。僕も席を立って教室を出て行こうとしたら呼び止められた。

 黒のローブだから、同じ士族の男子生徒だ。見上げる程の長身で、ボサボサの赤毛と気の強そうな茶目が最初の印象。前世のヤンキーっぽくて近づきがたい雰囲気を醸し出している。


「俺はドナス伯爵家に仕える士族、ソリンジャー家の三男ルークだ。これからよろしくな」

 ぶっきらぼうに挨拶されても困る。なぜ僕に声をかけた?


「こいつは俺と同じドナス伯爵家に仕えるアドラー男爵家のリンっていうんだ、こいつもよろしく頼むぜ」

 同郷の少女リンさん……え、男爵家の令嬢をこいつ呼ばわり!? 勇者がいたよ……。


「あ、あの……私はリンっていいます」

 こいつ呼ばわりを指摘しないの? 上下関係ない?


「僕はリーバンス子爵家家臣のランドー=オリーベンといいます。よろしくお願いします」

 士族になった際に家名が与えられたんだけど、オリーベンというのはオリビアちゃんの前世の苗字の織部からきている。もちろんオリビアちゃんが決めた家名だね。

 オリビアとオリベ。なんか似ているね。僕の名前のランドーも前世の苗字の蘭堂からきているっぽい。この世界に転生してきた人は、元の苗字に近い名前になるのだろうか?


 今はそれどころじゃない。リンさんは濃い緑色の髪と赤の混ざったオレンジ色の瞳をしている。小柄のリンさんはとても引っ込み思案な感じの少女で、下級貴族の青色のローブを纏っている。

 気が弱そうだから、士族と男爵令嬢の上下関係が逆転しているのかな?


「おいお前。貴族に向かってその言葉遣いはなんだ?」

 僕じゃないよ。

 背後からの声に振り向いたら、赤いローブを纏った上級貴族の男子が鋭い目つきでルーク君を睨みつけていた。

 なんで面倒そうなイベントが起きるかな……。僕がいないところでやってくれればいいのに。


「俺とリンの関係に他人が入り込んでくんじゃねぇよ」

 それは分かるけどさ、言い方考えようか。

 ほらー、金髪茶目の男子上級貴族様が鬼の表情になっているよ。


「貴様、何様だ!」

「俺はルーク。ルーク=ソリンジャーだ」

 名前を聞いているのではない。それくらいは分かっている顔だね。おちょくっているのかな? 上級貴族だよ?

 あと、僕を挟んで睨み合わないでくれないかな。僕を巡って争っているように見えるから……。


「貴様!」

「およしなさいよ。その男子生徒が仰っているように、二人の間のことに立ち入るなんて野暮ですわよ」

 おおお! 捨てる神あれば拾う神あり!


 銀髪碧眼上級貴族オーラを醸し出す美少女生徒様降臨!

「本人同士がよいと思っているものを、貴方はなんの権利があって介入しているのですか?」

「私は!」

「自己満足のために、他人のやっていることに首を突っ込んでいるんでしょ?」

 やべー。この銀髪様、めっちゃドライ。ガラスで作ったような無表情が凄く怖いんんですけど。


「うっ……」

「もういいでしょ」

 銀髪様カッケー。

 颯爽と去っていく銀髪様。


 ぽつんと佇む金髪茶目君。なんか泣きそうなんですけど……。

「あ、あの。今日はここら辺で……」

 僕がそっと背中を押してあげると、金髪茶目君がトボトボと歩き出した。ヤベー、凄く哀愁漂う背中してるよ。もしかして、銀髪様のことが好きだったの? ドンマイ。


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